会社 売りたい

特に高齢の経営者の方に多い悩みとして、「後継者がいない」「セカンドライフに備えたい」「会社経営に課題が多い」といったものがあげられます。

様々な悩みを抱えたまま会社経営を続けるよりも、会社を適切な方法で売却するM&A(=第三者への承継)を選択すれば、経営者自身は引退した上で、従業員の雇用を継続することができます。

ここでは、M&Aのメリットや手法、流れ、会社を売るためのポイントなどを紹介します。

清算ではなく、会社を売ると得られるメリット

高齢などを理由に経営者としての引退を考えるとき、その一つとして会社を廃業・解散し、精算するという手段があります。会社を精算する際には、資産の売却や債権の回収、負債の弁済を行うことになります。

資産の売却益が負債を上回れば、会社の財産を換金することはできますが、会社の法人格は消滅し、従業員は新たに職を探さなければいけません。

それに対し、M&Aを実施して別の会社に売ることによって、譲渡企業の経営者が得られるメリットがあります。大きく4つに分けて紹介します。

▷関連記事:M&Aとは?メリットや手法、流れなど成功するための全知識を解説
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事業承継ができる

M&Aによる事業承継を行うことで、会社自体、もしくは事業の一部または全部を譲受企業に承継できます。近年の少子化の影響や、子供の将来を自由に選択させるという考え方から、中小企業では後継者問題が表面化していますが、M&Aを行うことにより解決できる問題もあります。また、会社や事業を存続させられるため、従業員の雇用を守ることもできます。

まとまったお金が手に入る

M&Aの実施により、経営者は、会社(正確には対象会社の株式)を売却した対価を手に入れることができます。会社の規模にもよりますが、まとまったお金が入ってくるので、老後の計画も立てやすく、充実したセカンドライフを送るための準備ができます。

個人保証を外すことができる

中小企業の経営者は金融機関から融資を受ける際に、個人として連帯保証人になることが多いです。(個人保証)

連帯保証人になると、会社の債務の弁済義務などが経営者個人にも発生します。M&Aを行う場合、譲受企業との交渉を経て正しい手続きを取ることで、多くの場合でこの個人保証を外すことができます。

▷関連記事:経営者が知っておきたいM&Aによる個人保証と担保の解消

さらに事業を成長させられる

M&Aによって会社を売ると、譲受企業は譲渡企業の取引先やマーケットを取り込み、スケールメリットなどを活かして一気に事業拡大を図ることができます。

会社を売った経営者自身も、自分の会社がこれまでのように社会に貢献し、育ててきた事業がさらに成長した姿を見られることになります。

▷関連記事:成長戦略としてのM&Aとは

会社を売るための手法

ここまで、M&Aとひとくくりにしてきましたが、M&Aにも複数の手法があります。ここでは、一般的に会社もしくは事業の全部または一部を売るためにM&Aを行う際、よく活用される3つの手法について、分かりやすいように図を提示してメリットや特徴を解説していきます。

その他のM&Aの手法に関しては、下記の関連記事を参照ください。

▷関連記事:M&Aの手法を徹底解説!最適な手法を選ぶためのメリット・デメリットも紹介

株式譲渡

会社 売りたい 株式譲渡

「株式譲渡」は、株式を譲受企業に譲渡することで会社の経営権(支配権)を移転するものです。多くの場合、経営権の全てを譲渡するために、譲渡企業(A社)の株主(株主A)は株式の100%を譲受企業(B社)に譲渡することになります。

中小企業では株主は経営者であることが多く、経営者は譲渡した株式の対価として多額の現金を得ることができます。譲渡企業の株主が個人の場合は、譲渡益に対しての税率が20.315%(所得税および復興特別所得税15.315% + 住民税5%)と低くなるという利点もあります。(2019年1月現在)

また、手続きは株式譲渡契約書(SPA)締結後に、譲受企業が譲渡企業の株式に対して契約書で定めた対価を支払い、株主名簿の書き換えを行うだけとなっています。そのため、個々の契約の移転手続きも不要なので、他のM&Aの手法と比較しても短期間で実施できます。

得られるものが大きく手続きが簡便なので、中小企業のM&Aでは最も多く使われている手法です。

▷関連記事:株式譲渡とは?中小企業のM&Aで最も活用される手法のメリットや手続き、事前に確認しておくべき注意点を徹底解説
▷関連記事:株式譲渡契約書(SPA)とは?株式譲渡制限や株券不発行の場合の手続きについて具体的に解説

事業譲渡

会社 売りたい

事業譲渡は、譲渡企業の特定の事業について、一部または全部を譲受企業に譲渡する手法です。株式譲渡と異なり、売買契約により定めた事業範囲を譲り渡す会社間の取引行為になります。

譲渡する事業の内容は、有形・無形を問わず、資産、負債、従業員、取引関係などで、どの部分を譲渡するかを契約によって決めることができます。経営者としては、事業を譲渡して金銭を取得し、さらに法人格を残すことができます。経営の負担が軽い事業を残して、引退後の生活資金を確保することも可能となります。

譲渡する事業を選べるというメリットがありますが、譲渡する権利義務について個別に引き継ぎをする必要があるため、手続きが煩雑で成立までに長期間かかりやすいというデメリットもあります。しかし、リスクを最小限にした上で事業を売ることができるため、デメリットよりもメリットのほうが多いと言えるでしょう。

▷関連記事:M&Aの事業譲渡とは?株式譲渡や会社分割との違いからメリット・デメリットまで解説

会社分割

会社 売りたい 会社分割

会社分割は、譲渡企業(X社)が有する特定の事業に関して、権利義務の全部または一部を包括的に譲受企業(Y社)に承継してもらう手法です。企業再生や事業再生、組織再編のために使用されることが多くなります。

会社分割には、すでにある会社へ承継する「吸収分割」と、新設会社へ承継する「新設分割」の2種類があります。吸収分割も新設分割も会社分割の手法であり、包括的に事業を承継する点では同じです。しかし、吸収分割では対価として株式以外の財産も交付可能ですが、新設分割では対価は原則として株式を交付します。

事業を移転させるという点で事業譲渡と同じ手法ですが、会社分割では事業を“包括的”に移転させることから、譲渡する権利義務について個別に引継ぐ必要がないというメリットがあります。

▷関連記事:会社分割とは?メリットから意味や種類、類型までを解説

会社を売るための流れ

譲渡企業

M&A仲介会社

譲受企業

準備フェーズ

相談/問い合わせ

M&A
仲介会社

相談/問い合わせ

秘密保持契約の締結・
アドバイザリー契約締結

買いニーズ登録

各種資料の提出

ネームクリア

企業価値評価の実施・
企業概要書の作成

 

ノンネーム登録

ノンネーム検討

交渉フェーズ

 

秘密保持契約の締結

 

企業概要書の確認

 

アドバイザリー契約締結

 

トップ面談

 
 

基本合意

 

最終契約フェーズ

 

デューデリジェンス

 
 

最終合意

 
 

最終契約の締結・
クロージング

 
 

ディスクロージャー

 

M&Aは様々な手続きにより、成約までに半年から1年、長くて2年ほどかかることも多くあります。ここでは、M&Aの成約までの主な流れを紹介し、全体を通してM&Aはどれくらいの期間がかかるものなのかを、会社を売る譲渡企業の経営者からの観点で見ていきたいと思います。

▷関連記事:M&Aの流れと手順・進め方を3つのフェーズで完全理解

準備フェーズ

M&Aは、検討から成約までに半年〜長くて2年ほどかかることは、先述の通りです。会社を売ることを検討している経営者の方は、早い段階からしっかり準備を進めておくことでM&Aをスムーズに進めることができます。ここでは、M&Aによって会社を売ることを決めた際に、最初に取り組むことや、準備すべきことを紹介します。

M&Aを行う目的によって、選択する手法や打診先の譲受企業、交渉方法なども異なります。そのため、まずは経営者として、金銭を取得することが大事なのか、会社の存続・従業員の雇用継続が大事なのかなど、優先順位をどこにおくのかを自分の中ではっきりさせておく必要があります。また、この段階までに会社の経営状況や純資産、負債などについても正確に把握しておきましょう。

M&Aは、税務や財務、法務などの専門知識が必要となります。そのため、譲渡条件の方針が決まったら、M&Aを成立させる専門家であるM&Aアドバイザー・仲介会社を決めます。M&Aアドバイザーとは、M&Aが成約するまでの期間に様々なやりとりを行う必要があります。そのため、M&Aアドバイザーが決まったら、しっかり時間をかけて情報の共有、方針のすり合わせを行いましょう。ここでズレがあると、成約までにM&Aが破談になってしまう原因にもなります。

また、M&Aを進めていくにあたり、第三者に漏れてはいけない機密情報を取り扱う場面も発生します。そのためM&Aアドバイザーと、そのような情報をM&Aとは異なる目的で使用しないという契約(秘密保持契約)の締結、M&A仲介会社に仲介業務を依頼するという契約(アドバイザリー契約)の締結と2つの契約を結びます。

そして、自社にどれくらいの価値がつくのかを算出(企業価値評価)するための各種資料の準備・提出を行い、M&Aアドバイザーや公認会計士などの専門家が企業価値評価の実施を行います。並行して、譲受企業へ打診を行い、M&Aを検討してもらうために「ノンネームシート」「企業概要書」という資料をM&Aアドバイザーが作成します。前者は譲受企業に打診を行うために自社を特定されない粒度で情報をまとめたもので、後者はより詳細に企業情報を開示し具体的な検討をしてもらうための資料となります。

▷関連記事:情報漏洩対策の重要ポイント。M&Aで欠かせない「秘密保持契約書」とは
▷関連記事:アドバイザリー契約とは?契約書で規定される内容や報酬体系も解説
▷関連記事:M&Aの交渉において重要となる「ノンネームシート」とは
▷関連記事:M&Aを成約させる「企業概要書(IM)」の作り方

交渉フェーズ

準備段階が終了すると、いよいよ譲受企業との交渉が始まります。

まずは、M&Aアドバイザーがノンネームシートを用いて譲受企業の候補に打診します。そして、候補企業が2~3社に絞られた段階で、経営者同士が初めて直接顔を合わせる場となるトップ面談を行います。ここでは譲渡価額などの金銭の額を詰めるのではなく、経営に対する価値観やビジョン、お互いの人間性、会社に対する想い、譲渡後の方向性などについて、双方の考えをすり合わせます。

時には複数回に及ぶトップ面談を終え譲受企業を選定したら、M&A実施後の経営者や役員、従業員の処遇、最終契約までのスケジュール、成約までに守るルールなどを定めた基本合意を締結します。

譲受企業との基本合意の締結が完了したら、譲受企業の公認会計士や弁護士による譲渡企業のリスクの洗い出しや、M&A後に想定されるシナジーの考察が行われます。こちらはM&A最大の難関ともいわれており、財務や税務、法務、事業、労務など、譲渡企業のあらゆる情報が徹底的に調査されます。この調査は「デューデリジェンス」と呼ばれ、基本的にはこれまでに提出している資料をもとに行われます。(必要に応じ追加で資料を揃えることもあります)

なお、トップ面談の段階で自社の不利な条件などを開示せず、デューデリジェンスでそれらが明らかになると、問題の内容によるものの、M&A自体が破談となってしまうケースもあります。あらかじめ正確な情報を伝え、双方の信頼関係を構築することが肝要になります。

▷関連記事:M&Aの最後にして最大の難関。「デューデリジェンス(DD)」を徹底解説
▷関連記事:M&Aには欠かせない「基本合意書」とは?法的拘束力の有無や目的、必要性を徹底解説
▷関連記事:譲渡企業側こそ意識しよう。企業選定で欠かせないポイント「シナジー効果」とは

最終フェーズ

これまでの一連の作業が終了し、譲渡企業と譲受企業の双方がM&Aを実施することが決定したら、最終的な条件や契約内容を取り決めた契約書(最終契約書)に両者が記名、捺印し、決済が行われます。

契約締結後は、従業員や取引先関係者などを集めて説明会を開き、M&Aの目的や従業員の今後の処遇、M&A後の企業の方向性について説明します。(ディスクロージャー)

M&Aでは、異なる企業を1つの企業に統合することになります。異なる社風や文化をもった企業が1つになるには、経営戦略や組織、人事制度などを見直す企業同士の融合作業(PMI)を的確に行うことで、M&Aによるシナジーを最大限に引き出すことが可能になります。そのため、M&A成約後も譲渡企業の経営者は、一定期間企業に残り引き継ぎ業務を行うケースもあります。

▷関連記事:PMIとは?M&A成功の鍵となる、M&A後の融合プロセスについて解説

会社を売るためのポイント

会社 売りたい ポイント

「会社を売る」という考えがなかった経営者の方も、ここまでのM&Aの概要やメリットについての説明で、自分の会社を売る選択肢について少しイメージが湧いているかもしれません。

しかし、売ることができる会社であるために、M&Aの検討を始めてからは更に自社の価値を高めることが大事です。ここでは、自社が売れる可能性を上げるためのポイントをご紹介します。

これまで以上に経営に力を入れる

譲受企業が譲り受けたいと思う会社は、なにかしらの魅力を持った会社になります。そのためM&Aの検討を始めた後も技術力を伸ばして他社との差別化を図り、自社の持つ強みを明確にし、事業を拡大するよりも本業の業績を伸ばしたりする必要があるでしょう。

また、不明瞭な会計処理などがあれば整理したり、譲受企業から何か質問や要求があったときには隠さずに正直に答え、すぐに資料や書類を用意できる状態にしておくと良いでしょう。特許や技術を有していたり、優秀な従業員が在籍することも大切ですが、譲受企業からの心象を良くし、「この企業であれば買いたい」と思われる会社になることも重要です。

優先順位をつける(目的を決める)

まずは「M&Aを何のためにやるのか」が自身の中で決まっていないと、準備フェーズに取り掛かることができません。金銭を取得して有意義なセカンドライフを送ることが大切なのか、自分は引退しても従業員の雇用を守ることが何より大事なのか、優先順位によってどのM&Aの手法を選ぶか変わってきます。

専門家に協力を仰ぐ

業績は好調、優先順位もしっかり固まっているという状態になったら、M&Aの専門家に強力を仰ぐ段階です。M&Aの相談先としては、M&Aアドバイザーや仲介会社のほかにも銀行などの金融機関や公認会計士、地元の商工会議所などがあります。

ただし、M&Aの専門家以外の相談先は、おおまかな相談に乗ってくれる相手といったレベルの場合もあります。本気でM&Aを検討しているなら、専門業務や手続きをこなし、M&Aに特化した知識を持つ専門家であるM&Aアドバイザーや仲介会社を頼るのが良いでしょう。

まとめ

M&Aを行い自分の会社を売ることによって創業者利潤を取得し、有意義な第二の人生を歩むための準備をすることができます。また、正しい手法、適切な譲受企業を選んで会社を売却すれば、自社のこれまで以上の成長や従業員の雇用を継続することもできるという、お互いが幸福な関係になれるのがM&Aなのです。

会社を精算するよりもメリットが有るM&Aについて、少しでもご興味をお持ちでしたら、M&Aアドバイザーなどの専門家に相談してみましょう。