近年、動物病院のM&Aが注目を集めています。ペットブームが落ち着きつつある昨今ですが、なぜ動物病院のM&Aが注目されているのか気になる方もいるのではないでしょうか。
また、動物病院のM&Aを検討する方は、業界の動向やM&Aのメリット・デメリットに加え、具体的な流れや成功のポイントなどを事前に把握しておくことが大切です。
本記事では、動物病院業界の動向から具体的な事例まで、動物病院のM&Aを徹底解説します。
目次
動物病院業界の市場動向
動物病院のM&Aを検討する場合、業界の市場動向を把握しておくことが大切です。以下では、動物病院業界の市場動向を紹介します。
動物病院数の増加
動物病院の数は年々増加傾向にあります。農林水産省が公表する「飼育動物診療施設の開設届出状況※」によれば、2014年から2023年までの10年間で、動物病院の数は約10%増加しています。
・2014年:15,198件
・2023年:16,825件
動物病院の数が増加するということは、その分競争が激化するということです。特に都心部などペット需要が高い地域では競合が多くなるため、他院との差別化を図らなければ新規顧客を獲得するのが難しい状況となっています。
※参考:農林水産省「飼育動物診療施設の開設届出状況(診療施設数)」
ペット医療需要の増加
昨今、ペットブーム自体はすでにピークを迎えており、犬は2009年、猫は2021年を境に減少傾向にあります。
ただし、ペットの平均寿命は2010年以降延び続けている状況です。
・犬の平均寿命:14.9歳(2010年比:+1.03歳)
・猫の平均寿命:15.92歳(2010年比:+1.56歳)
ペットの平均医療費は、高齢になるほど高くなる傾向があります。1歳から15歳のペットにかかる平均医療費について調べたある調査では、15歳のペットにかかる医療費が1歳のペットに比べて犬は約4.7倍、猫は約4.5倍になるというデータもあります。
そのため、ペットの数は減っているものの一定数の需要が見込まれることや、ペットにかけるお金が増えていることにより、現状では、売上を維持できている動物病院が多いと考えられます。
ペットの多様化・医療技術の進歩による競争の激化
近年は、犬や猫だけでなく様々な種類の動物が家庭で飼育されているため、動物病院には幅広い動物を診察できる知識が求められています。
また、最近では医療技術の進歩によって再生医療なども広まっています。人間のみならず動物病院でも医療の高度化・専門化が進んでいるため、動物病院には豊富な医療知識を持つ獣医や最先端設備の導入など、従来に比べて高い専門性が求められています。
前述のように、動物病院数の増加とペット数の減少も影響し、動物病院業界では今後、さらなる競争の激化が予想されます。
動物病院のM&Aが注目されている理由
動物病院数が増加する一方、ペット自体の数は減少傾向にあるため、動物病院業界は今後ますます競争が激化すると予想されています。
このような業界の状況も影響し、近年は動物病院のM&Aが注目を集めています。以下では、動物病院のM&Aが注目される理由を紹介します。
獣医師の高齢化と人手不足が進んでいるから
農林水産省が行った令和5年の調査によると、獣医師の平均年齢は男性が53.9歳、女性が43.2歳となっており、全体では50.1歳となっています。特に女性の割合は60代になると低くなり、男性より引退が早い傾向があります。
また、獣医師の地域分布調査によると、獣医師は関東圏に集中しており、地域によって偏りがある状況です。そのため、獣医師の高齢化が進み、新規獣医師の獲得に苦労している地域も多くあります。
獣医師には定年がなく高齢で働く方もいますが、高齢の獣医師の約8割は廃業を選択しているという現状があり、地域によっては最寄りの動物病院がなくなるケースもあります。
さらに、動物病院業界は人手不足も深刻な状況です。事実、約6割の獣医師が人手不足を実感しているというデータもあります。M&Aを実施することによって、このような動物病院業界の課題解決が期待されています。
動物病院の開業手段として活用できるから
動物病院の開業には内装工事や医療機器などの設備投資、不動産関係費用、医薬品やフードの初期仕入れ費用、初期運転資金など様々な費用が必要となり、一般的には初期費用として数千万円の準備が必要とされています。
開業には時間や手間、高額な費用がかかり、さらには経営ノウハウも必要になります。そのため、開業手段として、すでに実績のある動物病院をM&Aによって譲り受けることを検討するケースが増えています。
M&Aによって動物病院を譲渡(売却)するメリット・デメリット
M&Aによって動物病院の譲渡(売却)を検討している方は、実際にどのようなメリット・デメリットがあるのか把握したうえで、詳細な検討に入ることをおすすめします。以下では、M&Aによって動物病院を譲渡するメリット・デメリットを紹介します。
【譲渡側】M&Aを実施するメリット
譲渡側のメリットは以下のとおりです。
・雇用を守ることができる
・後継者問題の解消ができる
・大手傘下に入ることで安定した経営基盤を確保できる
・創業者利益を獲得できる
後継者が決まっていない、もしくは不在の場合、経営者が高齢になると動物病院の運営が困難になるため、既存従業員の雇用を守れない可能性があります。
そのような場合は、M&Aで動物病院を譲渡することで経営を継続できるため、従業員の雇用を守ることができます。譲渡先が大手病院であれば資本力による安定した経営基盤も構築可能です。
また、経営者はM&Aによって売却益を得ることができるため、引退後の生活や次の事業への資金調達が可能な点も大きなメリットといえるでしょう。
【譲渡側】M&Aを実施するデメリット
譲渡側のデメリットは以下のとおりです。
・引継ぎ期間が長くなる場合がある
・従業員・顧客・取引先からの反対が生じる可能性がある
・適正な価格で譲渡できるかわからない
M&Aの成立には一定の期間が必要です。一般的には数ヶ月~1年程度の期間を要するケースが多く、スムーズに進まない場合はそれ以上の時間がかかることもあります。
また、既存の従業員・顧客・取引先などからM&Aに対する反対意見が出る可能性も考えられます。このような場合、M&A実施への理解を得られなければ従業員・顧客・取引先が離脱してしまうリスクがあります。
その他、動物病院のM&Aは一般的な企業のM&Aとは異なるため、適正な評価を受けられない場合がある点にも留意する必要があります。
M&Aによって動物病院を譲受(買収)するメリット・デメリット
M&Aによって動物病院を譲受(買収)する側には、譲渡側とは異なるメリット・デメリットがあります。以下では、M&Aによって動物病院を譲受するメリット・デメリットを紹介します。
【譲受側】M&Aを実施するメリット
譲受側のメリットは以下のとおりです。
・人材と設備をそのまま引き継げる
・顧客・取引先・ノウハウの獲得
・専門分野や研究成果の獲得
譲受側はM&Aによって譲渡側の人材や設備を引き継ぐことができるため、人材不足の解消や設備投資費用の節約につながる可能性があります。
また、動物病院は地域密着型のケースが多く、事業エリアの拡大が可能です。顧客や取引先、ノウハウなどを獲得できるため、事業拡大にかかる時間を大幅に短縮できるでしょう。
さらに、譲り受ける動物病院が専門的な知識を持っていたり研究を行っていたりする場合は専門分野や研究成果をそのまま受け継ぐことができます。
【譲受側】M&Aを実施するデメリット
譲受側のデメリットは以下のとおりです。
・簿外債務・偶発債務なども引き継ぐリスクがある
・M&Aのシナジー効果を得られない可能性がある
・既存従業員が離れる可能性がある
簿外債務は、貸借対照表に計上されない債務を指します。また、偶発債務はM&Aの際に債務として計上されていないもので、将来的に債務となるリスクがあるものです。
どちらも将来的な負債となる可能性があるため、譲受側は譲渡契約前に綿密なデューディリジェンスを行い、想定外の債務を引き継ぐことがないよう注意が必要です。
また、M&A後に想定していたシナジー効果を得られず既存の従業員が離れてしまうなどの可能性もあります。時間と費用をかけてM&Aを行っても結果的に業績に悪影響を与えてしまう場合もあるため、M&A後は統合作業と適切な管理が重要になります。
動物病院のM&A実施時の相場

M&Aで動物病院を譲渡する場合の相場は、病院の規模や企業価値の算出方法によって異なります。そのため、譲渡価格について一概にいうことはできません。しかし、譲渡価額算出の仕組みを知らなければ損をしてしまう可能性もあるため、ここでは算出方法をご紹介します。
M&Aでは、企業価値の算出方法として「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」という3つの手法が用いられます。
| 算出方法 | 特徴 |
| コストアプローチ | 譲渡側が保有する資産と負債をベースに株式価値を算出する方法 |
| マーケットアプローチ | 株式市場に公開されている類似企業や同一業界の財務指標を基に企業価値を算出する方法 |
| インカムアプローチ | 将来的な利益とリスクを考慮し、現在の価値に割り戻して企業価値を算出する方法 |
どの算出方法を用いるかは企業の状況や条件によって異なります。自社のみで企業価値算出作業を行うのは非常に難しいため、専門家のサポートを依頼することをおすすめします。
なお、動物病院のM&Aは譲渡側の院長が高齢なケースが多く、病院を守ることを優先的に考えて譲受先を探す傾向があります。
譲渡価額よりも交渉期間の短さを優先ケースが多いするため、比較的安価な取引となる傾向があり、他業種のM&Aより割安になることが多いです。
動物病院のM&Aの流れ
動物病院のM&Aは、一般的に以下の8つのステップで進みます。
| ステップ | 内容 |
| ①相談・秘密保持契約の締結 | M&A仲介会社やアドバイザーに相談し、秘密保持契約(NDA)を締結する |
| ②企業価値評価・資料作成 | 各種資料を提出し、企業価値評価(バリュエーション)と企業概要書を作成する |
| ③マッチング | 社名を伏せたノンネームで候補先への打診を開始し、譲受候補を選定する |
| ④トップ面談 | 院長同士が直接面談し、経営方針や引継条件などを確認する |
| ⑤基本合意 | 条件がまとまれば基本合意書を締結する |
| ⑥デューディリジェンス | 譲受側が財務・法務・労務などを詳細調査する |
| ⑦最終契約・クロージング | 最終合意のうえ契約を締結し、経営権が移転する |
| ⑧ディスクロージャー | 従業員・取引先・顧客への公表を行う |
マッチングでは、候補先の選定が重要なポイントになります。動物病院の場合、譲受企業は、複数の病院を展開する動物病院グループに加え、新規開業を目指す個人の獣医師や事業の多角化を図る異業種の企業が承継するケースも見られます。
トップ面談や交渉の段階では、金額条件だけが全てではありません。院長の人柄や獣医師としての理念・価値観が、相手先との相性として重視される傾向があります。互いの方針や思いが合わなければ破談になることもあるため、理念や方向性の確認も重要です。
M&Aの流れや各ステップの詳細については、以下の関連記事も参考にしてください。
▷関連記事:「M&Aとは?意味・流れ・手法・費用などゼロからわかる完全ガイド【2026年最新】」
動物病院のM&Aを成功させるためのポイント
動物病院のM&Aを成功させるには、成立後の運営を安定させるための準備と、専門家の力を適切に借りるプロセスが重要です。以下では、特に押さえておきたいポイントを解説します。
M&A後にスタッフと丁寧なコミュニケーションをとる
M&A成立後に注意すべき点は、スタッフの離職リスクです。院長交代をきっかけに、待遇や職場環境が変わるのではないかと不安を感じるスタッフは少なくありません。スタッフの不安や悩みを放置すると、優秀なスタッフが離れる可能性があります。
そのため、M&A成立後は、できるだけ早い段階でスタッフへの説明を行い、変わらない点を明示したうえで新しい経営方針を丁寧に伝えることが重要です。
一方的な通達ではなく、個別に話を聞く機会を設けるなど、双方向のコミュニケーションを心がけると不安の解消に役立ちます。
動物病院は、獣医師や動物看護師など専門性の高いスタッフへの依存度が大きい業種です。M&A後も信頼関係を丁寧に構築すると、病院運営の安定につながります。
行政手続きを事前に確認する
M&Aによって動物病院の経営者(開設者)が変わる場合、都道府県知事への届出が法律上必要です。
届出の内容はM&Aの形態や自治体によって異なり、「廃止届+新規開設届」の提出が求められるケースと、「診療施設届出事項変更届」の提出で対応できるケースがあります。いずれの場合も、届出は事由が生じた日から10日以内が提出期限です。
また、院内にX線装置などの放射線機器を設置している場合は、名義変更などの別途手続きが必要になるケースもあります。必要な届出の種類や提出先は病院ごとに異なるため、M&Aの検討段階から管轄の自治体や専門家への確認が重要です。
専門家のサポートを活用する
動物病院のM&Aは、進行やスタッフへの対応など、考慮すべき点が多岐にわたります。このようなプロセスを円滑に進める際に、M&Aアドバイザーへの相談は有効な選択肢です。
M&Aアドバイザーとは、M&Aに関する様々な業務に携わる専門家です。条件の取り決めや資料作成、デューディリジェンスなど、契約成立までの一連の手続きをサポートします。
ただし、各M&Aアドバイザーによって得意分野とそうでない分野があります。依頼する際は動物病院のM&Aに精通した専門家を選ぶことが大切です。
動物病院のM&A事例【2026年最新】
最後に、動物病院のM&Aについて成功事例を紹介します。実際の取引事例を知ることで、M&Aのイメージが掴みやすくなるため、ぜひ参考にしてください。
株式会社WOLVES HAND×株式会社See【完全子会社化】
2025年11月、株式会社WOLVES HANDは、北海道札幌市で「See Animal Clinic」を運営する株式会社Seeを、約5億5,000万円で子会社化する決議を取締役会で行いました。
株式会社Seeは2011年の開院以来、札幌市で地域密着型の医療を提供しており、直近の売上高は約2億4,200万円・営業利益は約4,200万円と安定した収益基盤を持ちます。
株式会社WOLVES HANDは、株式会社Seeの子会社化により、関西・関東・九州・沖縄に続き北海道エリアに初進出を果たしました。拠点の拡大によりグループ全体の事業基盤をさらに強固にするとともに、各エリアの病院間で生まれるシナジーの最大化を図ります。
株式会社Withmal×Lキャタルトン・ジャパン株式会社【資本提携】
2023年9月、Withmalは、プライベートエクイティ投資会社Lキャタルトン・アジアと資本提携を実施しました。
Withmalは、動物病院経営や動物業界向けのWeb事業を展開する企業で、動物病院における後継者不足問題を解決し、地域経済の活性化を目指しています。
一方、Lキャタルトン・アジアは、コンシューマ業界に特化した世界最大級の投資会社のアジアファンドです。
資本提携によって、LキャタルトンはWithmalの現経営陣と密接に連携し、提供サービスの品質向上やお客様接点の増加を含む戦略的イニシアティブを通じて、Withmalを支援するとしています。
イオンペット株式会社×株式会社東京イースト獣医協会動物医療センター【完全子会社化】
2022年6月、イオンペット株式会社は、「ひがし東京夜間救急動物医療センター」を展開する株式会社東京イースト獣医協会動物医療センターの全株式を取得し、完全子会社化を実施しました。
ひがし東京夜間救急動物医療センターは、2007年に開設され、夜間救急診療を年中無休で行ってきた病院です。一方、イオンペットは、動物病院やグルーミングサロン、物販店舗を全国展開する会社です。
イオンペット株式会社と株式会社東京イースト獣医協会動物医療センターは、M&Aによって地域での動物病院間の連携を深めてエリア全体の動物医療水準を向上させ、ペットオーナーに貢献していくという共通の理念を持っています。
まとめ
動物病院業界では、ペットブームのピークが過ぎたことで今後の需要減少が懸念されています。現状はペットの高齢化やペットにかける金額の増加によって一定の需要がありますが、今後はさらに競争が激化する見通しです。
また、近年はペットの多様化や医療技術の進歩により、動物病院では専門性の高い医療が求められています。
このような動物病院業界の動向の中、高齢化と人手不足の解消や開業の1つの手段としてM&Aが注目されています。
動物病院のM&Aには、譲渡側と譲受側のそれぞれにメリットとデメリットがあるため、M&Aを検討する際は、事前に把握しておきましょう。M&Aは複数のステップを経て進むため、全体のスケジュールの確認も欠かせません。
なお、動物病院のM&Aを成功させるには、業界に精通した専門家のサポートが重要です。
fundbookでは、各業界に精通した専門チームが丁寧に対応し、士業の専門家による万全のサポート体制が整っています。M&Aを検討する方は、ぜひ一度、fundbookにご相談ください。