中小企業の事業承継の手段として現在注目が集まるM&Aは、譲渡(売り手)側企業、譲受(買い手)側企業の双方にさまざまなメリットをもたらします。中でも異なる企業文化や歴史を持つ企業同士が融合することによる「シナジー(相乗)効果」は大きなメリットのひとつです。本記事では、M&Aの成功を左右するシナジー効果について、種類や事例と評価方法を解説します。

M&Aにおけるシナジーとは

シナジー効果の由来とは

「シナジー」とは、互いが協力(共同)することによって総和以上の結果が産み出される相乗効果や協働作用を指します。これは生物学や医学、工学の分野などでも使用される言葉で、複数の要素が交わり、単純な足し算以上の効果が得られることを指します。

M&Aにおけるシナジー効果とは

M&Aにおけるシナジー効果とは、複数の企業が連携や共同で事業を運営を行うことにより、販売・設備・技術などの機能を重層的に活用でき、単体で行動するより大きな成果や成長をもたらすことを指します。

M&Aには株式譲渡や事業譲渡、資本提携といったさまざまな手法がありますが、異なる企業文化や歴史をもつ企業同士の協力・融合によるシナジー効果を期待することがほとんどです。相手先の選定においても「どのようなシナジーが生まれる相手か」という点は非常に重視されます。

また、シナジー効果は同業種とのM&Aか異業種とのM&Aかによって、その効果や生まれる場面が異なります。

同業種

同業種間のM&Aは生産能力の強化や新たな販売経路の獲得など、既存事業の強化を図れるメリットがあります。また、すでに実績を持つ企業や事業を譲受ければ、既存の技術やノウハウ、取引先、ブランドなどをそのまま取り込むことができるため、事業を育てる時間やコストの節約につながります。これは、新規事業だけでなく、既存事業の強化でも同じ効果が見込めます。

異業種

一方、異業種の企業を譲受ける場合は、一見するとシナジーが生まれづらいかもしれません。しかし、場合によっては同業種間のM&Aよりも大きなシナジーが生まれる可能性もあります。

例えば、フィットネスジムを運営している会社が食品製造会社を譲受けたと想定します。この場合、譲受企業が持つフィットネスジムの経営ノウハウや顧客と、譲渡企業が持つ食品製造技術や生産設備を生かし、ダイエットや栄養補給を目的としたサプリメントやドリンクなどの自社製品の開発を展開していくことができるでしょう。

このように、異業種の会社を譲受けて既存事業を強化したうえで、新たな収益源が見込めることもあります。これは異業種間でシナジーを生み出す良い事例といえます。

期待されるシナジー効果のタイプ

M&Aで期待されるシナジー効果のタイプを説明します。

販売シナジー

生産設備や工具、研究開発や流通経路、販売組織、倉庫などを共有・効率化することで得られる相乗効果を指します。両社のブランドイメージを使用することで、売上の向上も期待することもできます。

生産・投資シナジー

生産設備や工具、研究開発やノウハウなど、生産を行うために有用となる情報を共同で利用することで生まれる効果を指します。原材料の大量購入や、工場の稼働率向上によるコストの削減などはこちらに含まれます。

経営シナジー(マネジメントシナジー)

経営ノウハウや問題解決法の共有により生まれる効果を指します。

一般的に同業種のM&Aによって見込めるシナジー効果は、販売シナジーと生産・投資シナジーです。一方、異業種とM&Aを行うことにより見込めるシナジーは、生産・投資シナジーと経営シナジーです。異業種とM&Aをして業界に新規参入する場合、経営ノウハウを共有してもらうことで経営シナジーを見込めるためです。

これらの「販売」「生産・投資」「経営」シナジー効果は、事業の成長および財務状況の改善に有効です。

M&Aの検討とフレームワークによるシナジーの評価

M&Aでは譲渡(売り手)側企業、譲受(買い手)側企業の双方にシナジー効果が期待できます。ここではまず、M&Aを検討する際の基本となるポイントをご紹介します。

なぜM&Aを選択するのか

以前は、M&Aというと「敵対的買収」や「大企業間の合併」といったイメージがありましたが、最近では中小企業経営者の高齢化や後継者不在により、事業承継を目的とした中小企業同士でのM&Aも増加しています。

中小企業はM&Aにあたりシナジー効果の獲得を検討する場合が一般的ですが、その他にもM&Aを実行することに主だった目的やメリットがいくつか存在します。それぞれ以下の通りです。

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譲渡(売り手)側企業の場合

1.後継者問題の解決

市場環境が厳しくなる中、実子や親族、従業員の中から後継者を選ぶことは難しいという経営者も多いのではないでしょうか。また、昨今では後継者不在によって後継者の候補が見つからないケースも増えています。しかし、M&Aによる第三者への承継を行うことで、第三者に会社を託すことができます。

2.事業承継を円滑に行う

中小企業のM&Aの場合、お互いのメリットを尊重した友好的な関係の中で事業承継が行われるケースがほとんどです。また、中小企業の事業承継を補助する税制や補助金制度も整備されるなど、国の制度によるサポートを得られる場合があります。

3.自社の技術やノウハウを次世代へと受け継ぐことができる

M&Aで第三者に承継すれば、これまで培ってきた技術やノウハウを途絶えさせることなく次世代につなげます。

4.従業員の雇用を継続できる

会社が廃業した場合、従業員を雇用し続けられません。しかし、ほとんどのM&Aでは従業員の雇用は継続されます。また、経営の安定した企業に従業員を引き継いでもらった場合、労働条件の向上なども見込めます。

5.事業を成長・発展できる可能性が高い

譲受けを検討する企業は事業意欲が高く、経営も安定していることがほとんどです。こうした企業に承継することで、事業を成長・発展できる可能性も高くなるでしょう。

6.経営資金や創業者利益を確保する

廃業で会社の資産を清算する場合、在庫などの資産は安く算出されるため、資産を全て売却しても負債が残る場合があります。また、多くのM&Aでは譲渡対価として創業者利益を得ることができます。会社や事業の譲渡によって得た譲渡益を、今後の経営資金に充てたり、セカンドライフの生活費に充てることも可能です。

7.コア事業以外の事業を譲渡することで、コア事業に専念して経営を強化できる

会社全体の譲渡ではなく、一部事業のみを譲渡することも可能です。こうしたM&Aの手法をとることで不採算事業を抱えている中小企業などでも、その事業を切り離し、コア事業に注力できるようになります。このように事業を取捨選択することは、効率的な事業運営につながります。

8.オーナーの個人保証を解消できる

中小企業の経営者は銀行からの融資などの債務について連帯保証人になることも少なくありません。M&Aによる事業承継の場合では、保証や債務含めて譲渡することが一般的です。

譲受(買い手)側企業の場合

1.新規事業立ち上げのリスクや負担を回避

M&Aによって他社が確立している事業や企業そのものを譲受ければ、自社で一から立ち上げるよりも短期間で新規事業立ち上げの負担や失敗のリスクを低減できます。また、事業が多角化することで、社会情勢や業界動向の影響によって1つの事業の収益が芳しくない状況でも別事業で補完できるなど、事業の運営時のリスク分散も可能です。

2.技術やノウハウ、人材、顧客基盤などを確保する

異業種や自社にはない技術を持つ企業とM&Aすることで、技術やノウハウ、人材、顧客基盤を手に入れられます。こうした短期間で得ることが難しいものを、一挙に手に入れられることはメリットの一つです。また、異業種とのM&Aの場合、新規参入したい業界の企業を譲受けることで、対象の業界に比較的時間と費用をかけずに参入できます。

3.企業のブランド力向上

ブランド力を持つ会社を譲受けることで、自社のイメージの強化につながります。企業のブランド力を高めるには長い期間と戦略が必要ですが、M&Aでは譲渡企業のブランド力を得られます。

4.他社の技術を自社の事業に投入することで、既存事業を強化・拡大することができる

新規事業の立ち上げだけでなく既存の事業に関しても、他社が持つ技術やノウハウ、販売網などを取り込むことで強化・拡大につながります。また、譲渡企業の従業員が同業種で同様の業務を行っていた場合、M&A後にも比較的スムーズに業務を遂行することが期待できます。

5.川上から川下まで経営の効率化を図る

開発から生産、販売までを一貫して行えるようになれば、経営効率が高まります。例えば、販売部門を持っている譲受企業が生産を行っている譲渡企業を譲受けることで生産から販売まで一貫して行えます。また、譲渡企業が販売拠点や流通網を確立している場合、事業規模の拡大を図ることもできます。

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企業価値向上と効果を引き出すポイント

M&Aを検討するにあたって、譲渡(売り手)側企業、譲受(買い手)側企業ともに、より大きなシナジー効果を得るためには準備が欠かせません。

譲渡(売り手)側企業の場合

譲渡(売り手)側企業の場合、自社を譲渡することに重きを置くあまり、シナジー効果について検討することが少ないかもしれません。しかし、ほとんどの譲受企業は経営戦略としてM&Aを行うため、シナジー効果を得られる会社を見つけたいと考えています。

そのため、自社の強みとなる事業や技術などの洗い出すことで、譲受企業もM&A後のシナジー効果が見えやすくなります。そうした準備を行っておくことで、M&Aを円滑に進めやすくなります。

また、自社の強みだけではなく、経営方法の改善点や社内の問題点といったことに関しても、整理しておくことで自社に関することを譲受企業に伝えやすくなります。

譲受(買い手)側企業の場合

譲受(買い手)側企業の場合、M&Aの検討を始めた時点から、ある程度シナジー効果について期待していることでしょう。ただ、期待通りのシナジーを得るには、M&Aの成約後のPMIと呼ばれる融合過程が重要です。このPMIがうまくいかないと、従業員同士の軋轢や士気の低下から優秀な人材の流出を招いたり、期待したシナジー効果が得られない状況になることがあります。

そのため、業界や地域での評判、企業風土や文化の相性、事業領域、譲受けのタイミング、市場規模といった点を考慮しつつ、できるだけ自社の企業文化と融合しやすそうな相性の良い会社を見つけることも大切です。M&Aの仲介会社や取引のある金融機関などからの情報も含め、情報収集を行うようにしましょう。

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シナジー効果を導き出すフレームワーク

シナジー効果を予測するフレームワークの代表的なものに、「アンゾフの成長マトリクス」があります。アメリカの著名な経営学者イゴール・アンゾフ教授が提案した、成長戦略を分析するフレームワークです。

縦軸に「市場」、横軸に「製品」をとり、それぞれ「既存」「新規」に分けて4象限のマトリクスを作成します。それぞれのマスは「市場浸透戦略」「新市場開拓戦略」「新商品開発戦略」「多角化戦略」と位置付けて、どの戦略をとるか分析・決定するものです。また、選択すべきM&A戦略とシナジー効果を導き出すために活用することができます。

市場浸透戦略を行う場合、M&Aによって規模を拡大することで売上の拡大や、規模の経済によるコスト削減を狙う戦略が有効です。M&A後すぐにコストシナジーが発揮され、業績が良くなる場合もあります。

新市場開発戦略では自社が有していない販売経路や地域、事業を持つ企業とM&Aを行い、新市場への拡大を図り、既存の商品を販売します。これにより規模の経済性による収益性の改善が期待されます。

また、新製品開発戦略を取る際には、自社と異なる製品群を扱う企業とM&Aを行うことで、製品開発力の向上などの効果を期待できます。複数の事業を展開しながら経営資源を共有化することで、全体の経営効率を高めることを指し示す、範囲の経済が得られる場合があります。

また、多角化戦略では新たな製品を新たな事業で展開するため不確実性が高いため自社のノウハウを活かせる関連性の高い企業とM&Aを実行することで成功の可能性を高めることができます。

このようにM&Aを活用すれば、自社にない技術やノウハウといった強みをもつ他社との提携や譲受けを通じて、効率的な事業多角化や新規事業への参入が期待できるのです。このように、「アンゾフの成長マトリクス」は企業の成長戦略を分析するほかに、M&Aのシナジー効果を導き出す際にも活用できるのです。

M&Aの成功例と失敗例に学ぶ対策

ここでは具体的に、M&Aの成功例と失敗例から、シナジー効果を最大限に得るための対策を見ていきましょう。

ケース①食品宅配市場での販売寡占化を進めるオイシックス・ラ・大地株式会社と成功のポイント

生鮮食品の宅配サービス事業を手掛けるオイシックス・ラ・大地株式会社は2018年2月、同業のらでぃっしゅぼーや株式会社の全株式を株式会社NTTドコモから譲受け、合併しました。同社は「Oisix」「大地を守る会」「らでぃっしゅぼーや」の3ブランドを展開することになり、有機野菜宅配業界の最大手へと昇り詰め、食品宅配市場での地位を確固たるものにしました。

同社の2019年3月期第1四半期の決算資料によると、らでぃっしゅぼーやの業績の加算とOisixの会員獲得の上振れにより、売上高は前年同期比176%成長。営業利益も前年同期比で4.7億円の増加となっています。

一方で、文化や仕組みの違う3社が一緒になり会員数・生産農家数は増加したものの、各ブランドと各拠点の手法をそのまま残す決断をしたことで、拠点ごとにシステムが異なることや、取扱う商品が生鮮食品のため在庫を一定に保つことが困難なことなどによって、物流やシステム上では課題があるようです。本格的な販売シナジーの発揮はこれから、ということになるでしょう。

ケース②日本有数の「M&A巧者」日本電産株式会社の技術・販路を育てるM&Aの成功のポイント

積極的なM&Aによって業容を拡大した企業として知られるのが、モータ大手の日本電産株式会社です。企業成長の原動力として早期よりM&Aを戦略的に活用しており、最初の事例は1984年のアメリカのトリン社の軸流ファン部門の譲受けまでさかのぼります。

2019年3月まででM&Aの実施数は63件に上りますが、同社では「回るもの、動くもの」に特化し、技術・販路を育てあげるために要する「時間を買う」という考え方を掲げ、徹底して主力のモータ事業に関する企業のみを譲受けているのが特徴です。

同社は日本企業有数の「M&A巧者」として、世界ナンバーワンのシェアを誇るモータをいくつも手掛ける総合モータメーカーとなっています。これは部品調達の一元化によるコスト削減や、新分野での技術開発・販路拡大といった生産・投資シナジーを得ており、企業の譲受けによる単純な売上の上乗せに留まらない飛躍的な成長を遂げています。

ケース③海外クロスボーダーM&Aを成功に導いた日本たばこ産業株式会社のM&A戦略と成功のポイント

一般的にグローバル化が苦手といわれる日本企業の中で、積極的に海外企業を譲受けて、経営シナジーを発揮させているのがたばこ大手企業の日本たばこ産業株式会社(以下JT)です。同社は、「主体性」と「謙虚さ」というキーワードを軸にM&Aを推進しています。

JTでは投資銀行やコンサルタントに頼ることなく、社内における各分野の専門家が独自に譲受先の検討やM&Aに向けた作業を進めます。同時に、統合後の方向性や事業の将来の計画を徹底的に検討し、着実かつスピード感を持ってPMIを行えるよう準備を進めます。

譲受後はお互いの強みを最大限に引き出すべく適材・適所・適時の人員配置を進め、適確なガバナンスのもとで「任せる経営」を実行すべく譲渡側に権限を大幅委譲しています。

こうしたM&A戦略によって、同社は1999年のRJRナビスコ社からのたばこ事業(RJRI)譲受けと2007年の英ギャラハー社譲受けという、2度の大型クロスボーダーM&Aを成功に導きました。日本市場トップシェア企業が自社で可能な成長の限界を超えるための成長戦略を図り、「時間を買う」という戦略が有効でした。

失敗事例に学ぶ“M&Aが難航・決裂する企業”とは

一方で、M&Aによるシナジー効果の獲得を期待したものの、成功に至らなかった企業もあります。例えば、2018年2月に食品宅配企業のらでぃっしゅぼーやをオイシックスドット大地株式会社(当時)に譲渡した株式会社NTTドコモです。

ドコモが保有するモバイルITのノウハウと、らでぃっしゅぼーやの保有する物流ノウハウの融合を図り、成長市場の有機食品市場によってユーザーを囲い込むべく、2012年にらでぃっしゅぼーやを譲受けました。ドコモのスマートフォンやサービスを組み合わせることで、通信販売事業の拡大を狙いました。

両社でスマートフォンやタブレットを使った注文システムの構築、携帯料金と宅配料金の同時回収という決済の利便性や、ドコモユーザーの顧客情報を活用してらでぃっしゅぼーやのサービスを拡充するなど、共同事業による相乗効果を見込んでいましたが、ドコモにとっては思ったような成果は得られず、上述したように2018年2月には譲渡に至っています。

また、NTTドコモは、2014年に約200億円で料理教室大手の株式会社ABCクッキングスタジオの株式を51%取得したものの、2019年に全株式を同社の既存株主に譲渡しています。

ドコモは成長著しいEコマース事業の分野で存在感を高めるべく、魅力的なコンテンツプロバイダーの囲い込みを進めようとしましたが、現時点では期待したようなシナジー効果は発揮できていないようです。M&Aの成功には、譲受後の明確な計画とシナジー効果の見極めが重要だといえるでしょう。

▷関連記事:M&Aで陥りやすい失敗と対策

M&Aを成し遂げるためのポイント

M&Aの成功を左右するシナジー効果について見てきました。シナジー効果を発揮するには、相乗効果が見込める相手を選ぶことに加えて、譲渡企業は自社の状況を把握して、事業の非効率性を無くすことが重要です。会社の核となる事業を決めたのちに、それ以外の部分で投資対効果が出ていない事業やコストがかかっている箇所を洗い出し、改善点を修正しましょう。

また、適切なパートナーとのマッチングや成約後のPMIが重要となります。各分野に精通した専門家を社内に持つ場合を除き、一般的な企業にとってこうした作業は容易ではありません。そのため、相手先のマッチングやM&Aの実務に精通したM&Aアドバイザー選びがM&Aの成約において重要となるのです。

まとめ

M&Aによるシナジー効果を最大限に発揮するには、信頼できるM&Aアドバイザーを交えて、譲受(買い手)側と譲渡(売り手)側の企業双方がしっかりと関係を構築することが重要です。

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