「M&A」という言葉はよく耳にするものの、具体的な業務内容までは知らない方もいるでしょう。十分な知識や準備がない状態でM&Aを検討し始めてしまうと、失敗の要因になりかねません。
また、外部のM&Aアドバイザーや弁護士、会計士などの専門家にサポートを依頼する場合でも、経営者自身がM&Aの業務内容を理解していなければ「なぜ依頼したほうが良いのか」「報酬額は妥当か」と疑問を持つはずです。
そこで、本記事では「M&A実施時の仕事内容」をご紹介するとともに、外部の専門家を活用する際に知っておくべき「仲介方式とアドバイザリー方式の違い」を解説します。
本記事を読むと、アドバイザーに依頼する必要がある理由や専門家に依頼するメリットを理解していただけるはずです。
なお、「M&Aとは何か?」については以下の記事で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
▷関連記事:M&Aとは?M&Aの目的、手法、メリットと手続きの流れ
幸せのM&A入門ガイド
・M&Aの成約までの流れと注意点
・提案資料の作成方法
・譲受企業の選定と交渉
・成約までの最終準備
M&Aによる事業承継をご検討の方に M&Aの基本をわかりやすく解説した資料です。
目次
M&A実施時の仕事内容を段階別に解説
M&A実施時の仕事は、大きく分けて準備・実行・成約後の3段階に分けられます。
M&Aの各段階で必要な業務を解説します。具体的な手続きは手法によって異なることもあるため、一例としてご覧ください。
①準備段階
M&Aで実行前に準備が必要なのは、主に譲渡企業側です。譲渡企業の準備、目的や条件の洗い出しから始まります。M&Aを行う目的や、雇用継続や経営者の個人保証の解消、譲渡価額などの譲れない条件をはっきりさせておくと、M&Aを進める際の指針になります。
次いで、純資産・負債など経営状況を把握します。さらに、経営状況を裏付ける決算資料や事業計画書、不動産登記簿謄本、組織図などの資料収集も不可欠です。その後、揃えた資料や経営環境などを総合的に判断して「企業価値評価」を行います。
②実行段階
実行段階では、まずM&Aの目的や希望条件、相手企業の業種や事業内容などを考慮して、譲受企業を選定します。
譲受候補企業との出会いがあれば、経営者同士がトップ面談を行います。トップ面談後、M&Aを進めることになれば「基本合意」を締結し、今後のスケジュールや具体的な条件を取り決めます。
基本合意後は、譲受企業による「デューデリジェンス(買収監査)」が行われます。デューデリジェンスは、財務や税務・法務など、譲渡企業に関するあらゆる情報の詳細な調査です。
その際にこれまでの交渉や合意、資料と異なる内容が見つかった場合、再交渉や条件の変更を行います。
デューデリジェンスを経て、「最終契約」を締結するとM&Aが成立します。
最終契約を締結した後に、M&Aの目的や今後の処遇を従業員や関係者へ説明したり、主要取引先・銀行などに連絡したりする「ディスクロージャー」に進みます。
▷関連記事:M&Aにおける条件交渉のチェックポイント。契約の前に確認したいこと
③成約後
M&A成約後は、「PMI(Post Merger Integration)」を速やかに行います。PMIは、業務プロセスや情報システムなどの業務面、新体制への理解や社員間の相互理解など従業員の意識面を調整する重要なプロセスです。業務を停滞させないためにも、丁寧かつ効率的なPMIの実施が必要です。
また、M&Aの事後処理として、臨時株主総会や取締役会の開催、定款の変更などが必要になる可能性もあります。
このように、M&A実施時の業務は複雑で多岐にわたるため、多くの専門知識が求められます。そのため、M&A仲介会社などとアドバイザリー契約や仲介契約を結んで、サポートを受けながら進めるのが一般的です。
より具体的な流れや手順は、以下の記事でご紹介していますので併せてご覧ください。
▷関連記事:M&Aの流れは?検討からクロージングまでの進め方を徹底解説
M&Aに必要な知識・スキル
M&Aをスムーズに成功させるためには、様々な知識・スキルが必要です。
以下では、専門知識と業界知識、コミュニケーション力に分けて、M&Aに必要な知識・スキルを紹介します。
▷専門知識
M&Aの専門知識には、一般的に財務(コーポレートファイナンス)、法務、会計・税務」などが含まれますです。例えば法務面では、会社法・労働法の全般的な知識に加え、事業内容に関連する法律についても知識が必要です。税務であれば、法人税法などの知識が求められます。
▷業界知識
M&Aの相手に適した企業を見つけるには、まず業界の特性やビジネス習慣、業界内の企業の特徴、将来性などを知っておく必要があります。
特に、相手候補企業の業界や地域での評判、企業風土や文化、エリア(所在地)などは、自社との相性を判断する上で重要な基準です。
▷コミュニケーション力
M&Aの成否は、それぞれの企業の目的や条件だけでなく、経営者同士の相性や考え方にも影響を受けます。トップ面談には、詳細な条件と同じように感覚的な相性を確かめるコミュニケーション力が必要です。
トップ面談では、相手企業の経営者が「誠実な人柄であるか」「経営理念をきちんと持っているか」「譲渡企業の従業員への配慮があるか」「将来のビジョンを共有できるか」などを確認する必要があります。
自社にとって大きな決断であるM&Aを成功に導くには、相手の反応や正直な意見を上手く引き出しながら、自身の懸念や疑問をしっかり解消することも重要です。そのために、高いコミュニケーション力は欠かせません。
このように、M&Aを成功させるには、多岐にわたる知識や技術が必要です。専門家であるM&AアドバイザーなどのサポートなしでのM&A実施は、高いリスクを伴います。
仲介方式とアドバイザリー方式の業務の違い
M&Aの実施に際して専門家のサポートを受ける際は、仲介方式とアドバイザリー方式のいずれかで契約を結びます。
2つの方式の大きな違いは、サポートする専門家や仲介会社の立場です。
仲介方式では、専門家が譲渡企業と譲受企業双方の間に立って中立的な立場でサポートを行い、アドバイザリー方式では、どちらか一方の立場からサポートを行います。
以下では、それぞれの業務内容の違いや特徴を詳しく解説します。
仲介方式とは?
M&Aの仲介方式とは、同じM&Aアドバイザーや仲介会社が譲渡企業と譲受企業の間に立ち、中立的な立場からM&Aの成立に向けた助言業務を行う方式です。
仲介方式では、片方に偏ることなく両社の利益のバランスを考えて、双方の希望や条件を調整する交渉を行います。そのため、相手企業の状況が知りやすく、交渉が円滑に進みやすいのが特徴です。
また、仲介方式では譲渡・譲受企業のマッチングへのサポートも受けられます。その他、M&A実施時には次のような業務も担当します。
・企業価値の算定
・デューデリジェンスの支援
・各契約書の作成サポート
一般的に、仲介方式は中小企業のM&Aをサポートする場合が多いです。
仲介方式によってM&Aを成功させるためには、中立性や公平性をしっかり維持できる業者を選ぶ必要があります。
▷関連記事:M&AにおけるFA(アドバイザリー)とは?M&A仲介とFAの違い
▷関連記事:中小企業のM&A 企業の合併・買収をアシストする仲介会社の役割とは
アドバイザリー方式とは?
アドバイザリー方式は、譲渡企業または譲受企業の一方に対して、M&Aに関連したアドバイスやサポートをする方式です。
仲介方式と違い、M&Aアドバイザーやアドバイザリー会社(FA)はどちらか一方と契約を結ぶため、自社の利益を優先しながら交渉したい場合に適しています。
自社の意向を交渉に反映させやすいため、上場企業を始め大企業同士のM&Aではアドバイザリー方式を採る場合が多いです。
アドバイザリー方式の契約には、「専任契約」と「非専任契約」があります。通常は、特定のM&Aアドバイザリー会社とのみ契約を結ぶ専任契約で進めます。専任契約のメリットは、自社がM&Aを検討している情報が漏れにくい点です。
一方、非専任契約は複数のM&Aアドバイザリー会社と契約を結ぶ形態です。そのため、より多くの候補企業を紹介してもらえる可能性があります。ただし、譲渡の意思があることが広まってしまうリスクも含んでいるため、注意が必要です。
▷関連記事:アドバイザリー契約とは?専任契約、非専任契約の違いと規定内容
M&Aのアドバイザリー業務を行う会社の種類
上述したように、上場企業や大企業同士のM&Aでは、多くの場合アドバイザリー方式が採られます。M&Aアドバイザリー業務を行う会社は、主に次の3つです。
・外資系投資銀行
・証券会社
・メガバンク
グローバルな拠点展開をしている外資系投資銀行は、クロスボーダーのM&Aを多数行っています。規模が大きいM&A案件を扱うため、M&Aの取扱額ランキングでは多くの外資系投資銀行が上位を占めています。
また、日本の証券会社やメガバンクでも、アドバイザリー業務を行っています。日系の会社は、外資系投資銀行と比べて中小規模の案件も扱っているため、取り扱うM&A件数も多い傾向があります。
ただし、すべての証券会社がアドバイザリー業務を行っているわけではありません。また、メガバンクは自社がメインバンクとなっている会社同士のM&Aを基本的に取り扱います。
このように、M&Aアドバイザリー業者によって、扱う案件の規模や得意な業界などが異なるため、自社に合った会社を選定することが大切です。
▷関連記事:M&Aの相談は銀行、証券会社、税理士、弁護士、M&A専門家など、どこにすればいいのか?費用の違いは?
中小企業にとってのM&Aとは
中小企業庁「2024年版 中小企業白書」によると、2023年のM&A件数は4,015件でした。過去最多の4,304件だった前年からは減少しましたが、増加傾向で推移しています。未公表のM&Aも少なからず存在するため、実際はさらに多いでしょう。
その背景には、譲渡側の後継者不在、譲受側の事業拡大などがあるといわれています。
また、イグジットの方法としてもM&Aが認知されるようになった点も大きいです。
中小企業がM&Aを行う理由は様々です。譲渡側では、事業承継を目的にM&Aを行うことも多々あります。後継者が不在であっても、M&Aによって第三者に事業を承継できるためです。
一方、譲受企業は事業の成長・発展を目的にM&Aを実施する企業も多いです。譲渡企業のノウハウや人材、技術などを、M&Aによって一挙に獲得できるためです。また、新たな分野で新規事業を立ち上げる場合にも、自社で一から立ち上げるよりも他社の事業を譲受する方が短期間での目標達成が見込めます。
M&Aによる事業承継のポイント
事業承継のためにM&Aを実施する場合、M&Aの前に事業承継のための準備が必要です。
事業承継の必要性の認識や、支援機関などへの相談をした後、経営状況や経営課題の把握に移ります。
自社の状況をはっきりと認識することで、課題解決の方向性を明確化できます。
次に、事業承継を円滑に行うために経営改善を実施します。事業承継に向けて自社を魅力的な状態に磨くため、例えば次の観点で経営状況を改善していきます。
・本業の競争力の強化
・取引先との関係強化
・人材・技術の向上
・シェア拡大
・ブランド力の強化など
経営改善を実施した後、M&Aを具体的に進めていきます。
具体的な進め方は「M&A実施時の仕事内容を段階的に解説」の項目で解説した内容をご参照ください。
事業承継を円滑に進めるには?
M&Aによる事業承継を円滑に行うには、いくつかの注意点があります。
代表的な4つのポイントを解説します。
1. 情報管理を徹底して秘密を保持する
2. 身内間の人間関係のトラブルに注意する
3. 従業員の理解を得る
4. M&Aアドバイザーにサポートを依頼する
①情報管理を徹底して秘密を保持する
M&Aによる事業承継を成功させるためには、「秘密の保持」に十分気を配らなければなりません。M&Aでは、相手企業やM&Aアドバイザーなどに様々な機密情報を提供します。情報を開示する際は、秘密保持契約の締結など情報拡散への対策が必要です。
また、自社の従業員にM&Aを検討していることが知られてしまうと、不安を覚えた従業員の退職などにつながる可能性もあります。M&Aの検討中は、従業員にも情報が伝わらないように注意しましょう。
②身内間の人間関係のトラブルに注意する
M&Aによる事業承継は、家族・親族との人間関係に影響を与える場合もあります。特に、経営者の兄弟や子供など身近な親族であれば、第三者への事業譲渡が感情的な対立のきっかけになりかねません。
親族間のトラブルによって、円滑にM&Aを進められなくなるケースもあります。親族など身近な人にM&Aを説明する際は、十分にケアをしながら理解を求めましょう。
③従業員の理解を得る
M&Aが実行された後、自社が安定して成長するためには従業員の理解が欠かせません。しかし、M&Aについて従業員に発表するタイミングには十分な注意が必要です。
従業員への情報公開、報告を行うタイミングは、M&Aが成立した直後が一般的です。
経営者としては、早い段階からM&Aについて話して従業員を安心させたいかもしれません。しかし、検討中の情報公開には「将来を不安に感じた従業員が退社してしまう」「従業員がM&Aに反対の行動をとる」「従業員を介してM&Aの情報が外部に漏れる」など、多くのリスクがあります。
M&Aが成立した後、速やかに報告して効率的なPMIを実施するのがベストです。
④M&Aアドバイザーにサポートを依頼する
M&Aに関する専門知識を持ったM&Aアドバイザーの意見は、より良い決断をするための助けになります。
専門家のサポートなしで、上記の注意点に留意しながらM&Aを実施するのは大変困難です。アドバイザー選びの3つのポイントを簡単に解説します。
1. 実績があるか
2. 業務の手数料
3. 契約期間
①実績があるか
事業承継の背景は、企業ごとに異なります。
M&Aアドバイザーを選ぶ際は、どのくらいの実績があるか、担当案件のバリエーションの豊富さなどをチェックしてみてください。
豊富な経験に基づいた助言ができるアドバイザーに依頼しましょう。
▷関連記事:M&Aのカギを握るマッチング。M&A仲介会社の選定とサービス利用
▷関連記事:M&Aアドバイザーとは?業務内容と手数料、その必要性について
②業務の手数料
手数料は、各アドバイザーや仲介会社ごとに異なります。また、多くの場合自社の規模や譲渡価額によっても成果報酬が変わります。
サポート内容と報酬金額のバランスを鑑みて、自社のM&Aに最適かどうか検討してください。
▷関連記事:M&A仲介会社への手数料・報酬の相場は?成果報酬・レーマン方式などの種類と確認のポイント
③契約期間
M&Aには、概ね半年から1年以上の期間がかかる傾向にあります。
M&Aの成約までの期限を設けたい場合は、希望期間内で交渉を進められるアドバイザーかどうかも確認しましょう。
▷関連記事:事業承継を成功させる方法とは?事業承継としてのM&A
▷関連記事:事業承継にはどれくらいの費用がかかる?
まとめ
本記事では、M&A実施に関する仕事内容を解説しました。
M&Aでの業務は複雑なうえ、会計や税務・法務など必要な専門知識が多岐にわたります。M&Aを成功させるには、経営者自身がM&Aの業務や流れを把握し、適切な仲介業者を選定することが必要不可欠です。
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