M&A 流れ

M&Aは近年、経営者の高齢化や人口減少による後継者問題を解決する有効な手段として注目を浴びています。中小企業の事業承継におけるM&Aは活発に行われており、国内有数の大企業でも、事業拡大や成長戦略の手段としてM&Aを繰り返しており、ニュースなどでもよく報じられます。
 
今やM&Aは、規模を問わず多くの企業が採用している経営戦略上の選択肢の1つになりつつあるのです。M&Aは成約までに半年から1年、長ければ2年ほどの期間が必要となります。スムーズに準備を進められるように、実際にM&Aの検討を始める前から全体の流れを把握しておくことが重要です。本記事では、M&A全体の流れを3つのフェーズ(段階)に分けて、それぞれのプロセスについて詳しく解説します。

準備フェーズ

「準備フェーズ」は、M&Aによる事業承継を実施すると決めて、自社の状況をアドバイザーに共有後、譲り受けを打診する企業を選定する段階です。また、実際に譲受企業に打診する際に使用する「ノンネームシート」や「企業概要書」もこのタイミングで作成します。

M&Aについての検討・方針の決定

M&Aは、目的によって選択すべき手法や打診先企業、交渉方法も異なります。M&Aの検討を始める段階で、どのような目的でM&Aを進めるのかを考えておきましょう。またM&Aの準備段階では、まずは自社の経営状況や純資産、負債などの正確な状況把握を行います。そのため、M&Aの交渉のスタート前に、交渉をするうえでトラブルとなり得る「簿外債務」や、逆に好材料となりうる「特許や独自ノウハウ」などを洗い出し、自社の状況を整理しておくと交渉がスムーズに進みます。

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M&Aアドバイザーを選定

M&Aの業務は多岐にわたります。その中には、税務や財務、法務などの専門知識が必要となる場面も少なくありません。例えば財務諸表や市場の状況を基にした企業価値算定を行う際にも、様々な分野の専門的な知識を理解しておく必要があります。日々の業務をこなしながら、相談相手のいない状態でこれらの準備を進めていくのは容易ではないでしょう。
 
十分な準備を行っていないままM&Aに臨み、必要な書類や情報が整理できていないと交渉はスムーズに進まず、M&Aそのものが途中で破談になることも考えられます。こうした事態を回避するために、譲渡企業はアドバイザーに相談してともに準備を進めるのがいいでしょう。
 
アドバイザーとは長期間にわたって業務を一緒に行うため、知識や経験の有無だけでなく、自社の従業員や取引先、そしてお客様のことなどM&Aにかかわる全員の幸せを考えてくれる担当者かどうかも重要です。実務を滞りなくこなすだけでなく、しっかりと自社に寄り添ってくれる、信頼のおけるアドバイザーを見つけましょう。

秘密保持契約の締結

アドバイザーを選定したらまずはじめに、秘密保持契約を締結します。というのも、M&Aを進めるにあたり社外秘の秘密情報の開示はどうしても必要になるため、情報が漏洩してしまった場合のルールを決めて万が一のケースのリスクヘッジを行わければなりません。
 
もしも会社を手放そうとしていることが従業員や取引先、あるいは銀行に知られてしまうと、多方面からの問い合わせに追われ、業務にも支障をきたしかねません。また、従業員の不安をいたずらに煽ることにも繋がります。秘密保持契約はM&Aの実務に進む前の締結が必要です。

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アドバイザリー契約の締結

アドバイザリー契約は、秘密保持契約の締結後、M&Aの具体的なやりとりが始まる際に締結します。基本的にはアドバイザリー契約の中に秘密保持の条文も含まれるため、それぞれを分けずに、一度に行うこともあります。

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各種資料の準備・提出

M&Aを進める上で、必要となる資料は非常に多くあります。
この段階で提出していただく書類は、後ほど説明する「企業価値評価」を行う際に必要となります。ですが、数が多くて準備するのが大変なので、思い立ったときから少しずつまとめておくと、比較的スムーズに準備に進むことができます。アドバイザーに相談しながら、会社の全体像を正確につかめる資料を用意するとよいでしょう。
 
一例)

  • 会社概要資料
  • 決算資料
  • 資金繰り表
  • 月次資料
  • 事業計画書
  • 不動産登記簿謄本
  • 組織図
  • 給与台帳
  • …etc.

企業価値評価の実施と企業概要書の作成

企業価値評価(株価診断)は、譲渡企業の経営者がこれまでに準備した資料や、その企業の競合優位性などを総合的に評価し、客観的な企業の価値を算出するものです。この評価結果が、交渉において譲渡価格を決める土台となります。企業価値を算出する手法はいくつか存在し、純資産を基にする方法もあれば、類似する企業の時価総額を参考にして算出する方法もあり、ケース・バイ・ケースです。
 
中小企業のM&Aの場合、「時価純資産価格法」や「EBITDAマルチプル法」などと呼ばれる手法により企業株価評価を行うことが一般的です。ただし、実際の譲渡価格とは異なります。というのも、実際の価格には上記で算出された価値に対して無形資産である「のれん代」が上乗せされるためです。

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これらの算出手法を用いることで、企業の現在の財政状況や将来の収益性などから企業を評価できます。その後、算出された企業の定量的な評価や、前項で準備した各種資料をもとに、アドバイザーが自社に関する資料を作成します。
 
譲受企業への打診資料として作成、使用するのが、自社を特定できない範囲でM&Aの検討に必要な情報をまとめた「ノンネームシート」、そして業界の環境や会社概要、事業内容や財務状況、そして自社の強みや弱みなどを数十ページでまとめた「企業概要書(IM)」です。譲受企業はこれらの資料を参考に、譲渡企業とのM&Aの交渉をすすめるかどうか判断するため、このプロセスは非常に大切です。

打診先企業の選定

各種契約の締結後、譲渡企業が提出した資料をもとに打診資料を作成しますが、それと並行して打診先企業を選定します。まずアドバイザーが、譲渡企業の希望条件に加え、譲受企業の業種や事業内容、企業規模や財務状況に合う企業のリストを作成します。そのうえで、M&Aを希望しない相手企業をリストから除外していき、ノンネームシートを開示していくのです。

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交渉フェーズ

「交渉フェーズ」は、ロングリストから実際に交渉する譲受企業を絞り込み、最終的に契約を結ぶ1社に絞り込んでいくフェーズで、ここから本格的に対外的な交渉が始まります。また、M&A最後にして最大の難関ともされる、契約前の買収調査(デューデリジェンス)についても、このフェーズで行われます。

ノンネームシートによる打診

アドバイザーと相談して打診する企業がリストアップされたら、いよいよノンネームシートを用いて打診していきます。打診する方法は様々ですが、FUNDBOOKでは独自の技術で開発したM&Aプラットフォームに掲載し、シナジー効果の高い譲受企業からの反応を待ちます。

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詳細資料である企業概要書の開示

ノンネームシートを見て興味を持った譲受企業から「詳しく話を聞きたい」という連絡が来ます。そしたら、その企業と秘密保持契約の締結した後、より詳細な情報が記載されている「企業概要書」を開示します。

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トップ面談

M&Aの候補企業が2〜3社まで絞れてきたら、経営者同士が直接顔を合わせるトップ面談を行います。面談では譲渡価額などの交渉の場ではなく、お互いの経営に対する価値観やビジョン、譲渡後の方向性などについて話しあい、理解を深める場となります。そのため、お互いのことをしっかり理解するため、トップ面談を複数回実施することもあります。このときに交渉において不利となり得る情報を話さず、後述するデューデリジェンスの段階で明るみに出ると、信頼関係が悪化し、最悪の場合交渉が破談となる可能性があります。M&Aを成約させるためにも、経営に対する思いや理念、そして経営状況について真摯に話すことで、早い段階で信頼関係を築きましょう。

基本合意

トップ面談を経て「この企業とM&Aを行いたい」という譲受企業が絞られたら、基本合意を締結します。基本合意は、M&Aを行うための仮契約のようなもので、M&A後の経営者や役員、従業員の処遇をはじめ、最終契約までのスケジュール、成約までに遵守すべきルールなどを取り決めます。基本合意以降は、従業員の協力が必要になるケースもあるため、この段階で社内のキーマンに限定して、M&Aの告知をする場合もあります。今まで以上に前向きな姿勢で業務に取り組んでもらえるように、M&Aの意図を真摯に伝える必要があります。

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デューデリジェンス(買収監査)の実施

デューデリジェンス(買収監査、DD)とは、譲受企業が行う、これまですり合わせてきた情報に関する詳細な企業調査です。財務や税務からはじまり法務や事業、労務など、譲渡企業のあらゆる情報を徹底的に調査します。第三者の専門家に調査を依頼することもあります。M&Aのデューデリジェンスを行う期間は譲渡企業の規模や事業内容にもよりますが、中小企業の場合、現地での実査は1~4日程度、買収監査レポートが完成するまでは約1~2週間程度の時間を要します。基本合意までに開示された事項とデューデリジェンスの結果に差異が生じた際には、基本合意での合意事項を含む条件交渉、変更が行われ、それが最終契約に反映されます。譲渡企業の想定外のリスクが表面化するという面もありますが、自社の現状を正しく把握したうえで、真摯に対応していく姿勢を見せればそれほど大きな問題にはならないはずです。ただし、デューデリジェンスの段階でなにか新たな事実が発覚する事自体が望ましい状況ではないので、考えられるリスクは事前にアドバイザーと譲受企業に伝えておくことが重要です。

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最終フェーズ

最終フェーズでは、デューデリジェンスの結果を踏まえた合意内容を基に、最終契約の締結を進めていきます。ここではM&Aの成約と、その後のプロセスについてご紹介します。

最終契約・決済

最終合意内容を基に契約書を作成し、両者の記名、捺印を行います。基本的にはこちらの契約書の捺印のタイミングで同時に決済を行い、M&Aが成約となります。
※ただし、譲渡企業が取引先と交わしている契約書にチェンジオブコントロール条項が含まれている場合は、対応のため契約締結から決済までに一定の期間を設ける場合もあります。

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契約書を締結する「成約式」は、会社の結婚式にも例えられる一大イベントで、譲渡企業、譲受企業と仲介会社によるセレモニーを行うことが一般的です。譲渡企業の経営者にとっては、同時にこれまでM&Aに対して感じていた緊張から解放され、肩の荷が下りる瞬間でもあります。

ディスクロージャー(主要取引先への報告・従業員説明会)

M&Aの最終契約が終わった段階で、全従業員や関係者を集めて説明会を開き、M&Aの目的や従業員の今後の処遇、M&A後の企業の方向性について説明します。期間をあけず、成約後速やかに実施しましょう。出来る限り譲受企業の経営者も同席し、M&Aの経緯について伝えてもらうことで、従業員の理解がより深まります。また、取引先と金融機関への共有も忘れてはいけません。今後も企業を成長させるために、これまで以上に良好な関係を築けるように対応しましょう。

PMI(ポストマージャーインテグレーション)

M&Aは成約がゴールではありません。異なる社風や文化をもった企業が1つになるには、実務面でのすり合わせも必要です。経営戦略や組織、人事制度などを見直す企業同士の融合作業である「PMI(経営統合、経営融合)」を適確に行うことで、M&Aによるシナジーを最大限に引き出すことが可能になります。M&Aが成功するかどうかは、PMIにかかっているといっても過言ではありません。そのためM&Aの成約後にPMIの準備を始めるのではなく、前段階からPMIの担当者や進め方を譲受企業と検討しておく必要があります。引き継ぎを円滑に行うため、M&A後も一定期間企業に残り、引き続き業務にあたるケースも多く見受けられます。M&A後の会社の成長を考えて、より一層気を引き締めて最後の経営にあたりましょう。

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まとめ

上記のようにM&Aは大きく3つの流れから成り立っています。ですが、これらのステップをただ機械的にこなしてくだけでは理想的なM&Aは実現しません。というのも、経営者の納得感と関係者への思いやり、従業員の理解なしに、M&Aは成功しません。企業は従業員とお客様、関係者の皆さまがいるからこそ成り立っています。M&Aで経営者の目的を達成するだけでなく、企業を支えてくれている従業員にとっても幸せなM&Aにするための配慮も怠ってはいけません。