経営者が他者へ会社の経営権を引き継ぐ手法の1つとして「株式譲渡」があります。株式譲渡は事業そのものではなく、株式のみを移転することで経営権を他者へ譲り渡すことができる比較的シンプルなスキームのM&A手法として、特に中小企業の間で積極的に活用されています。
本記事では、株式譲渡の基本的な知識や類似のM&A手法である事業譲渡との違い、売手及び買手企業にとってのメリットやデメリットについて解説していきます。
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
椎名 潤
目次
株式譲渡とは
株式譲渡とは、譲渡企業(売り手)の株主が、保有株式を譲受企業(買い手)または個人に譲渡することで、会社の経営権を移転させる方法です。双方で株式譲渡契約を締結し、譲受企業が代金を支払い、譲渡企業が株式を交付します。
この他にも、M&Aの手法には事業譲渡や第三者割当増資、株式交換、合併、分割などがあります。株式譲渡は国内の中小企業のM&Aではよく使われている手法です。
これは手続きが比較的簡便なことや、オーナーが変更するのみですべての資産や取引上の契約を引き継げることが理由として挙げられます。また、株式譲渡は株主が変わるのみで譲渡企業の法人格が存続するため、独立性を維持しやすい点も理由の1つです。
例えば、新設合併では複数の会社がひとつになるため、社内システムなどを統合する必要があったり、新たな登記が必要になったりと、株式譲渡に比べて手続きが複雑になります。
ただし、株式譲渡では譲渡企業のすべてを引き継ぐため、想定外の簿外債務や税金の未納などがあった場合、それらも引き継がれます。そうした事態を避けるため、譲受企業は詳細なデューディリジェンスが求められます。
▷関連記事:M&Aの仕組みとは?企業買収の手法とその種類について
▷関連記事:必ず確認しておきたい、貸借対照表に計上されない「簿外債務」とは
株式譲渡と事業譲渡の違い
まず、言葉が似ていることから混同されがちな、株式譲渡と事業譲渡の違いについて説明します。
株式譲渡では、譲渡企業の株式の過半数が譲受企業に譲渡されると、譲渡企業の経営権が譲受企業へ移動し、譲渡企業は譲受企業の子会社となります。
対して、事業譲渡は特定の事業を切り出して、会社の一部または全部の事業を譲受企業へ譲渡するスキームです。この場合、会社の経営権は譲受企業に移動せず、あくまで特定の事業のみの譲渡となります。
事業譲渡は譲受企業が必要とする資産のみを引き継ぐことができ、債務は引き継ぐ必要がありません。しかし、手続きが煩雑で税の負担が重いという側面もあります。
株式譲渡の場合、当事者は譲渡企業の株主である譲渡人と譲受企業となり、株主が個人の場合には個人と企業間の取引となります。(株主が企業であれば、企業間の取引となります。)
対して、事業譲渡の場合は譲渡企業と譲受企業との企業間の取引となります。
▷関連記事:M&Aの事業譲渡とは?株式譲渡や会社分割との違いからメリット・デメリットまで解説
▷関連記事:事業譲渡と株式譲渡の違いとは?メリット・デメリットとM&Aの手法として判断するポイントを解説
株式譲渡のメリット・デメリット
株式譲渡のメリット・デメリットについて譲渡企業(売り手)と譲受企業(買い手)に分けて紹介します。
譲渡企業のメリット・デメリット
▶譲渡企業のメリット
・手続きが比較的少ない
株式譲渡は、M&Aの中でも比較的法的な手続きが少なく行えます。譲渡企業と譲受企業が合意した内容に基づき譲渡契約を締結して、譲受企業から株式の対価の支払いが行われ、株式名簿の名義書換を行うことで完了します。譲渡企業が株券発行会社の場合、株券の交付も必要です。
会社が保有する資産や負債などについて、個別に引き継ぐ手続きは原則不要です。
・会社、事業を切れ目なく存続できる
譲渡企業の株式が譲受企業に移動するだけなので、原則として譲渡企業の従業員や取引先、顧客へ個別に承諾を得る必要はなく、雇用関係や取引関係は存続します。
そのうえで、譲受企業の資産や人材、ノウハウといった様々なリソースを活用することで、事業をさらに発展させることができます。
ただし、譲渡企業が取引先と締結している契約の「チェンジオブコントロール条項」には注意する必要があります。「チェンジオブコントロール条項」についての詳細は、以下の関連記事をご参照ください。
▷関連記事:「チェンジオブコントロール条項(COC )」とは?目的や注意点を徹底解説
・経営者が金銭を獲得できる
株式譲渡の譲渡対価は主に現金であり、株主である経営者個人が受け取ります。これにより創業者利得を得ることでハッピーリタイアの実現や、次の事業を行うための投資資金を確保することができます。
また、株主である経営者が自社の株式を譲渡して受け取った金額は、退職金として使うことも可能です。
▷関連記事:M&Aによるハッピーリタイアの実現
・株式譲渡による売却益にかかる税金を抑えられる
事業譲渡では譲渡企業側で発生した譲渡益の約30%が法人税となりますが、株式譲渡では譲渡益に対する所得税・住民税率を20.315%に抑えることができます。そのため、創業者利益の最大化につなげやすいスキームといえます。
▶譲渡企業のデメリット
・株主全員の同意が必要となる
譲渡に反対する株主や所在不明、音信不通の株主がいる場合は、全株式の譲渡が困難となります。
この場合、強制的に少数株主を排除する「スクイーズアウト」という方法もありますが、手続きが煩雑で対価も発生するといった負荷が生じるため、少数株主の存在は株式譲渡においてはデメリットといえます。
▷関連記事:スクイーズアウトとは?手法やメリット、手続きの流れ
・特定の資産を譲渡対象外にする手続きが必要
株式譲渡は会社の経営権が他者へ移転します。そのため、特定の資産を譲渡対象外としたい場合は、譲渡後の資産買戻しや事前の資産譲渡、会社分割などの手続きが別途必要になります。
・不採算事業があると譲渡価額が目減りする
株式譲渡は事業譲渡とは異なり、一部の事業だけを切り離すことができません。そのため、譲渡企業内に不採算事業があると、その分マイナス評価につながり譲渡価額が目減りする可能性があります。
そのため、より良い条件で譲渡するには、事業譲渡や会社分割で不採算事業を事前に切り離すことで譲渡価額の減額を防ぐ必要があります。
譲受企業のメリット・デメリット
▶譲受企業のメリット
・譲渡企業の経営権を獲得できる
多くの場合、中小企業は発行済株式数が少なく、譲受企業はM&Aを通じて全株式の取得がしやすい傾向があります。
譲受企業は株式の過半数を保有すれば譲渡企業の支配権を持つことができ、全株式を取得できれば譲渡企業の支配権を行使しやすくなります。また3分の2以上の株式を保有すれば、株主総会の特別決議を成立させることが可能となります。
・許認可を引き継ぐことができる
株式譲渡では会社を存続したまま引き継ぐため、許認可も引き継ぐことができます。
・手続きが簡便
自社の債権者などへの保護手続きや公告が原則不要となり、他のM&Aの手法に比べて法律上の手続きが少なく済みます。その他にも、譲渡企業の従業員と新たに労働契約を結びなおす手間も生じません。
・スピーディーに自社の成長を実現することができる
株式譲渡によって譲渡企業の過半数の株式を獲得することで、実質的に譲渡企業の支配権を有することになります。
これにより、新たな経営者の意思決定をスムーズに行うことができます。
加えて、譲渡企業のブランドやノウハウといった強みや販売網をそのまま活用できるため、自社だけで事業を拡大するよりもコストと時間を抑えることができ、スピード感のある成長を実現できます。
▶譲受企業のデメリット
・多額の資金が必要になる場合がある
譲渡企業の純資産が大きい場合は株価が高額になり、譲受企業は多額の買収資金を準備する必要があります。
自社の資金で賄うことができない場合は、銀行からの借入などを通じた資金調達が必要です。
・負債なども引き継がれる
譲渡企業の負債なども譲受企業に引き継がれることになります。当初は想定しなかった簿外債務などがある場合でも、原則として譲受企業が引き継ぐものと見なされます。
・全株式の取得が困難な場合がある
譲渡企業の株主が分散している場合、全株式の取得が困難な場合があります。これは、株主からの譲渡拒否や、所在不明で株主と連絡が取れないことがあり、全株主と交渉する負担が大きいためです。
全株式の取得を目指す場合は、事前に譲渡企業の株主の人数やそれぞれの持分割合を確認することが必要です。
・シナジー効果が出にくい場合がある
株式譲渡により、譲渡企業は譲受企業の傘下となりますが、会社組織自体は存続します。
そのため、企業文化の違いや新経営陣との関係性によっては、事業上のシナジー効果が望めなくなってしまうことがあります。
トップ面談などの際に、企業文化や相性については十分に確認しておきましょう。
事前に確認しておくべき注意点
ここでは、株式譲渡する際に、事前に確認しておくべき注意点について解説します。
①株式に譲渡制限がついているか
株式を譲渡するにあたり、自社の株式に譲渡制限がつけられているかを確認する必要があります。一般的に、中小企業では株式に譲渡制限がつけられています。
譲渡制限とは、株主が株式を他人に譲渡する際に、発行会社(株主総会または取締役会)の承認を必要とする制限事項です。
②株券発行の有無
株券を発行しているかどうかによって、株式譲渡の方法や譲渡の要件が異なるため、この点は事前に確認する必要があります。
株式会社は2006年の会社法施行後、原則として株券を発行しないことが定められており、発行する場合は定款にその旨を定めることになりました。それ以前は株券を発行することが原則でしたが、施行後に不発行と変更した企業も多くあります。あらかじめ登記事項証明書と定款を確認しておきましょう。
株券発行済みの場合
株券発行会社の株式の譲渡は、株券を交付しなければ効力を生じないため、譲渡人と譲受人の合意だけでは株式の権利は移転できません。譲渡人が譲受人に株券を交付して初めて、株式の権利が移転されます。そのため、株券発行会社である譲渡企業(売り手)の株主が譲受企業(買い手)に株式を譲渡するためには、株式譲渡契約に加えて、株券の交付手続きを行う必要があります。
株券不発行の場合
株券不発行会社の株式譲渡は、譲渡人と譲受人が合意の上で株式譲渡契約を締結することによって成立します。譲受人は、株主名簿の名義書換を行う必要があります。
③株主の所在
株式譲渡を実施するには、株主に対する通知・催告が必要になります。
株主の所在が不明な場合や5年以上通知・催告が届かず5年間配当を受領しない場合、その株主の保有している株式を売却することができます。
ただし、この条件を満たしていなくても、スクイーズアウトを活用して強制的に株式を取得することも可能です。
④名義株の有無
名義株とは、本来株主ではない人が名前のみ株主名簿に記載されている株式のことです。実際に株式を保有している人が分からない場合、株式譲渡においてトラブルにつながるケースがあります。
想定されるトラブルとしては、例えば、実際の株主ではなく名義のみ貸していた人が亡くなり、その相続人自身が本来の株主だと誤解し会社に対して権利を行使してしまうなどのケースが考えられます。
出資者や名義株となった背景を十分に調査したうえで、株式名簿の名義を書き換えるなどの手続きが必要となります。
株式に譲渡制限がついている企業の承認手続き
株式に譲渡制限がついている企業の場合、株式譲渡の手続きを定款の定めに従い、譲渡企業(売り手)に承認を得る必要があります。会社の機関構成や承認機関によって承認手続きは異なりますが、一般的に大きく5つの手順に分けられます。
1.株式譲渡承認の請求
譲渡人は、会社に対して株式の数、譲受企業の名称などを明示して、譲渡承認請求書を会社に提出します。
譲受企業(買い手)が譲渡承認請求を行うことも可能ですが、その場合、譲渡人と共同で承認請求をしなければなりません。これは、譲受企業が株式を譲り受けたと偽ることを防ぐためです。
2.株主総会、取締役会での承認
譲渡企業に譲渡承認の請求を行ったら、譲渡企業の承認手続きに移ります。これに対して、承認するか否かの決議を譲渡企業が株主総会または取締役会において行います。(これは、取締役会設置会社であるかどうかで分かれます。詳細は下記関連記事を参照)
▷関連記事:M&Aでよく行われる株式譲渡で議事録は必要?株主総会や取締役会のそれぞれの場面ごとに徹底解説
3.決議内容の通知
株主総会または取締役会において、株式譲渡を承認するか否かの決議をします。
4.株式譲渡契約
一般的には、株式譲渡を承認する旨の通知を受けた後、譲渡人と譲受企業の間で株式譲渡契約を締結します。なお、承認を実行条件とし、承認前に契約を締結することもあります。
5.株主名簿の書き換え
株券不発行会社の場合、譲渡人と譲受企業が共同で、譲渡企業に対して株主名簿を書き換えるように請求し、譲渡企業はその請求に応えて、株主名簿を書き換えます。(株券発行会社の場合は、株券を提示すれば譲受企業が単独で株主名簿を書き換えることができます)
以上の手続きで株式譲渡は完了です。
▷関連記事:株式譲渡承認請求書とは?株式譲渡の記入例や手続きの流れを完全ガイド
株式譲渡での企業価値算定方法
株式譲渡における企業価値企業価値評価の方法は、主に
・コスト・アプローチ
・マーケット・アプローチ
・インカム・アプローチ
の3つがあります。それぞれ詳しく解説していきます。
▷関連記事:企業価値評価とは?M&Aで使用される企業価値の算出方法
コスト・アプローチ
コスト・アプローチは、譲渡企業の貸借対照表における純資産に着目し、それを元に評価する手法です。その中でも、主に下記の2種類があります。
・簿価純資産法
貸借対照表上に記載されている純資産額で評価
・時価純資産法
譲渡企業の有する資産の時価から負債の時価を引いて評価
中堅・中小企業のM&Aでは、時価純資産に将来の収益力として営業権を加味したうえで評価する場合が多く、M&Aの取引前に簡易的に推定価値を譲渡価額の相場目安として用いられることがあります。
マーケット・アプローチ
マーケット・アプローチは、上場企業のうち、譲渡企業の同業他社や類似する企業の市場での株価をもとに企業価値を評価する手法です。
市場株価をもとに企業価値を算定するため、客観性が高く公正な評価ですが、中堅・中小企業のM&Aに企業価値評価においては、類似企業の選定が困難なため採用されるケースは多くありません。
インカム・アプローチ
インカム・アプローチは、譲渡企業の将来的なキャッシュフローに基づいて評価する手法です。
代表的な評価方法としてDCF(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)法があります。DCF法は、譲渡企業に将来期待されるキャッシュフローにおいて予想されるリスクを考慮し、現在価値として割引いて算出する方法です。
しかし、その評価のためには将来の事業計画が必要であり、中小企業では事業計画を作成している会社は少ないため、DCF法が採用されるケースは多くありません。
株式譲渡にかかわる会計処理、譲渡・取得時の仕訳の扱い
株式譲渡時の個別財務諸表における仕訳では、株式譲渡によって経営権を取得した場合、「子会社株式」という勘定科目に計上します。
連結財務諸表における仕訳では、譲渡企業の資産・負債を時価で引き継ぎ、譲渡企業(売り手)の純資産時価(自社が取得した持分比率相当額)と取得した子会社株式の取得価額との差額をのれんとして計上します。
株式譲渡の場合においては、連結財務諸表でのみのれんが認識されますが、のれんに対して税効果を認識できません。つまり、連結のれんの償却費を将来の損金に算入できない、ということになります。
株式譲渡後の個別財務諸表における仕訳では、原則会計処理は不要です。ただし、譲渡企業の業績が悪化して、1株当たり純資産が取得単価の半分以下になった場合は、評価損を計上して1株当たり純資産相当額まで評価減する必要が生じます。
連結財務諸表における仕訳では、のれんの償却における費用化を毎期行う必要があります。
これらはいずれも譲受企業(買い手)側が必要なことであり、譲渡側は原則不要です。
株式譲渡にかかわる税務、法人所得税や消費税の扱い
譲渡企業が譲受企業に株式を譲渡した場合、その譲渡価額に対して譲渡企業には譲渡所得税がかかります。株式の譲渡所得は、譲渡した価額から株式を取得する際、また譲渡の際の費用などを差し引いた金額です。
譲渡所得=総収入金額(譲渡価額)-必要経費(取得費+委託手数料等)
譲渡所得にかかる税率は20.315%(所得税および復興特別所得税15.315% + 住民税5%)(令和2年1月現在)となり、上記の計算式で納付税額が求められます。
総収入金額とは、株式の譲渡対価として得られる金額を指します。株主と譲受企業で協議のうえ決まります。
次に必要経費ですが、この必要経費として認められるのは、譲渡する株式を取得した際にかかった「取得費」や、仲介会社などに支払う「委託手数料」などがあります。
取得費は会社を設立した際に出資した資本金や株式を取得するための金銭などを指し、委託手数料は譲渡の際にM&A仲介会社などに依頼した場合の仲介手数料などを指します。
▷関連記事:株式譲渡にかかる税金って何があるの?その種類や計算方法を徹底解説
株式譲渡にかかわる税務、個人・法人間での取引でかかる税金は?
株式譲渡に課される税金は譲渡益から求められます。譲渡益にかかる税率は20.315%(所得税および復興特別所得税15.315% + 住民税5%)となり、譲渡所得 x 20.315% = 譲渡所得税で表せます。
ただし、譲渡価額が適正な時価と同等か、時価と比べて低いまたは高い価額かどうかにより、税金の計算方法が異なります。また、取引当事者が下図のように個人か法人かによっても、税金の計算方法が異なります。以下では、各ケースにおける税金を解説していきます。
適正な時価の場合
譲渡側については、株式の譲渡価額と帳簿価額との差額である譲渡益に対して、個人の場合は譲渡所得税、法人の場合は法人税が課されます。一方、譲受側については、株式取得時点の課税関係は生じません。
時価より高い価額の場合
ここでは、譲渡側と譲受側がそれぞれ個人か法人かの各ケースに分けて解説していきます。
○個人から個人へ
譲渡側は、譲渡価額が時価を上回る金額については譲受側から贈与を受けたものとして「贈与税」が課税されます。
譲受側は、株式取得時における課税関係は生じません。
○個人から法人へ
譲渡側は、譲渡価額が時価を上回る金額について、譲渡側の個人が譲受側である法人の役員や従業員、第三者かどうかによって、所得税上の取り扱いが以下の通り異なります。
・譲受法人の役員、従業員の場合:給与所得課税
・第三者の場合:一時所得課税
譲受側は、譲渡価額が時価を上回る金額について、譲渡側の個人が譲受側である法人の役員や従業員、第三者かどうかによって、法人税上の取り扱いが以下の通り異なります。
・譲受法人の役員または従業員の場合:賞与(役員の場合は「役員賞与」として扱われ損金算入できません)
・第三者の場合:寄付金として扱われますが、法人税法上、損金算入額に一定の制限があるため注意が必要
○法人から個人へ
譲渡側は、譲渡価額が時価を上回る金額について、譲受側から寄付を受けたものとして取り扱い、その受贈益が法人税の課税対象となります。
譲受側は、譲渡価額が時価を上回る金額について、譲渡側に寄付をしたものとして取り扱われますが、法人税と異なり所得税上の課税関係は生じません。
○法人から法人へ
譲渡側は、譲渡価額が時価を上回る金額について、譲受側から寄付を受けたものとして取り扱い、その受贈益が法人税の課税対象となります。
譲受側は、譲渡価額が時価を上回る金額について、譲渡側に対する寄付金として扱いますが、寄付金については法人税法上、損金算入額に一定の制限があるため注意が必要です。
時価よりも低い価額の場合
○個人から個人へ
譲渡側は、譲渡価額が時価を下回る金額について、課税関係は生じません。譲受側は、譲渡価額が時価を下回る金額について、譲渡側から贈与を受けたとみなされるため、贈与税が課税されます。
○個人から法人へ
譲渡側は、譲渡価額が時価を下回る金額、かつ時価の1/2以上の価額で譲渡した場合で、譲受側である法人が同族会社である場合は、時価によって譲渡されたものとみなし、株式の時価と帳簿価額との差額に対して、みなし譲渡所得課税が課税が行われます。
一方、時価の1/2未満で譲渡した場合は、譲受側である法人が同族会社以外の場合でも、時価によって譲渡されたものとみなし、株式の時価と実際の譲渡価額との差額に対して、みなし譲渡所得課税が行われます。
譲受側は、株式の時価と譲渡価額との差額である受贈益に対して法人税が課税されます。
○法人から個人へ
譲渡側は、譲渡価額が時価を下回る金額については、譲受側が譲渡側である法人の役員、従業員か、または第三者かで、以下の通り法人税上の取り扱いが異なります。
・譲渡法人の役員、従業員の場合:賞与(役員の場合は「役員賞与」として扱われ損金算入できません)
・第三者の場合: 寄付金として扱いますが、法人税法上、損金算入額に一定の制限があるため注意が必要です。
譲受側は、譲渡価額が時価を下回る金額については、譲受側が譲渡側である法人の役員、従業員か、または第三者かで、以下の通り所得税上の取り扱いが異なります。
・譲受法人の役員、従業員の場合:給与所得課税
・第三者の場合: 一時所得課税
○法人から法人へ
譲渡側は、譲渡価額が時価を下回る金額については、買主への寄付金として扱われますが、法人税法上、損金算入額に一定の制限があるため注意が必要です。
譲受側は、譲渡価額が時価を下回る金額については、売主から寄付を受けたものとみなし、時価と譲渡価額との差額である受贈益に対して、法人税が課されます。
適正な時価以外の価額で取引されているか、または当事者が個人か法人かの違いによって株式譲渡に係る税務上の取り扱いが異なるため、譲渡価額について適切に整理する必要があります。
【Q&A】株式譲渡のよくある質問
ここでは、株式譲渡に関連するよくある質問について回答します。
株の譲渡とはどういう意味ですか?
株の譲渡とは、譲渡企業(売り手)の株主が、譲受企業または個人(買い手)に保有株式を譲渡することで、会社の経営権を移転させる方法です。双方で株式譲渡契約を締結し、譲受企業が代金を支払い、譲渡企業が株式を交付することで成立します。
詳細は記事内「株式譲渡とは」をご参照ください。
株式の譲渡と贈与の違いは何ですか?
株式の譲渡とは、所有している株式を現金等の対価を受け取ることで他者へ譲り渡すことです。これに対して株式の贈与とは、所有している株式を対価の受け取りなしに他者へ譲り渡すことであり、株式の無償譲渡と同じ意味となります。
「譲渡」と「贈与」では税務にも違いがあるため、記事内「株式譲渡にかかわる税務、個人・法人間での取引でかかる税金は?」も合わせてご参照ください。
上場会社の株式譲渡は誰でもできる?
上場企業の株式は、株式市場で誰でも自由に取引できるため、譲渡制限がありません。
非上場株式の場合は、意図しない第三者が経営に関与するのを避けるため、多くの場合では株式に譲渡制限がかけられています。
詳細は記事内「事前に確認しておくべき注意点」をご参照ください。
まとめ
株式譲渡は、M&Aの中でも比較的手続きがシンプルな手法のため、株式の売り手・買い手双方にとって時間をかけずに取引が成立できる手法です。一方で、本記事で紹介したデメリットも存在するため、あらためて株式譲渡全体の流れや、事前に確認しておくべき注意点などをしっかり把握しておきましょう。また、株式譲渡には法律知識や税務知識も必要です。手続きや税金について不明な点があれば、専門のM&Aアドバイザーに相談し、M&Aをスムーズに進めましょう。