経営戦略としてTOBによるM&Aや株式の取得を検討する場合、参考になるのは実際に行われた事例でしょう。特にどのような目的があり、会社間の関係はどういったものなのか、そしてTOBを行った目的が果たされたのかどうかが重要です。それらを事例から紐解いていき、理解することでTOBの実施を検討する際に活かすことができます。

本記事では、不成立のTOBやディスカウントTOBなど、様々なパターンの6つの事例を紹介します。

TOBとは?基礎知識をおさらい

TOB(Take-Over-Bid)とは株式の取得方法の一つで、市場を通して行う株式の買い占めとは異なり、期間・価格・株数などを公告した上で、証券市場を通さずに対象企業の株式を既存株主から大量に買付けることを指します。主に株式の取得による「経営権の取得」や、公開会社がMBO(=management buyout、経営陣による経営権の取得)のために自社株を取得するために用いられます。

また、TOBは大きく2種類に分けられます。対象企業の経営陣同意を得ずにTOBを行う場合を「敵対的TOB」、対象企業の経営陣が、TOBの実施に対して合意している場合は「友好的TOB」と呼びます。

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知っておきたいTOBの6事例

TOBは主に上場企業を対象として行なわれます。そのためニュースなどに取り上げられることも多く、特に敵対的TOBだと「乗っ取り」「短期的に利益を生み出そうとする強引な手法」というイメージを持たれるかもしれません。また、株式が公開されている以上、全ての上場企業が敵対的TOBの対象となり得ます。

しかし、敵対的TOBに対策する方法も複数存在します。例えば、敵対的TOBの対象となった企業が、友好的第三者に依頼してTOBを実行しようとする企業を上回る価格で株式を取得してもらうホワイトナイトという施策が挙げられます。

以下では、実際にTOBを活用した事例を紹介します。

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電通がセプテーニHDへTOB(業務資本提携)を実施した事例

引用元:http://www.dentsu.co.jp/

2018年10月、大手広告代理店の電通は、インターネット広告事業を手がけるセプテーニグループの持株会社、セプテーニHDと資本業務提携を結び、TOBにより最大20.99%のセプテーニHD株を取得すると発表しました。両社は広告事業を行っており、主にマスメディア向けの広告を行ってきた電通は、成長著しいネット広告市場において、セプテーニHDのノウハウを活かしてシェア拡大を目指します。

TOB発表前に資本業務提携の話がまとまっていたことから、両社間では今後の協力について同意されており、友好的TOBになります。結果、買付けは予定通りに株式が取得されました。

なお、20.99%という目標は、セプテーニHDを電通の連結決算に加える「持分法適用会社」(関連会社)化するために必要な数字になります。あくまで資本業務提携であり、株式の所有率が50%超ではないため子会社化とは異なります。

スタートアップ企業XTech(クロステック)が老舗ネット企業エキサイトへTOBを行った事例

引用元:https://xtech-corp.co.jp/

2018年9月、ネット関連事業を手がけるXTechは、ポータルサイトや検索エンジン、Web広告などを手がけるエキサイトに対してTOBを行うと発表しました。2018年1月に設立したばかりのXTechが、1997年に設立された、ネット企業の中では老舗であるエキサイトを子会社化したこの事例は、変化の激しいIT業界を象徴するような事例といえます。

当時、エキサイトは3期連続の営業赤字になっており、業績が低迷していました。その中でXTechはエキサイトの株式のうち95.15%を取得し、完全子会社化により経営再建を目指します。TOBの実施については、エキサイトの賛同が得られ、また、エキサイトの大株主である伊藤忠商事(筆頭株主)とスカパーJSAT(第2位株主)も応じるなど、友好的TOBとなり、実際にTOBは成功となりました。そして2018年11月、TOBの履行のため、エキサイトはジャスダック上場廃止となりました。

Mipoxが日本研紙に対して友好的TOBを行った事例

引用元:https://www.mipox.co.jp/

2016年5月、Mipoxは日本研紙の発行済株式の全てを取得し、完全子会社化するためのTOBを行うと発表しました。

両社は同じ研磨材業界の企業です。日本研紙は日本や東南アジアに販路を持っていたものの、中国市場での業績不振やハイテク向け受注の減少により、売上が減少していました。対応策として、以前から取引のあったMipoxに対して支援要請を行いました。Mipoxは日本研紙の研磨布紙事業などが有益であり、子会社化によって両社の収益成長力を最大限に発揮できる、という判断からTOBに至っています。

友好的TOBであり、実施発表時に日本研紙の経営陣から約21.5%の応募契約を締結していたため、TOBは通常通りに成立しました。2016年9月には日本研紙の東京証券取引所市場第二部における上場廃止が発表されました。

敵対的TOBに対する富士通の対抗策失敗という、日本では珍しい事例

引用元:http://www.fujitsu.com/jp/

2017年2月、機械メーカーであるフリージアマクロスの会長であり、個人投資家でもある佐々木ベジ氏は、電子部品商社であるソレキアに対してTOBを仕掛けます。このTOBの実施はソレキアの経営陣に対して事前に告知されておらず、経営陣の同意を得ない敵対的TOBとなりました。これに対し、創業時からソレキアと取引関係にあった富士通より、防衛策であるホワイトナイトを実行する旨の提案が行われ、これをソレキアは承諾しました。富士通も実質的にグループの系列商社になっている同社を守るために防衛施策の実行を発表します。

佐々木氏が最初に財務省関東財務局に届け出た株式の取得価格2,800円に対し、富士通は1株3,500円、総額25億7,000万円でのTOBを発表しました。そして、両社は株式の買取価格の引き上げと買付け期間の延長を繰り返すことになります。結果として富士通5,000円、佐々木氏5,450円となったところで富士通はTOB価格を据え置くことを発表しました。

結果、富士通が定めた5月22日の買付け期間終了日に富士通のTOBは不成立し、佐々木氏は5月24日に28万5,499株を取得したことを発表します。この数字は議決権ベースで33.69%となり、佐々木氏が筆頭株主になりました。さらに、TOB開始前からフリージアマクロス社が保有していた株式数を合算すると39.64%となり、佐々木氏は株主総会において経営に重要な事案を決める特別決議を単独で拒否可能となったため、経営に大きく関与できることになりました。

近年、日本ではM&Aが活発に行われる中で、TOBの件数はあまり多くありません。株式会社レコフが調べた2018年度の統計によると、日本国内におけるM&Aは約2700件行われており、TOBの件数は約45件しか行われていません。その中でも敵対的TOBは1件とごく少数です。敵対的TOB自体が少ない上に、防衛策を講じたものの失敗した事例は珍しいケースと言えるでしょう。

三井化学がアークに対してディスカウントTOBを行った事例

引用元:https://www.mitsuichem.com/jp/index.htm

2017年11月、化学メーカーの三井化学は、工業製品(自動車・家電)の先行デザイン・解析シミュレーションなどを手がけるアークに対して、ディスカウントTOBを行うと発表しました。

通常のTOBでは、より多くの株主から株を取得しやすくするために、発表時の株価(市場株価)に一定のプレミアムを上乗せした価格で買付けるのが一般的です。しかし、この事例では発表時の東京株式市場の終値に比べて10円安い取得価格が発表され、「ディスカウントTOB(割安TOB)」の実施となりました。ディスカウントTOBを行う際は通常、買付者と大株主(譲渡側)が事前交渉して、価格を予め決めて行われます。

目的は、株式の買取価格を市場価格より安く設定することで、必要最低限の株式だけを買取ることです。これにより、予め決めた量の株式だけを買付けやすくなる上に、マーケットインパクト(自分自身の大量の売り注文で株価が下がること)を避けることができます。

実際に、本件は最大約403億円と見積もられた買取価格が約301億円で成立し、三井化学は当初の予定よりも低い価格でアークのグループ企業化に成功しました。自動車の設計段階で樹脂材料を販売したり、新製品開発に役立てるという目的を果たしています。

割安TOBについて詳しくは以下の記事をご参照ください。

▷関連記事:TOB(株式公開買付け)とは?友好的・敵対的TOBの意味や防衛策を解説

アトミクスが自社株式をディスカウントTOBした事例

引用元:https://www.atomix.co.jp/

2013年8月、塗料大手のアトミクスは、TOBによる自社株の買付けを行うと発表しました。同社の株価は公表前日終値で420円でしたが、TOB価格は1株400円でした。市場価格から約5%低い募集価格のディスカウントTOBとなりました。

これは創業家の資産を管理する西川不動産が、保有するアトミクス株の一部を売却することを決めたためです。資産の社外流出を抑えたいアトミクス社は、取得総額の上限を約9億2,000万円に定め、ディスカウント価格での買付けを計画しました。結果として、8億8000万円をかけて23.3%の株式を取得しています。

まとめ

以上が、TOBを成功に導くために知っておきたい6つの事例です。それぞれ、シェア拡大やグループ企業化、経営再建、敵対的買収の阻止、資産管理などの目的があり、TOBを検討する経営者にとって、自社のケースに当てはまる部分があるかと思います。

事例の知識があれば、TOBについての専門家の意見もスムーズに理解することができるでしょう。ここで得た知識を活かした上でM&Aアドバイザーなどの専門家に相談することを推奨します。