株式譲渡はM&Aにおいて最も一般的な手法と言われています。
株式譲渡を実際に行う際には会社法にて定められた手順を踏む必要がありますが、その方法を正しく理解されているでしょうか。
踏むべき手続きや必要書類は複数存在し、株券を発行しているか否かによっても変化します。これらの正式な手順を踏まなければ、株主としての権利が正しく譲渡されません。
本記事では非上場株式を譲渡する際の手続きの流れについて、必要書類、株券発行・不発行による手続きの違い、対抗要件の違い、株主名簿の書換請求の出し方について解説します。
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非上場株式を譲渡する際の手続き
非上場株式とは証券市場に上場していない企業の株式を指します。非上場企業は「公開会社」と「非公開会社」の2種類に分けられ、それぞれの場合で譲渡の際の手続きは異なります。
株式を譲渡する際に会社からの許可が必要な株式を「譲渡制限株式」といいますが、譲渡制限株式が一部だけもしくは一切ない場合には「公開会社」、全て譲渡制限株式の場合は「非公開会社」と呼びます。承認が必要かどうかは定款にて定められています。
公開会社の場合は譲渡制限のない株式を売却したい人(譲渡人)と株式を買取したい人(譲受人)の間で株式譲渡を行うことができますが、非公開会社の場合は発行会社から承認をもらうために一定の手続きを踏む必要があります。
なお、特例有限会社*1は定款に定めがない場合にも承認が必要となります。そのため事実上の非公開会社となります。手続きは非公開会社と同様です。譲渡制限株式について詳しくは以下の記事にて詳しく解説しています。
*1:特例有限会社:2006年(平成18年)5月1日の会社法施行以前に有限会社であった会社をいいます。
▷関連記事:株式譲渡制限とは?メリットと譲渡決議の承認フローを完全ガイド
非公開会社の株式を譲渡する方法を確認
譲渡人・譲受人は以下の手順に従って手続きを行います。
・手順1「株式譲渡承認請求」
まず、譲渡人は会社に対して、譲渡する株式の種類や数、譲渡先などを記載した株式譲渡承認請求書を作成して提出します。
▷関連記事:株式譲渡承認請求書とは?株式譲渡の記入例や手続きの流れを完全ガイド
・手順2「株式譲渡承認決議」
株式譲渡承認請求を受けた会社は、取締役会非設置会社の場合には、代表取締役もしくは代表執行役が定時株主総会(直近で開催される予定がなければ臨時株主総会)を招集して、株式譲渡の承認決議を行います。このとき、取締役会設置会社の場合には取締役会にて決議することが可能です。
また、定款で別途定めることで取締役会設置会社でも株主総会にて決議することも可能です。
・手順3-1「株式譲渡契約」(承認された場合)
株式譲渡が承認されると、譲渡人と譲受人は株式譲渡契約書(SPA)を交わして、対価を支払います。
▷関連記事:株式譲渡契約書(SPA)とは?株式譲渡制限や株券不発行の場合の手続きについて具体的に解説
・手順3-2「株式譲渡承認通知」(不承認である場合)
承認決議の結果、不承認と決まった場合には会社は譲渡人に対してその旨を通知する必要があります。ここで、2週間以内に通知をしなかった場合には強制的に譲渡が承認された扱いになります。
不承認である場合には、特段の請求がない場合には手続きは終了します。他方、譲渡人が会社に対する譲渡請求の際に、不承認となった際に譲渡の相手方を指定するように求めた場合には、会社は会社自身が株式を回収するのか、別途指定した買取人に売却するのかを株主総会における特別決議により決定します。
・手順4「売買価格の競技」(不承認かつ指定買取人が買い取る場合)
基本的には譲渡人・譲受人双方の交渉により決定します。譲渡制限株式を保有している会社は例外なく非上場企業であるため、株価が公表されていません。そのため企業価値評価の手法を用いて株価を算出する必要があります。(算定方法は以下のURLにて解説しています。)
なお、売買価格の競技は義務ではなく、買取の通知から20日以内に協議が整わず裁判所へ申し立てもないときは、1株あたり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額が売買価格となるため、その場合にも株式価格を算出する必要があります。
▷関連記事:企業価値評価とは?M&Aで使用される企業価値の算出方法
・手順5「株主名簿の名義書換手続き」(承認もしくは指定買取人が買い取る場合)
譲渡人と譲受人は、会社に対して株主名簿記載の名義を譲渡人から譲受人に変更する手続きを行います。
・手順6「株主変更の手続き」(承認もしくは指定買取人が買い取る場合)
株主名簿書換請求を受けた会社は、請求にしたがって名義を譲渡人から譲受人に変更します。
株式譲渡手続きに必要な書類一覧
本見出しでは株式譲渡の手続きに必要な書類を解説致します。下記はあくまで一例となるため、実際に手続きを進める際にはM&Aアドバイザーの確認の上で進めることをおすすめします。
・株式譲渡承認請求書
譲渡株式の譲渡人と譲受人が共同で会社に提出する書類です。譲渡する株式の種類や数、譲渡先などを記載します。
・株主総会招集通知
譲渡株式の承認に関して、株主総会による決議を必要とする場合には、会社は臨時株主総会を開催するために株主を招集する通知を送ります。
・株主総会議事録
株主総会では決定した内容について議事録を残す必要があります。開催日時や参加者などの概要や、議論の内容の要約などを記載する必要があります。議事録に残すべき内容は以下のURLにて解説しています。
▷関連記事:M&Aでよく行われる株式譲渡で議事録は必要?株主総会や取締役会のそれぞれの場面ごとに徹底解説
・株式譲渡承認(不承認)通知書
会社から株式譲渡を承認された場合、譲渡人と譲受人に承認通知書が出されます。否認された場合で買取人の指定を求められているときは、会社または会社が指定した買取人に譲渡することになります。
・株式譲渡契約書(SPA)
株式譲渡承認通知書を受け取った譲渡人と譲受人は、株式譲渡契約書を締結します。
具体的な項目として、譲渡する株式数や譲渡価額などの基本条件や、代金の支払方法・期限についてを記載する必要があります。
・株式名義書換請求書
譲渡人と譲受人は共同で株主名義の書換請求書を作成して、会社に対して株主名義の変更を請求します。
・株主名簿
株主の氏名・法人名、住所、株券番号、株式数などが記載された名簿です。株式譲渡がなされた場合、株主名簿を書き換える必要があります。
・株主名簿記載事項証明書交付請求書
譲受人は譲渡株式が自身の名義に変更されたかを確認するために、株主名簿記載事項証明書の交付請求書を作成して会社に請求します。
・株主名簿記載事項証明書
株主名簿記載事項証明書とは株主の氏名(または法人名)、住所、株式保有数、株式の種類、取得年月日が記載された、会社が株主に対して株主であることを証明するものです。
・取締役の決定書(取締役会設置会社の場合)
取締役会で話し合い、決議した内容を証明するための書類です。
株券発行会社における株式の譲渡方法
2004年に商法が改定されてからは株券の発行は義務ではなくなったため、以降に設立された会社の多くは、コストや工数の削減のために株券を発行していません。しかし株券発行を選択した会社やそれ以前に設立された会社では、株券が自身の権利を主張できる根拠となるため、非常に重要です。
譲渡承認までの流れは大きく変わりませんが、譲渡人・譲受人は譲渡する旨を合意することに加えて株券の交付を行う必要があります。それを踏まえた上で、譲受人に株式譲渡についての話を進めることになります。
株券の発行・不発行による手続きの違いと対抗要件
「対抗要件」とは、ある権利を第三者に主張するために必要な条件のことを指します。本見出しでは株券の発行・不発行による株式譲渡の譲渡方法の違いと対抗要件について解説します。
・株式譲渡の成立条件
株券不発行会社の株式譲渡は振替株式を除き、当事者間の合意があれば成立します。一方で、株券発行会社では株券を交付することで成立します。
・株式譲渡の対抗要件
株券不発行会社における株式譲渡の対抗要件は、株主名簿の名義書換を行うことです。一方で、株券発行会社の場合には、会社に対しては株主名簿の名義書換、第三者に対しては株券の保有です。
株主名簿の名義書換請求
株券不発行会社に対して株主名簿の名義書換請求をする場合、譲受人単独では原則行うことができません。株式名簿に記載されている者(譲渡人)、またはその相続人や承継者と共同で請求する必要があります。
ただし、例外的に以下の場合は株式取得者は単独で請求ができます。
・名義株主、または相続人、承継者に対する株式取得者の名義書換請求が妥当だと裁判所が判断し、請求を命ずる確定判決を得た場合で、かつ当該確定判決の内容を証する書面その他の資料(確定本決の正本のほか、謄本や確定判決の内容を証する電磁的記録等でも可)が提供されたとき
・株式取得者から、上の確定判決と同一の実効性を有するものの内容を証する書面その他の資料(名義株主またはその一般承継人が株式取得者への名義書換請求の意思表示をする旨を記載した和解調書や調停調書等)を提供されたとき(一方で、株券発行会社には株券を提示することにより譲受人が単独で書換請求を行うことができます。譲渡人と共同で行う必要はありません。)
まとめ
以上のように、譲渡制限株式を譲渡する際には複数の手続きと書類が必要になります。
特に株式を発行している会社は不承認の場合、通知を忘れてしまうと強制的に譲渡することになってしまうこと、また指定買取人を決定する必要があることを忘れてはいけません。
特に株券発行・不発行によって成立条件や対抗要件が変わる点や名簿書き換え請求の手続きが異なる点には注意が必要です。抜け・漏れがないようにチェックした上で手続きを進めるようにしましょう。