近年、個人事業主やサラリーマンが、300万円から1,000万円程の金額で、個人で企業を買うケースが話題になることがあります。
また、インターネットの普及により、個人運営のサイトが売買されることや、個人による小規模M&Aの支援サービスの充実によって、個人によるM&Aは増加しています。
本記事では、個人事業主やサラリーマンがM&A仲介会社を活用して会社を買うケースでの目的やメリット、案件の探し方から実際の注意点まで解説します。
▷関連記事:M&Aとは?M&Aの目的、手法、メリットと手続きの流れ
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
目次
「会社を買う」とは?
M&Aと聞くと、大企業同士で行われるイメージが強い方が多いのではないでしょうか。しかし、実際は中小企業によるM&Aの件数が年々増加しています。2017年の中小企業庁の発表では、中小企業のM&A成約数は2012年の157件から2017年には526件と3倍以上に増加しており、年々活発化しています。
また、経済産業省の調査では、大企業よりも中小企業の方が積極的に買収を行い、子会社や関連会社を増やしています。また、譲受側においても、大企業よりも中小企業の割合が高く、積極的に買収していることがわかっています。このように、中小規模のM&Aは活発に活用されています。
個人事業主・サラリーマンが会社を買う目的とリスク
2016年の日本政策金融公庫総合研究所の調査では、60歳以上の中小企業の内50%以上が廃業を選択しており、そのうち後継者難を理由に廃業した割合は28.6%となっています。
また、中小企業庁の調査では、譲渡先に希望する条件として、規模に関しては中規模法人の46%、小規模法人の57%、個人事業主の63%が「規模は問わない」といずれも最も多い割合で回答していることから、規模を理由にM&Aの相手を選んでいないことも明らかになっています。そのため、個人も十分に譲渡先の候補になります。
このような後継者不足の問題に加え、M&A仲介会社、商工会議所、事業引継ぎ支援センターなど個人向けの小規模M&Aを支援する業者が増えていることも大きな要因です。また、インターネット上でM&Aの相手を探すマッチングサイトも登場しています。
M&Aによって後継者問題の解決や、個人事業主が同業を営んでいた場合には既存事業の強化が見込めるなど、多くのメリットが企業規模に関わらず期待できます。
目的は老後2,000万円問題など、100年時代に向けたライフワーク設計
昨今では医療の発達などから、人生100年時代といわれています。事実、日本は世界一平均寿命が長い国になっています。平均寿命が伸びることで、定年後に必要な資金も増え、2,000万円の預貯金が必要ともいわれています。
実際にそれだけの資金を用意するのは難しいことも多く、定年まで働いたのちに関連会社などに出向することや、賃金を下げての再雇用、他社への再就職も考えられます。そうした従来よりも人生が長くなる中、個人の資産運用として会社を買収し、個人資産の増加や安定した老後の生活を求めてのM&Aも行われています。
個人が会社を買うメリットとリスク
個人で会社を買収することには、以下のようなメリットやリスクが存在します。
メリット
・起業に比べて手間がかからない
一から起業するには、さまざまな手続きなどが求められるのに対し、既に事業を運用している企業を買収すれば、手続きなどに要する時間の削減などを見込めます。
・資産が増加する
利益のある企業を買収することで、金銭を受け取ることが期待でき、個人資産の増加に繋がります。また、買収した会社を売却すれば、会社の売却益を得られることもあります。
リスク
・借入金を抱える場合がある
対象企業が借入金を抱えていた場合にも、M&Aを行うことは可能です。そのため、相手の財務諸表や財務状況を良く確認し、債務を持っているか明確にしましょう。
・手続きが複雑
M&Aには法律や税務、会計など専門的な知識が求められることも多く、自身のみでM&Aを進めるのは難しいのが実際です。M&Aアドバイザーな<どの専門家の助言を受けながら進めることをお勧めします。
個人事業主・サラリーマンが会社を買う方法・手続き
M&Aは複数の手続きを経て成約となります。ここでは、個人向けの小規模M&Aの探し方から、M&Aの基本的な流れを説明します。
M&A案件の探し方はまずは相談から
個人事業主や、サラリーマンがM&Aを検討するケースが増えているため、個人向けの小規模M&Aの支援サービスを行う会社も増えています。主に、M&A仲介会社や事業承継センター、商工会議所などが挙げられます。
何から始めるべきか、M&Aが目的にあっているのか、専門家の意見をもとに進めましょう。
秘密保持契約(NDA)、アドバイザリー契約などの締結手続き
M&Aでは、さまざまな機密情報を取り扱うため、秘密保持契約を相手企業および支援先と結ぶ必要があります。
秘密保持契約とは、「企業間で取引が行われる際、秘密情報を第三者に開示、漏えいしないことを約束する契約」のことで、NDA(Non-Disclosure Agreement)またはCA(Confidentiality Agreement)ともよばれます。
M&Aが成約するまでには、情報漏えいなどリスクが伴うためです。違反行為が発覚した場合の損害賠償請求を定めることもあります。
また、M&Aの仲介業務を依頼する際に「アドバイザリー契約」を結びます。
▷関連記事:情報漏洩対策の重要ポイント。M&Aで欠かせない「秘密保持契約書」とは
▷関連記事:アドバイザリー契約とは?専任契約、非専任契約の違いと規定内容
取引候補先の経営者との面談・視察
譲渡側、譲受側の双方が相手側の人物、ビジネスについて理解を深めたり、疑問点を解消することを目的に疑問を解消するために話し合いを行います。これをトップ面談とよびます。
譲渡側は譲受側が事業のどの部分に興味や魅力を感じているのか、M&A後の経営戦略をどう描いているのか、信頼のできる相手かどうかなど、業績や売上といった数字ではわからない部分を直接確認する場になります。別途必要な場合は、相手の事業拠点の視察も行われます
意向表明書、基本合意契約書の締結
前述のトップ面談後に、譲受側から、意向表明書(LOI:Letter of intent)が提出されます。これは、譲受側が譲り受けの意向を示すために譲渡側へ提出する書面です。
その後、双方の同意のもと基本合意書が作成されます。基本合意書とは、最終契約に先立って取り交わされる合意書です。譲渡価額、譲渡日、スケジュールなどに関する事項を定めます。
今後のM&Aにおける取引を円滑に行うために、トップ面談の後に両者の合意事項について専門家を交えて整理し、書面上で合意形成を行います。
▷関連記事:意向表明書(LOI)とは?記載内容と基本合意書との違い・目的・法的拘束力の有無について解説
▷関連記事:M&A契約における「基本合意書」とは?
買収監査(デューディリジェンス)
M&Aの成約までに、譲受企業が譲渡候補企業に対して行う企業調査をデューディリジェンス(Due Diligence)といいます。
譲受企業が譲渡候補企業の経営環境や事業内容などの実態を財務・税務・法務などのさまざまな観点から調査し、その企業の資産価値を測ることを指します。
さまざまな内容を確認するのは、統合前の企業間に存在する情報の非対称性の解消と、譲渡企業の価値やリスクの把握です。
最終契約の締結、クロージング
最終契約は基本合意後に行われる買収監査(デューディリジェンス)や対象企業に関する分析の結果、譲受側の譲受の意思が確定し、また条件の合意がされた後に締結します。
最終契約書という名称の契約書類は存在せず、実際には株式譲渡契約書など、M&Aにかかる正式な最終契約のことをいいます。懸念事項を洗い出し、後の紛争を回避するためにも重要な契約です。
このようにM&Aでは、段階によりさまざまな合意や契約を締結していきます。秘密保持契約から始まり、基本合意、デューディリジェンスを踏まえた最終契約を結びます。必要に応じてM&Aアドバイザーなどの専門家の意見を仰ぎましょう。
▷関連記事:M&Aを検討する前に知っておきたい、M&Aの流れと手順
▷関連記事:M&Aの最終契約書(DA)とは?基本合意との違いや各種項目を弁護士が解説
譲渡金額が500万円以下となる案件が多い業種
小規模のM&Aは、インターネット上で検索することで、多くの案件の情報を得ることができます。場合によっては、売上高、営業利益、従業員数、希望する譲渡スキーム、譲渡理由や会社の強みなどがあります。
また金額に関しては、小規模な案件では、300万円から500万円の規模での買収も可能です。小規模の案件は、飲食店や小売店、エステなどのサロン、webサイトやECサイト事業が多い傾向にあります。
またオーナーの高齢化や健康面、事業承継などの理由から、売却を検討する調剤薬局や歯科・内科の医院、美容室、整骨院などの資格を求められる業種も目立ちます。
上記のように運営に資格が必要な場合も多いため、事前の確認が欠かせません。
会社を買う際の注意点
個人でM&Aを行う際には、リスクがどこに存在しているのか、どのような事態が想定されるのかを把握することは重要です。万が一、問題が発生してしまった際の対応や賠償について最終契約書に記載することもあります。ここでは、M&Aにおいて生じる主なリスクについて説明します。
簿外債務
貸借対照表上に現れない債務のことを簿外債務とよびます。主に賞与引当金や退職給付引当金などが該当しますが、表面上に現れない債務を企業が抱えている可能性があります。後に発覚した際には債務を抱える可能性があります。
▷関連記事:必ず確認しておきたい、貸借対照表に計上されない「簿外債務」とは
保証債務
譲渡企業が会社として他社の連帯保証をしている可能性があります。保証債務とは、民法上では「主債権者Aが債務を履行しない場合に、保証者CがAの代わりに債務を履行するという保証者Cの債務」を指します。従って、連帯保証している会社が業績不振などになった場合、M&A後に譲り受け側に債務の支払いを命じられる場合があります。
公害問題
工場を保有している企業とM&Aを行う際は、近隣の土壌汚染、空気の汚染、産業廃棄物の処理についても細かく精査を行う必要があります。加えて、弁護士や公認会計士などの専門家でも、環境面での問題の発見は難しいため、土壌調査の専門家による調査が必要になることがあります。
人材流出
譲渡企業の従業員からM&Aの理解が得られず、優秀な人材が流出し、期待していたシナジー効果が生まれない可能性があります。また、就労環境や労働条件が変化することに伴い、人材が流出する可能性があります。
このような人材流出の防止策としては、処遇の維持だけではなく、M&A後も意欲的に仕事に取り組むための評価や給与制度の見直し、将来の見通し、期待を含めた経営陣からの情報共有などが重要です。
背任行為
譲渡企業内での、横領や、購買担当者の業者との癒着などが挙げられます。刑法247条で規定されている内容では、財産上の損害を出した場合などが背任罪に該当します。これらは具体的にどの行為が罪に該当するかを言及することが難しいため、弁護士などの専門家に判断を委ねることが重要です。
会社を買った後が重要
個人事業主やサラリーマンでも、会社を買うことは可能です。価額も小規模でありながら、譲受後すぐに利益を出してくれる可能性もあるため、確かに投資として魅力的でしょう。しかし、会社を買って終わりではなく、その後に企業価値をどのように高められるかが非常に重要です。そのため譲渡企業への事業計画の提案が、譲渡企業との交渉の足がかりとして有効でしょう。