近年、事業承継を考える経営者も増えていることから、事業承継について調べている方も多いことでしょう。
普段聞き慣れない「承継」と似た言葉に「継承」がありますが、「事業の引き継ぎに承継が使われるのはなぜ?」と疑問に感じている方もいるのではないでしょうか。実は、事業承継と事業継承では意味が異なり、事業の引き継ぎに「承継」が使われるのには理由があります。
本記事では、事業承継と事業継承の違いを解説し、事業承継の動向や成功させるポイント等、事業承継に関する知識も紹介します。事業承継を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
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事業承継は有形、無形に関わらず会社の全てを引き継ぐこと
事業承継は有形のものだけでなく、無形のものも含めた、会社の全てを引き継ぐことを指します。
・有形の資産:株式や資金等
・無形の資産:企業理念や技術、ノウハウ等
▷事業承継と事業継承の意味の違い
事業承継と事業継承は言葉が似ていますが、意味は異なります。
「承継」は「前代の精神・事業等を受け継ぐ」ことを指しますが、一方の「継承」は「前代の権利・財産等を受け継ぐ」ことを指します。
要するに、抽象的なものを引き継ぐときは「承継」を使い、具体的なものを引き継ぐときは「継承」を使うということです。
事業の引き継ぎは、会社の経営権や資産だけでなく、企業理念や事業への想い、解決すべき課題など多岐に渡るさまざまなことも引き継ぐため、「承継」が使われるのが一般的です。
また、「中小企業経営承継円滑法」のように法律用語としても、「承継」が使用されています。
事業承継を構成する3つの要素
事業承継の構成要素は以下になります。
・要素①:事業(経営権)の承継
・要素②:財産の承継
・要素③:無形財産の承継
各構成要素を詳しく解説していきます。
▷要素①:事業(経営権)の承継
事業の承継は、経営権を後継者に引き継ぐことです。
企業であれば代表取締役の交代、個人事業主であれば現経営者の廃業と後継者の開業が該当します。また経営権にはそれまで働いていた従業員の雇用の保証や事業の発展可能性を高めることなども広い意味で考えると含まれます。
▷要素②:財産の承継
財産の承継で引き継がれるものは、以下のようになります。
・株式
・事業用資産(設備・不動産等)
・資金(運転資金・借入等)
産の承継では、主に会社の保有している資金や株式、不動産の他に、債権や債務等の具体的な資産が引き継がれます。承継では資産の状況によって、贈与税や相続税が多額になるので、税負担で承継後の経営が危うくならないような承継方法を検討しなくてはなりません。
個人の場合は、現経営者が設備や不動産等の資産を個人で所有していることが多く、その場合は資産を個別に承継する必要があります。また、企業の場合と同じく、承継には負債も含まれる他、推定相続人との関係も視野にいれなくてはいけません。
このように、資産の承継には専門的な分野も多いので、早期に税理士のような専門家に相談することをおすすめします。
▷要素③:無形財産の承継
無形財産の承継で引き継がれるものは、以下のようになります。
・経営理念技術やノウハウ
・経営者への信頼や人脈
・顧客情報
・許認可
・知的財産権 など
無形財産の承継では、従業員、技術やノウハウ、経営理念、顧客との繋がり等、形のある資産以外も引き継がれます。
特に中小企業では、従業員との信頼関係が事業を円滑に進めるうえで重要になるケースが多いので、後継者は承継する企業の強みや経営理念等を理解して、従業員と信頼関係を築くように心がける必要があります。
事業承継を行うための3つの手段
事業承継の手段には、以下の3つがあります。
・親族内承継
・親族外承継
・M&Aを活用する
それぞれの手段を詳しく解説していきます。
▷親族内承継
経営者自身の子供や配偶者、兄弟等の身内に事業を引き継いでもらう方法です。
承継について長い期間話し合いができるので、現経営者の理念や考えを理解したり、顧客の引き継をしたりと、承継に必要な準備期間を確保しやすくなっています。そのため、準備期間不足で承継が失敗する可能性が低いという特徴があります。
ただし近年では子供が事業承継を断るケースも増加傾向にあります。また少子化により子供がいない経営者は後継者不足問題に悩まされていることでしょう。
その様な時は以下に上げる親族外承継やM&Aの活用などの可能性が出てきます。
▷親族外承継
会社の役員や事業に携わってきた従業員、役員等の親族以外の社内の人間に事業を引き継いでもらう方法です。
近年、後継者不足問題で親族外承継は増加傾向にあり、帝国データバンクの調べでは、2020年時点で同族承継(親族内承継)が34.2%、内部承継(親族外承継)が34.1%と、ほぼ同じ割合になっています。
注意点としては、親族内承継と違い、親族外承継では株式譲渡が一般的になるため、後継者候補が十分な資金を用意しなくてはいけないことを覚えておきましょう。
▷M&Aの活用
M&Aの活用は、身近に後継者がいない場合等に、従業員の雇用を守るための有効的な方法になります。
社内以外から後継者を探すので、引き継ぎ先を限定する必要がなく、適任者を見つけやすいという特徴があります。一般的に、引き継ぎ先は自社よりも規模が大きい企業になるので、従業員の雇用の安定が期待できる他、引き継ぎ先とのシナジー効果で事業の活性化も期待できます。
しかし、譲渡側企業の経営理念の理解や従業員への説明が不十分だと、技術やノウハウを持っている既存の従業員が辞めてしまう場合があり、承継後の事業が円滑に行えなくなる可能性があるので、注意が必要です。
事業承継の動向
近年では、政府が事業承継を推進していることもあり、案件自体は増加傾向にあります。
承継方法の推移として、従来は、親族内承継が一般的でしたが、親族外承継やM&Aのような第三者への承継の割合が高くなってきています。実際に、帝国データバンクの調査では、2018年から2020年で親族内承継が42.7%から34.2%と下がっているのに対し、親族外承継は31.4%から34.1%、社外の第三者が就任した外部招聘は6.9%から8.3%と上がっています。
この背景には後継者問題があります。日本政策金融公庫総合研究所の調べでは、後継者難による廃業は「子供がいない」「子供に事業を継ぐ意思がない」「適当な後継者が見つからない」の割合が29%になっており、後継者問題の深刻化を物語っています。
▷M&Aを活用した事業承継が増加傾向
先述したように、事業承継の動向として、親族外承継やM&Aの活用が増加傾向にあります。
特に、M&Aの活用による事業承継の増加が目立ち、M&Aに取り組んでいる中小企業の数は年々増加しています。中小企業庁では2013年から2020年までに、M&Aの成約件数は10倍程度に増加しているとしています。
M&Aを活用した事業承継の増加理由としては、後継者不在でも事業を引き継ぐことが可能なので、後継者問題を解決できることや、引き継ぎ先が企業のため、費用の確保がしやすいことが挙げられます。
・関連記事:M&Aとは?M&Aの手法や流れ、メリットを解説【分かりやすい動画・図解付き】
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▷中小企業庁による支援の強化
事業承継の増加には、国の行政機関である中小企業庁の支援強化の影響も大きいです。
中小企業庁は、2017年に事業承継ガイドラインに基づいた、事業承継5カ年計画を策定しました。この計画は、後継者問題を解決するために、5年間で集中して事業承継を支援するというものです。
5カ年計画の概要の概要は以下になります。
・経営者の「気づき」提供
・後継者が継ぎたくなるような環境を整備
・後継者マッチング支援の強化
・事業からの退出や事業統合をしやすい環境の整備
・経営人材の活用
これらを軸に、中小企業庁では事業承継を支援するさまざまな施策を行い、事業承継の推進を図っています。
事業承継を成功させるポイント
事業承継を成功させるのは簡単ではなく、ポイントを抑えておく必要があります。
事業承継を成功させるポイントには以下のことが考えられます。
・早い時期から準備を始める
・国の支援施策を利用する
・信頼できる専門家を見つける
それでは順に解説していきます。
▷早い時期から準備を始める
早い時期から事業承継に向けて準備をすることで、事業承継が成功する可能性が高くなります。事業承継を行うまでには、手段の検討や相続・税金の問題、会社耐性の整理等、考えることやすべきことが多岐にわたる他、後継者の育成や選定等、長い準備期間が必要になります。
「後継者の成長が不十分な状態」「準備不足の状態でM&Aの実施」等、準備が整っていない状態で事業承継を無理に推し進めて失敗しないように、時間をかけて計画的に進めることが大切です。
▷国の支援施策を利用する
事業承継には株式等の承継に伴って、贈与・相続に関する税金や事業承継後の設備投資、専門家を雇う費用等、多くの資金が必要になります。
これらの事業承継にかかる費用を抑える方法として、政府の支援施策を利用することが効果的です。例えば、補助金では「事業承継・引き継ぎ補助金」があり、M&Aを実施する際の専門家活用費用や事業承継・引き継ぎ後の設備投資・販路開拓、設備廃棄費用等を支援しています。
政府の支援施策には、承継方法(親族内承継、親族外承継、M&Aの活用)ごとに活用できる支援施策があるので、内容をしっかりと把握して活用することで、事業承継にかかる資金の負担を軽減できる可能性が高いです。詳しい内容は中小企業庁のホームページで確認できるので、一度参照してみるのが良いでしょう。
▷信頼できる専門家を見つける
事業承継には、相続等の法律に関する知識や、さまざまな契約の締結等、多岐にわたる専門的な知識が必要になります。
そのため、承継を成功させる可能性を上げたいのであれば、必要に応じて専門家にサポートを依頼するのがおすすめです。
まとめ
近年、事業承継の件数は、政府の支援も影響して増加傾向にあります
。中でも、後継者問題の観点からM&Aでの事業承継の増加が目立ちます。事業承継は事業継承と異なり、形のないものを含めた全てを承継するので、引き継ぐ要素が多くなることから、計画的に準備を始める必要があります。
また、どのスキームでも事業承継を行うには専門性が高く、幅広い知識が必要になるので、事業承継を成功させるためにも、専門家のサポートを受けるのをおすすめします。
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