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2024/08/28

M&Aで必要な契約書は?種類や最終契約書(DA)の項目を解説

M&Aで必要な契約書は?種類や最終契約書(DA)の項目を解説

M&Aでは、秘密保持契約や基本合意、最終契約など、各段階で様々な契約を締結します。

M&Aの契約書は種類が多く、内容も複雑です。契約内容をきちんと理解していない、または条項に漏れなどがあると、契約違反やトラブルになる可能性があるため、契約書の種類や内容を正しく理解し、慎重に進めなければなりません。

本記事では、M&Aの流れと各段階で必要な契約書の種類を解説します。最終的な合意内容を定めた最終契約書の記載内容や株式譲渡契約書の条項例も紹介するので、ぜひご覧ください。

宮川 真一
この記事を執筆した専門家
M&Aアドバイザー・税理士
宮川 真一
岐阜県大垣市出身。1996年一橋大学商学部卒業、1997年から税理士業務に従事し、税理士としてのキャリアは20年以上。現在は、税理士法人みらいサクセスパートナーズの代表として、コンサルティング、税務対応を行う。保有資格:税理士、CFP®https://ma-tmsp.com/miyagawa-shinichi/
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M&A契約の流れ

M&Aでは、秘密保持契約書や基本合意書、最終契約書など、各段階で様々な契約を交わします。M&Aを円滑に進めるためにも、まずはM&Aの基本的な流れを確認しましょう。M&A取引実施の一般的な流れは次のとおりです。

手順内容契約書・書類
1M&A専門会社への相談譲受・譲渡企業の選定や手続き、契約書などに関するアドバイスやサポートを受けるために専門会社とアドバイザリー契約を結ぶアドバイザリー契約書
2譲受・譲渡候補の選択譲渡側は譲渡条件、 譲受側は買収戦略を検討する
3会社概要(ノンネームシート)による検討譲受企業は譲渡企業の会社概要をもとに、M&Aの交渉を開始するかどうかを検討するノンネームシート
4秘密保持契約の締結譲受企業が譲受対象にたりると判断した後、詳細な資料を入手するために双方の名前を公開し交渉を開始する秘密保持契約書
5トップ面談譲受・譲渡企業の経営者同士が理解を深めるために顔を合わせる意向表明書
6基本合意締結相当程度の譲受意思を持つ譲受企業に対し、 買収監査の調査権や独占的交渉権を与える基本契約書
7デューデリジェンス譲受側ないしその代理人が、譲渡企業をあらゆる面で調査する
8最終契約締結買収条件を合意の上、 買収を決定する最終契約書
9契約実行株式の譲り渡し、 代金の支払いなどを行う
クロージング監査や譲渡価格の修正を行うこともある

M&Aで使用する契約書・書類の種類

M&Aを進めるにあたり、各段階で様々な契約を締結します。この章では、M&Aで使用する契約書・書類の種類や内容を解説します。

1. アドバイザリー契約書
2. 秘密保持契約書(NDA)
3. 意向表明書
4. 基本合意書
5. 最終契約書(DA)

①アドバイザリー契約書

アドバイザリー契約とは、M&Aの当事者(譲渡企業・譲受企業)がM&Aの専門会社と結ぶ契約です。

M&Aの実施には専門的な知見が必要であり、自社だけで行うのは容易ではありません。そのため、M&Aの専門会社とアドバイザリー契約を結び、仲介を依頼するのが一般的です。

アドバイザリー契約の契約方式には、「専任契約」と「非専任契約」の2つがあります。

専任契約M&A仲介会社と独占的に契約を結ぶ
非専任契約複数の仲介会社と契約を結ぶ

アドバイザリー契約書では、一般的に業務範囲や報酬などが規定されます。
▷関連記事:アドバイザリー契約とは?専任契約、非専任契約の違いと規定内容

②秘密保持契約書(NDA)

M&Aを進めるにあたり、交渉や取引の過程で開示する情報を外部に漏らさないことを約束するため、自社の情報を開示する前に当事者間で秘密保持契約書(NDA)を交わします。M&Aでは、その実施自体が重大な機密情報である場合が多いため、非常に重要な契約書の1つです。

秘密保持契約書では、秘密情報の範囲や有効期間、契約に違反した場合の損害賠償義務などを規定します。
▷関連記事:秘密保持契約書(NDA)-ひな形使用時の注意点 M&Aの情報漏洩対策のために

③意向表明書

基本合意書を締結する前に、譲受企業が譲渡企業に対して意向表明書を提出する場合があります。

意向表明書は、譲受企業がM&A実施の意向や希望条件を伝える文書のことで、厳密には契約書ではありません。

意向表明書には、主にM&Aの目的や買収価格、M&Aの手法などを記載します。ただし、提出は必須ではないため、意向表明書の提示なく手続きを進める場合もあります。
▷関連記事:意向表明書とは?記載内容と基本合意書との違い・目的・法的拘束力の有無について解説

④基本合意書

基本合意書は、M&Aの交渉が進み、買収価格や条件などの基本的な内容が大筋で合意に達した段階で締結する契約書です。双方が合意した内容を整理し、認識をそろえる目的で取り交わします。

基本合意書は、あくまでも基本的な事項に関する合意であり、基本合意後に取引条件などが変わる場合があるため、原則として法的拘束力は持たせません。

ただし、独占交渉権や秘密保持義務などの事項に関しては、一般的に法的拘束力を持たせます。基本合意書の主な記載内容は以下のとおりです。

・M&Aの取引形態
・譲渡価額
・スケジュール
・デューデリジェンス
・独占交渉権の有無
・秘密保持など

基本合意書には様々な条項が記載されますが、多くの場合、排他的に譲受企業が譲渡企業と交渉できる権利(独占交渉権)や会社に対する調査(デューデリジェンス)のために立ち入ることを認める条項(買収監査権)などが含まれます。

▷関連記事:M&A契約における「基本合意書」とは?

⑤最終契約書(DA)

前述のとおり、最終契約書(DA)はM&Aにかかる正式かつ最終的な契約書です。

一般的には、基本合意後に行われる買収監査(デューデリジェンス)や対象企業に関する分析の結果などを踏まえて、譲受側の意思が確定し、譲渡価額の合意がなされた時点で締結されます。

M&Aに関する最終的な意思を双方が確認し合ったものなので、基本合意書とは違い、法的な拘束力があります。つまり、契約後にどちらか一方の理由により破棄される場合、解約の申出を受けた当事者は相手方に損害賠償請求することが可能です。

最終契約書は、基本合意書をベースに作成されますが、実際には最終契約書を交わす前のデューデリジェンスによって新たな交渉が始まり、条件などが変更されることもあります。

なお、「最終契約書」は最終的な契約書の総称で、株式譲渡の場合は「株式譲渡契約書」、事業譲渡の場合は「事業譲渡契約書」というように、M&Aの取引形態によって名称は異なります。

▷関連記事:M&Aの最後にして最大の難関。「デューデリジェンス(DD)」を徹底解説

最終契約書(DA)の基本的な構成要素

M&Aで締結する契約書のうち、正式かつ最終的な契約書となる「最終契約書」について、詳しく解説します。M&Aにおける最終契約書では、次のような条項が定められることが一般的です。

定義M&Aにかかる対象事業や対象契約など、 契約にかかる定義を定めます。
取引対象の特定と取引金額の確定または価格調整譲渡対象にかかる譲渡価格を決定します。
ただし、最終契約締結時点において譲渡価格の最終的な決定が困難である場合など、契約で定めた譲渡価額を事後的に調整し、一定期間終了後に最終価格を決定する場合があり、価格調整条項が設けられることがあります。
表明保証表明保証とは、一般的に、譲渡人が譲受人に対して、主として対象会社及び目的物に関し、一定の時点における一定の事実が正しいことを、譲受人に表明しかつその内容を保証することをいいます。
デューデリジェンスにより重要な問題点は明らかになっていますから、当該表明保証条項において問題点の総仕上げを行うことになります。
譲受人も法律上譲り受けることができることなどについて表明保証を行います。
補償条項補償条項は、表明保証条項の違反だけでなく、 契約上の義務違反があった場合に相手方当事者が被った損害を填補する旨を定めたものをいいます。
誓約事項誓約は、クロージングまでまたはクロージング後も、当事者が実行しなければならない行為及び禁止される行為などを定め、それらの行為の履行または行わないことを義務づけるものです。
例えば、クロージング日まで、通常の方法で事業の運営及び財産の管理を行うことや、クロージング日までに取引などに関する締結済みの契約上の地位の移転について承諾書を取得する、などが挙げられます。
前提条件多くのM&A契約においては、一定の前提条件が満たされた場合にのみクロージングを実行する規定が定められます。相手方による一定の条件が満たされていないと、クロージングをしてもその後の手続きの不可が多い場合があり、それではクロージングを延期若しくは中止し、または契約を解除した方がよい場合があるからです。
そこで、各当事者は、解除条項と組み合わせることにより、一定の時期までに前提条件が満たされなかった場合には、この取引から離脱する権利を定めることが多いのです。
解除条件M&A取引においては、最終契約締結日からクロージング日までに一定の期間がおかれることが通常です。そのため、その間に当事会社の財産状態や経営状態に重大な悪影響を及ぼす事由が発生した場合、譲受側にクロージングを拒否する権利が与えられ、譲受側は解約金や損害賠償金などの義務を負うことなく、本取引から撤退することができる条項を定めることがあります。これをMAC(Material Adverse Change)条項といいます。
債務不履行にかかる損害賠償当事者が契約にかかる債務を履行しなかった場合における損害賠償の予定などを定めます。
秘密保持最終契約締結の内容や、それまでの経緯などについて秘密を保持することを定めます。
公表M&Aにかかる事実を公表する場合、いつ、どのように公表するかなどを定めます。
競業避止義務譲渡企業やその役員等が譲渡した事業と同一の事業を行わないことを定めます。
費用負担M&A実行にかかる費用の負担などについて定めます。
裁判管轄M&Aにかかる紛争が発生した場合の、合意裁判管轄を定めます。

表明保証の内容

最終契約書に記載される一般的な譲渡人の表明保証の内容は次のとおりです。

組織適法に設立された有効に存続している会社であること
権限本譲渡を行う権限などを有し、 法令上の手続きを完了していること
所有権対象資産に瑕疵・担保権の設定がなされていないかなど
財務諸表・計算書類直近の財務諸表などの正確性
資産譲渡資産の全てが存在し、 毀損がなく譲渡可能であること
債権債権が回収できるか
債務簿外債務がないか、 偶発債務の可能性はないか
契約譲受人が引き継ぐ契約の相手方の契約履行能力は十分か、契約履行過程で譲受人に生じる損失損害がある可能性はないか、チェンジオブコントロール条項はないか
労務関係労働組合の有無、 労働組合との関係、従業員との訴訟・トラブルの有無、 未払賃金などの有無
税務関係税法違反などがないか
取引先など譲渡後も取引先との取引が可能であるか
知的財産権第三者との知的財産権を巡る訴訟などはないか、 第三者の知的財産権を侵害していないか
法令独禁法など重要法令に関する遵守体制・違反の有無など
訴訟法的トラブルの有無
反社反社勢力でないこと

最終契約書(DA)の種類|株式譲渡契約における特徴的な条項例

最終契約書の内容は、M&Aの手法によって異なります。この章では、中小企業のM&Aの手法として一般的な「株式譲渡」を例に、株式譲渡契約書(最終契約書)の特徴的な条項例を解説します。

なお、ここでは、譲渡する際に取締役会や株主総会の許可が必要となる譲渡制限付き株式の譲渡を前提に解説します。

▷関連記事:株式譲渡とは?中小企業のM&Aで最も活用される手法のメリットや手続き、事前に確認しておくべき注意点を徹底解説
▷関連記事:株式譲渡契約書(SPA)とは?株式譲渡制限や株券不発行の場合の手続きについて具体的に解説
▷関連記事:株式譲渡契約書(SPA)の書き方と注意点

譲渡株式の特定と対価

譲渡対象となる株式を特定する必要があるため、譲渡する株式の種類と数を記載します。また、その株式の譲渡にかかる対価も記載します。

株式譲渡の実行

株券不発行会社の場合、譲渡の効力を対抗するためには、株主名簿の名義書換が必要となるため、対価の支払いと株式の譲渡契約だけでなく、株主名簿の書き換えにかかる手続きを定める必要があります(会社法130条1項)。

譲渡人の義務

譲渡制限株式の場合、最終契約締結後クロージング日の前日までに、当該株式譲渡にかかる株主総会などの承認を受けて、当該総会議事録などの写しを譲受人に交付する義務を定めるのが一般的です。また、最終契約の締結からクロージング(株式譲渡の実行)まで、通常の業務範囲を超える事項や、重要な処分または取得に関する事項について行わないように定めることも多くあります。株式の価値を毀損しないためです。

前提条件

譲渡人がクロージング日において、最終契約に定める条件を充足していることを前提として、株式譲渡を実行することを定めることができます。例えば、契約に定める譲渡人の義務を全て履行していることなどです。

その他

株式譲渡後の役員の選退任や、損害賠償・補償に関して定めることがあります。行おうとしている株式譲渡に必要な条項を過不足なく盛り込むことで、後の紛争を回避することができます。

まとめ

M&Aで締結する契約書には、主にアドバイザリー契約書や秘密保持契約書、基本合意書、最終契約書などがあります。

最終契約書は、実行するM&A取引にかかる正式かつ最終的な契約書の総称で、株式譲渡契約書や事業譲渡契約書など、実際の名称はM&Aの手法によって異なります。

上で説明した契約書の記載内容はあくまでも一般的なもので、実際には取引の実態に合わせた内容を考えることが重要です。中でも最終契約書は、最終的な合意事項を記載した法的拘束力のある契約書であるため、契約後に違反が発覚し、損害賠償問題などのトラブルにつながることがないよう、専門家に相談しながら慎重に作成する必要があります。

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