
近年、後継者不足などを背景に大企業だけでなく、中小企業でもM&Aが活発化し、M&A業界の需要が高まっています。
M&A業界は、M&Aについて専門的なサポートを行う業界です。業界には、M&A仲介会社や投資銀行・証券会社など様々な企業が存在し、業務内容も多岐にわたります。
本記事では、M&A業界の概要や動向、M&Aを支援する主な企業、業務内容を解説します。業界別の動向やM&A業界への転職に関しての内容も紹介するので、詳しく知りたい方はぜひご覧ください。
企業価値100億円の企業の条件とは

・企業価値10億円と100億円の算出ロジックの違い
・業種ごとのEBITDA倍率の参考例
・企業価値100億円に到達するための条件
自社の成長を加速させたい方は是非ご一読ください!
M&A業界とは
M&Aとは、「Mergers and Acquisitions」の略で、企業の合併・買収を指す用語です。
株式譲渡、事業譲渡、会社分割、株式交換、合併など、M&Aには様々な手法があります。広義では、資本参加や合弁会社設立なども含めた企業の経営戦略を指す場合もあります。
M&A業界は、M&Aの過程で専門的なサポートを行うことを主な事業とする業界です。近年は大企業だけでなく、中小企業のM&Aも積極的に行われており、M&A業界への需要が高まっています。
M&A業界の動向
2023年において、日本企業が関与したM&Aの取引件数は、4,015件でした※1。
日本のM&Aが活発化している要因の1つとして、中小企業における経営者の高齢化が挙げられます。経営者の高齢化に伴い中小企業で深刻化しているのが後継者不足問題であり、近年は、事業承継の手段としてM&Aが活用されています。
国内のM&A件数は、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、一旦増加傾向が弱まったものの、2022年には再び増加し過去最高の4,304件を記録しました※2。
2023年は2022年と比べると減少しましたが、これまでの推移を見ても高水準であり、M&A業界はおおむね堅調に推移しています。
※1出典:株式会社レコフ「クロスボーダーM&Aマーケット情報」(2023年)
※2出典:株式会社レコフ「クロスボーダーM&Aマーケット情報」(2022年)
【業界別】M&Aの動向
M&Aを行う目的は、事業拡大や事業承継、シナジー効果の獲得など様々です。また、業界によって市場規模や競争の激しさ、技術進歩の速度、抱える課題などが異なるため、M&Aの傾向にも違いが見られます。
この章では、主要な業界を3つピックアップし、業界別にM&Aの動向を解説します。業界別のM&Aの動向をより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
▷関連記事:業界別のM&A|各業界の動向と買収ニーズの高い業界
【建設業界】M&Aの動向
建設業界は、他の産業と比べても非常に市場規模が大きく、国民の生活や日本経済を支える重要な柱の1つです。しかし、一方で深刻な高齢化・人材不足問題を抱えています。
国土交通省によると、建設業界では55歳以上の就業者は約35.9%であるのに対し、29歳以下の就業者は約11.7%と低水準です※。全産業の平均値は55歳以上の就業者が約31.5%、29歳以下の就業者は約16.4%であり、全産業と比較して著しく高齢化が進んでいることがわかります。
区分 | 建設業界 | 全産業 |
55歳以上の就業者 | 35.9% | 31.5% |
29歳以下の就業者 | 11.7% | 16.4% |
こうした中で、建設業界では人材確保や事業承継、DX推進などを目的としたM&Aが活発化しています。
※出典:国土交通省「建設業を巡る現状と課題」
▷関連記事:建設業のM&A動向やメリットは?最新事例も紹介
【医療・介護業界】M&Aの動向
医療・介護業界では、「2025年問題」などを背景にM&Aが活発に行われています。
2025年問題とは、国民の5人に1人が後期高齢者(75歳以上)の「超高齢化社会」になることで、医療や介護、年金などが限界を迎え、社会全体に様々な影響が生じる問題です。
医療分野で働く人は増えているものの、医療・介護の需要がそれ以上に増加し、人材の確保が大きな課題となっています。また、医療業界での後継者不在率は61.8%と高い水準です※。
こうした中で、地域医療の維持や後継者不在問題の解決などを目的とした再編が進んでいます。
▷関連記事:病院・医療法人業界のM&A動向は?譲渡・譲受のメリットや事例13選も紹介
▷関連記事:介護業界のM&A動向は?メリットや事例をわかりやすく紹介
※出典:株式会社 帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2024年)」
【IT業界】M&Aの動向
IT業界は、他の業界と比べても特にM&Aが活発な業界です。
次々に新しい技術が生み出され、変化が激しい業界であるIT業界では、自社の競争力を維持・強化するために成長戦略の一環としてM&Aを行うケースが多く見られます。
また、IT技術は他の業界においても不可欠になっていることから、IT企業を対象とした異業種からのM&Aも増加しています。
▷関連記事:【事例解説】M&Aが活発なIT業界の特徴とは?5つの事例から解説!
M&A業界の今後の動向
M&Aの取引件数は堅調に推移しており、今後も積極的な活用が続くことが予想されます。
【予想される今後の動向】
・事業承継を目的としたM&Aがますます増える
・小規模なM&Aが増える
・スタートアップのM&Aが進む
前述のとおり、M&Aは後継者不足問題の解決に有効な手段です。
中小企業庁によると、70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人にのぼり、そのうち約半数が「後継者未定」の状態です※。また、第三者承継の需要が顕在化する経営者は、今後一気に増大すると予想されています。
こうした状況を踏まえ、国もM&Aを後押しするための様々な施策を行っており、以前よりもM&Aを実行しやすい環境が整ってきました。
このような背景から、今後も中小企業や小規模事業者による事業承継を目的としたM&Aの拡大が予想されるでしょう。
※出典:中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」
M&A業界の主な企業

M&A業界には、M&A実施を支援する様々な専門企業が存在します。主な例は以下のとおりです。
・M&A仲介会社
・ファイナンシャル・アドバイザー(銀行や証券会社)
・士業事務所(会計士・税理士・弁護士)
M&A仲介会社
M&A仲介会社とは、売り手企業と買い手企業の間に入り、M&Aを成功させるための中立的なサポートを行う企業です。
売り手企業と買い手企業のマッチングだけでなく、候補先の選定や企業価値の評価、交渉、契約書の作成、契約の締結など、M&Aにおける一連のプロセスをサポートします。
▷関連記事:【2024年最新】M&A仲介会社とは?FAとの違いや選び方・メリット、手数料の相場を解説
ファイナンシャル・アドバイザー(銀行や証券会社)
ファイナンシャル・アドバイザー(FA)とは、M&Aを検討している当事者の一方(売り手または買い手)に対して、M&Aを成功させるための助言を行う専門家です。FA業務を行う主な企業として、投資銀行や証券会社などが挙げられます。
売り手と買い手の間に立って支援するM&A仲介会社に対し、FAは売り手と買い手のどちらか一方とのみ契約を結ぶ点が異なります。
士業事務所(公認会計士・税理士・弁護士)
公認会計士や税理士、弁護士は、税務・監査や法務などに関して専門的な知識を持っていることが特徴です。
公認会計士や税理士は、主にデューディリジェンスやバリュエーション(企業価値評価)の実施において重要な役割を担います。また、弁護士は法務デューディリジェンスの実施や契約書の作成・交渉など、法的な観点からM&Aを支援します。
それぞれ専門とする分野や役割が異なるため、自社に合った専門家を選ぶことが大切です。
M&A業界の業務内容
M&Aでは、相手企業の選定から成約に至るまでいくつかのプロセスに分かれています。M&Aを支援する立場としての主な業務内容は、以下のとおりです。
・売り手・買い手のマッチング
・交渉や契約の支援
・バリュエーションの実施
・デューディリジェンスの実施
・契約書の作成
以下では、それぞれの業務内容を解説します。
売り手・買い手のマッチング
M&A案件を探し出し、売り手企業と買い手企業の条件や希望を考慮してマッチングする業務です。M&A仲介会社やFAは、専門的な知識や実績、ネットワーク、データベースなどを活用して最も相応しい候補先を探します。
M&Aにおけるマッチングは、M&Aを成功させるための要となるプロセスです。
交渉や契約の支援
M&Aでは、様々な事項について合意する必要があります。
【合意が必要な事項の例】
・M&Aの形態
・譲渡価額
・役員や従業員の処遇
・契約の時期 など
M&A仲介会社などの専門家による条件交渉は、売り手企業と買い手企業の双方が納得できる条件でM&Aを実行するための重要な役割を担います。
バリュエーションの実施
バリュエーション(企業価値評価)とは、対象企業の資産や事業の収益性などをもとに企業の価値を評価することです。譲渡価額を決定する基準となるため、M&Aにおいて不可欠な業務です。
評価の手法として、主に以下の3つが挙げられます。
評価の手法 | 概要 |
コストアプローチ | 企業が保有する資産や負債を基準に株式価値を算定する手法 |
インカムアプローチ | 将来的に期待される収益やリスクを現在価値に換算して算出する手法 |
マーケットアプローチ | 株式市場やM&A市場の取引価額を基準に算出する手法 |
▷関連記事:M&Aのバリュエーション(企業価値評価)とは?意味・重要性から算定方法まで
デューディリジェンスの実施
デューディリジェンスとは、買い手企業が財務・税務・法務など様々な観点から売り手企業の資産価値やリスクを調べる一連の調査です。
多方面での調査が必要であり、専門的な知識が求められるため、一般的に公認会計士や税理士、弁護士などの専門家が行います。
▷関連記事:M&Aで重要なデューディリジェンス(DD)とは?種類や手順・費用や注意点を解説
契約書の作成
M&Aでは、各プロセスで様々な書類・契約書を作成する必要があります。
【主な書類・契約書】
・秘密保持契約書(NDA)
・ノンネームシート(企業概要書)
・意向表明書
・基本合意書
・最終契約書(DA)
契約書は、M&Aの取引内容を確定させる重要な書類です。成約後のトラブルを避けるためにも、M&A仲介会社や弁護士などの専門家に相談しながら進めることが一般的です。
▷関連記事:M&Aで必要な契約書は?種類や最終契約書(DA)の項目を解説
M&A業界の転職市場の動向
近年、M&Aが活発に行われる中で、転職市場においてもM&A業界への注目が高まっています。採用活動も積極的に行われていますが、専門的な知識や高い営業力などが必要であり、転職の難易度が比較的高い業界です。
この章では、M&A業界の年収や求められるスキル・経験、人材について解説します。
M&A業界の年収
M&A業界の年収は、1,000万円を超えることも少なくありません。
M&A業界の年収が高い傾向にあるのは、多くの企業がインセンティブの比重が高い給与体系を採用しているためです。
インセンティブ制度とは、固定給とは別に成果に応じた報酬を支払う仕組みを指します。ご自身の行動の結果が反映されるため、モチベーションを維持しやすく、成果次第では高い給与を得ることが可能です。
M&A業界で求められるスキル・経験
M&A業界では、M&Aに関する実務経験だけでなく、一般的に以下のような経験・スキルがあると有利になる傾向があります。
・法人営業の経験
・ソリューション型営業の経験
・金融機関(投資銀行や証券会社など)の実務経験
・コンサルティング会社での実務経験
また、公認会計士や税理士、弁護士、日商簿記、M&Aエキスパート認定資格などの資格を持っていると歓迎されやすいでしょう。
ただし、M&Aに関わる企業の業務は幅広く、職種によっても異なります。
M&A業界で求められる人材
M&A業界で求められるのは、一般的に以下のような人材です。
・社会貢献性の高い仕事をしたい方
・ハングリー精神が強い方
・失敗を恐れず挑戦できる方
・誠実な対応ができる方
・コミュニケーション能力が高い方
M&Aの実施は長期にわたり、交渉が難航することもあります。そのため、ハングリー精神の強い方や失敗を恐れず挑戦し続けられる方に向いている業界です。
また、経営者や弁護士、会計士など、複数の関係者と調整していく必要があるため、高いコミュニケーション能力や交渉力も求められるでしょう。
まとめ
M&A業界とは、M&Aの過程で専門的なサポートを行うことを主な事業とする業界です。
近年、経営者の高齢化に伴う後継者不足問題の深刻化などを背景に、M&A市場が活況化しています。事業承継の需要が急増することが予想されていることから、今後も中小企業や小規模事業者によるM&Aの拡大が見込まれるでしょう。
M&Aには、成約に至るまで様々なプロセスがあり、専門的な知見が求められます。
fundbookでは、豊富なネットワークを活かし、業界特有の環境や課題を熟知したアドバイザーがM&Aの成功をサポートしています。公認会計士や税理士、司法書士などの有資格者や投資銀行出身者もチームとしてバックアップし、最適な選択肢をご提案します。
相談料や着手金無料でご相談いただけるので、M&Aに関することはぜひ一度fundbookにお問い合わせください。