昨今、中小企業のM&Aの件数は増加傾向にあり、年々活発化しています。しかし、M&Aについて基礎知識を理解していたとしても、M&Aの際に考慮すべき課題などを把握している方は少ないのではないでしょうか。本記事では中小企業のM&Aにおける課題や懸念点について、細かく解説します。
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
中小企業のM&Aにおける現状と課題
中小企業庁の発表によると、2017年における中小企業のM&Aの件数は526件と、2012年の157件から3倍以上の件数になり、中小企業のM&Aの件数は年々増加しているといえます。なぜM&Aが活発化しているのか、その理由を説明します。
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M&Aが増加している要因はクロスボーダーM&Aと事業承継
近年M&Aの増加要因には、クロスボーダーM&Aの増加と事業承継ニーズの高まりがあります。
海外企業と行うM&AはクロスボーダーM&Aとよばれます。国内企業が譲受側になるケースはIn-out型M&A、海外企業が譲受となるケースはOut-in型M&Aです。
国内需要の縮小や新興国の経済成長によって、国内で既存事業を継続するだけでは企業の成長が危ぶまれる中、グローバルに通用するビジネスモデルを構築するための選択肢として、多くの日本企業が近年クロスボーダーM&Aに取り組んでいます。
日本貿易振興機構の発表では、2016年度の対日直接投資額残高(海外企業が日本企業に買収や支店開設といった事業目的で行った投資金額の残高)は、27兆8404億円で2015年末時点の24兆7702億円から3兆702億円の増加となり、3年連続で過去最多の金額となっています。
地域別では欧州が約13.5兆円でシェアが48.7%、北米が約7.2兆円の25.9%、アジアが約5兆円の18%を占めており、世界各国に点在する海外企業からの日本企業への投資やM&Aは、件数と金額面ともに右肩上がりの状況です。今後海外企業と日本の中小企業のクロスボーダーM&Aが更に増加していく可能性も十分考えられるでしょう。
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中小企業がM&Aによって受けられるメリット・デメリット
M&Aによってどのようなメリットを得られるのでしょうか。中小企業がM&Aを行うことで得られるメリット、デメリットについて解説します。
メリット
後継者不在問題の解決
後継者がいないため、廃業を余儀なくされる企業は、M&Aによって事業を継続できることがあります。後継者が見つかり譲渡企業が廃業しない場合、取引先との取引を継続できることや、一般的に従業員への退職金の支払いが必要ない点、また従業員の雇用を継続したまま経営者は退任できることが大きなメリットです。
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利益最大化の実現
多くのケースでM&Aによる事業承継によって、創業者利益を獲得できます。また、金融機関から融資を受けている場合、個人保証からも解放されることもあります。
企業の存続と発展
M&Aを行うことで自社の事業を継続できます。また、譲受を検討する企業は会計が安定していることが多いため、事業の更なる発展が見込めるでしょう。また、譲渡された従業員の経済面の安定も期待できることも大きなメリットのひとつです。
デメリット
想定した譲渡価額で譲渡できない、譲渡先が見つからない
業績が安定した事業や企業であっても、希望の譲渡価額より実際の金額が低くなる可能性があります。また譲渡先が見つからないケースも考えられます。
企業統合による社内の混乱
多くの場合、M&Aは社内システムの変更や統合、契約書などの書類の手続きなど、多くの対応が必要になります。また、社風・経営方針・労働環境なども統合が必要な場合があります。こうした、異なる企業同士の融合のプロセスをPMIとよびます。従業員や取引先にも影響があるため、M&Aの検討段階からどのようにPMIを進めるのか検討しておくようにしましょう。
雇用条件や労働条件の変更による従業員の離職
M&Aに伴って、従業員の雇用条件や労働条件が変更される場合や従業員の理解が得られない場合に、従業員のモチベーションが低下し、退職する可能性があります。従業員の雇用や労働条件については、事前に譲受企業と話し合ってすり合わせを行いましょう。
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M&Aにおいて経営者の方が懸念される課題と対策
中小企業がM&Aを行う際のメリットやデメリットを上記で説明しましたが、その他にも経営者の方がM&Aを進めるうえで知っておくべき課題がいくつかあります。ここではその課題と対策について詳しく説明します。
事業承継のためのM&Aにおける課題
M&Aを活用する事業承継とは、主に企業の経営を親族や社員などの第三者である社員や他社などに外部の経営者を後継者として事業を引継ぐことを指します。選択する方法によって課題点は異なるため注意が必要です。
また、中小企業のM&Aでは株式譲渡のスキームがとられることが多いです。ここでは事業承継としてM&Aを行う際に、懸念される課題と対策について解説します。事業承継によるM&Aは大きく自社株式売買による事業承継と事業譲渡による事業承継の2つに分けられます。
株式譲渡による事業承継の課題と対策
株式譲渡による事業承継とは、のちに後継者となる者に株式の譲渡によって経営権を移転することです。
法務局への申請が不要なため、手続きにミスが起こりやすい
「株主」の変更は「登記事項」には含まれないため、株式譲渡は事業承継の場合でも法務局への申請が必要ないという特徴があります。その結果手続きが正しいか判断が曖昧な部分があってもチェックがないため、そのまま手続きが進んでしまう可能性があります。不明な点はM&AアドバイザーやM&A仲介会社に相談することをお勧めします。
譲渡所得は損益通算が出来ない
事業承継のために株主が株式を売却したことで獲得した譲渡所得は、分離課税の扱いになり、給与所得、不動産所得などの他の所得と分離して税額が課税されます。最終的に手元に残るのは得た収益から譲渡所得課税を差し引いた金額となる点、基本的に所得控除を行えない点を踏まえ、不明点は税理士に確認しましょう。
▷関連記事:株式譲渡の所得税はどれくらい?控除の有無についてもわかりやすく解説
譲渡会社から全ての責務・契約関係の引継ぎを行う
事業譲渡と異なり経営権の承継となるため、譲受企業は会社の責務・契約関係についても全て引継ぐことになります。譲渡企業から引継ぐ内には負債や簿外債務が含まれる可能性もあるため、デューディリジェンスの際に確認が必要です。譲渡企業をデューディリジェンスのスキームで徹底的に調べましょう。
事業譲渡による事業承継
事業譲渡とは、会社の一部または全部の事業または全部を他の会社に譲渡することを指します。
手続きが複雑
事業承継による事業譲渡は、個別の事業を分けて譲渡を行うため、M&Aの通常業務に加えて商号の変更が必要な点、事業によっては管轄省からの許認可を再度取り直す必要があるなど、一つ一つの手続きが通常よりも複雑になる課題点があります。専門知識を持つ身近に頼れる弁護士に相談することで、書類不備や手続きの失敗を防ぐことができるでしょう。
税金の負担が大きい
税制適格組織再編制度による税務上の優遇がないため、登録免許税や不動産取得税などの税負担が大きいという懸念点があります。また譲渡する事業資産と負債の差額を超えた金額が売却益として課税対象となります(約30%)。
譲渡企業は法人税が課税され、譲受企業は消費税が課税されます。事前にM&Aで発生する費用を予め算出し、税務面の問題を考慮したうえで、事業承継を事業譲渡の手法で行うべきなのか改めて考慮するべきでしょう。
変動費による不確実性
在庫の棚卸資産は常に変動するため、おおよその譲渡金額は事前に算出できても、最終的に事業譲渡の日に棚卸をしなければ詳細な金額が確定できないため、支払う法人税が予測するのが困難であるという懸念点があります。法人税の負担が高額になる可能性がある場合、決算の期首にM&Aを実行することで、決算までの時間に対策を打つことができます。
取引先や人事のトラブルになる懸念点
多くのM&Aで雇用条件の異なる企業の統合が起こるため、従業員から理解を得られない場合、従業員の退職につながる可能性があります。そのため従業員へのM&Aの報告は統合後即座に行いましょう。
また、承継を機に取引条件が見直されることで、取引先との取引が停止されるケースもあるため、事前に取引先へ今後の条件について、双方の意見交換が必要です。取引先にM&Aの報告を行う場合は、新旧の経営者が説明に赴くか、失礼のないように手紙などで伝えるのが一般的です。
M&Aを行う際の費用とキャッシュフローの懸念点
M&Aを行う際、一般的には弁護士、税理士、会計士やM&Aアドバイザーなどへの報酬が必要になります。またその他にも、M&Aにかかわる社員の人件費や、契約書の印紙代も必要になるため、事前の準備と確認が必要です。
また、企業価値評価の際にキャッシュフローの懸念点があります。相手先企業の企業価値の評価方法の一つのインカムアプローチの際に、事業計画による将来キャッシュフローの予測やリスクを見積もる割引率の設定で、算出される結果が大きく異なってしまうため、企業価値評価において客観性の確保が困難であるという課題点が挙げられます。
選択する方式でかかる費用や算出される相手企業の企業価値が異なるため、費用や企業価値算定にはM&Aに精通している税理士やアドバイザーに相談することをお勧めします。
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知人の企業に譲渡する際の懸念点
知人の企業とM&Aを行う際には、すでに相手との関係が構築されているゆえの遠慮によって、改善提案などが伝えにくくなる点など、M&Aの具体的な要望や交渉を切り出しづらいというデメリットがあります。また知人が経営者や意思決定者などでない場合にM&Aが進まないことや、交渉が頓挫し関係が壊れる可能性もあります。
小規模のM&A(スモールM&A)における課題
1,000万円以下の金額での事業や店舗などの資産の譲渡もしくは譲受けることは、スモールM&Aとよばれることがあります。多くの場合で小規模の中小企業や個人事業主などの事業者小規模の企業がスモールM&Aを行います。
しかし、単独で条件の合致した相手先企業を見つけることは困難であることや、スモールM&Aの譲渡企業、譲受企業は小規模会社や個人事業主であることが多いため、仲介会社やM&Aアドバイザーに支払う手数料が大きな負担となるという課題があります。
理由としては小規模の企業や個人事業主は人材や資金力に余裕がないという点が挙げられます。しかし昨今では仲介会社の中にも相談料や着手金を無料で行う会社も多数あるため、自社の財政状況にあったM&Aのサポートを選択することで負担を軽減できるでしょう。
また、パートナーに逐次相談や進行の助言を得ることで、見つかりにくい優れた相手先企業を見つける助けになるでしょう。
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M&Aを進める際の譲渡企業・譲受企業別の課題点
M&Aを進めるうえで、譲渡企業と譲受企業の双方で注意すべき課題点が異なります。M&Aを進める上で事前に想定される起こりうる課題点を把握しておくことで、M&Aをスムーズに進める助けになるでしょう。またM&A成約後の統合作業にも注意が必要です。ここでは中小企業のM&Aの課題について解説します。
中小企業のM&Aにおける譲渡企業側の課題
情報漏えい
M&Aを進める上では、特に情報漏えいに注意しましょう。M&Aを検討している情報が漏えいすると、懸念を感じた取引先からの取引停止も考えられます。また、従業員のモチベーション低下によって退職者が出てしまうなど、社内外に多くの影響を及ぼすため、検討を進めている際には情報漏えいには細心の注意が必要です。
デューディリジェンス(DD)
譲渡企業の財務や法務などを譲受企業が調査するデューディリジェンス(DD)で、簿外債務や不適切な会計処理などが明らかになることがあります。意図的でなかったとしても、譲受企業が把握していない情報があると譲受企業の不信感を招き、M&Aが難航することもあります。そのような状況にならないように、些細なことであっても予め伝えるようにしましょう。
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中小企業のM&Aにおける譲受企業側の課題
適切ではない譲渡企業の選定
M&Aの目的に合致しない企業を譲受けるケースも考えられます。このような事態を避けるためには、M&Aによって達成したいことを明確にする、譲受けの条件を詳細に検討する必要があります。検討段階からM&Aの目的を必ず確認しましょう。
不明瞭な譲渡価額の算出
譲渡価額は企業価値評価(バリュエーション)やデューディリジェンスの結果を踏まえて双方の交渉で決定するため、懸念点がある場合はM&Aアドバイザーなどが提示する根拠のある数字を基に交渉を進めるべきでしょう。
システム統合や人事評価など、PMIにおける融合の課題
M&A成約後、PMIとよばれる異なる企業同士の融合を行います。これは双方に当てはまる課題ですが、PMIの準備が不十分な場合、システムの統合や人事制度の統一などがスムーズに行えず、優秀な人材の退職などを引き起こし、想定したシナジーを得られないこともあります。
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まとめ
M&Aのスキームや規模によって想定される課題はさまざまです。事前にどのようなことが発生するか予測し、対策を検討しておくことでM&Aをスムーズに進めることができるでしょう。M&Aアドバイザーなどの専門家の助言を得てM&Aを進めることもお勧めです。