M&Aでは、成約後の譲渡企業と譲受企業の統合(PMI)が重要です。
PMIはM&Aによる目的やシナジー効果を実現するために行われる経営統合のプロセス全体を指します。
本記事ではM&AにおけるPMIの概要やその重要性、実施のタイミングや手順、ポイントを解説します。これからM&Aを検討される経営者の方、PMIについて知識を深めたい担当者の方はぜひ参考にしてください。
目次
M&AにおけるPMIとは?
PMIとはPost Merger Integration(=ポスト・マージャー・インテグレーション)の略称で、M&Aが成立した後に実施される譲渡企業と譲受企業の統合作業のことです。
M&Aでは「成約=成功」と捉えられがちな場合がありますが、M&Aの目的を実現するという意味では成約はスタートラインでしかありません。
成約後の経営統合作業、つまりPMIを行ってこそ、M&Aによる目的や効果を最大限に実現することができます。
譲渡企業と譲受企業のPMIではさまざまな統合が必要です。2022年3月に公表された中小PMIガイドライン(中小企業庁)では、PMIで必要な統合を以下の3つの統合に分類しています。
▷経営統合
・経営理念や経営方針の違う2つの企業の統合
・経営の方向性のすり合わせや経営体制の刷新なども含む
▷信頼関係構築
・譲渡側の経営者や従業員との信頼関係の構築
・取引先や金融機関などとの信頼関係も重要となる
▷業務統合
・開発部門や販売部門、営業部門や広報部門など各事業部門の統合
・ITシステムや人事規定、会計処理などの管理機能の統合
M&AにおけるPMIの重要性
M&Aでは、譲受企業は譲渡企業の持つ資産や経営資源を譲受し、売上の向上や自社の経営資源とのシナジー効果を期待して行われるのが一般的です。
ただし、M&Aでは異なる企業風土、組織文化、業務システムを持つ2つの企業が1つの企業となります。
M&Aが成立したからといって、次の日からそれぞれが有機的に行動できるわけではありません。統合に失敗すれば、期待した売上の向上やシナジー効果が思ったほど得られない場合もあります。
M&A後にPMIを行うことで、M&Aによる成果を最大化し、失敗するリスクを回避しやすくなります。
▷M&Aで想定されるリスクとPMIの効果
M&Aの成約後に想定されるリスクには以下のようなものがあります。
・従業員の理解が得られない
・期待するシナジー効果が得られない
・業務の統合がうまくいかない
例えば、譲渡企業の従業員にとって、経営陣が交代することはとても大きな事柄です。新しい経営陣の経営方針に納得できなければ、M&A後に従業員が退職してしまうこともあるでしょう。
また、当初に想定したシナジー効果が得られなかったり、業務統合がうまくいかなかったりするリスクも考えられます。
PMIではこのようなリスクを防ぐために、例えば以下のような統合作業を行います。
・M&A成立後速やかに従業員向けの説明会や個人面談を行い、従業員の不安や混乱に配慮する
・クロスセルや販売チャネルの拡大など経営資源を相互活用して、売上シナジーを達成する
・各企業の業務フローやITシステムを精査して、必要に応じて改善をする
上記のように、1つ1つのリスクに対して丁寧な統合作業を行い、M&Aそのものを「成功」に導くことがPMIの目的です。
M&AにおけるPMIのタイミング
PMIの本格的な作業はM&Aの成立後から行われます。
ただし、PMIの準備はM&Aの初期段階から行ったほうが望ましいです。これは、M&Aの進行プロセスを通じて譲渡企業のさまざまな情報が得られ、その情報が成約後のPMIに有効であるからです。
例えば、M&Aの過程でトップ面談や条件交渉、デューディリジェンスなどを行った場合、マッチング時に受け取ったノンネームシートなどの資料以上の譲渡企業の情報が得られます。
このような情報から自社との統合に必要な課題や問題を洗い出しておくと、成約後にスムーズにPMIプロセスへと移行できます。
なお、PMIは長期にわたる統合プロセスです。そのため、M&A成約後の100日間を目途とした集中的なPMI実施期間とその後の期間に分けて、PMIを行う場合もあります。
M&AにおけるPMIの手順
M&AにおけるPMIの手順を、M&Aの進行プロセスからPMIのプロセスまでステップごとに紹介します。
PMIの主な手順は以下のとおりです。
・M&Aの初期検討段階
・M&A成約前の段階
・M&Aの成約とディスクローズ
・現状分析、課題の洗い出し
・100日プランの作成、実行
・効果の検証とPMIへの反映
それぞれの内容を詳しく解説します。
▷M&Aの初期検討段階
M&Aの初期検討段階では、M&Aがなぜ必要なのか、どういった戦略で進めるかなどの検討を行います。
このとき、M&Aの目的や目指すシナジー効果などをはっきりさせておくことが大切です。目的や目指すシナジー効果を明確にすることにより、よりM&Aの効果が発揮できる譲渡企業とのマッチングも可能となり、成約後に得られる効果も実現しやすくなります。
▷M&A成約前の段階
M&Aは、主に以下のようなプロセスで進行していきます。
譲渡企業と譲受企業のマッチングトップ面談条件交渉基本合意締結デューディリジェンス最終契約書の締結PMIの実施は最終契約書を締結した後ですが、PMIの準備は成約前の早い段階から着手するようにしましょう。
特に、デューディリジェンスでは譲渡企業の課題や問題点などの情報が得られることも多いので、PMIの計画を策定する指針となります。
また、PMI推進チームの準備や統合のキーパーソンとなりそうな人材の見極めなど、優先的に検討が必要な課題から進めていくと、PMIを実施するときに役立ちます。
▷M&Aの成約とディスクローズ
M&Aが成約した後は、その事実を公開します(ディスクローズ)。
M&Aは一般的に経営層を中心に進められるため、従業員はディスクローズの段階で初めてM&Aの事実を知るケースも少なくありません。従業員が混乱しないよう、今後の経営方針や雇用の維持などについて説明を行ってください。
ポイントは「成約後速やかに」「全ての従業員に」「正確に」伝えることです。従業員に不公平感を与えてしまうと、不満の要因となります。
伝える方法には、説明会の開催や個別面談の実施などがあります。
また、取引先や金融機関への説明も重要です。M&A後も継続して取引をできるように、丁寧にコミュニケーションを図りましょう。
▷現状分析・課題の洗い出し
M&A成約を公表した後は、譲渡企業の現状を詳細に分析します。
開発部門や営業部門、管理部門の実務担当者にヒアリングを行うなど、より詳細な情報を把握し、統合にどのような課題があるのか分析します。
デューディリジェンスだけでは把握できないことも多くあるので、とても重要なプロセスです。
例えば、譲渡企業が譲受企業とは別のITシステムを利用している場合、業務フローを統合するには不便な部分があることがあります。この場合には、譲渡側に譲受側のシステムを導入する、M&Aを契機に新たなITシステムを導入するなど、対策が必要な場合もあります。
▷100日プランの作成・実行
100日プランとは、M&Aの成約から100日を目途に集中的に行う実行スケジュールのことです。
経営体制や組織の統合、人事評価や退職金制度の統合、販管システムや人事システムの統合など、業務の遂行に直結するものはPMIの早い段階で統合しておく必要があります。
「現状分析・課題の洗い出し」で優先度が高いと判断したものを「100日プラン」としてプランニングし、速やかに実行していきましょう。
▷効果の検証とPMIへの反映
100日プランを実行したあとは、その効果がどうなっているかの検証を行います。
例えば、製造部門の統合の過程で、譲渡企業と譲受企業が同じ材料を異なる仕入先から購入していることが判明したとしましょう。検証の結果、同じ材料を共同調達するとボリュームディスカウントが可能であるとわかったとします。この場合、その後のPMIで材料の仕入れ方法を統合すれば、材料費のコストカットにつながることもあります。
その他、クロスセルや販売チャネルの拡大などの経営資源の相互活用、在庫管理方法やサプライヤーの見直しによる売上原価の改善など、PMIによって期待できる効果にはさまざまなものがあります。効果の検証を行い、その後のPMIへと反映していきましょう。
M&AにおけるPMIのポイント
M&AでPMIを行うときには、いくつかのポイントがあります。
以下では、4つの視点からPMIを円滑に進めるためのポイントを紹介します。
▷早めに着手する
PMIはM&Aの成功を左右するものであることから、M&Aの早めの段階から意識しておくことが重要です。
中小企業庁が公表しているデータによると、M&Aやシナジーの効果を感じている企業ほど、M&Aの早い段階からPMIに着手している傾向がみられます。できれば、基本合意締結前後、デューディリジェンスの実施中には、PMIを意識した情報収集や準備に着手すると良いでしょう。
▷認識の共有
PMIを行う際は、従業員を含めた全社的な認識・ビジョンの共有が大切です。
PMIでは、広い範囲での統合が行われます。譲渡企業と譲受企業の経営理念や業務フロー、ITシステムなど、会社のさまざまなセクションでPMIに取り組まなければなりません。
したがって、経営層だけでなく、各部門の責任者や従業員など広くM&Aの目的やPMIの課題に対する認識を共有することが求められます。また、取引先や株主などの重要な関係者へも情報発信を行い、できるだけ認識の共有を図るようにしましょう。
▷デューディリジェンスからPMIを意識する
早い段階から譲渡企業とPMIを意識していれば、デューディリジェンスはM&Aの目的や想定するシナジー効果を検証する格好の機会となります。
デューディリジェンスは財務、税務、法務、ビジネスなどさまざまな視点から行われますが、それぞれの視点からPMIのためのより具体的な調査が可能です。
しかし、デューディリジェンスの段階でM&Aの目的などが明確でなく、PMIまで想定していないと、デューディリジェンスは形式的な調査に終わることも多くなります。
結果、M&Aの成約後にやっとPMIに取り組むこととなり、統合が遅れて期待したシナジー効果を実現できないことも珍しくないので、注意が必要です。
▷専門家のアドバイスも検討
M&AやPMIは、ほとんどの経営者の方にとって初めての経験です。
M&AやPMIに必要な専門知識やノウハウを十分に持っていない場合も多くあります。
一方で、PMIにおける検討事項は多種多様であり、法務・財務・税務などの専門的な知識が必要な場合もあります。特に、中小企業の方などの場合、M&AやPMIを推進するための専門知識を持つ人材を確保するのは容易なことではありません。
そのため、必要に応じて、M&AやPMIの専門家への相談も重要な選択肢です。専門家のアドバイスにより、M&AやPMIの実施に有益なアドバイスが得られることも多くあります。
PMI実施のチェックリスト
最後に、PMIを実施するときのチェックリストをまとめました。
PMI実施の際に確認したい主なポイントは以下のとおりです。
・新経営体制の構築はできているか(経営統合)
・経営ビジョンと実現のための計画は策定できているか(経営統合)
・従業員との信頼関係の構築はできているか(信頼関係構築)
・業務オペレーション体制の構築はできているか(業務統合)
・経理・財務の統合はできているか(業務統合)
繰り返しとなりますが、PMIはM&Aを成功に導く重要なプロセスです。
成約後速やかに、重要な課題から優先的に統合を進めていきましょう。
まとめ
M&Aでは「M&Aの成約」に目が行きがちですが、本当に難しい点は「M&A成約後に2つの企業をどのように統合させるか」にあるともいえます。
そのため、PMIはM&Aの早い段階から着手し、成約後速やかに進めていくのが重要です。また、M&AやPMIに関する専門的な知識も必要となります。
M&AやPMIで不明な点がある場合は、1度fundbookまでお問い合わせください。
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