「株式取得」は、代表的なM&A手法の1つです。実施を検討するにあたり、株式取得の種類や意味を理解することで、他の手法との比較検討も容易となるでしょう。
本記事では、株式取得の意味から事業譲渡との違い、メリットとデメリット、取得後の持ち株比率に応じて得られる権利、実際の手続きの流れまで、基本的なことから網羅的にわかりやすく解説します。
▷関連記事:「M&Aの手法8種類を解説!特徴とメリット・デメリットや事例も紹介」
株式取得とは?意味や種類
M&Aの手法を下記の図のように分類したとき、狭義のM&Aとしては「買収」、「合併」、「分割」の3つが挙げられます。株式取得は、この3つのうち「買収」にカテゴライズされる手法となります。M&Aにおける買収では、譲渡企業が株式を譲渡することで経営権を移転する「株式取得」と、譲渡企業の事業のうち一部または全部を譲渡する「事業譲渡」の2つに分けることができます。

株式取得は、取得方法によってさらに「株式譲渡」、「第三者割当増資」、「株式交換」、「株式移転」の4つに分けられます。それぞれの株式取得方法の違いは以下のとおりです。
株式譲渡
株式取得のうち、すでに発行済の株式を譲渡して経営権を移動する手法を「株式譲渡」と呼びます。中小企業のM&Aでは最も選択されている手法であり、比較的簡易な手続きによって株式の譲渡や対価取得の実現が可能です。対価として現金が取得できる点と、後継者問題に煩わされることなく第三者への事業承継を叶える点から、経営者のリタイアメント時に多く利用される手法でもあります。

▷関連記事:「株式譲渡とは?メリット・デメリットや手続きの流れ、注意点や税金について徹底解説」
株式譲渡で株式をやり取りする方法は、主に3つの取引に分けられます。それぞれ取引の場や進め方が異なるため、特徴を以下で解説します。
相対取引
相対取引とは、取引所を経由せず、売り手と買い手が直接交渉して株式数や価格、決済方法などを取り決める方法です。
非上場株式は公開市場で売買されていないため、非上場企業の株式を取得する際は、一般的に相対取引が採用されます。M&Aで用いられる株式譲渡の多くも、譲渡企業の株主と譲受企業の間で直接条件を交渉する相対取引の形が選ばれます。
市場買付は株式の購入の影響により価格が変動するリスクがありますが、相対取引は譲渡企業と譲受企業が事前に取り決めた価格で取引を成立させられるため、価格変動の影響を受けにくい点が特徴です。
市場買付
市場買付とは証券会社を窓口として証券取引所に注文を出し、上場株式を取得する方法です。一般の投資家が日常的に株式を売買する際に用いられる、株式取得の基本的な取引です。
ただし、市場価格で買い進めるため、M&Aを目的に株式を大量取得しようとすると、株価が上昇して想定どおりの価格で取得できない恐れがあります。
株式公開買付(TOB)
株式公開買付(TOB)とは、買付期間・買付価格・取得株数などの条件を公告し、市場外で不特定多数の株主から株式を買い付ける方法です。
対象企業の経営陣が買付に賛同している場合は友好的TOB、賛同を得ないまま実施する場合は敵対的TOBと呼ばれます。
金融商品取引法により、上場株式を対象とする場合で、取得後の所有割合が30%を超えるなど一定の条件に該当する取得には、TOBの実施が義務付けられています。
第三者割当増資
第三者割当増資は、株式取得において新規に発行した株式を特定の第三者に譲渡する手法です。発行済み株式ではなく、新株の割当を行う点が株式譲渡と異なります。
第三者割当増資は単に増資として行われることもありますが、M&Aの手法としても活用されます。その場合、割り当てた新株により譲受企業の株式保有割合を50%超とすることで、経営権を移転させる形となります。

▷関連記事:「資金調達の手法、第三者割当増資とは?株式譲渡との違いやM&Aにおける活用方法の紹介」
株式交換
株式交換は、子会社となる会社の発行済株式の全部を既存の会社に取得させ、完全親会社・完全子会社の関係を築く手法です。また、子会社となる会社の株主には、対価として親会社となる会社の株式や金銭などが交付されます。
対価を株式とした場合、現金の受け渡しが発生することなく、容易にM&Aが実現できる点から、組織再編や新規事業への参入時などに取られる手法となっています。

▷関連記事:株式交換とは?メリットから株式交換比率、株価の変動と注意点までを徹底解説
株式移転
株式移転は子会社となる会社の発行済株式の全部を、新たに設立する会社に取得させ、完全親会社・完全子会社の関係を築く手法です。株式交換とスキームが似ていますが、株式交換は既存の会社が親会社となり、株式移転では新たに設立した会社が親会社になる点が異なっています。
また、株式移転は複数の会社を子会社化し経営統合する際や持株会社化する際に行われることが多いです。

▷関連記事:「株式移転とは?株式交換との違い、仕訳や会計処理を解説」
取得後の持ち株比率と得られる権利
株式取得によって何ができるようになるかは、取得後の持ち株比率によって段階的に決まります。主な持ち株比率と、それによって得られる権利は以下のとおりです。
| 持ち株比率 | 行使できる主な権利 |
| 1%以上または300個以上 | 株主提案権(議題提案・議案提出) |
| 3%以上 | 株主総会の招集や会計帳簿の閲覧、検査役の選任請求 |
| 3分の1超 | 特別決議の単独否決(拒否権) |
| 2分の1超 | 普通決議の単独可決 |
| 3分の2以上 | 特別決議の単独可決(定款変更や組織再編など) |
| 100% | 完全子会社化 |
株式の過半数を保有すれば、取締役の選任を始め普通決議を単独で可決できます。ただし、合併や会社分割、事業譲渡などの重要事項を単独で決めるには、特別決議の可決に必要な3分の2以上の保有が必要です。
なお、株主提案権や議決権の3%以上の保有が必要となる株主総会の招集請求権を行使する場合、公開会社では原則として6ヶ月前からの議決権の継続保有が求められます。
株式取得と事業譲渡の違いや範囲
次に、株式取得と事業譲渡における範囲や契約の違いについて見てみましょう。
株式取得と事業譲渡の対象範囲における違い
株式取得では、原則として「株式」が取引の対象となります。一方、事業譲渡では、株式ではなく「事業」が取引の対象です。つまり、会社の経営権自体を移転するのではなく、特定の事業のみ譲渡を行います。
自社に残したい事業がある場合は事業譲渡を、会社の資産や負債を含めて会社全体を取得・継承したい場合は株式取得を選択するなど、自社の状況に合わせて最適なM&Aのスキームを考える必要があります。
▷関連記事:事業譲渡と株式譲渡の違いとは?メリット・デメリットとM&Aの手法として判断するポイントを解説
▷関連記事:事業売却とは?個人事業、イグジット、事業承継など目的別に解説
契約の流れにも違いがある
株式取得と事業譲渡では、譲渡できる範囲以外に手続きや契約の流れにも違いがあります。事業譲渡は「事業譲渡契約」、株式取得では「株式譲渡契約」、株式交換では「株式交換契約」となるため、それぞれの契約に応じた流れで譲渡を進めることになります。
▷関連記事:事業譲渡契約書の記載内容やひな形使用時の注意点、印紙代について解説
▷関連記事:株式譲渡契約書(SPA)とは?株式譲渡制限や株券不発行の場合の手続きについて具体的に解説
株式取得のメリット
株式取得におけるメリットには、以下のような点が挙げられるでしょう。
| ・手続きがシンプルである ・許認可を引き継ぎやすい ・多様な目的に活用できる |
メリット1.手続きがシンプルである
株式取得のうち、特に株式譲渡の手続きは、M&Aの中では比較的シンプルです。基本的には株式を保有する株主との間で譲渡の手続きが行われ、譲渡後も対象会社の法人格はそのまま残ります。
経営権だけが移るため、対外的な契約関係などを維持したまま、事業を継続しやすい点が特徴です。
譲受企業は、譲渡企業の株式を取得することで、その経営権を取得します。対象会社の事業や資産、負債は対象会社に残ります。個別の契約を結び直すことなく、譲渡企業の経営権を取得して事業を継続できるため、手続きにかかる期間も比較的短く、迅速に進めることが可能です。
▷関連記事:株式譲渡の手続きがわかる!具体的な手順をパターン別に完全ガイド
メリット2.許認可を引き継ぎやすい
株式取得で起こる変化は「株主が交代する」という点であり、原則として許認可についても承継されます。そのため、許認可の再取得や法的制約、届出といった工数が少ないこともメリットとして挙げられます。
「手続きがシンプルである」というメリットに重なる部分でもありますが、時代に即した経営計画を実現するうえで、許認可の制約を受けないで済むという利点は大きいといえます。
メリット3.多様な目的に活用できる
目的に応じて株式取得の種類を適切に選択することで、多様な目的に応じたメリットが受けられる点も魅力の1つです。
株式譲渡では、譲渡企業の経営者や株主が保有株式の譲渡によって現金対価を得られるため、円満な引退や引退後の生活資金の確保につなげられます。一方、新規事業への参入や事業規模の拡大を目的とする場合には、第三者割当増資による資金調達も検討できます。
譲受企業にとっては、譲渡企業の従業員を引き継ぐことで、優秀な人材の確保や人手不足の解消につなげることが可能です。
譲渡企業にとっても、後継者問題の解決や、資本力のある会社の傘下に入ることによる経営の安定化を図る手段として活用できます。
▷関連記事:「M&Aの目的とは?譲受企業・譲渡企業のそれぞれの目的を解説」
株式取得のデメリット
株式取得はメリットの多い手法ですが、いくつかのデメリットも存在します。主なデメリットは以下のとおりです。
| ・特定の事業・資産を選んで取得できない ・簿外債務や偶発債務などのリスクも引き継ぐ ・人材流出によりシナジー効果が得られないことがある |
株式譲渡によって会社の支配権を取得する場合、手続きが比較的簡単な反面、必要な事業や資産だけを選んで取得することはできません。事業譲渡と異なり、採算の悪い事業を切り離す形での取得はできず、不要な事業や資産も一括して引き継ぎます。
対象会社に未払残業代や未払社会保険料などの簿外債務、債務保証や係争中の訴訟などの偶発債務がある場合、株式取得後は譲受企業が対象会社を通じてそのリスクを負うことになります。これらは取得後に発覚するケースもあるため、事前のデューディリジェンスが重要です。
▷関連記事:「M&AのPMIとは?重要な理由や準備のタイミング、成功のポイントを解説」
株式取得の一般的な流れ
M&Aで多く用いられる株式譲渡を例に、株式取得の流れを解説します。以下は、多くの企業で見られる「譲渡制限株式(譲渡には会社の承認が必要)」を取得する主な手順です。
| 1 株式の譲渡承認の請求 2 取締役会または株主総会で譲渡を承認 3 株式譲渡契約の締結 4 株主名簿の名義書換 5 株主名簿記載事項証明書の交付請求 |
大きく分けると、「企業の承認を得る段階」「当事者間で契約を結ぶ段階」「株主としての地位を確定させる段階」で構成されます。特に名義書換は、譲渡の効力を企業に対して主張するために欠かせないプロセスです。
まとめ
株式取得は、手続きが比較的シンプルであることなどから、多く利用される代表的なM&Aの手法です。株式取得が持つメリットに魅力を感じるのであれば、選択してみる価値は十分にあります。
ただし、PMIの課題をクリアして株式取得を成功させるためには、綿密なプランと計画立案が欠かせません。株式取得に詳しい専門家やプロの力を借りることで、株式取得で得られるメリットをさらに高められるでしょう。
fundbookでは、M&Aアドバイザーの専門的な知見に加え、AIマッチングシステムなどのテクノロジーや豊富な提携ネットワークを活かしたサポートを提供しています。M&Aを検討中の方は、fundbookにお気軽にご相談ください。