「企業概要書(IM:インフォメーション・メモランダム)」とは、譲渡企業の詳細な情報を記載した資料のことです。
一般的には譲渡企業側のM&A仲介会社が、譲受候補企業に具体的にM&Aを検討してもらうため、譲渡企業の詳細な情報を開示する用途で作成します。この企業概要書に基づき譲渡企業は自社の価値や魅力をアピールし、これを受けて譲受候補は譲渡企業とのM&Aに関するさまざまな検討を行うため、M&Aの具体的な交渉が開始される段階において非常に重要な資料となります。ここでは、譲渡企業と譲受企業の双方の視点から企業概要書の重要性について解説していきます。
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
目次
「企業概要書(IM)」にはどんなことを記載するのか
企業概要書は主に、譲渡企業が譲受候補に「どういう会社なのか」「譲渡企業を譲り受けることでどのようなメリットがあるのか」を検討してもらうための資料で、具体的には譲渡企業の沿革や財務状況、資産に関する情報などが細かに記載されています。企業概要書に決まったフォーマットは存在せず、M&A仲介会社やお客様の相談内容によって記載する内容は変わります。
【企業概要書 記載事項一例】
・概要(企業情報、事業概要、競合優位性)
・事業内容(取引フロー、主要取引先)
・事業所(不動産、設備)
・組織(組織図、役員構成、従業員構成、株主構成)
・財務状況(直近3期程度の損益計算書・貸借対照表)
・将来の事業計画
企業概要書は、譲渡企業が譲受企業に対してM&Aを打診するための資料である「ノンネームシート」と役割が似ています。ノンネームシートとIMの大きな違いは、「秘密保持契約(NDA)を締結する前に開示する」か、「締結後に開示するか」です。ノンネームシートは、秘密保持契約の締結前であるため、会社名を伏せて譲渡企業が特定できない粒度で情報を開示するのに対し、会社概要書は数十ページに渡り譲渡企業の情報が詳細に記載されています。
▷関連記事:M&Aの交渉において重要となる「ノンネームシート」とは
情報量 | フェーズ | |
ノンネームシート | 譲渡企業を特定できない程度 | NDA締結前 |
企業概要書 | 譲渡企業の情報を詳細に記載 | NDA締結後 |
「企業概要書(IM)」開示前の秘密保持契約の重要性
企業概要書には譲渡企業側にとって、取引先に通常開示しないような情報も記載されることが多いため、作成した資料の情報管理を徹底しなければなりません。こうした譲渡企業の機密情報を守るために、企業概要書を作成する前に、譲渡企業とM&A仲介会社間で秘密保持契約(NDA)を締結します。その後、譲受企業に企業概要書を公開する前に、譲受企業とM&A仲介会社間で秘密保持契約(NDA)を締結します。
▷関連記事:情報漏洩対策の重要ポイント。M&Aで欠かせない「秘密保持契約書」とは
いつ「企業概要書(IM)」が必要になるのか
では、企業概要書はどの段階で必要になるのでしょうか?M&Aが成約されるまでの流れの中で確認してみましょう。M&Aは一般的に3つの流れで行われます。M&Aに関する交渉をするための準備を行う「準備フェーズ」、準備した情報をもとに実際にM&Aに関する交渉を進める「交渉フェーズ」、譲受企業を絞ってから契約するまでの「最終契約フェーズ」です。この中で企業概要書は、譲渡企業とM&A仲介会社によって「準備フェーズ」にて作成されます。
具体的には、まず譲渡企業は自社のおおよその譲渡価格を把握するために、財務諸表や事業計画書などの各種資料をM&A仲介会社に提出します。M&A仲介会社は、それらの資料に加え、譲渡企業から事業フローや組織図、重要な契約書などについても資料の提供を受けて、企業価値評価と並行して企業概要書を作成します。その後、「交渉フェーズ」で譲受企業に企業概要書を開示し、交渉を進めていきます。
デューデリジェンス前に「企業概要書(IM)」を取り交わす意味
デューデリジェンスとは、M&Aを行う際に、譲受候補の企業が譲渡企業の事業内容や財務状況などを調査し、さまざまな観点からその企業の資産価値やリスクを測ることをいいます。デューデリジェンスは、一般的にM&A仲介会社が譲渡企業の企業概要書を提示し、実際にM&Aの交渉が進み、譲受候補企業と譲渡企業が基本合意契約を締結した後に行います。
▷関連記事:M&Aの最後にして最大の難関。「デューデリジェンス(DD)」を徹底解説
企業概要書を作成する目的
企業概要書は、譲受検討企業が譲渡企業とのM&Aを検討するにあたり必要となる、譲渡企業に関する詳細な情報を譲受検討企業に伝えることを目的として作成されます。この企業概要書の内容を前提として、その後の交渉が進められることになるため、企業概要書には正確性が求められます。そのため、譲渡企業は、企業概要書を作成するM&A仲介会社に正確で適切な資料を提供することが大切です。
また、企業概要書には譲渡企業に関わる重要な情報の漏れがないようにする必要があります。仮に譲渡企業に不利な情報が漏れていて、それがデューデリジェンスで明らかになった場合、あともう少しで成約というところで、交渉が決裂してしまうこともあり得ます。企業概要書は、譲渡企業と譲受企業との間の交渉の基礎になるものです。譲受企業が検討を進めるうえでどのような情報が必要になるのか、譲渡企業においても意識しながら、M&A仲介会社に資料を提供すると、円滑にその作成が進められます。
まとめ
譲渡企業にとって企業概要書を提示することは、自社の情報を譲受企業に詳細に伝えることで譲受企業における具体的な検討が進み、M&Aの交渉の進展につながります。譲渡企業、譲受企業の双方にとって、より良い条件でM&Aを成約させるためにも、企業概要書は重要な資料なのです。