近年、経営者の高齢化や新型コロナウイルス感染症などの影響で、廃業の危機にさらされている企業が増えています。
一方、M&Aなどによって事業承継を行い、事業を成長させている企業が存在するのも事実です。
「事業承継・引継ぎ補助金」はこのような事業承継を応援し、国の経済発展を促進するための制度です。補助金を受けられるのは中小企業だけでなく、個人事業主も含まれます。
経済産業省は、事業承継・引継ぎ補助金制度を2024年も継続すると発表しています。事業承継やM&A、グループ化後の設備投資・販路開拓や、M&A時の専門家活用費用などを支援する方針です。
本記事では、2022年の内容をもとに事業承継・引継ぎ補助金について概要や要件などを解説します。
過去の事例では交付決定率が高いうえ、人件費も対象経費になるため、事業承継を進めるにあたって把握しておきたい補助金制度ですので、ぜひご覧ください。
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
目次
M&Aに活用できる「事業承継・引継ぎ補助金」とは?
事業承継・引継ぎ補助金は、M&Aや事業承継などに活用できる国の補助金制度です。
M&Aにかかる費用や、引き継いだ事業をさらに発展させるための費用も制度の対象としています。
補助の対象となる経費は、次の要件を全て満たす必要があります。
・補助対象事業の遂行に必要な経費であることが明確にわかる
・補助対象事業期間内に契約・発注から支払いまで行っている
・事業期間終了後に提出する書類によって金額・支払いの有無が確認できる
事業承継・引継ぎ補助金制度の対象は、国内の中小企業や小規模事業者です。
次の表は、対象となる中小企業者の定義です。中小企業基本法第2条に準じて判断されます。
業種 | 資本金額または出資総額 | 常勤従業員数 |
製造業、建設業、運輸業など | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業、小売業 | 5000万円以下 | 50人以下 |
※参考:中小企業基本法
個人事業主の場合、補助金制度の利用には青色申告の申請が必要です。また、補助金の種類によっても申請要件が異なるため、利用したい制度の詳細をしっかり確認しておきましょう。
補助対象外となるのは、一般社団法人、社会福祉法人、医療法人などの法人格です。ただし、次に解説する事業承継・引継ぎ補助金の種類のうち「経営革新事業」では、NPO法人のみ条件を満たせば対象となります。
事業承継・引継ぎ補助金の種類
事業承継・引継ぎ補助金は、3種類に分かれています。次の表は、種類ごとに対象経費と対象者をまとめたものです。
事業 | 対象経費 | 対象者 |
①経営革新事業 | ・設備投資 ・店舗の借入費 ・マーケティング調査費 ・人件費 ・改装工事費用 等 | 事業承継やM&Aを機に、経営革新にチャレンジする事業者 |
②専門家活用事業 | ・委託費 ・マッチングサイトのシステム利用料 ・デューデリジェンス費用 ・セカンドオピニオン 等 | M&Aで他者から事業を引き継ぐ事業者、M&Aで他者に事業を引き継ぎたい事業者 |
③廃業・再チャレンジ事業 | ・廃業費 ・在庫廃棄費 ・解体費 等 | 既存事業を廃業して新しい事業にチャレンジする事業者 |
3つの補助金について、詳しく解説します。
①経営革新事業
経営革新事業とは、事業承継やM&Aをきっかけとして設備投資・販路開拓などにチャレンジするケースです。経営革新事業では、例えば次の経費が補助対象とされています。
・設備費
・原材料費
・店舗などの借入費
・外注費 など
補助上限額は600万円です。ただし、補助対象事業期間に一定幅での賃上げを行った場合、上限額が800万円になります。補助率は基本的に2分の1以内、特定の要件を満たしている場合は3分の2です。
経営革新事業は、さらに3つの型に分けられます。
・創業支援型(Ⅰ類)
・経営者交代型(Ⅱ類)
・M&A型(Ⅲ類)
それぞれの型について解説します。
▷創業支援型(Ⅰ類)
創業支援型は、創業を契機として引き継いだ経営資源を活用し、経営革新などに取り組む中小企業・小規模事業者を対象とした補助金です。補助金の利用には、次の2つの要件を全て満たす必要があります。
・事業承継対象期間内の創業、または個人事業主としての開業
・創業の際、廃業を予定している経営者などから「有機的一体として機能する経営資源」の引き継ぎ
「有機的一体として機能する経営資源」とは、設備や従業員、顧客、資産・負債など、その事業に関する全てを一体として見ることを指します。特定の設備などの引継ぎだけでは要件を満たしません。
▷経営者交代型(Ⅱ類)
経営者交代型は、事業承継を契機として経営革新などに取り組む中小企業・小規模事業者を対象とした補助金です。次の2つの要件を全て満たす場合に利用できます。
・親族内承継、従業員承継などの事業承継(事業再生も含む)
・産業競争力強化法に基づいた特定創業支援事業を受けるなど、企業経営に関する一定の実績や知識がある
なお、経営の実績には個人事業主としての経験も含まれます。企業役員や個人事業主として3年以上の経験があれば、要件を満たしていると判断されます。
▷M&A型(Ⅲ類)
M&A型は、事業再編や事業統合を契機に経営革新に取り組む中小企業・小規模事業者を対象とした補助金です。
前述の経営者交代型と同じように、企業経営への一定の実績や知識があることが要件とされています。事業承継を対象としているのか、事業再編・統合などのM&Aが対象なのかが2つの型の違いです。
②専門家活用事業
専門家活用事業は、M&Aの実施にかかる費用を補助するものです。
M&Aによる事業買収、または事業売却を進めている中小企業・小規模事業者を対象としています。
そのため、専門家活用事業には次の2つの型があります。
・買い手支援型(Ⅰ型)
・売り手支援型(Ⅱ型)
補助上限額は600万円ですが、廃業費が発生した場合150万円が上乗せされます。補助率は、2つの型で次のように異なります。
・買い手支援型:一律3分の2以内
・売り手支援型:原則2分の1以内、条件によって3分の2以内まで引き上げ
M&Aにかかる費用のうち、FA・仲介業者への手数料やデューデリジェンス、セカンドオピニオンにかかる費用などが補助対象経費です。
▷買い手支援型
買い手支援型では、事業再編・統合に伴う経営資源の引き継ぎを予定している人が対象です。対象者が経営資源を譲り受けた後、次の2つの要件が見込まれる場合に申請できます。
・シナジーを活かした経営革新などを行うこと
・地域の雇用をはじめ、地域経済全体を牽引する事業を行うこと
▷売り手支援型
売り手支援型には、次の2つの要件があります。
・すでに地域の雇用を推進する事業を行っている
・M&Aで第三者にその事業を引き継いでも、雇用促進や経済活性化が継続されると見込まれる
政府の指針としては、事業者の高齢化による廃業を防ぎ、雇用や地域経済を守ることが狙いです。
③廃業・再チャレンジ事業
廃業・再チャレンジ事業では、事業承継や事業再編の際、廃業によって発生する経費の一部を補助します。
補助率は3分の2以内、補助上限額は150万円です。廃業支援費や在庫廃棄費、解体費などが補助対象とされます。
廃業・再チャレンジ事業は、次の2つに分かれています。
・併用申請型
・再チャレンジ申請型
それぞれを詳しく解説します。
▷併用申請型
併用申請型では、経営革新事業や専門家活用事業と同時に申請できます。
併用申請した場合、同時に申請した事業の補助率に従って決められます。
経営革新事業と専門家活用事業(買い手支援型)を併用申請できるのは、譲り受けた事業の一部や既存の事業を廃業する場合です。
専門家活用事業(売り手支援型)では、事業譲渡後に残った事業を廃業する際に申請できます。
▷再チャレンジ申請型
再チャレンジ申請型は、M&Aなどでの事業譲渡に着手したものの成約に至らなかった事業者が、地域の新たな雇用創出や経済の活性化にチャレンジするために既存事業を廃業する場合に申請できます。
この「着手」とは、M&Aのマッチングサイトや支援機関への登録を指し、自分自身でM&Aに着手したケースは除かれます。
事業承継・引継ぎ補助金の申請から交付までの流れ
事業承継・引継ぎ補助金の申請には、経済産業省の電子申請システム「jGrants」を使用します。
jGrantsへの登録から補助金交付までの流れを解説します。
1. アカウント作成・jGrantsへの登録
2. 交付申請
3. 補助対象事業の実施・報告
1 アカウント作成・jGrantsへの登録
jGrantsから補助金を申請するには、gBizIDプライムアカウントの作成が必要です。
「gBizID」は、1つのID・パスワードで複数の行政サービスにログインできる法人・個人事業主向けの認証システムです。アカウントは「gBizIDプライム」「gBizIDエントリー」に加え、従業員用の「gBizIDメンバー」の3種類があります。事業承継・引継ぎ補助金の申請には、使える行政サービスに制限がない「gBizIDプライム」を作成しましょう。
gBizIDプライムアカウントは、現在2つの方法で作成できます。書類郵送申請ではアカウント発行まで1~2週間ほどかかりますが、オンライン申請だと最短で即日発行も可能です。
gBizIDプライムアカウントを作成したら、jGrantsに登録します。登録に必要なのは次の4つです。
・印鑑証明書(法務局または地方公共団体が発行)
・登録印鑑を押した申請書
・メールアドレス
・SMS受信可能な携帯番号
gBizIDの発行を待つ間に準備しておきましょう。
2 交付申請
jGrantsに登録後、必要な書類を揃えて補助金を申請します。補助金の種類によって必要書類が異なるため、事業承継・引継ぎ補助金の公式ホームページにある公募要領などをきちんと読み込んでおきましょう。
また、後述する加点事由に当てはまる場合、該当を証明する書類も準備します。経営革新事業または廃業・再チャレンジ事業に申請する場合は、事前に認定経営革新等支援機関に相談しておくと安心です。
申請の採否結果はjGrants上で通知され、交付が決定した企業は中小企業庁や事業承継・引継ぎ補助金事務局の公式ホームページで公表されます。
3 補助対象事業の実施・報告
補助金交付が決定したら、対象事業の実施が可能になります。補助事業期間外に契約・支払いをしてしまうと、補助対象経費として認められないため注意が必要です。
実施後は、所定の手続きに従って実績報告を提出します。報告内容に基づいて補助額が確定し、交付されます。
事業承継・引継ぎ補助金の加点事由
事業承継・引継ぎ補助金の審査では、以下で紹介するポイントに当てはまる場合、加点を受けられます。申請の必須要件ではありませんが、交付や補助額の決定に関わるぜひ押さえておきたいポイントです。
以下それぞれの事業の加点事由を紹介します。
・経営革新事業
・専門家活用事業
・廃業・再チャレンジ事業
▷経営革新事業
経営革新事業の加点事由には、例えば次のものがあります。
・「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」の適用を受けている
・交付申請時に有効な期間において、「経営力向上計画」の認定、「経営革新計画」の承認または「先端設備等導入計画」の認定を受けている
・ 交付申請時に地域おこし協力隊として地方公共団体から委嘱を受けている。かつ、承継者が実施する経営革新などの取り組みが当該地域(市区町村)で行われる
・地域未来牽引企業または健康経営優良法人である
また、経営革新事業のうち特定の型にのみ適用される加点事由は次の2点です。
・創業支援類型(Ⅰ型)の申請にあたって、認定市区町村による特定創業支援等事業の支援を受けている
・創業支援類型(Ⅰ型)・M&A類型(Ⅲ型)の申請にあたって、第三者によって補助対象事業となる事業承継の形態に係るPMI 計画書(100 日プラン等)が作成されている
▷専門家活用事業
専門家活用事業には、例えば次の加点事由があります。
・「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」の適用を受けている
・交付申請時に有効な期間において、「経営力向上計画」の認定、「経営革新計画」の承認または「先端設備等導入計画」の認定を受けている
・ 地域未来牽引企業、または健康経営優良法人に認定されている
・交付時点で中小企業基本法等の小規模企業者である
・ワークライフバランスなどを推進する取り組みを実施している
専門家活用事業の加点事由は、多くが経営革新事業と共通しています。ただし、経営革新事業にのみ適用されるポイントも多いため、注意が必要です。
▷廃業・再チャレンジ事業
廃業・再チャレンジ事業のうち、併用申請型は同時に申請した事業の加点事由を適用できます。再チャレンジ事業の加点事由は、次の3点です。
・再チャレンジする主体の年齢が若い
・再チャレンジの内容が「起業(個人事業主含む)」「引継ぎ型創業」である
・一定の賃上げを予定しており、従業員に表明している
事業承継・引継ぎ補助金の交付決定率
令和5年度(9次公募)の交付決定率は次のとおりです。
・経営革新枠:233/388件(約60%)
・専門家活用枠:275/440件(62.5%)
・廃業・再チャレンジ枠:14/25件(56%)
申請した事業者の半分以上に補助金が下りています。交付決定率は高めですが、申請すれば必ず交付されるわけではありません。事前準備や書類の手配を確実に行えば、補助金が下りる可能性を少しでも上げられるでしょう。
まとめ
本記事では、事業承継・引継ぎ補助金の概要や申請要件、交付の流れや加点事由を解説しました。
事業承継・引継ぎ補助金は、後継者問題を解決して国の経済発展を促進する重要な制度です。
うまく活用できれば、新規事業や起業に役立てられる可能性もあります。事業承継やM&Aを検討している方は、ぜひチェックしてみてください。
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※事業承継・引継ぎ補助金制度の内容や要件は、毎年少しずつ変更されています。本記事は2024年時点の内容をもとに解説しました。最新情報は中小企業庁や事業承継・引継ぎ補助金制度の公式ホームページで確認できます。