IPO(新規上場)は、オーナー経営者の多くが目指す目標です。
しかし、近年では投資を回収するイグジットの手段としてとらえた場合、IPOよりもM&Aのほうが良いというケースも多くなっています。M&Aは、IPOとはどう違うのでしょうか。また、先々のことを考えた場合、どちらの手段のほうが有利なのでしょうか。
知っているようで知らない、IPOとM&Aの違いについて考えてみましょう。
ファンドを活用した新たなイグジット手法とは
・ファンドとIPOを目指す「二段階イグジット」の仕組み
・「社員第一」の創業者がイグジットを選んだ理由
・戦略策定からロゴ制作まで、ファンドによる上場支援の具体例
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目次
IPO(新規上場)とは?M&Aとの比較
ベンチャー企業やスタートアップ企業のオーナー経営者が投資を回収し、利益を得るイグジットの方法としては、これまでIPOが一般的でした。そのため、起業家たちはひとつの到達点として「IPOを目指す」というのが典型的な流れでした。
しかし海外では、M&Aによる株式売却がイグジットの主流となってきています。すでにアメリカでは、イグジットの80%近くがM&Aで行われています。
※アメリカでのIPO/M&Aの割合の推移
参考:「NVCA 2017 NVCA YEARBOOK」と「一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター(VEC)」のグラフより作成
日本国内でも規模は違いますが、M&Aの件数は増加傾向にあります。この傾向が今後も続けば、日本もアメリカ同様に「イグジットはM&Aで」ということが主流になることが予想されます。
もちろん、イグジットの手段として、IPOが良いかM&Aが良いかはケースバイケースで、状況によって変わります。ですから、まずはIPOとM&Aそれぞれの特性を知り、自社にとってどちらが有利かを知ることから始めると良いでしょう。
IPO(新規上場)の特徴
まず、これまでイグジットの手段として広く認識されてきたIPOについて、もう一度確認しておきましょう。IPOは、「Initial Public Offering」の略です。未上場の企業が証券取引所に上場して、新規に株式を公開することをいいます。通常は、新たに株主が公募されたり、上場前に株主が保有していた株式を売りに出したりします。企業にとっては上場することにより、直接金融市場から広く資金調達することが可能となります。また、上場することで知名度が上がり、社会的な信用を高められるといったメリットがあります。
株式市場への上場によって一般投資家から広く資金を集めることができますが、それは一方で、多数の投資家に対して社会的責任を負うということでもあります。上場前の株主は、自分自身や親族、役員など、少数かつ身近な人々ばかりでしょうから、意思の疎通も比較的スムーズで、信頼関係もあり、問題が起こるようなことは少なかったでしょう。しかし、上場したからには、不特定多数の人々や企業が株主となります。また、一般的に株主は株価の値上がりや配当による投資に対するリターンを期待しますから、それに応える経営責任というものが、それまで以上に重くなります。
IPO(新規上場)のメリット・デメリット
起業家であれば、いつかは自分の会社を上場させたいと思われる方も多いでしょう。IPOには、社会的な信用や責任を果たして、ステータスを確立するという魅力があります。
しかし、メリットがある一方で、デメリットもあります。どのようなメリットとデメリットがあるのか、改めて確認しておきましょう。
IPO(新規上場)のメリット
IPOでは、株主に対する経営責任という制約がより強まるものの、経営の自由度が阻害されるわけではありません。金額の多寡はあるにせよ市場から多くの資金を調達でき、それによってさらなる事業拡大を実行できます。IPO後に企業価値がさらに上昇すれば、その分も利益として得ることができます。
実際に上場企業ともなれば社会的な信用は増し、他社との取引や金融機関とのやりとりにも苦労することは少なくなるでしょう。
また、社会的な信用は雇用の面でも有利です。まだまだ人材不足が続く日本では、優秀な若い人材の確保は、あらゆる企業の重要課題です。特に売り手市場となっている業界では、上場企業であることは人材採用において大きなアドバンテージとなります。
IPO(新規上場)のデメリット
多くのスタートアップ企業が目指すIPOですが、デメリットも多々あります。まず、事前の準備にコストがかかることと、短くとも3年程度の時間がかかることです。業界によって事情は異なるものの、3年のあいだには市場も競合企業も変化していくでしょう。それに伴って、自社の立ち位置や方向性が変わることがあるかもしれません。そうなると、せっかく時間とコストをかけても、「IPOをしないほうが良い」という決断をせざるをえない状況が生じることも考えられます。
また、上場するときには、証券会社と証券取引所の審査があります。この審査に通らないと上場することはできませんし、上場後にも定期的な会計監査を受けなくてはなりません。こうしたきびしい審査を経ることによって、企業として経営の透明性は確実に上がります。ただし、一方では上場会社として経営の透明性を確保するために経営体制を整備していく必要があることも覚悟しておく必要があります。
そもそも「自社の株式に市場でいくらの値がつくのか?」「何株売れるのか?」といった想定がついたとしても、上場して株式を公開するまで確実なところはわかりません。
また、オーナー経営者が持っている株は、売却することで市場に想定しない意図が伝わる可能性があることから、売却が難しくなることがあります。つまり、会社としての資金調達はできるけれども、オーナー個人が利益を手にしにくいというデメリットがあります。
M&Aの特徴
IPOが不特定多数の投資家から資金を調達することに対して、M&Aは基本的に一対一の取引で企業の経営権、事業を譲渡します。イグジットの手段として、IPOとひとくくりで語られることもあるM&Aですが、多くの違いがあります。
最も大きな違いは、M&Aは単なる株式の売却ではなく、会社の経営権、事業そのものを譲渡するという点です。もちろん、経営権を譲渡後も会社にとどまり、引き続き経営を任されるというケースは多々あります。しかし、基本的にはM&Aが成立した時点で、経営理念や運営方針の決定権は譲受先に移動します。そこがIPOとの最大の違いでしょう。
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M&Aのメリット・デメリット
近年、ベンチャー企業やスタートアップ企業のイグジットとして注目されるM&Aですが、メリットとともにデメリットがあります。IPOと比較しながら、自社にとってどちらが有利か、検討しておくべきでしょう。
M&Aのメリット
M&Aの最も大きなメリットは、譲渡企業と譲受企業の双方が合意してM&Aが成立すれば、基本的にはすぐに株式がキャッシュになるという点でしょう。多くの場合、持ち株のすべてを売却することができますから、オーナー経営者であれば、創業者利益を手にすることができます。
IPOと比較して、事前準備の負担が軽いのもM&Aのメリットです。IPOでは短くとも3年程度必要となります。ところが、M&Aでは数ヵ月程度の準備期間で売却できることもあります。もちろん、M&Aでも準備にかける工数やコスト、時間は必要ですが、IPOに比較すれば、それらの負担を抑えることができ、リソースを割かずに済みます。
また、小規模な事業や、安定しているものの短期での成長が見込めないような事業は、市場での評価は低くなりがちです。しかし、そうしたケースでもM&Aは可能な場合があります。
譲り受ける側から見ると、自社の事業を補完できる企業や、協働によるシナジー効果が得られる企業、あるいはまったく未開拓であった事業や新規顧客を獲得できる事業であれば、M&Aによるメリットは大きいと判断されます。
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M&Aのデメリット
M&Aのデメリットについても確認しておきましょう。M&Aは基本的に経営権の売却ですから、決定権は自分の手を離れることになります。ですから、その後も会社にとどまり、経営に携わりたいのであれば、譲受企業との交渉が必要となります。
また、経営権が譲受先に移ることで、企業理念や社内文化、組織構成、人事評価基準などが変化する可能性があります。こうした変化は、雇用され続ける従業員の就労環境に直接関わるものですから、十分な配慮のもと、変化させたくない部分はM&Aを実行するた
めの条件として事前に提示しておくことが大切です。
なお、M&Aを実施した結果、譲受企業が取引先の競合であった場合などで、それまで良好な付き合いのあった取引先から取引停止を求められることもあります。M&Aを実施するためにはこのような取引関係の契約についても配慮する必要があります。M&Aの契約前
に、取引先の競合企業などについても、よく確認しておくようにしましょう。
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理想的なイグジットに向かうには
ここまでご紹介してきたように、IPOとM&Aではどちらがイグジットとして良いかは一概にはいえません。ただし、創業オーナーであれば、その出口の先にどれほどの利益が待っているのかという点が、選択する際の大きなポイントといえるでしょう。
近年、大企業が自社の事業領域を広げていくために、最先端の技術や独自技術を持つスタートアップ企業を譲り受ける例が増えています。そうした中には、自社でベンチャーキャピタルを立ち上げ、積極的な譲り受けを行う企業も見られます。
大企業には莫大な資金力があり、人材も環境も整っています。そこに瞬発力のある若手ベンチャー企業を取り込み、成長させれば、将来的に自社のテリトリーを広げることにもつながります。そうした期待のもと、大企業は若い有望な企業を探しています。対する若い企業も、自分たちの能力をさらに発揮できる環境を求めています。その利害が一致して、M&Aの事例が増えているというわけです。
こうした状況でのM&Aであれば、譲渡企業にとっては金額的にも十分に満足できる売却ができ、イグジットとしては理想的といえるでしょう。そのようなM&Aを実現するためには、まず自社の強みや企業価値を客観的に測り、どのような企業が「譲り受けしたい」と考えているかを策定することが重要です。その上で、理想的な譲受企業と接触できれば、理想のイグジットは近いといえるでしょう。
M&Aで事業承継するという方法も
M&Aにおいては、売却利益もさることながら、社歴の長い中小企業などが事業承継のために売却したいというニーズもあります。これは、ベンチャー企業やスタートアップ企業とは違ったイグジットといえるかもしれません。
長らく経営に携わってきたけれど後継者がなく、取引先や従業員のことを考えると会社をたたむわけにもいかない。また、今以上の成長はきびしいとしても、業績は安定しており、収益も出ているといった中小企業も多いことでしょう。そうした中小企業が、M&Aで自社を譲渡するケースが増えてきています。
企業規模が一定基準以下になると、IPOは難しくなります。しかも、IPOでは上場してすぐに株を売り払うわけにもいかず、結果として経営からすぐに離れることができません。「引退したい」といったところで、株主がそれを許してはくれないこともあるでしょう。
そこで検討すべきなのがM&Aです。記事の冒頭でも紹介しましたが、中小企業同士がM&Aによって子会社化・関連会社化しているケースが増えているのです。つまり、多くの中小企業が抱えている人手不足や経営者の高齢化といった問題から、M&Aが加速しているということです。
M&Aでは、本来は競合である同業他社、あるいは関連業務を行う会社など、さまざまな譲受先が考えられます。しかし、あなたの会社を必要とする会社が見つかったら、あとは交渉次第です。うまくいけば、理想的な事業承継をすることができるでしょう。
▷関連記事:事業承継が問題になっている背景と解決策としてのM&A
M&Aをスムーズに進めるには?
M&Aの目的は、売却利益を得るため、あるいは事業承継のため、そのいずれであったとしても、理想的なM&Aのためには、まず理想の相手を見つけなくてはなりません。あなた自身が心血を注いで育ててきた事業を譲り、大切な従業員や取引先の将来をゆだねるのですから、相手は慎重に選ぶべきでしょう。
経営者仲間や信頼出来る人に状況を伝えて、譲受企業の紹介を依頼するのもひとつの手です。しかし、親しい間柄となると、ビジネスライクな話がしにくかったり、また断りにくかったりということもあります。譲受企業として適切かどうか、ひいき目で見てしまって判断を誤る危険もあるでしょう。
実際のところ、M&AはM&Aアドバイザーに依頼して進めるのが一般的です。「FUNDBOOK」では、テクノロジーと人(M&A専門の担当者)によるハイブリッド型M&Aプラットフォームでご希望条件に合った最適な相手先探しをサポートしています。プラットフォームを駆使することで、よりご希望に合った相手先をスピーディーに見つけやすい特徴があり、さらに、数多くの実績と経験を積んだM&Aアドバイザーが、経営者の皆様のご要望を汲み取り、相手先の選定から成約まで手厚くサポートします。
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