株式交換の実施に際しては「公告」という手続きがあります。普段あまり耳にすることはありませんが、株式交換においては重要な手続きです。
本記事では、株式交換における公告の概要や実施のタイミング、どのようにして行うのか、省略できるケースなどについてわかりやすく解説します。
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公告とは
まず、「公告」とは、どのような手続きをさすのでしょうか。
公告とは、株式交換などを実施するにあたり、株主や会社の利害関係者を含め一般に広く知らせることです。会社が債権者に影響のある変更を行う際には、その変更について公告する法令上の義務があるのです。公告の際には、債権者へ直接文書などで通知するのとは別に、公に広く周知させる方法が取られます。株式交換に関する主な公告は、債権者保護に伴う債権者への公告と株主への公告があります。公告をする内容や方法、期間などは会社法で定められており、会社法の通りに公告を行わなかった場合、100万円以下の過料が科せられる場合があります。
公告の方法には「官報掲載による公告」、「日刊の新聞紙掲載による公告」、「インターネット上に掲載する電子公告」の3種類があり、定款で公告の方法を定める際には、この3つのうちいずれかを選択することになります。しかし、公告の中には定款によらず、官報への掲載が会社法で義務づけられているものもあります。たとえば、株式交換について債権者が一定の期間中に異議申立てができる旨について公告する「債権者異議申述公告」の場合、「株式交換をすること」、「株式交換をする相手の商号・住所」、「(原則として)計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの」「一定期間内に異議を述べることができる旨」を記載します。また、定款で他の公告手段を定めていたとしても、必ず官報に掲載しなければなりません。
新聞掲載を利用した公告はコストが高いため、小規模な株式交換による公告では、官報掲載かインターネット公告を利用するのが一般的です。公告の方法を決める際には、債権者保護手続きの有無やコストなど、さまざまな内容で見て決定することになります。どの方法を採用するのが良いのか判断に迷う場合には、M&Aアドバイザーなどの専門家へアドバイスを求めるのも1つの方法です。
株式交換の公告は手続きのどこで行うのか
次に、株式交換の公告を行うべき時期について見てみましょう。株式交換手続きの流れを把握することで、公告のタイミングの理解も容易になります。
※上図は一例であり、実際の株式交換では手続きの順番などが異なることがあります
株式交換の手続きでは、まず株式交換の内容について事前検討を行い、当事者との間で基本的な合意をします。次に取締役会で承認を受け、株主総会を招集する時期を決定して契約を締結します。
その後、契約内容について記載した書類を作成して両方の会社の本店へ据え置き、株主総会について招集通知を行います。株主への通知・公告の実施は、この招集通知と同時に行うこともあります。また、株式に譲渡制限がない公開会社では、株主総会の承認を受けた場合には、公告を行うことで株主個別の通知は省略することができます。
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株式交換の公告の期間と公告が不要なケース
最後に、株式交換時の公告に必要な期間と、公告が不要なケースについて解説します。
公告に必要な期間
株主への通知・公告は効力発生日の20日前までに行う必要があります。実際には、株主総会の招集通知と同じタイミングで行われることもあります。
また、株式交換で債権者保護手続きが必要な場合には、株式交換の効力発生日より前に、異議申述に必要な期間として、1ヶ月以上を設けて公告・催告を行わなければなりません。また、債権者異議申述に関する公告は官報で行う必要があるため、官報掲載に要する期間についても留意しましょう。
官報による公告には、申し込みから掲載までに一定期間を要します。株式交換で債権者異議申述と一緒に貸借対照表の要旨も掲載する場合、目安として官報掲載の申し込みから10~11営業日程度かかります。貸借対照表の要旨を掲載せず、債権者異議申述公告のみを行う場合の目安は5~6営業日程度となります。この営業日数よりかかることもあるので、余裕をもったスケジュールを組みましょう。
株式交換は、債権者保護手続きの異議申述期間と公告の掲載に要する期間を考慮し、スケジュールに余裕を持って手続きを進めることが大切です。M&Aアドバイザーなどの専門家のアドバイスを受けたり、必要な公告期間についてしっかりとしたチェックの依頼をおすすめします。
公告を省略できるケース
株式交換では、原則としては債権者保護手続きが必要ないため、債権者異議申述のための公告は多くのケースで省略できます。しかし、債権者保護手続きを取る場合においては、公告は必ず実施しなければなりません。株式交換において債権者保護が必要になるのは下記の場合です。
完全子会社の場合
・交換する新株予約権が新株予約権付社債に附されたものである場合
完全親会社の場合
・新株予約権付社債を承継する場合
・対価として親会社の株式以外を交付する場合
・株主資本等変動額に対価自己株式の帳簿価額を加えた額のうち、自己株式の処分対価に相当する額を除く部分の全額を資本金・資本準備金にするのではなく、その他資本余剰金を増加させた場合
公告の重要性として、「株式交換によって起こり得る重要な不利益について、債権者に周知する」という目的があります。そのため、債権者に不利益がないとみなされるケースでは公告が不要となるのです。
また、株主への個別催告は、株主が少数である場合、すべての株主への直接通知を行うことで官報その他による公告を省略できます。
このほかに「ダブル公告」と呼ばれる債権者への個別催告を省略する方法もあります。会社法では、債権者へ公告する際に官報掲載とは別に、定款で定めた公告を行うことによって個別の催告を省略できます。
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まとめ
公告とは、株式交換において株主などへ公の手段を使い通知する重要な手続きです。債権者保護手続きの必要がある場合には、会社法で定められた期間内に、官報掲載などによる公告を行わなければなりませんが、債権者に不利益がない場合には公告を省略できるケースもあります。
株式交換で公告の必要がある場合には、その期間や方法などについて正しく行わないと、罰金の対象となったり、株式交換が成立しないケースもあります。不安な点があれば、M&Aアドバイザーや司法書士、弁護士などの専門家へ委ねた方がよいでしょう。