M&Aを検討する際には、どれくらいの費用や期間がかかるのか、どのような手順で進むのかなどが気になるでしょう。また、経営者や投資家が特に注意しておきたいのは、M&Aが株価に与える影響です。
株価が上昇・下落することによって、譲渡・譲受企業が受ける影響も様々です。
今回はM&Aにより、譲渡・譲受企業それぞれの株価はどのような影響を受けるかについて、実際の事例を交えながら紹介します。
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株価変動の主な要因
株価は通常、需要と供給で価格が決定されます。株式を発行する企業を購入したい方が多ければ株価は上昇し、売却したい方が多ければ株価は下落します。
株価に影響を与えるのは、主に企業自体の要因と市場を取り巻く経済状況の要因です。企業の業績が好調であれば、配当の増加などが見込め、株価は上昇しやすくなります。また、金利や外国為替の変動、政治や国際情勢なども、株価に影響を与える要因です。
M&Aによる株価への影響は?
M&Aとは、企業の合併と買収を意味する「Mergers and Acquisitions」の略です。資本の移動を伴うM&Aは、企業の事業承継や事業規模の拡大といった目的を達成するための手段として活用され、多くの場合株価に影響を与えます。
M&Aの実施でシナジー効果が生じ、企業の売上や利益が向上すれば、株価の上昇が期待できます。
一方、期待した効果が得られなければ、株価が下落する可能性もあります。
特に、譲受企業にとって、M&Aは自社の事業の多角化や地盤強化など、経営戦略の一環です。事業の成長を見込んだ投資家の売買行動が、株価の変動につながります。
▷関連記事:M&Aとは?M&Aの意味・流れ・手法・費用など基本をわかりやすく解説
▷関連記事:企業買収で株価は上がる?下がる? 株価が変動する理由や事例を解説
M&Aで株価が上昇する理由
M&Aで株価が上昇する理由の1つに、事業の多角化やスケールメリットといったシナジー効果が得られるという点が挙げられます。
譲渡企業と譲受企業の事業や企業の持つ強みがうまく作用すれば、シナジー効果によって企業価値が向上し、結果として株価の上昇につながることがあります。
M&Aで株価が下落する理由
M&Aを実施すると、株価が上昇する場合もあれば、下落する場合もあります。M&Aで株価が下落する場合に考えられる主な理由は次のとおりです。
・M&Aに対する市場評価の低さ
・M&A成立後のPMIリスクへの不安
・M&A成立後の業績悪化
株価が下落する理由①M&Aに対する市場評価の低さ
前述のように、株価は市場の需要と供給で決定されます。M&Aによるシナジー効果や将来的な業績向上が期待できないと市場から評価された場合、株価が下がることがあります。
その他、譲渡企業を過大評価していると市場が判断した場合や、譲渡価格が企業規模と見合わない高額である場合なども、株価が下がる可能性があります。
株価が下落する理由②M&A成立後のPMIリスクへの不安
PMIとは、M&A成立後の統合作業です。PMIでの譲受企業と譲渡企業の統合は、当初想定したM&Aの効果を実現する重要なプロセスになります。
譲渡企業と譲受企業の統合が難しいと考えられる場合などは、投資家は両企業における今後の業績を不安視し、株価が下がる要因になり得ます。
株価が下落する理由③M&A成立後の業績悪化
M&A成立後に業績が悪化した場合、株価が下がる可能性があります。
M&Aを実施したケースに限らず、業績の悪化は投資家からの信頼を損なう要因です。また、M&A計画時には予測できなかった事態により業績が悪化し、株価にマイナスの影響を与える場合もあります。
株価へ影響を与えるTOB(株式公開買付)とは
TOB(株式公開買付)とは、Take-Over Bidの略で、期間、価格、株数などを公告し、証券取引所を通さず対象企業の株式を既存株主から大量に買い付けることを指します。
一般的にTOBはより多くの株主から株を取得しやすくするために、TOB発表時の株価に一定のプレミアムを上乗せした価格で買い付けます。
TOBを行った後に完全子会社化する場合は、特別な事情がない限り「TOB公表前1ヵ月間の市場株価の終値の平均値」が株式の買取り価格となります。その買取り価格に応じて株価が変動します。
▷関連記事:TOB(株式公開買付)とは?友好的・敵対的TOBの意味や防衛策を解説
M&Aによる譲受企業の株価変動
M&Aで知名度の高い会社や成長が著しい会社、自社の事業と相乗効果を発揮できそうな会社を譲り受ける際には、株価が上昇する場合があります。
M&Aを行うことにより業績や企業イメージ、信頼度が向上すれば、企業価値が上がると見込んだ株主や投資家が株を購入し、株価の上昇が見込めます。
その結果、企業の時価総額が上がる可能性があります。
一方、譲渡企業の業績が低調な場合、多額の負債を引き継ぐケースでは、投資家は譲受企業の業績に不安を感じるかもしれません。投資家がM&Aの実施をリスクと判断すれば、株価の下落につながる恐れがあります。
M&Aによる株価の上昇・下落が譲受企業に与える影響
M&Aにより譲受企業の株価が上昇すると、金融機関からの信用度が高くなったり、1株あたりの価格が上昇したりするため、少ない株式発行数で資金調達がしやすくなります。企業価値が高まり、事業の成長にもつながるでしょう。
一方、M&Aで株価が下落した場合、業績や企業イメージ、信頼度へ影響を与え、株主や投資家の評価が変化します。のれんの減損処理が必要となる場合もあり、経営状況にマイナスの影響を与えるリスクがあります。
M&Aによる譲渡企業の株価変動
譲渡企業が上場企業でTOBによる株式取得が行われた場合、前述のように株価には買収プレミアムが上乗せされることが一般的です。買収プレミアムが上乗せされれば、譲渡企業の株価は上昇傾向になります。
ただし、M&Aによる譲渡の手法や具体的な状況は、ケースで様々です。M&Aをしたからといって必ず株価が上昇するわけではありません。M&Aの効果が期待できないと判断された場合、株価が下落するリスクも想定する必要があります。
M&Aにおける株価の算出方法
M&Aを実施する際に、株価は譲渡価額の基礎となる金額です。M&Aで株価(企業価値)を算出する場合、主に3つのアプローチが採用されます。各アプローチとそれぞれに基づく算出方法は次のとおりです。
アプローチの種類 | 算出方法 |
コストアプローチ | ・簿価純資産法 ・時価純資産法 |
マーケットアプローチ | ・市場株価法 ・類似企業比較法 ・類似取引比準法 |
インカムアプローチ | ・DCF法 ・配当還元法 |
M&Aでの企業価値を評価する方法は、以下の記事で詳しくまとめています。あわせてご確認ください。▷関連記事:企業価値評価とは?M&Aで使用される企業価値の算出方法
M&Aによる株価変動事例
最後に、M&Aにより株価が変動した事例を紹介します。
ソフトバンク株式会社によるイー・アクセス株式会社の完全子会社化
2013年1月、ソフトバンク株式会社はイー・アクセス株式会社を株式交換によって完全子会社化しました。
ソフトバンクは、iPhone 5の発売によるスマートフォンの通信量増大に伴い、イー・アクセスが展開する1.7GHz帯のLTEを活用することが大きな目的でした。また、イー・アクセスがソフトバンクグループの傘下に入ることで、グループ全体のモバイルサービスの契約数が業界2位になるとしています。
この株式交換が報じられ、ソフトバンクの株価は2%下落しました。一方イー・アクセスの株式は、1株15,000円程度で取引されていましたが、株式交換における株式評価額は3倍以上の1株52,000円まで上昇しました。
マネックスグループ株式会社によるコインチェック株式会社の完全子会社化
2018年4月、マネックスグループ株式会社はコインチェック株式会社を完全子会社化しました。
国内の仮想通貨取引所の先駆者として知られているコインチェックは、2018年1月の不正アクセスによる仮想通貨「NEM」の不正送金に関して、金融庁から業務改善命令を受けていました。
そのような状況の中、内部管理体制及び内部監査体制の改善などを図っている途中で、マネックスグループが救済する形でM&Aを行いました。
コインチェックの収益が寄与するとの考えから、5月8日には735円の年初来高値を更新しました。しかしコインチェックの赤字決算を受け、10月29日には399円まで下落しました。その後、コインチェックがサービスの一部を再開すると発表し、株価は480円に上昇しました。
まとめ
M&Aにより株価はどのような影響を受けるのかについて紹介しました。譲渡・譲受企業それぞれが受ける影響や注意すべき点は異なります。
そのため、M&Aを検討している経営者の方は、M&Aを行う目的をしっかり把握しつつ、実際の事例を参考にして株価の変動によってどのような影響を受けるのかをしっかり知っておくことをおすすめします。