M&Aでは、譲受企業が譲り受けの意向を示すために譲渡企業に意向表明書という書面を提出します。
本記事では意向表明書の記載内容や基本合意書との違い、法的拘束力の有無について解説します。
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目次
意向表明書とは
意向表明書(LOI : Letter of Intent)とは、譲受企業が譲り受けの意向を示すために譲渡企業に提出する書面です。
意向表明書の提出は必須ではありませんが、譲受企業の意向を書面にして譲渡企業に伝えることで、より円滑なM&Aの成約につながります。
意向表明書の提出のタイミング
意向表明書はトップ面談を終えたタイミングで提出されます。いよいよM&Aの具体的な交渉がスタートする段階で、譲渡企業に対して「譲り受けを具体的に検討したい」という意向を伝えるのです。意向表明書には譲受企業の企業概要や想定されるシナジー、現時点でのM&Aのスケジュールなどが記載されており、譲渡企業へ譲り受けたいという思いを伝える書類となります。
混同されがちな「基本合意書」との違いや、法的拘束力の有無、意向表明書が必要となるフェーズや記載内容について把握し、意向表明書についての理解を深めていきましょう。
基本合意書との違い
基本合意書は譲渡企業と譲受企業の間でM&Aに関する基本的な諸条件が合意された後で、最終契約に先立って取り交わす合意書です。
この段階ではまだ最終合意が成立するわけではありませんが、最終的な契約を締結する前に、譲受企業が想定する基本的な取引条件を取り決める性質があります。それに対して意向表明書は単に意思表示をしている書面のため、その内容は似て非なるものです。
▷関連記事:M&A契約における「基本合意書」とは?
意向表明書に記載する内容
意向表明書には、一般的に以下のような内容が記載されます。下記の内容以外にも、M&Aの目的と方法や譲渡額の支払い方法、M&A成約後の譲渡企業の従業員処遇などを記載することもあります。
・譲受主体と企業概要
譲受企業の企業概要です。例えば、商号や代表者、事業内容、沿革、資本金、グループ企業の概要、財務の状況などを記載します。譲渡企業と譲受企業がお互いをよく知っている関係性の場合、省略することもあります。
・譲渡額
デューディリジェンス前の段階で、譲受企業が検討している譲渡額を記載します。ただし、この段階での譲渡額はデューディリジェンスを行い、最終合意の際に調整されることもあります。譲渡額に退職金を合算する場合もあります。
・スケジュール
M&A成約までの大枠のスケジュールを記載します。スケジュールを記載する目的は、譲受企業と譲渡企業で共通のスケジュール認識を持ち、それに向かって検討を進めていくためです。イレギュラーなスケジュールが譲渡企業に伝わっていないことを防ぐ目的もあります。例えば、正式な譲受意思決定には取締役会決議が必要な場合のスケジュールを記載することなどがあります。
・独占交渉権
譲受企業から譲渡企業へ独占交渉を依頼する内容を記載します。譲受企業はデューディリジェンスの費用を負担するため、デューディリジェンス着手後に譲渡企業が他の譲受候補企業と先にM&Aを成約することを禁止するために独占交渉権を記載します。具体的には、意向表明書を作成した企業以外とは、M&A交渉を行わないと約束してほしい旨を記載します。また、独占交渉権の期限を提示しますが、両社協議のうえ、延長できる旨を記載することが多いです。
意向表明書が提示されるタイミング
意向表明書は、トップ面談を終え、譲受候補企業が具体的にM&Aを検討する段階で譲渡企業に提示します。その後、譲渡額やM&A成約後の運営方針など諸条件について合意がされた段階で基本合意書を取り交わし、デューディリジェンスに進みます。そして、デューディリジェンスの結果を踏まえて最終合意書が作成されます。
▷関連記事:M&Aの最後にして最大の難関。「デューディリジェンス(DD)」を徹底解説
譲受企業によっては意向表明書を省略するケースも
M&Aの交渉が進んでいる企業が1社のみである場合では、意向表明書を省略することが多々あります。上述のように、意向表明書はあくまで「譲り受けたい」という意思を表示するためのものなので、意思表示を前提として書かれた基本合意書を取り交わしておけば、意向表明書の役割も内包することができるからです。
一方、複数社の譲受候補と交渉を行う場合には、それぞれの意向表明書を受け取ることがほとんどです。内容を精査した上で自社の要望に沿う条件を提示してくれる企業を絞り込み、具体的な交渉へ進むのが一般的です。
意向表明書が譲受企業による最初の意思表示と条件提示であるのに対し、基本合意書は意向表明書より進んだ段階で、より具体的な条件が盛り込まれた契約締結前の相互合意を確認する書類です。基本合意書には、譲渡手法や譲渡価格、解除などの条件が盛り込まれます。一方、意向表明書はM&Aのプロセスにおいて必須の書類ではなく、双方の合意によっては省略される場合もあります。しかし、本契約を前に譲受企業の意向を確認し、条件面で合意した内容を譲渡企業、譲受企業共に共通認識を持つための重要な書類となるため、意向表明書についてもよく理解しておくことが必要です。
意向表明書の法的拘束力
一般的に意向表明書は法的拘束力を持ちません。デューディリジェンスが完了していない段階での意向表明は、「譲受する意思」を伝えるものです。デューディリジェンスの結果を考慮して、最終的な成約に移るかどうかを決定します。しかし、意向表明書が法的拘束力を持たないとしても、実際にはM&Aのその後の交渉に記載内容が活用されるため、譲受企業が合理的な理由もなく、意向表明書の記載内容を一方的に撤回することは稀です。
意向表明書の確認時の注意点
意向表明書を確認するポイントについて、下記にまとめます。
・譲れない条件を明確にしておく
・譲受企業が提示してきた金額が誠実な価額が確認する
・譲渡後の従業員の待遇や運営方針がどうなるか確認する
意向表明書の作成時の注意点
意向表明書の作成時の注意点について、下記にまとめます。
・M&Aを行う目的をはっきりと示す
・買収後の相乗効果を織り込んだ価格設定をする
・複数譲受企業の候補がいる場合は、他の企業よりも有利な条件提示をする
・買収に対する熱意をアピールする
・譲渡企業側の希望を確認する
・意向表明書をM&Aアドバイザーに確認してもらう
まとめ
意向表明書はM&Aにおいて必須ではないものの、譲渡企業がM&Aの相手を選定する判断基準となる重要な書類です。譲受候補企業が譲り受ける意思を固めたことを表明するための書類であり、譲受企業が交渉条件とM&Aへの想いを伝えるためのものでもあります。M&Aにおいて意向表明書の内容を理解し、どの譲受候補企業と交渉を進めるか検討する場合は、弁護士やM&Aアドバイザーなどの専門家へ相談するとよいでしょう。