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2024/10/03

M&AのTOB(株式公開買付)とは?LBO・MBOとの違いや防衛策・特徴を解説

M&AのTOB(株式公開買付)とは?LBO・MBOとの違いや防衛策・特徴を解説

M&Aを行ううえで主に上場企業の買収手段の1つとして用いられるのが「TOB(株式公開買付)」です。「TOB」とはTake-Over Bidの略で、市場を通して行う株式の買い占めとは異なり、期間・価格・株数などを公告したうえで、証券取引所を通さず対象企業の株式を既存株主から大量に買い付けることを指します。

TOBは海外の大企業間で行われているイメージが強いかもしれませんが、日本でも積極的に行われています。実際に、2024年だけでもすでに54件(2024年8月15日現在、買付け中を含む)のTOBが行われています。大きな話題となった事例として、2018年7月に公表されたソフトバンクグループ株式会社によるヤフー株式会社へのTOB(株式公開買付)や、伊藤忠商事株式会社によるユニー・ファミリーマートホールディングス株式会社のTOBが挙げられます。このように事例が増えているため、あらゆる上場企業がTOBの対象となる可能性があります。

本記事では、TOBの目的や手法、TOBに対する防衛策、具体的な事例までわかりやすく解説します。特に上場企業の経営者や法務、経営企画担当の方は正しく理解しておきましょう。

TOB(株式公開買付)の主な目的は経営権の取得

TOBの主な目的は、株式の取得による「経営権の取得」です。会社法上、企業の株式を50%超保有することで、株主総会の普通決議を単独で可決することを通じて、株式を保有した企業の経営権を取得できます。また、企業の株式を3分の1超保有することで株主総会の特別決議拒否権を手にすることができます。

金融商品取引法上、上場企業の株式取得を行った際に株式取得後の株式の所有割合が3分の1を超える場合には、その株式取得はTOBで行わなければならないと定められています(金融商品取引法第27条の2第1項第2号)。
仮に強制的にTOBを行う必要がない株式取得であったとしても、証券取引所を通した取引では、株式の供給量に対して莫大な量の買い注文を行うことは避けることが望ましいです。なぜなら、自分自身の買い注文で株価が急上昇し、想定していた価格で株式を購入できないリスクがあるためです(これをマーケットインパクトと言います)。

なお、公開買付けによる場合、買付け予定の株券などの下限を設定することができるため、想定する支配権獲得の程度に至らない場合には、応募された株券などの買付けを一切行わないことも可能です(金融商品取引法第27条の13第4項1号)。

▷関連記事:TOBのメリットとデメリットを解説。TOBを成功させるために知っておきたい基礎知識とは?

TOBとLBO・MBOの違い

LBO(レバレッジド・バイアウト)は、譲渡企業の資産や今後期待されるキャッシュフローを担保に、譲受企業が金融機関などから資金調達する手法です。

MBO(マネジメント・バイアウト)では、経営陣自らが金融機関や投資ファンドから資金調達し、既存の株主から株式を買い取って、経営権を取得します。

LBOはM&Aの際の資金調達の方法の1つであり、TOBとLBOが併用されるケースやTOBの手法をとっていても、資金調達はLBOではないケースがあり得ます。

また、MBOは経営陣によるM&Aの手法です。MBOは株式と借入金を併用して行われる場合が一般的ですが、上場会社で行われるMBOでは、迅速に手続きを行うため、TOBが採用されるケースがあります。

▷関連記事:LBOとは?手法・MBOとの違い・メリット・事例
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友好的TOBと敵対的TOB

TOBには、友好的TOBと敵対的TOBの2種類があります。友好的TOBとは、株式の買収について対象企業の経営陣の了承を得ているTOBを指します。例として、グループ企業の完全子会社化などが当てはまります。

一方で、敵対的TOBとは、対象企業やその大株主へ事前の合意や通知なしに仕掛けるTOBを指します。多くの場合、ライバル企業などの経営の支配力を握ることが目的です。敵対的TOBを仕掛けられた対象企業は対抗することがあり、以下のような買収防衛策が取られることもあります。

敵対的TOBの買収防衛策

敵対的買収に対抗する買収防衛策には様々なものがあります。主なものは以下のとおりです。

▷逆買収:パックマンディフェンス

TVゲームのパックマンに似ていることから名付けられた防衛策です。敵対的TOBを仕掛けられた企業が、買収してきた企業に対し、逆にTOBを仕掛ける方法です。日本ではあまり見られません。

1999年にフランスのトタルフィナという石油会社(業界第1位)が、業界第5位のエルフ・アキテーヌに対し敵対的TOBを仕掛け、エルフ側が逆買収を仕掛けました。

▷第三者による買収:ホワイトナイト

敵対的TOBを仕掛けられた企業が、自らにとって友好的な第三者に大量に株式を取得してもらう手法です。敵対的TOBが行われることが発覚した後でも実施できることが強みです。

2021年7月、投資ファンドのアジア開発キャピタルが東京機械製作所に対して敵対的TOBを開始したケースでは、読売新聞社などの新聞社6社がホワイトナイトとなり、防衛に成功しています。

▷企業価値の引き下げ:焦土作戦(クラウンジュエル)

王冠から価値のある宝石を外して王冠の価値を下げるように、企業が敵対的TOBを仕掛けられた際に収益性が高い事業や価値のある資産を売却して、買収者の買収意欲を削ぐ防衛策のことを言います。

2005年のライブドアとフジサンケイグループによるニッポン放送株争奪戦では、ライブドアがニッポン放送株を過半数取得する前に、ニッポン放送の優良資産をフジサンケイグループ内の企業に譲渡することを示唆し、ライブドアの実行意欲を削ぐことでTOBを阻止しました。

▷株主総会を守る:毒薬条項(ポイズンピル)

新株を発行することで買収者の株式保有割合を下げ、買収コストを上げる防衛策の1つです。有効な防衛手段ですが、発行済株式数が増加するため株価が下落する場合があり、株主平等原則に反すると判断されることから、新株発行に反対される可能性があります。

イオン株式会社では、自社株式の大量取得に関して事前警告とポイズンピルを併用した方法を採用しています。議決権20%以上を取得する大量株式取得が行われた場合に警告を行い、警告に従わない時はポイズンピルが発動する仕組みです。

M&AにおけるTOBの手続き

TOBを実施する際には、金融商品取引法に基づいて手続きを行います。一般的なTOBの手続きの流れは次のとおりです。

1. 買付価格の提示
2. 公開買付届出書の提出
3. 意見表明報告書の提出
4. 公開買付期間内での売却・購入
5. TOB結果の報告

TOBの買付価格は、通常、市場価格に30%前後のプレミアムが上乗せされます。TOBが成立した場合、公開買付者はTOBの結果を報告または公表する義務があります。

M&AにおけるTOBのメリットとデメリット

TOBは公開買付者とTOBの対象企業の双方にメリットがある一方、いくつかのデメリットが存在します。以下では、TOBのメリットとデメリットを解説します。

TOBのメリット

公開買付者側から見ると、TOBは短期間で実行できる点がメリットです。TOBは株数や期間などを事前に決めて実施されるため、株式を取得する計画を立てやすい側面があります。一定の株式数が取得できなかった場合は、キャンセルできる点も利点です。

TOBの対象企業側からすると、プレミアムを上乗せした金額で株式を売却できるため、売却益を得やすい点がメリットです。

TOBのデメリット

公開買付者にとって、TOBはプレミアムを上乗せした価格で株式を購入するため、コストがかかる点がデメリットです。

TOBの対象企業側のデメリットには、経営権が移転すること、意見表明報告書の提出義務があることなどが挙げられます。

TOBの傾向

2017年以降、株式を市場価格よりも割安で取得するTOBが相次いでいます。割安TOB(ディスカウントTOB)は友好的TOBの際に活用される手法です。これはTOBを行いつつ、売主が当初想定した株式数を確実に売り切ることが目的です。通常ならば、株式の譲渡先が決まっている場合、取引所外で直接株式を譲渡するのが早い方法だと考えられます。

しかし、金融商品取引法によって10名以下の株主から60日以内に株式を買い取り、その後に所有割合が1/3超になる場合にはTOBを行う必要があると定められています(金融商品取引法第27条の2第1項第2号)。これは、大株主が変わる際に既存株主が株式を売却する機会が与えられないまま進行するのは、既存株主にとって不利益を被る可能性があるという考え方に基づいています。

TOBを行う際には、買主が売却株式数の上限を定めることが一般的です。その際に万が一、対象企業の既存株主がTOBに応募すると、買主が定めた売却株式数の上限を超えるため、想定した株式数を全て売ることができないリスクがあります。
そのため、既存株主が応募する魅力を感じない割安TOB(ディスカウントTOB)で株式を売却する事例が相次いでいるのです。売主にとっては、割安TOBによって想定売却株式数をきっちり売り切るとともに、仮に株式市場で売却した場合に想定されるマーケットインパクト(自分自身の大量の売り注文で株価が下がる)がかからない状況で一定のTOB価格で売却できる魅力があります。

具体的な事例として、三井化学株式会社による株式会社アークの株式取得や、コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスによる株式会社リコーなどが所有する自社株取得など、一般的なTOBのイメージとは異なる事例が相次いでいます。これは、売り手と買い手が相対で決めた価格で取引することにより、事業再編や株式の持ち合い解消をスムーズに進める狙いがあります。

まとめ

上場企業の場合、いつTOBの対象になってもおかしくありません。TOBの目的や防衛策を理解しておくことは不測の事態に備えるためには非常に重要です。最低でも、TOBの目的と敵対的TOBへの理解はしておきましょう。

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