SPAC(特別買収目的会社)とは、Special Purpose Acquisition Companyの略で未公開会社の買収を目的として設立される法人を指します。
2023年2月4日、株式会社A.L.I. Technologies(東京都港区:代表取締役社長 片野大輔、以下「A.L.I.」)が、A.L.I.の米国法人であるAERWINS Technologies Inc(米デラウェア:Chairman & CEO Shuhei KOMATSU、以下「AERWINS」)と、SPACのPONO Capital Corp(米デラウェア:CEO Dustin SHINDO : Ticker Code “PONO”)が、当事者間のDe-SPAC契約による企業合併が完了したことを発表しました。これにより、AERWINSの株式が、NASDAQにて、「AWIN」のティッカーシンボルで米国ニューヨーク時間の2023年2月6日から取引開始され、日本国内史上初のDe-SPACによるNASDAQ上場が実現し、日本国内でもSPACへの注目が高まっています。
注目が高まるSPAC(特別買収目的会社)について、この記事では現役のM&Aアドバイザーがメリットやデメリットなどを解説していきます。
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目次
SPAC(特別買収目的会社)とは?
冒頭に記載した様にSPAC(特別買収目的会社)とは、未公開会社の買収を目的として設立される法人のことを指し、読み方は、「SPAC(スパック)」です。英語のSpecial Purpose Acquisition Companyの頭文字を取ったものです。
SPAC(特別買収目的会社)は、設立・上場の時点では、自らは事業を行なっていないペーパーカンパニーです。
上場後に、株式市場から資金調達を行い、これを原資として未公開会社を買収します。この買収プロセスの中で買収先会社とSPAC(特別買収目的会社)を合併させることにより、買収先会社が従来の上場のプロセスを経ることなく株式市場に上場できるというスキームです。
買収を目的とした企業なので、SPAC(特別買収目的会社)は、「白地小切手会社」や「ブランク・チェック・カンパニー」とも呼ばれています。事業を持っていないため「空箱」にも例えられます。
SPAC(特別買収目的会社)には、著名な経営者や投資家が代表に就任するケースが多いようです。この代表者の知名度と将来的な事業買収への展望を謳うことにより、SPACは市場から潤沢な資金を調達して、計画に従って未公開会社を買収することになります。
なお、SPAC(特別買収目的会社)と名称が似ているものにSPC(特別目的会社)があります。
SPC(特別目的会社)はペーパーカンパニーという意味ではSPACと同じですが、SPCはIPOスキームではなく、証券化・流動化等のスキームで利用されることが多い会社です。
長くなるため、詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にされてください。
関連記事:SPC(特別目的会社)とは?導入目的や手続き、メリット・デメリットを分かりやすく解説
SPAC(特別買収目的会社)のメリット・デメリット
SPAC(特別買収目的会社)のメリットとデメリットを詳しく解説していきます。
特別買収目的会社(SPAC)のメリット
SPAC(特別買収目的会社)のメリットは、主に以下のものです。
・メリット1:少額の資金で未公開株式への投資に参加できる
SPAC(特別買収目的会社)に投資することにより、未公開株式取引(すなわち未公開株が公開されたときのキャピタルゲインを狙った投資取引)に参加できますし、計画途中での売却も可能です。
未公開企業への投資取引はリターンが大きい分一般的には参入が難しい取引であるため、当該取引に参加できるという点はメリットと言えるでしょう。
・メリット2:投資家保護の規定があるため、投資を回収できる可能性が高い
SPAC(特別買収目的会社)スキームが認められている米国では当該スキームについて一定の投資家保護の制度があるようです。そのため、全く未知の未公開株投資取引よりは、ある程度安心感をもって参加できるといえそうです。
例えば、SPAC(特別買収目的会社)は通常24ヶ月以内に未公開企業の買収ができなかった場合は投資した資金のほとんどが投資家に返還されます。
投資家保護の規定に関しては、長くなるので、後の章で詳しく解説します。
特別買収目的会社(SPAC)のデメリット
SPAC(特別買収目的会社)には、以下の2点のデメリットもあります。
・デメリット1:未公開企業の買収を短期間で完了する必要がある
SPAC(特別買収目的会社)には、「上場から24カ月以内に未公開企業を買収しなければいけない」というルールがあります。
そのため、未公開企業の買収を短期間で完了する必要があります。場合によっては、未公開企業に「早く買収を完了しなければならないのだろう」と足元を見られて買収価格が高くなる恐れがあります。
未公開株の買収には売主との条件交渉が必須であるため、必ずしも想定通り買収計画が進むとは限らないことや最終的な買収の可否がSPACの株主総会決議で否決される可能性があることは投資上のリスクと言えそうです。
・デメリット2:未公開企業への投資リスクがある
SPAC(特別買収目的会社)は、未公開企業への投資リスクもあります。
SPAC(特別買収目的会社)自体は上場をしていても、買収する企業は未公開企業なので、簿外負債の有無やコンプライアンスの遵守など、経営状態を把握しておく必要があります。
2020年6月には、トラック事業の「ニコラ・モーター」がSPAC(特別買収目的会社)に買収され、ナスダックに上場しました。一時期は93ドルもの株価がつきました。
しかし、2020年9月には、「誇大広告」の話が持ち上がった際に株価は16ドルにまで急落し、投資家は未公開企業のリスクを体験することになりSPACに対する法制度や規制が整備されるきっかけにもなりました。
従来のIPOとSPACのIPOについて
従来のIPOとSPACのIPOを表にまとめました。
主な違いは、上場までの期間と上場審査の厳しさです。
従来のIPO | SPACのIPO | |
上場までの期間 | 長い | 短い |
上場審査の厳しさ | 厳しい | 簡素 |
SPACのIPOであれば、IPOプロセスを簡略化することができます。既存の事業がないので、投資家に対して事業リスクに関する説明を省くことができるからです。IPOに必要なIPO登録明細書も最小限で済みます。
SPACは、従来のIPOに比べて上場までの期間が短く、上場審査も簡素なことが特徴です。
また、SPAC(特別買収目的会社)は上場後に買収をすることで、従来のIPOでは上場が難しい業態でも、上場をさせやすいとされています。
実際、ヴァージン・グループの創設者リチャード・ブランソン氏は、SPAC(特別買収目的会社)を使って、2019年に宇宙旅行会社のヴァージン・ギャラクティック (Virgin Galactic) を上場させました。宇宙旅行会社の上場は、史上初です。
SPAC(特別買収目的会社)のルール
SPAC(特別買収目的会社)には、投資家を保護し、不正を防止するためのルールがあります。
・上場から12~18カ月の間に買収をアナウンスして、24カ月以内に買収を完了する
・上場後は資金の9割近くを信託する
・買収には株主の一定数以上の同意が必要
・買収できなかった場合、利息をつけて資金を返還する
これらのルールにより、「資金を濫用する経営者」や「自分の出資している会社を高額で買収する経営者」から投資家たちは、守られるようになりました。
SPAC(特別買収目的会社)の歴史
SPAC(特別買収目的会社)の歴史をお伝えします。
SPAC(特別買収目的会社)自体は、1980年代から存在していました。しかし、当時は以下のような不正にも使われていたため、悪いイメージがありました。
・市場から調達した資金を運営者が私的に利用する
・自分が出資している会社を高額で買収する
・買収のうわさを流し自社の株価を釣り上げてから売り抜ける
上記のような不正やトラブルが多発したため、1990年代に米国証券取引委員会(SEC)がSPAC(特別買収目的会社)のルールを厳しく定めた背景があります。ルールについては、後の章で解説します。
なお、1990年代や2000年代は、ITバブルで従来のIPOが盛り上がっていたため、SPAC(特別買収目的会社)はほとんど活用されませんでした。
しかし、数年前からはアメリカや日本においてSPAC(特別買収目的会社)が注目を集めています。
SPAC(特別買収目的会社)が米国や日本で注目されている理由
SPAC(特別買収目的会社)はなぜ、米国や日本で注目されているのでしょうか。
理由を解説致します。
米国:SPAC(特別買収目的会社)が注目される理由
2020年7月〜9月の米国の新規株式公開(IPO)市場が調達した630億ドル(約6兆6千億円)の約半分は、SPAC(特別買収目的会社)が占めました。
その理由は、以下のものが考えられます。
・従来のIPOを選択しない企業が増えた
・著名人の参加による信用度の向上
・新型コロナウイルスの影響
それぞれ順番に解説していきます。
・理由1:従来のIPOを選択しない企業が増えた
従来のIPOでは、上場するための審査に莫大な時間とお金がかかってしまいます。
それに対して、SPAC(特別買収目的会社)を使えば、IPOのプロセスを簡略化できるため、従来のIPOを選択しない企業が増えたと考えられています
・理由2:著名人の参加による信用度の向上
1980年代は不正に使われることが多かったSPAC(特別買収目的会社)ですが、近年は著名人が参加することで、信用度が向上しました。
実際、UBSの代表者を務めたセルジオ・エルモッティ氏や「物言う投資家」のビル・アックマン氏がSPAC(特別買収目的会社)への投資に参加しています。
・理由3:新型コロナウイルスの影響
新型コロナウイルスによって、従来のIPO計画が破綻・頓挫した企業や投資家がSPAC(特別買収目的会社)の活用に走ったのも、理由の一つと考えられます。
日本:特別買収目的会社(SPAC)が注目される理由
冒頭に記載した様にAERWINSの米国ナスダック市場へのDe-SPAC上場が実施された一方、日本国内ではSPAC(特別買収目的会社)を用いた上場はまだ認められていません。
ただし、2021年6月の成長戦略会議でSPAC(特別買収目的会社)制度の導入に向けた検討を進める方針が打ち出されたと報道があり、同年10月には東京証券取引所主催で『第1回 SPAC制度の在り方等に関する研究会』が開催、更に同年11月には岸田文雄首相が設置した「新しい資本主義実現会議」において特別買収目的会社(SPAC)導入の検討が盛り込まれた緊急提言がまとめられました。
上記の様に日本でもSPAC(特別買収目的会社)制度の導入が前向きに検討されており、今後の動向に注目が高まっています。
まとめ
本記事で触れた様にAERWINSのナスダック市場へのDe-SPAC上場や、SPAC(特別買収目的会社)導入の前向きな議論が行われている事により、日本でも注目を集めています。
日本もアメリカと同じく従来の上場のプロセスが複雑なため、SPAC(特別買収目的会社)によって従来のプロセスを経ずに上場する企業が出てくるかもしれません。
SPAC(特別買収目的会社)の日本での動向に注意を向けておいてもいいでしょう。