
M&Aを検討する際に気になることとしては、どれくらいの費用や期間がかかるのか、どのような手順で進むのかなどが挙げられます。また、経営者や投資家が特に注意しておきたいのは、M&Aは株価にどのような影響を与えるかということです。
株価が上昇・下降することによって、譲渡・譲受企業が受ける影響もさまざまです。
今回はM&Aにより、譲渡・譲受企業それぞれの株価はどのような影響を受けるかについて、実際の事例を交えながら紹介します。
企業価値100億円の企業の条件とは

・企業価値10億円と100億円の算出ロジックの違い
・業種ごとのEBITDA倍率の参考例
・企業価値100億円に到達するための条件
自社の成長を加速させたい方は是非ご一読ください!
M&Aによる株価への影響とは
M&Aを行うことによって、どのように株価に影響がでるのかを解説します。
そもそもなぜM&Aを行うのか
M&Aが株価へ与える影響を考える前に、まずはM&Aを行う目的について解説します。
M&Aとは資本の移動を伴う、企業の合併と買収を意味する「Mergers and Acquisitions」の略です。M&Aは、企業の事業承継や事業規模の拡大といった目的を達成するための手段として活用されています。
例えば、譲渡企業がM&Aを行う理由の一つに、後継者問題の深刻化が挙げられます。帝国データバンクが2016年以降の事業承継の実態について、約27万6千社を対象に行った、全国「後継者不在企業」動向調査(2018 年)によると、2018年では調査対象企業のおよそ66%が後継者が不在と回答しています。
M&Aにより第三者に事業を承継すれば、従業員の雇用や事業の継続も実現できるため、中小企業のM&Aが注目されています。
また、企業の経営戦略のひとつとして、一般的に上場企業の時価総額を指す株主価値の向上があります。株主価値とは、企業が将来に渡って生み出すキャッシュフローの現在価値を指す企業価値から、負債価値を差し引いた残余のことを指します。
株主価値を高めた企業として日本電産、伊藤忠商事といった企業が挙げられます。これらの企業はM&Aを活用することで業績を伸ばしました。
ダイヤモンドオンラインの記事によると、日経平均株価指数に関してM&Aに積極的な上位20社は、1996年から2016年の間の20年間でみた際に日経平均株価と比べて、取引所全体や特定の銘柄群の株価の動きを示す株価指数が、2倍ほどの数値となっています。このようにM&Aを経営戦略として適切に活用することは株主価値を高めることにも有効といえます。
▷関連記事:国内M&Aの市場規模と現状。2018年のM&Aは過去最多の3,850件!
M&Aによる株価への影響
M&Aは原則、資本の移動を伴います。そのため、多くの場合でM&Aを行うことにより株価に影響が生じます。特に上場企業の場合、M&Aをきっかけに株価が上昇したり下降したりする可能性があります。
M&Aによって譲渡企業の株価は上昇するのか

M&Aにより、譲渡企業の株価はどのように変化するかを説明します。
譲渡方法による株価への影響
M&Aを行うにあたり、特に株価への影響が大きいTOBについて紹介します。
TOB(株式公開買付)とは、Take-Over Bidの略で、期間、価格、株数などを公告し、証券取引所を通さず対象企業の株式を既存株主から大量に買付けることを指します。
一般的にTOBはより多くの株主から株を取得しやすくするために、TOB発表時の株価に一定のプレミアムを上乗せした価格で買付けます。
TOBを行った後に完全子会社化する場合は、特別な事情がない限り「TOB公表前1カ月間の市場株価の終値の平均値」が株式の買取り価格となります。その買取り価格に応じて株価が変動します。
M&Aによって譲受企業の株価はどう変化するのか
ここでは、M&Aにより譲受企業の株価はどのように変化するのかを説明します。
M&Aによって株価が変動した場合の譲受企業への影響
知名度の高い会社や成長の著しい会社、自社の事業と相乗効果を発揮できそうな会社を譲受ける際には、株価が上昇する場合があります。
M&Aを行うことにより業績や企業イメージ、信頼度が向上すれば、企業価値が上がると見越した株主や投資家が株を購入し、株価の上昇が見込めます。
その結果、企業の時価総額が上がる可能性があります。
M&Aが及ぼす譲受企業へのメリットやリスク(多角化の方向性など)
M&Aのメリットの一つに、事業の多角化を図れるという点が挙げられます。継続して安定した収益を生み出すためには、事業の多角化が有効なケースがあります。
経営環境の変化などによって、一部の事業の業績が芳しくない状況になったとしても、別の事業による補完が期待できるためです。
しかし、事業を一から立ち上げるには多くのコストや時間を費やします。M&Aにより、すでに経営ノウハウなどを持っている企業を譲受けられるため、コストを削減でき、より早く新規事業を始められます。
また、M&Aにより譲受企業の株価が上昇すると、金融機関からの信用度が高くなることや1株あたりの価格が上昇するため、少ない株式発行数で資金調達がしやすくなります。
シナジー効果によって企業価値が向上することで株価が上がる
M&Aを行う目的の一つに、事業の多角化やスケールメリットといったシナジー効果が得られるという点が挙げられます。
譲渡企業と譲受企業の事業や企業の持つ強みがうまく作用すれば、シナジー効果によって企業価値が向上し、結果として株価の上昇につながることがあります。
一般的に、上場企業の株価はさまざまな要因で変化します。M&Aも例外ではなく、M&Aの前後3日間に多少の上昇がみられる場合がありますが、数日後には株価の調整が起きて、均して見るとM&A前と大きくは差がない状態になるといわれています。
しかし、個別にみれば株価が上がる企業、下がる企業が存在します。M&Aを行うことにより業績や企業イメージ、信頼度が変化すれば、株主や投資家の評価も変化し、それに伴って株の売買が行われ、株価が変動します。
更なる企業規模の拡大や業績向上が株式市場から期待されるようなM&Aが行われた場合、良い経営戦略をしていると判断され、投資家からの評価は上がりやすくなり、株価の上昇に繋がります。
企業買収で株価は上がる?下がる? 株価が変動する理由や事例を解説
M&A事例にみる株価上昇・下降の特徴とは
最後に、M&Aにより株価が上昇・下降した事例を紹介します。
ソフトバンク株式会社によるイー・アクセス株式会社の完全子会社化

2013年1月、ソフトバンク株式会社はイー・アクセス株式会社を株式交換によって完全子会社化しました。
ソフトバンクは、iPhone 5発売によるスマートフォンの通信量増大に伴い、イー・アクセスが展開する1.7GHz帯のLTEを活用することが大きな目的でした。また、イー・アクセスがソフトバンクグループの傘下になることで、グループ全体のモバイルサービスの契約数が業界2位になるとしています。
この株式交換が報じられ、ソフトバンクの株価は2%下降しました。一方イー・アクセスの株式は、1株1万5,000円程度で取引されていましたが、株式交換における株式評価額は3倍以上の1株5万2,000円まで上昇しました。
マネックス株式会社によるコインチェック株式会社の完全子会社化

2018年4月、マネックス株式会社はコインチェック株式会社を完全子会社化しました。
国内の仮想通貨取引所の先駆者として知られているコインチェックは、2018年1月の不正アクセスによる仮想通貨「NEM」の不正送金に関して、金融庁から業務改善命令を受けていました。
そのような状況の中、内部管理態勢及び内部監査態勢の改善などを図っている途上で、マネックスが救済する形でM&Aを行いました。
コインチェックの収益が寄与するとの考えから、5月8日に735円の年初来高値を更新しました。しかしコインチェックの赤字決算を受け、10月29日には399円まで下降しました。その後、コインチェックがサービスの一部を再開すると発表し、株価は480円に上昇しました。
まとめ
M&Aにより株価はどのような影響を受けるのかについて紹介しました。譲渡・譲受企業それぞれが受ける影響や注意すべき点は異なります。
そのため、M&Aを検討している経営者の方は、M&Aを行う目的をしっかり把握しつつ、実際の事例を参考にして株価の変動によって、どのような影響を受けるのかをしっかり知っておくことをお勧めします。