近年のEC市場の拡大に伴い、細かな時間指定や温度管理など利便性の高い宅配便輸送が消費者の支持を得ており、運送業界のニーズは増加しています。国土交通省の調査によると、2017年度の宅配便取扱個数は2億3,272万個と、前年度と比較して5.8%の増加となりました。その結果、運送業界では深刻な人手不足が叫ばれています。2013年には佐川急便がAmazonとの取引を停止し、2017年前半にはヤマト運輸もAmazonの一部配送サービスから撤退するなど、世間を騒がせるほど配送物が増加し、運送業界のオペレーションが圧迫されています。

Amazonや楽天市場を中心としたネット通販市場は今後も成長が期待されるため、宅配便の需要は引き続き伸びていくと予想されます。加えて、国内の貨物輸送量全体でも前年比0.3%増と3年連続でプラスの数字を記録しており、今後も緩やかではありますが増加が見込まれています。

こういった状況を解決するための手法として、近年運送業界ではM&Aが注目を集めています。本記事では、運送業界の定義や現状を紹介し、運送業界の様々な課題を解決した最新のM&Aの事例を紹介していきます。

参考URL:国土交通省 平成29年度 宅配便取扱実績について

〜目次〜
運送業界とは?最新の業界動向を紹介
業界大手によるM&A事例4選(直近5年間)
2018年の運送業界のM&A事例4選
注目のM&A事例2選
専門家からのコメント
まとめ
この1冊で運送建設業界のM&Aの事情が分かる

今回話を聞いたM&Aアドバイザー


FUNDBOOK M&Aアドバイザー阿部 泰士 

阿部 泰士

株式会社FUNDBOOK
営業戦略本部 エグゼキューション部
ヴァイスプレジデント

大学卒業後、大手広告代理店に入社し、その後、大手外資系製薬会社にてMRとして腎不全医療に従事。2015年に日本M&Aセンターへ入社し、調剤薬局・IT・運送会社の業界専門M&Aコンサルタントとして、20件以上の中堅・中小企業の事業承継問題に関わる。1店舗の個人薬局から10店舗以下の中小薬局や、全国の中小中堅IT企業と上場会社の提携を数多く支援。2017年12月に当社参画、現在は運送業界、インターネットWeb業界・ソフトウェア業界、人材派遣業界を中心に全国の企業のM&A支援に取り組んでいる。

運送業界とは?最新の業界動向を紹介

運送業界とは、陸上、海上、航空運送のうち、主に陸上運送を指す物とされ、ここでは、陸上運送である、車(トラック)での運送を運送業界と定義します。公益社団法人全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業 現状と課題」(2017)によると、日本の物流事業全体の市場規模はおよそ25兆円で、このうち運送業界の市場規模は14兆5,449億円と物流市場の約6割を占めています。

運送業界は多重下請け構造となっており、ユーザー企業から仕事が大手企業へと受注された後、子会社や中小企業に仕事が下請けされていく流れです。労働集約型で、運転手一人が対応できる仕事量に限界があるため、スケールメリットが非常に重要です。また、全日本トラック協会「経営分析報告書」により、トラック運送事業の経営への影響を確認すると、軽油及びガソリンの価格上昇でトラック運送事業1社の営業利益率は他の数字が変わらなければ、計算上3.1%も悪化し、業界全体で大きな赤字を出すことになるなど、外的要因が多いことも特徴です。

業界の現状としては、2008年リーマンショックによる世界的な金融危機と同時不況により輸送需要が急速に減少したことから、2008年以降は、全輸送機関で減少傾向もしくは横ばい状態にあります。しかし、2018年以降もEC産業の成長により宅配便産業の需要増加が予想されるため、今後は緩やかではありますが成長していくと考えられます。

参考URL:経営分析報告書(概要版) 平成30年度 全日本トラック協会
参考URL:日本のトラック輸送産業 現状と課題 公益社団法人 全日本トラック協会
参考URL:貨物自動車運送事業法 (平成元年法律第八十三号)
参考URL:中小企業基本法 中小企業庁

業界大手によるM&A事例4選(直近5年間)

1.日本通運株式会社による名鉄運輸株式会社の資本業務提携

引用元:https://www.nittsu.co.jp/

日本通運株式会社は2016年4月、愛知県名古屋市で宅配便を含む陸運事業を業務とする名鉄運輸株式会社の株式の20%を取得し、資本業務提携を結びました。その結果、日本通運株式会社は親会社の名古屋鉄道株式会社に次いで、出資比率20%の第2位株主に台頭しています。名鉄運輸は1943年に創業し、特別積合せ運送事業を中心に名鉄運輸グループのネットワークを基盤に国内物流を展開している企業です。

この業務提携では、特別積合せ輸送ネットワークの相互利用、物流の連携強化、情報システムの共同開発、仕入れや購買の共同化による原価のコスト削減が狙いでした。両社は資本提携業務を結び、特に特別積合せ貨物運送事業の強化を図っています。

参考URL:名鉄運輸株式会社(証券コード 9077)との資本業務提携契約の締結及び同社株式の取得に関するお知らせ

2.香港ヤマト運輸株式会社による広州威時這沛運集団有限公司への出資

引用元:http://www.yamatohk.com.hk/jp/

ヤマトホールディングス傘下の香港ヤマト運輸株式会社は、2016年11月、中国広州市を本拠地とし、国際物流事業を展開する広州威時這沛運集団有限公司(以下、WTD)に出資しました。香港ヤマト運輸が、樟樹威馳及び広州威馳からWTDの持ち分を4割取得し、その後3年の間にヤマトグループが経営権を保有する予定です。

WTDは20年もの間、国際物流サービスに携わっており、売上高約74億円、営業利益約6億円(2015年)を計上していました。経済成長に伴い、中国はアジア進出の拠点だけに留まらず、消費市場としての魅力が高まっています。香港ヤマト運輸の宅配事業とWTDの企業間物流を組み合わせることで、現地での一貫輸送サービス提供を目的として今回の出資に至りました。

参考URL:広州市に本拠地をおく国際物流事業者 広州威時沛運集団有限公司への 出資に関するお知らせ  ヤマトホールディングス株式会社

3.日本郵政株式会社による豪州最大手トール・ホールディングスの買収

引用元:https://www.japanpost.jp/

日本郵政株式会社は2015年5月、豪州最大手トール・ホールディングスの株式を買収しました。トール・ホールディングスは、航空機を主体とした国際宅急便、宅配、ロジスティクスサービスを行っており、豪州だけでなく、欧米諸国やアジアでもネットワークを保持しています。グローバルなロジスティクスカンパニーとしての知名度もあり、国際間輸送にも定評・実績のあるトール社の買収は、海外展開に向けて着実な準備を行う狙いであったと考えられます。

参考URL:日本郵便による豪州物流企業Toll Holdings Limitedの株式の取得(子会社化)について

4.株式会社サカイ引越センターによる株式会社SDホールディングスの子会社化 

引用元:http://www.hikkoshi-sakai.co.jp/

2016年4月、引越運送業の株式会社サカイ引越センターは、株式会社ダスキンの親会社として、主にクリーンサービス事業を営んでいる株式会社SDホールディングスの株式を取得し、子会社化しました。サカイ引越センターは、2009年より株式会社ダスキンと業務提携し、サカイ引越センターの顧客にダスキンの商品を無料提供するなど、サカイ引越センターの顧客満足度を高めています。

SDホールディングスをサカイ引越センターグループ内に迎え入れ、引越の際の部屋の清掃サービスの需要をグループ内に取り込むことで、グループの業績・ブランドイメージを更に発展させることを狙い、子会社化するに至りました。

参考URL:サカイ引越センター 株式会社SDホールディングスの株式の取得について

2018年のM&A最新事例4選

1.株式会社丸和運輸機関による株式会社国際トランスサービスなど2社から生協向け個配事業の取得

引用元:http://www.momotaro.co.jp/

2018年3月、株式会社丸和運輸機関は、株式会社国際トランスサービスと関東運送株式会社の両社が受託していたコープデリ生活協同組合連合会(生活協同組合コープみらい)の商品個配事業を譲り受けました。個別配送サービスは、シニアや共働き・子育て世帯を中心に需要が高まっているため、首都圏における商品個配事業への参入を目的とした事業譲受です。

もともと丸和運輸は、関西圏で生活協同組合の商品個配事業を展開していましたが、今回の事業譲受により、首都圏でも同様のサービスに乗り出しました。

参考URL:事業譲受けによる新規個配事業の開始に関するお知らせ

2.鴻池運輸株式会社によるBEL INTERNATIONAL LOGISTICS LTD.の完全子会社化

引用元:https://www.konoike.net/

鴻池運輸株式会社は、2018年10月に香港の国際航空貨物会社BEL INTERNATIONAL LOGISTICS LTD.(以下、BEL社)の株式を完全子会社化しました。鴻池運輸は2015年に同社の株式を30%取得しており、追加取得による子会社化となります。BEL社は欧州向けの航空貨物事業を主力とし、近年、中東やインド、北米にも展開し、この3年間で貨物取扱量を約7割増やすなど注目を集めていました。鴻池運輸はBEL社を傘下に収めることにより、日系企業だけでなく現地の非日系企業や外資系企業にも、自社のロジスティクス事業を融合させた国際一貫物流サービスを提案し、取引拡大を目指しています。

参考URL:鴻池運輸、国際航空貨物フォワーディング事業の香港BEL社の発行済み株式100%取得(完全子会社化)を決議

3.SBSホールディングス株式会社によるリコーロジスティクス株式会社の連結子会社化

引用元:http://www.sbs-group.co.jp/

SBSホールディングス株式会社は、2018年8月に株式会社リコーの完全子会社で運輸・倉庫業のリコーロジスティクス株式会社の株式66.6%を取得し、連結子会社化しました。リコーロジスティクスは1964年にリコーの物流部門が独立して誕生し、リコーグループの物流全般を担っています。同社は国内に100を超える拠点、海外に5つの拠点を持っています。こうした中、SBSホールディングスは2017年に創業30周年の節目を迎え、成長戦略の一環としてリコーロジスティクスを連結子会社とし、運送ネットワークの強化、機械化・自動化への対応、海外事業への拡大を図る狙いです。

参考URL:リコーロジスティクス株式会社の株式譲渡契約締結に関するお知らせ

4.トナミホールディングス株式会社による株式会社ケーワイケーの完全子会社化

引用元:http://www.tonamiholdings.co.jp/

トナミホールディングス株式会社は、2018年4月、株式会社ケーワイケーの全株式を取得し、完全子会社化しました。株式会社ケーワイケーは、一般貨物自動車運送事業や営業倉庫、引越・事務所移転作業などを手がけている企業です。ケーワイケーの実運送力や地域密着型の配送サービスのノウハウを活かし、トナミグループの新たな企業価値の創造や、輸送サービスの高度化促進といった、事業拡大面においてのシナジー効果が狙いでした。

参考URL:株式会社ケーワイケーの株式取得のお知らせ – トナミホールディングス株式会社

3.注目のM&A事例2選

先程紹介した大手運送業社の中には、自社の運送サービスの強化を狙って異業種間とのM&Aを行った企業があります。ここでは注目の異業種間のM&A事例を2つご紹介します。

1.鴻池運輸株式会社によるエヌビーエス株式会社の完全子会社化

引用元:https://www.konoike.net/

鴻池運輸株式会社は、2018年5月にエヌビーエス株式会社の全株式を取得し、完全子会社化しました。エヌビーエス株式会社は、福岡に本社を構え、横浜、高砂、長崎に拠点を構えるプラント・エンジニアリング事業の電気工事業社です。2017年9月期の売上高は、7億558万円でした。

鴻池グループの注力事業であるエンジニアリングサービスを、エヌビーエスの子会社化によって強化し、従来のプラント機器・設備の機械設計・据え付け工事に加えて、電気・計装設計や運転管理まで一貫したサービスの提供を可能にしました。

参考URL:鴻池運輸/電気工事業のエヌビーエスの全株式を取得

2.日本通運株式会社による伊ファッション物流会社Transcof S.r.lの買収

引用元:https://www.nittsu.co.jp/

日本通運株式会社は、子会社の欧州日本通運有限会社を通じ、2018年3月にイタリアのファッション物流会社Transcof S.r.l(以下Traconf)を買収しました。Transcofはイタリア・ヴェローナに本拠地を構え、ファッション、ライフスタイル関連の倉庫保管、配送サービスを中心とした事業をイタリアをはじめオーストラリアやアメリカ、中国で展開しています。2017年12月期におけるTranscofの売上高は、1億3020万ユーロ(約170億円)でした。

日通グループの特徴である国際輸送、製品保管、市場への配送といったワンストップ型のロジスティクスを強化し、ネットワークを拡大、欧州にとどまらず、世界の「ファッションロジスティクス分野のリーディングカンパニー」を目指していく狙いです。2013年に買収しているイタリア高級ファッションブランドFranco Vago S.p.A.と連携させ、アパレル分野で高品質な物流基盤を形成しました。

参考URL:日通、伊アパレル物流を190億円で買収

専門家からのコメント

運送業界は、平成元年の物流二法の成立により、トラック運送事業は免許制から許可制になるなど、経済的規制が大幅に緩和されました。それに伴い、運送業界への新規参入者が増加しました。その時に参入した経営者が現在60代となり、後継者を探す時期を迎えています。そのため、運送業界のM&Aは、今後も増加していくと予測します。 
運送業界はここ2、3年で、売上が100億円規模の大手企業と、売上が1億円〜10億円の中小企業がM&Aを行うケース、中小企業同士がM&Aを行うケースが増えています。
 
この要因は、大手メーカーなどの荷主企業による物流子会社の切り離しがさかんに行われ、物流子会社によるM&Aが増加していることが挙げられます。運送業界は、外的要因が多い業界であり、ガソリン代といった燃料費の変動によって利益にも大きな影響を及ぼします。
 
M&Aによって大きなグループに入り込むことで、ドライバー数の増加や拠点の増加による配送の効率化といったスケールメリットを享受することができます。
 
また、佐川急便といった大手宅配会社が荷主に対して値上げすることを表明しましたが、中小企業は荷主に対しての立場が弱いため、大手企業のように荷主に対して値上げ交渉をすることが容易ではない状況です。
 
そのため、M&Aを行うことによって荷主への値上げ交渉力の強化を狙うことも可能となります。今後、運送業界の中小企業がこういった問題を解決し、健全な状態で企業を継続させるためには、M&Aを前向きに検討する必要があると思います。

まとめ

ECの成長スピードは非常に早いです。昨年のAmazon日本事業の売上高は1兆3335億円で、伸び率は前期比14.4%となりました。今後もそのペースで伸びていくと、10年後には大手宅配会社1社分の宅配貨物がマーケットに誕生する計算になります。つまり10年後には、物流のあり方そのものが大きく変わる時代がかなりの確率でやってくると言えるでしょう。

これらは、運送業界の更なるニーズが生まれる予兆ではないでしょうか。テクノロジーと共に運送業も生き残りをかけてM&Aが更に行われていくでしょう。売るのも買うのも正解ですが、どれだけ正しい情報を仕入れて早く行動するかが鍵となるでしょう。

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