独占交渉権 法的拘束力 優先交渉権

M&Aの交渉過程において、譲受企業が譲渡企業に対して、独占交渉権を与えるように要求することがあります。

譲渡企業にとって、譲受企業との間でM&Aを実行することが確定していない段階で、独占交渉権を与えることが、どのような意味を持つかをきちんと理解せずに要求に応じることは、想定外の責任を負ってしまうことにもつながりかねません。

本記事では、独占交渉権とはどういったものなのか、独占交渉権の期間や法的拘束力、譲渡企業と譲受企業のそれぞれにとっての意味、独占交渉権と優先交渉権の違いについて解説します。

▷関連記事:M&Aとは?M&Aの目的、手法、メリットと流れ【図解付き】

この記事を執筆した専門家
弁護士法人大江橋法律事務所 パートナー弁護士 倉持大
弁護士法人大江橋法律事務所
パートナー弁護士 倉持 大

2004年京都大学法学部卒業、2013年~2014年任期付職員として金融庁総務企画局市場課に勤務後、2016年University of Southern California, School of Law(LL.M.)を修了し、2016~2017年Pillsbury Winthrop Shaw Pittman LLP(New York)勤務。コーポレート・M&A、ファイナンス、保険、国内・国際紛争解決などを主な取扱分野とする。

目次

独占交渉権とは

M&Aにおける独占交渉権(Exclusive Right)とは、特定の譲受企業が、譲渡企業との間で、独占的にM&Aの交渉を行うことができる権利のことをいいます。

「独占」的な交渉権のため、譲渡企業は、ある譲受企業に独占交渉権を付与してしまうと、独占交渉権の期間中、別の譲受企業がM&Aのより良い条件を提示してきたとしても、これに応じることはできなくなります。

M&Aにおける独占交渉権の注意点

独占交渉権の期間

譲受企業としては、独占交渉権が効力を持つ間に最終契約を締結しなければ、別の譲受企業が登場することにより対象会社とM&Aをできなくなってしまうリスクがあります。

他方で、譲渡企業としては、あまりに長期間の独占交渉権を与えてしまうと、別の譲受企業に対して、より良い条件で譲渡する機会を逃すことにもつながりかねません。

そのため独占交渉権の期間は、基本合意書を締結してから譲受企業がデューデリジェンスを行い、交渉のうえで最終契約を締結するまでに通常要すると考えられる期間とすることが一般的です。具体的には、2ヶ月から3ヶ月程度とすることが多く、長くても半年を超えることはあまりありません。

▷関連記事:M&A契約における「基本合意書」とは?
▷関連記事:M&Aの最終契約書(DA)とは?基本合意との違いや各種項目を弁護士が解説

独占交渉権の法的拘束力

独占交渉権は独占的にM&Aの交渉を行う権利であるため、譲渡企業が独占交渉権の合意に違反して、別の企業とのM&Aに応じてしまったような場合に、独占交渉権を有する譲受企業から譲渡企業に法的な責任を問うことができないとすれば、独占交渉権を付与する意味がなくなってしまいます。

そのため、独占交渉権を付与する合意については法的拘束力を持たせることとするのが一般的です。

M&Aにおける独占交渉権の注意点

基本合意書と独占交渉権

基本合意書とはM&Aの対象となる会社の株式、事業などの譲渡を希望する譲渡企業と譲り受けを希望する譲受企業が、M&Aの実行に向けた基本的な条件を確認するために締結する契約書のことをいいます。

一般的に、基本合意書には、譲受企業が対象会社とM&Aをする意向を有していること、M&Aのスキーム、譲渡価額、今後デューデリジェンスを実施すること、M&Aのスケジュール、独占交渉権などが規定されます。

基本合意書を締結した後、譲受企業はM&Aの対象企業や対象事業について、デューデリジェンスとよばれる調査を行います。デューデリジェンスは、ビジネス、法務、会計、税務などについて行われることが多いですが、対象企業が工場を所有している場合などには、環境への影響などについても行われることがあります。

譲受企業はデューデリジェンスを通じて、対象企業にM&Aの障害となるような問題がないか、M&Aを行うにあたって事前に解決すべき問題はないか、M&Aの実行後に改善すべき事項はないかといった点を調査し、どのようなM&Aのスキームが最適か、妥当な譲渡価額はどのくらいかについても検討することになります。

基本合意書において譲受企業に独占交渉権を付与するか否かについては、譲渡企業と譲受企業の立場によってその意味合いが異なります。譲受企業としては、独占交渉権を付与してもらうことができれば、独占交渉権の期間中、別の譲受候補が現れることにより、M&Aの交渉が上手くいかなくなってしまうリスクを減らすことができます。

他方、譲渡企業としては、特定の譲受候補に独占交渉権を与えると、別の譲受候補からの提案に応じることが制限されてしまいます。そのため、譲渡側が、複数の譲受候補からM&Aの条件の提示を受けることで、より希望に合ったM&Aを実現したい場合には、独占交渉権を付与しない方が望ましいといえます。

実際のところ、他に有力な譲受候補がいない場合などで一対一の関係でM&Aを進めるときには、譲受企業に独占交渉権が与えられることが多いように思われます。

また、基本合意書を締結する段階では、譲受企業は、開示を受けた基礎資料を検討したに過ぎず、上記のようなデューデリジェンスを行っていないため、当事者間でM&Aを実行することが確実ではないうえ、デューデリジェンスの結果によってはM&Aのスキームや譲渡価額が変動する可能性があるため、特に譲受企業の立場からは、基本合意書におけるM&Aのスキームや価格に関する条項については、法的な拘束力を持たせない方がよいといえます。

他方、独占交渉権については、上記のとおり、譲渡企業が違反した場合に、法的な責任を問うことができるようにするため、基本合意書の中でも、独占交渉権を付与する条項には例外的に法的拘束力を持たせることとするのが一般的です。

なお、譲渡企業に独占交渉義務違反があった場合にどのような法的責任を問うことができるかについては、信頼利益、すなわちM&Aに関する最終的な合意が成立するとの期待が、侵害されたことに対する賠償は認められるように思われます。

例えば、譲受企業がデューデリジェンスを実施するために支出した費用などがこれにあたります。これに対し、M&Aに関する最終的な合意が成立した場合の履行利益の賠償については、最終契約の成立が確実であったとはいえない場合には、請求することは難しいと考えられています。

▷関連記事:M&Aの最後にして最大の難関。「デューデリジェンス(DD)」を徹底解説
 

基本合意書と独占交渉権

独占交渉権と優先交渉権の違い

優先交渉権とは

優先交渉権とは、複数の譲受候補が存在する場合に、そのうちの数社が、譲渡企業との間で、他の譲受候補よりも優先してM&Aの交渉を行うことができる権利のことをいいます。

優先交渉権は、あくまで「優先」的に交渉することができる権利のため、優先交渉権を与えられていない譲受候補よりは優先しますが、優先交渉権が与えられた譲受候補同士の中での優劣はありません。

複数の譲受候補が存在する場合、譲渡企業としては、入札手続きを用いることで、譲渡価額をできる限り高くしたいという希望を持つことがあります。この入札手続きの中で、複数の譲受候補に対して優先交渉権を与える、といったこともあります。

独占交渉権と優先交渉権の違い

上記のように、独占的交渉権と優先交渉権は、似たような権利ではあるものの、譲渡企業との間で「独占」的に交渉を行うことができる権利であるか、「優先」的に交渉を行うことができる権利であるか、という点で異なります。

譲渡企業としては、独占交渉権を付与した場合、別の譲受候補からより良いM&Aの提案を受けることができなくなってしまうのに対し、優先交渉権を付与した場合には、複数の譲受候補から譲渡価額や諸条件についての提案を受け、それらの中から最も望ましい譲受企業を選択することができるというメリットがあります。

しかし、基本合意書を締結する段階で、すでに特定の譲受企業との間でM&Aを実行する可能性が高く、独占交渉権を与えても何の問題もないということもありますし、譲受企業が独占交渉権を付与してほしいと主張してくることもあるため、M&Aの円滑な実現のために独占交渉権の付与に応じざるを得ないということもあります。

まとめ

譲渡企業は、基本合意書において譲受企業に独占交渉権を与えると、別の譲受候補からの提案に応じることが制限されるというデメリットがあります。

また、基本合意書のうち独占交渉権に関する部分については、法的拘束力を持たせることが一般的であり、譲渡企業が違反した場合には、譲受企業が支出した費用などを負担しなければならない可能性があります。

従って、譲渡企業としては、譲受企業が独占交渉権を与えるよう要求してきた場合、別の譲受候補の動向やあり得るM&Aの提案の内容を十分に検討したうえで、独占交渉権や優先交渉権を与えるか、どの程度の期間を設定するかについて慎重に対応すべきといえます。

基本合意書の内容について、交渉する段階で弁護士などの専門家の意見を求めることも、M&Aを成功に導くためには有益と考えられます。