M&A 売り手  メリット

近年、経営課題の解決や事業承継を目的として、M&Aが活用されています。実際に、事業や企業を譲渡することで、雇用の継続、経営の安定、経営者のリタイアメント実現など、さまざまなメリットが存在します。

また、最近ではイグジットを目的としたスタートアップ企業と大企業のM&Aも盛んに行われるようになりました。イグジットの手段としてM&Aが認知されるようになったことが背景にあります。

本記事では、譲渡企業の視点からM&Aの手続き、譲渡のメリット、予想されるリスクについて説明します。

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目次

M&Aの売り手側の4つのメリット

M&Aによって事業や企業を譲渡することで、以下のようなメリットを期待できます。

1.後継者問題の解決

帝国データバンクの調査では、国内企業の66.1%が後継者不在であり、中でも売上1億円以下の企業においては、約78%の企業において後継者がいないと発表されています。

後継者問題に対し、第三者承継であるM&Aを活用することで、自社を廃業させることなく存続させることができます。

後継者不在による事業承継の問題を解決するだけでなく、創業者利益を得られることも多く、余裕あるリタイアメントを迎えることが見込めるのです。

2.従業員の雇用維持とノウハウ(経験・技術)の承継

廃業を選択した場合、従業員の雇用は継続できなくなります。第三者へ企業を譲渡することで自社を存続できれば、ほとんどのケースにおいて譲渡企業の従業員の雇用が継続されます。また、会社が存続することによって、培われたノウハウや技術を承継できることもメリットのひとつです。

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3.事業の整理、経営資源の集中

M&Aでは選択するスキームによっては、一部の事業だけを選択して譲渡することも可能です。複数の事業を展開している場合、経営資源を適切に配分できなかったり、一部の事業の業績が芳しくないことがあります。その際に不採算事業を譲渡し、自社の事業の整理を行うことで、中核事業に集中できます。

4.オーナー(創業者)利益の獲得

譲渡企業のオーナーは、株式譲渡の対価として金銭を得ることが多いです。

廃業時には土地や在庫商品といった会社の資産は大幅に減額されますが、M&Aでは土地や在庫商品といった会社の資産も、時価価格で譲渡することができます。また、M&Aで会社を譲渡する際には、営業権が加味されるため、純資産額よりも高い価格で譲渡できる場合も多くあります。

さらに、株式譲渡の際の税金は、株式の譲渡益に対する20.315%(2019年12月現在)の課税のみである点や、M&A後も会社が存続するため、従業員に退職金を支払う必要がない点なども、M&Aによる譲渡の方が廃業するよりも多くの金額が手元に残る理由となります。

譲渡企業のオーナーは手にした現金を引退後の生活費などに充てられるため、安心して引退をすることができます。

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M&A売り手側のデメリット3つ

1.経営方針、雇用条件、労働条件の不本意な変更

M&Aに伴い、従業員の雇用や労働条件が変更される可能性があります。その結果、従業員の理解が得られず、モチベーションの低下や退職の増加も考えられます。こうした状況を避けるためにも、従業員の雇用や労働条件について、事前に譲受企業と話し合い、譲渡後の条件のすり合わせを行いましょう。

2.取引先や顧客からの反発

M&Aによって、既存の取引先や顧客との取引条件が見直され、取引が停止される可能性があります。その他に、変化に伴い取引先や顧客からの理解が得られないことも考えられます。今後の取引先との関係性継続について、事前に譲受企業と意見交換を行い、M&A後の取引内容の大幅な変更を防ぐことは理解を得るために有効です。

また、M&Aなどによって経営権の移動があった場合の対応についての取決めであるチェンジオブコントロール条項が、取引先との契約に含まれていることがあります。

その場合、契約相手に通知し承諾を得る旨が定められている場合があるので、注意が必要です。

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3.譲渡するまでの費用・資金

M&Aを行う際には、仲介会社や士業など、サポート先への報酬が必要になります。報酬体系は依頼先によって異なるため、費用については事前に確認しましょう。

あわせて、M&Aに関わった社員に対して支払われる人件費も必要な費用です。規模が小さい時には、あまり多くの費用はかからないものの、M&Aを専業として担当する社員が増加した場合は、人件費をその分確保します。

また、登記費用、契約書の印紙代なども必要になるため、事前にどのくらい費用が発生するのかの把握する必要があります。

M&Aが破談になってしまった場合にも、サポート先に支払った中間報酬などは基本的に返金されない点には、注意が必要です。

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M&A売り手側のデメリット3つ

事業・企業を譲渡する手続きの流れ

譲渡企業

M&A仲介会社

譲受企業

準備フェーズ

相談/問い合わせ

M&A
仲介会社

相談/問い合わせ

秘密保持契約の締結・
アドバイザリー契約締結

買いニーズ登録

各種資料の提出

ネームクリア

企業価値評価の実施・
企業概要書の作成

 

ノンネーム登録

ノンネーム検討

交渉フェーズ

 

秘密保持契約の締結

 

企業概要書の確認

 

アドバイザリー契約締結

 

トップ面談

 
 

基本合意

 

最終契約フェーズ

 

デューデリジェンス

 
 

最終合意

 
 

最終契約の締結・
クロージング

 
 

ディスクロージャー

 

M&Aによって事業や企業を譲渡する際には、さまざまな手続きが必要になります。ここでは、譲渡企業が行う主な手続きの流れについて説明します。

M&Aの相談・検討

まず初めに、そもそも自社にとってM&Aが適した選択であるかを検討します。例えば、事業承継を検討しているときは、親族や従業員への承継と比較し、M&Aを選択する理由を明確化しましょう。

また、譲渡対価や従業員の雇用の継続、個人保証の解消など、譲渡の際に自社の譲れない条件を固めておくことで、交渉をスムーズに進めることができるでしょう。

依頼先の選定

M&Aが自社に適していると判断した後に、M&A仲介会社など依頼先を選定し、アドバイザリー契約などを結びます。M&Aには法律や税務、会計など専門的な知識を必要とする手続きが多々あるため、M&Aアドバイザーなどの専門家の支援を受けるのが一般的です。

M&Aのサポートを依頼する先には、M&A仲介会社、FA(フィナンシャルアドバイザー)、士業事務所、金融機関などが挙げられます。

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自社の資料の準備

M&A仲介会社に依頼する場合、まず秘密保持契約を結び、自社の決算書などを仲介会社に共有します。仲介会社は提出した資料などから、ノンネームシートと呼ばれる企業が特定されない粒度の企業資料を作成します。また、譲渡先の候補となる企業を、条件と照らし合わせて選定します。選定後、譲受企業候補先にノンネームシートを使って、打診を行います。

譲受側が興味を示し、さらなる情報開示が求められた際には、詳細な会社概要や財務状況が記載された企業概要書(IM)を開示します。

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トップ面談

双方の企業の経営者などのトップ同士が、相互の理解を深めるためにトップ面談をします。具体的な条件交渉の場ではなく、書面ではわからない相手企業の人物やビジネスについて理解を深めたり、疑問点を解決したりします。

デューデリジェンス

譲渡対象範囲や金額など、M&Aの基本条件について共通認識を持つための基本合意書を取り交わした後、譲渡企業は譲受企業からデューデリジェンスと呼ばれる企業調査を受けます。法律、税務などのさまざまな観点から譲渡企業の調査を行うため、譲受企業が選定した弁護士や会計士などの専門家が、譲渡企業の帳簿の確認や契約関係などを確認することもあります。

最終的な譲渡対価などの条件は、デューデリジェンスの結果を鑑みて交渉、決定されます。

▷関連記事:M&Aの監査(デューデリジェンス)の役割と受け入れ方

条件交渉、最終契約締結

デューデリジェンス後に、経営者、役員、従業員の処遇や、最終契約に向けたスケジュール調整、守秘義務についての合意事項について双方の意見を固めます。

その後、最終的な合意内容を締結する最終契約を結びます。主な内容は取引金額、表明保証、保証事項や解除事項などです。

この最終契約の締結を持ってM&Aは成約となり、両社の融合プロセスであるPMIを進めます。

▷関連記事:M&Aにおける条件交渉のチェックポイント。契約の前に確認したいこと
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条件交渉、最終契約締結

M&Aにおける譲渡企業(売り手)の課題

M&Aにおいて、譲渡企業には以下のような課題があります。

M&Aを正しく認識していない

現在日本の中小企業の多くが後継者不在を課題に抱えていますが、後継者不在を解決する手段としてのM&Aを経営者が認識していない場合があります。M&Aを検討せずに廃業を選択する経営者も、実際に存在します。

中小企業がM&Aを行うことで、得られるメリットは多く存在します。まずは、後継者不在などの経営課題を解決する手段として、M&Aという選択肢があるということを認識することが大切です。

▷関連記事:M&Aの課題と具体的な対策。中小企業のM&Aにおける懸念点とは?

M&Aの適切な相談相手、サポート役の不在

M&Aでは、資料の作成や企業価値の算定、デューデリジェンスなどにおいて、財務・税務・法務などのさまざまな専門知識が求められます。

そのため、M&Aの成約をサポートする存在が重要となってきます。会計士や税理士といった専門家や、銀行や証券会社などの金融機関、M&Aを専門に行うM&A仲介会社などの中から、自社にあった相談先を選びましょう。

M&A後の統合が難しい

M&Aは、制度や企業文化や異なる2つの会社が一緒になるため、その統合は難しく、時間がかかることもあります。

また統合が上手く進まないと、従業員のモチベーションが低下し、会社を離れてしまう可能性もあります。業務面と従業員の意識面の双方から、慎重に統合を進めていく必要があります。

▷関連記事:PMIとは?M&A成立後の統合プロセスについて株式譲渡を例に解説

情報漏えいの恐れ

M&Aを検討しているという情報が従業員に漏えいすることで、従業員のモチベーションが低下し、退職してしまう場合があります。また、取引先に情報が漏えいすると、不安を感じ取引の縮小や停止となってしまう恐れもあります。

M&Aを行う際には、M&Aの情報を経営者や一部の経営陣など限られた範囲でのみ共有することが大切です。

デューデリジェンスにおけるリスクの発覚

デューデリジェンスとは、譲渡企業の経営環境や事業内容を財務・税務・法務などの面から譲受企業が調査することです。このデューデリジェンスの中で、譲渡企業の簿外債務や不適切な会計処理などが明らかになる場合があります。

譲受企業が把握していなかった情報が見つかることは、譲受企業の不信感につながり、M&Aの成約が難しくなることもあります。些細なことでも懸念点があれば予め伝えておくことが重要です。

▷関連記事:M&Aの最後にして最大の難関。「デューデリジェンス(DD)」を徹底解説

事業・企業の譲渡におけるリスクを軽減するには

M&Aにはさまざまなリスクが考えられます。ここでは譲渡企業が注意すべき点について説明します。

譲渡先企業の見極めを行いましょう

M&Aの目的を達成してくれる譲受企業に譲渡することが重要です。従業員の雇用継続や多くのシナジー効果が期待できるかなど、譲渡先を決める際に注意する点はさまざまです。

しかし、自社で譲渡先の候補を選定し、条件に適した企業を見つけ出すことは難しいのが実際です。M&A仲介会社など、マッチングを支援してくれる機関にサポートを依頼し、相手先を探すことををお勧めします。

税金や手数料などの費用を把握しましょう

M&Aに関係する税金は、選択するスキームによって負担者と課税内容が異なります。例えば、譲渡企業や株主に所得税、消費税、登録免許税が課されます。また、課税対象や支払期間もそれぞれ異なるため、事前の確認が欠かせません。

適切な税制優遇などを活用することで、税負担を軽くできるため、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

また、上述のサポート先への報酬の他にも、別途の費用が必要になることがあります。例えば、相談料や着手金、契約書の作成費用などが挙げられます。税金と合わせて費用を事前に把握しましょう。

譲渡側の立場を考える

譲渡におけるリスクを軽減するために、譲受企業がM&Aにあたっての目的など、考えていることを知ることは重要です。

ほとんどの譲受企業は、M&Aで事業の多角化、強化、拡大などを達成しようとしています。譲渡企業は独自の技術や、ノウハウ、販路や取引先、優れた従業員などの強みを事前に整理し明確に伝えることで、譲受企業がM&A後に見込めるシナジーなどをイメージしやすくなるでしょう。

また、デューデリジェンスでは、譲渡企業を譲り受けた際のリスクや問題点が無いか詳細に確認したいと考えています。従って譲渡企業は、正確な情報を譲受企業に伝えることが求められます。具体的な対応として、監査に必要な契約書の準備、法務、税務に関する質問への対策、簿外債務など将来的に譲受企業に損害を与える可能性のある懸念点の伝達などが挙げられます。

監査を行うのは譲受企業ですが、調査結果が最終的な譲渡価額に影響を及ぼすため、自社の事業や契約、決算書について詳細に把握しておくことが重要です。

譲渡企業も譲受企業の目線で、客観的に自社の状況を確認しましょう。

▷関連記事:M&A(企業買収)のリスクとは?売り手と買い手双方のリスクと対処法

まとめ

M&Aによって得られるメリットはさまざまです。メリットを得るためにも、目的を明確にし、自社にとって適したM&Aを行いましょう。そのためには、情報収集と早めの準備が欠かせません。M&Aアドバイザーなどの専門家に相談し、譲渡に向けての懸念点を解消することをお勧めします。