簡易合併は、吸収合併の一部手続きを省略する制度です。会社法の796条2項により規定されており、簡易組織再編で親会社が完全子会社を吸収合併するケースなどでよく採用されています。
本記事では、簡易合併の基本的な仕組みや要件、要件を満たした場合でも簡易合併の適用外となるケースを解説します。簡易合併のメリットや注意点も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
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簡易合併とは?
簡易合併とは、一定の要件を満たす場合に存続会社の株主総会の承認決議を不要とし、合併手続きを簡略化できる制度です(会社法796条2項本文)。
通常、合併を行う際には株主総会の承認が必要です。簡易合併で株主総会の開催手続きなどを省略することで、スピード感をもって合併手続きを行えます。
なお、消滅会社が存続会社の特別支配会社(親会社が90%以上の議決権を保有している会社)の場合、存続会社の株主総会による決議を省略できます。また、存続会社が消滅会社の特別支配会社である場合も、消滅会社の株主総会の決議は必要ありません。これを「略式合併」といいます。
適用される要件に違いはありますが、簡易合併も略式合併も、合併手続きを簡略化できる点が共通しています。
簡易合併の要件
簡易合併を適用するためには、「消滅会社の株主に交付する対価の帳簿価額の合計額」が、「存続会社の純資産額の5分の1を超えない」ことが要件です。存続会社の純資産額と比べて合併で支払われる対価が小さい場合、存続会社の株主に与える影響も小さいことから、株主総会の開催が省略できる仕組みとなっています。
以下では、「消滅会社の株主に交付する対価の帳簿価額の合計額」と「存続会社の純資産額」の計算方法を解説します。
消滅会社に関する金額
消滅会社に関する金額は、以下の①~③を合計して算出します(会社法796条2項1号)。
1. 消滅会社の株主等に対して交付する存続会社等の株式の数に1株当たり純資産額を乗じた額
2. 消滅会社等の株主等に対して交付する存続株式会社等の社債、新株予約権又は新株予約権付社債の帳簿価額の合計額
3. 消滅会社等の株主等に対して交付する存続株式会社等の株式等以外の財産の帳簿価額の合計額
存続会社の純資産額
存続会社の純資産額は、以下の①~⑦の合計額から⑧を差し引いた金額です(会社法施行規則196条)。
1. 資本金の額
2. 資本準備金の額
3. 利益準備金の額
4. 法第四百四十六条に規定する剰余金の額
5. 最終事業年度における評価・換算差額等に係る額
6. 株式引受権の帳簿価額
7. 新株予約権の帳簿価額
8. 自己株式及び自己新株予約権の帳簿価額の合計額
なお、上記の金額は原則として合併契約を締結した日の金額が用いられます。ただし、合併契約で締結日から効力発生直前までの間に特定の日を定めた場合は、その特定の日を基準に純資産額を算出します。
要件を満たしていても簡易合併が認められないケース
簡易合併は、要件を満たしていれば必ず実施できるわけではありません。以下の項目に該当する場合は簡易合併が認められないため、注意しましょう。
・存続会社が公開会社ではなく合併対価が譲渡制限株式である
・存続会社に合併差損が生じる
・一定の株主が反対する
各ケースの詳細を解説します。
存続会社が公開会社ではなく合併対価が譲渡制限株式である
存続会社が公開会社ではなく、かつ合併対価が譲渡制限株式である場合、先述の要件を満たしていても簡易合併は認められません。
公開会社ではない会社とは、株式が全て譲渡制限株式である会社のことです、この場合、合併に反対する株主は株を売却したくても簡単には売却できません。そのため、簡易合併は認められず株主総会での決議が求められます。
存続会社に合併差損が生じる
合併により存続会社に差損が生じる場合には、簡易合併は適用できません。差損が生じる場合、会社の財産は減少してしまうため、株主にも少なからず影響が及ぶからです。合併差損が生じるケースとして、会社法は以下のケースを示しています。
・存続会社が承継する消滅会社の債務の額として法務省令で定める額が、承継する資産の額として法務省令で定める額を超える場合
・存続会社が消滅会社の株式に交付する帳簿価額(存続会社の株式などを除く)が、承継資産額から承継債務額を控除して得た額を超える場合
上記の場合、簡易合併ではなく通常の手続きで合併を進めることとなります。
一定の株主が反対する
簡易合併は、一定の株主の反対がある場合は認められません。具体的には、株主への通知または公告の日から2週間以内に、議決権の株式総数の6分の1を超える株式を有する株主から反対の通知があった場合、簡易合併は認められません。
この場合、合併の効力が発生する前日までに存続会社の株主総会で承認を得る必要があります。
簡易合併のメリット
簡易合併の主なメリットは以下のとおりです。
・株主総会での承認が不要
・迅速に事業再編できる
各メリットの内容を紹介します。
株主総会での承認が不要
先述のように、簡易合併は存続会社の株主総会での承認が不要となる点が大きなメリットです。通常、合併の際には消滅会社と存続会社の双方で株主総会の特別決議を得る必要があります。そして、多くの株主の賛同を得ることは簡単なことではありません。
また、株主総会の開催するためには、日時や場所、当該事項などを定め、株主総会の招集を通知して開催しなければならず、調整に多くの手間と労力がかかります。
簡易合併であれば、上記のような承認を得るための事前対策や招集手続き、コストを大幅に削減できます。
迅速に事業再編できる
通常は、合併に際して株主総会の開催が必要となります。多くの株主を持つ上場企業の場合は、度重なる株主総会の開催が困難な場合も少なくないでしょう。
例えば、100%出資子会社の吸収合併や小規模の会社の吸収合併では、都度株主総会を開催して承認を得る必要があり、その結果、手続きにかなりの時間がかかってしまいます。
簡易合併制度を活用すれば、このような手間と時間を大幅に削減できるため、迅速な事業再編が可能となります。
簡易合併の注意点
簡易合併はメリットのある制度ですが、以下の点には注意しましょう。
・株主総会の開催以外の手続きは通常の合併と同じ
・存続会社の株主は株式買取請求ができない
それぞれの注意点を解説します。
株主総会の開催以外の手続きは通常の合併と同じ
簡易合併では存続会社での株主総会の開催が不要となりますが、それ以外の手続きは原則として通常の合併と同じです。
合併契約の交渉や監督官庁への事前確認、合併契約の締結が必要で、取締役会設置会社では合併契約の取締役会決議が求められます。
存続会社の株主は株式買取請求ができない
従来、存続会社の株主には株式買取請求権が認められていましたが、2014年の会社法改正により、株式買取請求権は付与されないこととなりました(会社法797条1項ただし書)。
ただし、反対株主の株式買取請求権が付与されなくなったとはいえ、株主への通知や公告、催告の省略が認められたわけではありません。株主が意思を表明できるよう、通知や公告は必ず行ってください。
まとめ
簡易合併は、合併の手続きを簡略化し、企業の買収やM&Aなどをよりスピーディに行える制度です。刻々と移り変わるビジネス環境に迅速に対応したいときに、役立つ選択肢でしょう。
ただし、実施するには要件を満たさなければなりません。また、場合によっては簡易合併を採用できないケースもあるので注意しましょう。
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