海外M&A 事例
少子高齢化や人口減少により、国内市場は伸び悩んでいます。そんな中、企業が生き残るためにグローバル展開を意識し始めている経営者も多いのではないでしょうか。
海外進出の方法の1つとして、海外企業のM&Aがあります。海外の企業を買収することで、海外進出を実行するまでの時間や手間を短縮することが可能なためです。また既に海外で事業を行っている企業を買収することで、海外進出したあとに事業が失敗するリスクを低減することができます。
今回はM&Aで海外展開を行った企業について、様々な角度から見た事例をご紹介いたします。また、M&Aの案件を数多く手がけるアドバイザーによる近年の海外M&Aの傾向や、海外M&Aを成功させる秘訣についても解説いたします。

目次
2000年以前から海外M&Aを行い成長を続ける企業
海外M&Aを行っている業界大手の企業
海外M&Aを行っている急成長企業
1兆円を超える大規模海外M&Aを行った企業
専門家によるコメント
まとめ

今回話を聞いたM&Aアドバイザー


FUNDBOOK M&Aアドバイザー伊藤浩介 

伊藤 浩介

株式会社FUNDBOOK
営業戦略本部 エグゼキューション部
ヴァイスプレジデント

東京工業大学大学院理工学研究科、一橋大学大学院国際企業戦略研究科(MBA)修了。2007年にみずほ証券株式会社の投資銀行部門にて主にIT、製造、小売、建設、不動産等の企業に対するM&A、資金調達のアドバイザリー業務、IT・ゲーム・アミューズメント関連企業の株式調査業務に従事。その後、SMBC日興証券株式会社の投資銀行部門にて製造、通信、IT、メディア等の企業に対するM&A及びIPOのアドバイザリー業務を行う。

2000年以前から海外M&Aを行って成長している企業

海外企業のM&Aと聞くと、その馴染みの薄さから、最近になって活発化してきたイメージがありますが、実は早い時期から行っていた企業も存在します。ここでは2000年以前から海外M&Aに注力している企業について紹介します。

1.JT(日本たばこ産業株式会社)

JT HP

引用元:https://www.jti.co.jp/

 

JT(日本たばこ産業株式会社)は、1999年に「Winston」や「CAMEL」などのブランドを展開するRJRナビスコ社の海外タバコ事業を約9,400億円で買収しました。その結果、販売本数は200億本から一気に2,000億本以上に増加し、世界第3位のタバコメーカーになりました。

また、2007年には「BENSON&HEDGES」や「SILKCUT」などのブランドを展開するイギリスのギャラハー社を約2兆2,000億円で買収し、世界第3位の地位を確立、そして欧州市場への参入を実現しました。

しかし、まだ上位2つの企業との差は大きく、また近年中国企業も台頭してきています。そこで2017年にインドネシアでたばこ事業を展開するカリヤディビア・マハディカ社など2社を約1,100億円で買収した他、2018年にはロシアのたばこ会社ドンスコイ・タバック社を約1,900億円で買収するなど、更なる海外展開を目指しています。

参考URL:JTのM&A戦略
参考URL:当社グループによるインドネシアのクレテックたばこ会社及び流通販売会社の買収に関する契約締結について
参考URL:当社グループによるロシアたばこ会社等の買収完了について

 

2.日本電産株式会社

日本電産 HP

引用元:https://www.nidec.com/ja-JP/

 

日本電産株式会社は、モーター事業を中心として家電製品や産業機器、光学機械などの製品を製造、販売している会社です。創業は1973年ですが、その11年後の1984年にはアメリカのトリン社の軸流ファン部門を買収しており、以降海外企業のM&Aを繰り返してきました。

2018年8月までに60社ものM&Aを行っており、うち海外企業は35社と半分以上です。M&Aの効果もあり、創業時従業員数4名だった企業が、従業員数10万人、売上1兆円を超える大企業へと成長しました。

参考URL:M&Aの歴史

 

海外M&Aを行っている業界大手の企業

国内市場が成熟していることもあり、様々な業界の大手企業は新たな市場を求めて海外進出を進めています。ここでは近年海外M&Aに力を入れている企業について紹介します。
 

1.株式会社電通

電通 HP

引用元:http://www.dentsu.co.jp/

 

国内最大手の広告代理店である株式会社電通ですが、国内広告業界の市場規模の伸び悩みを背景として、M&Aによる海外進出に乗り出しました。2013年にイギリスの広告会社であるイージス社を約4,090億円で買収して以降、積極的にM&Aを繰り返しています。

2017年度末までに134社もの海外企業を買収しており、海外の売り上げが全体の約59%を占め国内の売り上げを上回る結果となっています。2018年度にも、ノルウェー、チリ、アルゼンチン、オーストラリアなど世界中の広告代理店やメディアエージェンシー、データマーケティングの会社の買収を発表しており、世界規模でのM&Aへの積極さが伺えます。

参考URL:英国イージス社の買収完了と電通グループの新しい事業統括体制について

 

2.株式会社セブン&アイホールディングス

セブン&アイ HLDGS HP

引用元:http://www.7andi.com/

 

株式会社セブン&アイホールディングスはコンビニエンスストアのセブン-イレブンや、総合スーパーのイトーヨーカ堂、百貨店のそごうや西武、金融サービスのセブン銀行など、多岐に渡るサービスを展開しています。

日本のコンビニエンスストア業界の市場が成熟したこともあり、2018年に米国の中堅コンビニエンスストアであるスノコLP社からコンビニエンスストア事業とガソリン小売事業を約3,650億円での買収に踏み切りました。国内市場の伸びが鈍化する中で、アメリカでの店舗網を拡充させてアメリカでの売り上げの向上が狙いです。この買収の効果もあり、2018年2月期の決算では海外コンビニエンス事業の営業利益が前年比で17.3%増加しており、全体の営業利益の増加に貢献しています。

参考URL:当社子会社による米国 Sunoco LP 社からの一部事業取得に関するお知らせ

 

3.第一生命ホールディングス株式会社

第一生命HLDGS HP

引用元:https://www.dai-ichi-life-hd.com/

 

第一生命ホールディングス株式会社は、2007年にベトナムの保険会社バオミンCMGを買収しました。これを皮切りに、2011年にオーストラリアの生命保険会社であるタワー・オーストラリア・グループを約996億円で買収し、さらに2015年にはアメリカの生命保険会社のプロテクティブ社を約5,822億円で買収しました。

他の大手生命保険会社も、縮小傾向の国内市場を背景としてアジアや新興国などへの進出を進めており、保険業界では今後も海外企業のM&Aが行われていくでしょう。

参考URL:ベトナム社会主義共和国における生命保険会社買収について
参考URL:タワー社の完全子会社化に関する契約締結について
参考URL:米国の生命保険グループ Protective Life Corporation の完全子会社化について

 

4.リクルートホールディングス株式会社

リクルート HP

引用元:https://www.recruit.co.jp/

人材業界では国内第1位のリクルートホールディングス株式会社は、国内での人材派遣市場での地位を確立した後に、国内で培ったノウハウを生かして海外進出を行いました。2012年にはアメリカの人材募集の検索エンジンを運営するIndeed社を約1,300億円で買収しました。Indeedを初めとするHRテクノロジー事業の高成長の影響もあり、2017年度の売上は過去最高である2兆円を突破しています。

2018年5月には、求人関連の口コミサイトを運営するアメリカのグラスドア社を約1,200億円で買収すると発表しました。求人検索のIndeedと口コミのグラスドアを組み合わせることで、大きな相乗効果が得られ、更なる収益の増加を図るようです。

参考URL:米国Indeed Inc.の株式取得(完全子会社化)に関するお知らせ
参考URL:Glassdoor, Inc.の株式取得(子会社化)に関するお知らせ

 

海外M&Aを行っている急成長企業

海外M&Aは大企業のみならず、急成長を遂げている会社がより成長しようと実施する場合もあります。ここでは、創業20年ほどで、海外M&Aを繰り返し行ってきた企業を紹介します。

1.楽天株式会社

楽天 HP

引用元:https://corp.rakuten.co.jp/

1997年に設立された楽天株式会社は、多方面に渡る分野でのビジネスを行ってきましたが、その事業の多くがM&Aによって獲得したものです。

2005年にアメリカのLinkShare社を約464億円で買収して、アメリカでのアフィリエイト市場に参入してからは、2012年にカナダのKobo社を約236億円で買収、電子書籍市場へと参入しました。その他にも、2014年にはキプロスのバイバー・メディア社の無料メッセージングアプリViberを約920億円で買収しています。楽天は創業以来売上高を伸ばし続けており、2017年度の売上高は約9,445億円となっています。

参考URL: LinkShare Corporation の子会社化ならびに海外進出に関するお知らせ
参考URL:カナダの電子書籍事業者Kobo社の買収に関するお知らせ
参考URL:Viber Media Ltd.の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ

 

2.クックパッド株式会社

クックパッド HP

引用元:https://info.cookpad.com/

料理レシピのウェブサイトを運営しているクックパッド株式会社ですが、世界各地でM&Aを行ってきました。2014年にスペインのITYIS SIGLO XXI社からレシピサービスの「Mis Recetas」を約11.5億で買収し、同年にアラビア語のレシピサービス「Shahiya」を運営するレバノンのNetsila社を約13億円で買収しています。

これらの買収の影響もあり、クックパッドは現在世界67ヶ国においてレシピサービスを提供しています。

参考URL:スペインにおける子会社の設立及び子会社における事業譲受けに関するお知らせ
参考URL:孫会社の設立及び孫会社による Netsila S.A.L.の株式の取得(曾孫会社化)に関する基本合意書締結に関するお知らせ
 

1兆円超え!大規模海外M&Aを行った企業

海外企業の買収では大規模なものも多いですが、中には買収額が1兆円を超えるものもあります。ここではそのような買収を行った企業を紹介します。

1.ソフトバンクグループ株式会社

ソフトバンク HP

引用元:https://www.softbank.jp/corp/

1992年の株式公開以降、アメリカ、中国、韓国、シンガポール、インドといった世界各地の企業を買収し、売り上げを伸ばしてきました。2007年にボーダフォン日本法人を1兆7,820億円で、2013年には米国携帯電話3位のスプリント社の株式の78%を1兆8000億円で買収して、通信事業を拡大しました。

また最近では、2016年に英国半導体開発大手のアーム・ホールディングス社を約3兆3,000億円で買収するなど、買収額が1兆円を超えるM&Aを複数回実施しています。2013年度の売上が約3兆2,000億円であったのに対して、2017年度の売上が約9兆1,500億円と3倍近く売上を伸ばしています。

※2018年4月30日、スプリントとTモバイルが合併し、スプリントはソフトバンクの子会社では無くなりました。

参考URL:ボーダフォン買収完了に関するお知らせ
参考URL:スプリント買収(子会社化)の完了に関するお知らせ
参考URL:ARM買収(子会社化)の完了に関するお知らせ

2.武田薬品工業株式会社

武田薬品工業 HP

引用元:https://www.takeda.com/ja-jp/

2018年5月、武田薬品工業株式会社は、アイルランドの大手製薬メーカーであるシャイアー社を約6兆8,000億円で買収することを発表しました。実現すれば日本企業によるM&Aでは過去最大となり、武田薬品工業は世界の製薬業界でトップ10に入ります。また、武田薬品工業は2017年にもアメリカのアリアド社を約6,300億円で買収しており、近年大規模なM&Aをいくつも実施しています。

参考URL:武田薬品によるシャイアー社買収の申出について

 

専門家によるコメント

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①クロスボーダーM&Aが盛んな理由
現在、日本国内の市場は縮小しています。その背景には少子高齢化による生産人口の減少や、製造業のビジネスモデルの崩壊による雇用の喪失、ネット技術の進化により従来型の産業が衰退したことが挙げられます。さらに、ものづくりの時代が過ぎ、iPhoneや電子タバコのような革新的なビジネスを創出する力も弱いため、今後国内市場が継続的に成長していくことも難しいのが現状です。一方で海外市場は成長率が高いため、日本の成長率の鈍化状態を打破するために海外進出を行う企業が増加しており、今後も海外進出のためのM&Aは増えていくでしょう。
 
②今後もクロスボーダーM&Aは増えるか
産業別に見ると、IT、ネット系の会社の海外M&Aは増加すると考えられ、またレガシービジネスも、シェア拡大のために海外M&Aを行っていくと思われます。また、製造業においても、日本企業の立場からは海外市場取り込みや技術の獲得を目指して海外進出を図る企業が一定数存在すること、海外企業の立場から見ると、国内の人件費の高さや国内市場の縮小という課題はあるものの、日本企業の高い技術力やブランド獲得の観点から、海外企業による日本企業の買収は増加するものと考えられます。そのため、製造業でも海外M&A(In-Out、Out-In)は増加していくと見込まれます。
 
③日本のM&Aと海外M&Aの違い
クロスボーダーのM&Aは、日本と海外での税制、法制度、会計制度の違いがあり、デューデリジェンスの範囲や内容も多岐に渡るため、その手続きが煩雑になります。また、日本と海外では言語や文化が異なるため、M&A成約後のPMIが難しいものとなります。そのため、日本国内でのM&Aよりも時間や手間が掛かることを予め想定し、リスクについても十分に考慮しながらM&Aを行っていくことが成功の鍵となるでしょう。

 
 

まとめ

近年、海外企業の買収を行う企業が増加しており、実際に2018年度上半期の日本企業の海外企業に対するM&A額は過去最高の11兆7,361億円となり、件数も過去最大の340件となりました。

M&Aが業績向上の全ての要因というわけではないですが、海外企業のM&Aを行った企業の多くが業績を伸ばしています。また、今後海外M&Aの効果が出てくると期待される企業も多くあります。

買収した企業が思ったような収益を残せず、負債を抱えてしまうというリスクもありますが、M&Aは海外進出、海外展開の有力な手段の1つと言えるでしょう。