経営・ビジネス

2024/10/22

自社株買いのメリット・デメリットとは?目的や株価・株主への影響も解説!

自社株買いのメリット・デメリットとは?目的や株価・株主への影響も解説!

経営者が行う施策の1つに、「自社株買い」があります。自社株買いは一般的に、上場企業が市場から株式を買い戻す方法で行われますが、非上場企業においては、私募により特定の株主から株式を取得する場合もあります。

近年は、自社株買いを行う企業が評価される傾向にあります。2019〜2020年には、NTTドコモやソフトバンクが自社株買いを行い、投資家からの注目を集めました。

本記事では、自社株買いの目的やメリット・デメリット、株主への影響などをわかりやすく解説します。
自社株買いの知識を深めたい方は、ぜひ参考にしてみてください。

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自社株買いとは?

自社株買いとは、企業自ら、自社の株式を市場から買い戻すことです。
通常、株式会社では、資金調達のために株式を発行し、市場へ流通させます。
投資家が株式を買うことで、会社は資金を得ることができます。

自社株買いは、その流れと反対の動きで、自社の資金を使って、市場に流通している自社の株式を購入することを指します。

旧商法においては、「資本充実維持の原則」により、企業が自らの株式を買い戻す行為は、資本金の減少につながるとして、原則禁止されていました。会社設立時に払い込まれた資本金を常に維持し、債権者の保護を図るという考えに基づいています。

一方で、米国をはじめとする諸外国においては、自己株式の取得は一般的なコーポレート・ファイナンス手法として定着しており、取得した自己株式を売却し、必要に応じて資金調達に充てるケースも少なくありません。

これらの背景から、2001年の商法改正および2006年5月の新会社法の施行により、自己株式の取得に関する規制が大幅に緩和されました。これにより、企業は一定の条件下で自社の株式を市場から買い戻すことが可能となりました。

上場企業の自社株買い

上場企業の自社株買いは、主に市場取引または公開買付(TOB)によって行われます。市場取引は、東京証券取引所などの株式市場で売買されている株式を直接購入する方法です。この取引を通じて自社株を購入するためには、企業が株式市場に上場している必要があります。TOBは、買付期間や買付価格、買付株式数などを定めて、不特定多数の株主に対して株式の売却を勧誘する方法です。

非上場企業の自社株買い

非上場企業の自社株買いは、主に株主との直接交渉で行われます。非上場企業の株式は市場で自由に売買できるわけではなく、直接取引を行う必要があるからです。

非上場企業の自社株買いでは、株式の市場価格がないため、株価をどのように決めるかが重要です。一般的に、以下の2つの算定方法が用いられます。

算定方法概要特徴注意点
類似業種比準価額方式自社と規模や業種が似ている上場企業の株価を参考に、自社の株価を算出する方法比較的規模の大きな非上場企業でよく用いられる
上場企業の株価は市場の評価を反映しているため、より客観的な評価が得られると考えられている
完全に同一の企業を見つけるのは難しいため、ある程度の誤差は生じる可能性がある
純資産価額方式会社が解散した場合に得られる資産の総額を、発行済みの株式数で割って株価を算出する方法比較的小規模な非上場企業でよく用いられる
財務諸表に基づいた計算のため、比較的単純な方法
会社の資産の評価が難しく、無形資産の価値などが適切に反映されない可能性がある

一般的に、複数の方法を組み合わせて株価を決定します。それぞれの方法で算出した株価を比較し、より高い方を採用することが多いですが、企業の将来性や成長性なども考慮し、株主との交渉を通じて最終的な価格が決定されます。

自社株買いの目的 | 上場企業・非上場企業

資金調達のために株式を発行したにもかかわらず、なぜ自社株を買い戻すのでしょうか?

以下では、上場企業と非上場企業が自主株買いをする目的を紹介します。

上場企業の自社株買いの目的

上場企業が自社株買いを行う目的は多岐にわたります。主な目的としては以下が挙げられます。

・株主への利益還元や株価上昇
・敵対的買収に対する防衛
・財務体質の改善
・投資家からの評価向上 など

自社株買いを行うと、市場に流通する株式数が減少するため、1株当たりの利益が増加します。その結果、株価の安定や上昇、株主の投資意欲の高まりが期待できます。また、配当金支払額の抑制にもつながり、企業の財務体質改善にも貢献します。

自社株を大量に保有すると、自社の持ち株比率が高まり、敵対的買収を防ぐ効果も期待できます。しかし、自社株買いは、資金調達や事業投資といった他の活動と資金を奪い合う側面もあるため、慎重な計画のもとで行う必要があります。

非上場企業の自社株買いの目的

非上場企業は、自社株買いを通じて、経営の安定性を高めたり、株主構成を調整したりすることがあります。

創業家が経営から退く際に、その株式を会社が買い取ることで、経営の一貫性を保てます。また、相続によって株式が分散し、経営判断が難しくなることを防ぐ目的でも、自社株買いは有効な手段です。

自社株買いが株価上昇につながる仕組み

自社株買いを行うと、株価上昇につながる可能性が高いです。
自社株買いが株価上昇を促す要因として、ROEやPER、PBRといった財務指標の改善が挙げられます。

ROEの向上、PERの低下、PBRの低下により、企業の収益性や成長性に対する投資家の評価が高まり、結果として株価が上昇する傾向にあります。以下で、それぞれの財務指標について見ていきましょう。

ROE(自己資本利益率)が向上する

ROEとは、会社の資本に対して、どれくらいの収益を上げたのかを判断する指標です。
ROEが高ければ高いほど、自己資本に対して効率的に収益を上げていることになります。

自社株買いによって自己資本が減少すると、ROEが上昇し、企業の収益性が高まったと評価されます。その結果、投資家から「株主から集めたお金を有効に使えている」と判断され、株価の上昇が期待できます。

ROEの計算式は、以下のとおりです。
「ROE(自己資本利益率)=当期純利益÷自己資本×100」

例えば、当期純利益が3億円、自己資本が12億円の場合、ROEは「3億円÷12億円×100=25%」となります。

ROEを評価する際には、8%以上だと収益性が高いと評価され始めます。
上記の例の場合は8%を大きく上回っているため、「収益性が高い」と言えるでしょう。

PER(株価収益率)が低下する

PER(株価収益率)とは、株価に対してどれくらいの収益を上げたのか判断する指標です。PERが低ければ低いほど、会社の収益に対して株価が安いことを示します。
自社株買いによって発行済株式数が減少すると、EPS(1株当たりの純利益)が上昇し、PERが低下します。これにより、株価が割安と評価され、投資家からの需要が高まり、株価上昇が期待できます。

PERの計算式は、以下のとおりです。
「PER(株価収益率)=株価÷EPS(1株当たりの純利益)」

例えば、株価が2,000円、1株当たりの利益が200円の場合、PERは「2,000円÷200円=10倍」となります。

これはつまり、投資家から見て、「投資した資金を10年で回収できる」ということです。PERの目安は15倍と言われており、15倍以上だと割高、15倍以下だと割安と判断されます。上記の例の場合は、「割安=投資家目線でお得な株」と言えるでしょう。

PBR(株価純資産倍率)が低下する

PBR(株価純資産倍率)とは、会社の純資産に対して株価が何倍になっているかを測る指標です。
PBRが低ければ低いほど、投資家にとって「株価が割安」と判断されます。

自社株買いには、一般的に企業の現金が使用されます。そのため、自社株買いを行うと企業の現金資産が減少します。しかし、発行済株式数が減少するため、1株当たりの純資産額は増加し、PBRが低下する傾向にあります。

PBRの計算式は、以下のとおりです。
「PBR(株価純資産倍率)=株価÷1株当たりの純資産」

例えば、株価が2,000円、1株当たりの純資産が1,000円の場合、PBRは「2,000円÷1,000円=2倍」となります。

PBRの目安は1倍と言われており、1倍を下回ると割安な株と判断されます。上記の例の場合は1倍を上回っているため、「割安ではない」と言えるでしょう。

ただし、1倍を下回る企業はそうそうないのが現実です。健全な経営を行い、できるだけ1倍に近づけていれば優良企業と見られます。また、「0.1倍」のように、1倍をはるかに下回っている場合は、経営が危うい可能性も高いです。

2024年に自社株買いが急増!過去最高を記録

2024年1月から5月までの期間における日本企業の自社株買いの取得上限金額は、前年同期比で60%増の約9兆円と過去最高を記録しました。年間で過去最高を記録した2023年の約9兆6000億円に迫る勢いです。
企業が株主還元を強化し、株価向上に努めていることを示しています。自社株買いが急増した背景としては、東京証券取引所が上場企業に対して資本効率の改善を要請していることなどが挙げられます。

2024年に自社株買いを発表した企業

2024年に自社株買いを発表した主な企業を紹介します。

リクルートHD

リクルートHDは2024年7月9日、3月期の連結純利益が31%増の3,536億円と過去最高を記録したことを受け、自社株買いを発表しました。自社株買いを行った目的は、資本効率の向上と株主還元の充実です。

取得し得る株式の総数8,700万株(上限)
(発行済株式総数に対する割合5.67%)
株式の取得価額の総額過去最大となる6,000億円(上限)
取得期間2024年7月10日から2025年7月9日まで
取得方法(1) 取引一任方式による株式会社東京証券取引所における市場買付け
(2) 自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)による市場買付け

KDDI

KDDIは、2024年5月10日に自社株買いを発表しました。自社株買いを行った目的は、経営環境の変化に対応した機動的な資本政策の遂行及び株主還元策の一環です。

取得し得る株式の総数8,700万株(上限)
(発行済株式総数に対する割合4.18%)
株式の取得価額の総額3,000億円(上限)
取得期間2024年5月13日から2024年10月31日まで
取得方法一部は1株3,896円でトヨタ自動車から公開買い付けにより取得する予定

参天製薬

参天製薬は、2024年5月9日に自社株買いを発表しました。自社株買いを行った目的は、利益還元の強化と資本効率の更なる向上を図るためです。

取得し得る株式の総数2,111万株(上限)
(発行済株式総数に対する割合5.8%)
株式の取得価額の総額380億円(上限)
取得期間2024年5月10日から2024年11月6日まで
取得方法取引一任方式による市場買付け

ニフコ

ニフコは、2024年8月21日に自社株買いを発表しました。自社株買いを実施した目的は、資本効率の向上を図るとともに、経営環境に応じた機動的な財務政策を可能にするためです。

取得し得る株式の総数85万株(上限)
(発行済株式総数に対する割合 0.86%)
株式の取得価額の総額30億円(上限)
取得期間2024年8月22日から 2024年10月31日まで
取得方法①自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)を含む市場買付
②東京証券取引所における市場買付

日本郵船

日本郵船は、2024年5月8日に自社株買いを発表しました。自社株買いを実施した目的は、資本効率の向上です。

取得し得る株式の総数3,500万株(上限)
(発行済株式総数に対する割合 7.6%)
株式の取得価額の総額1,000 億円(上限)
取得期間2024年5月9日から2025年4月30日まで
取得方法東京証券取引所における取引一任契約に基づく市場買付

自社株買いのメリット

自社株買いを行うことで、株価上昇につながることを解説しました。しかし、自社株買いのメリットはそれだけではありません。
ここでは、株価上昇以外にもある、自社株買いのメリットをまとめます。

・投資家へアピールできる
・敵対的買収を防ぐ対策になる
・ストックオプションを獲得できる
・配当金を節約できる
・事業承継で相続税の負担を軽減できる

投資家へアピールできる

前述したように、自社株買いは株価上昇につながる可能性が高いです。つまり、株式を保有している投資家にとっては、自分の資産が増えるということです。
これにより、投資家に対して「株主を大切にしている企業」と伝えられれば、将来性への期待が高まり、投資家からさらに株を買ってもらえる可能性もあるでしょう。
このように、自社株買いは、投資家との関係性を高めることができるのです。

敵対的買収を防ぐ対策になる

敵対的買収とは、経営者の合意なしに行われる買収のことで、ライバル企業の株式を過半数取得し、強制的に経営権を奪う手法です。「日本では敵対的買収が少ない」と言われていますが、決して他人事ではありません。これは大企業だけでなく、中小企業でも起こりうることです。

自社株買いをすることで、市場に流通する株式数が少なくなるため、外部から買い占められる可能性が低くなります。
自社で過半数の株式を取得していれば、敵対的買収をされる可能性も少なくなります。また、自社株買いによって株価が上昇すれば、購入者にとってはその分の資金が必要になるということです。
自社株買いを行った企業の株を大量に取得するには、多額の資産が必要になることから、敵対的買収のリスクを下げることができます。

ストックオプションを獲得できる

買い戻した自社株は、ストックオプションとして保管しておくこともできます。
ストックオプションとは、あらかじめ決めた価格で自社の株式を購入できる権利のことです。従業員にストックオプションを付与しておけば、会社が成長したときに自社株を割安で買い、高値で売ることができます。
株価の成長にともない、従業員も自社株の売買で利益を得られる可能性があるため、働くモチベーションにもつながるでしょう。

▷関連記事:ストックオプションとは?メリットやデメリット、発行までの手順を紹介

配当金を節約できる

自社株に対しては、配当金が発生しません。市場に流通している株式が少なくなることで、配当金を節約できます。支払う配当金が少なくなる分、会社には資金が残ります。その資金を設備投資や事業の立ち上げなどに使うこともできるでしょう。

事業承継で相続税の負担を軽減できる

自社株買いは、相続税対策と経営安定化の両面で有効な手段です。事業承継で後継者が保有する株式を会社が買い取ると、後継者は得た資金を相続税の支払いに充てられ、税負担も軽減できます。

自社株買いは、経営の安定化にも貢献します。複数の株主に分散していた株式を買い取ることで、株式の分散を抑えられ、事業承継をスムーズに進められます。
▷関連記事:事業承継における自社株買いとは?メリット・デメリットや流れ、ポイントを解説

自社株買いのデメリット

自社株買いにはたくさんのメリットがありますが、一方でデメリットもあります。
ここでは、自社株買いのデメリットを解説します。

・自己資本の比率が低下する
・手持ちの資金が減る

自己資本の比率が低下する

自己資本を使って自社株を取得するため、自己資本比率が下がってしまいます。
投資家からすると、自己資本比率の低下は財務状況の悪化に見えることもあるため、株主が離れてしまう可能性も考えられます。
自社株買いを行う際には、自己資本比率が高い状態で臨むのが理想的です。

手持ちの資金が減る

当然ながら、自社株買いをするには多額の資金が必要となります。手持ちの資金を使うことで、経営が悪化する可能性もあります。さらに、設備投資や研究開発など、将来への投資にお金を使えなくなることもあります。
そのため、自社株買いをする際には、タイミングや会社の事業計画をよく考える必要があるでしょう。

自社株買いが株主に与える影響

自社株買いが株主にどのような影響を与えるのか理解しておかなければ、投資家へのアピールが失敗する可能性があります。

ここでは、自社株買いが株主に与えるメリット・デメリットを解説します。

株主にとってのメリット

自社株買いにより、株価の上昇が期待できます。株価の上昇は、株主の資産が増えるということです。長期的な株価の上昇は、株主との信頼関係を築くうえで必須項目です。
株主への還元策の1つとして、自社株買いは有効でしょう。

株主にとってのデメリット

自社株買いによって株価が上昇した場合、利益確定のための売りが増えるケースもあります。その結果、一度株価が上昇した後に、大きく下落してしまう可能性もあるでしょう。そうなった場合、株を保有し続けている株主への損失は避けられません。

また、本来株式は資金調達の手段です。その手段を自ら縮小するということは、「事業拡大の機会を失っている」という見方もできます。自社株買いは、良好な企業経営のうえで、初めて好材料と判断されるのです。

自社株買いをする際の注意点

自社株買いで失敗すると、企業の財務状況に大きな影響を及ぼします。ここでは、自社株買いをする際の注意点を解説します。

・自社株買いには財源規制が適用される
・自己株式には議決権がない
・取得する割合を見極める必要がある

自社株買いには財源規制が適用される

自社株買いを行う際には、財源規制のルールに従う必要があります。
・買い付けの上限金額
・1日の買い付け数量の制限

分配可能額を超える自社株買いは、財源規制によって制限されています。無制限に自社株買いを繰り返すと、自己資本の低下によって会社の経営が悪化するでしょう。あくまでも買い付けルールを遵守し、余剰資金内で行ってください。

※分配可能額:余剰金の範囲内のこと

自己株式には議決権がない

自社株買いで取得した株式には、議決権がありません。議決権を目的とした自社株買いはできませんので、注意してください。

また、一気に自社株買いを行なった場合、既存株主の間で議決権比率が変わり、混乱を招く可能性があるでしょう。

取得する割合を見極める必要がある

自社株買いの主な目的は、株主への還元や投資家へのアピールです。財務状況を一気に変えるために自社株買いをすると、市場への影響が大きく、混乱を招くでしょう。

自社株買いをする際には、各所への影響を考慮したうえで、取得する割合を見極める必要があります。

まとめ

自社株買いの目的やメリット・デメリット、株主への影響などを解説しました。
自己株買いは、企業にとって重要な経営戦略の1つです。株価上昇や投資家へアピールなどのメリットがある一方、自己資本の比率低下や手持ち資金の減少などのデメリットもあります。自社株買いを行う場合は、法律や会計に関する専門知識が必要となるため、専門家と相談しながら慎重に進めましょう。
自社株買いを行う際には、タイミングや資金計画をよく検討しましょう。

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