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2023/10/11

適格合併とは?メリットや要件、繰越欠損金を全額引き継げるケースを解説

適格合併とは?メリットや要件、繰越欠損金を全額引き継げるケースを解説

企業の合併を考える際、税務上の問題で頭を悩ませる経営者も少なくないでしょう。

合併時に被合併法人(消滅企業)の資産を合併法人(存続企業)に移転する場合、原則として譲渡損益に対して課税が発生します。しかし、適格合併が適用されると譲渡損益の繰延が行われるため、課税が発生しません。

また、合併法人も被合併法人の繰越欠損金を引き継げるため、節税効果が期待できます。

適格合併を適用するためには、いくつかの要件を満たす必要があります。

本記事では、適格合併についての基礎知識に加え、繰越欠損金を引き継ぐ要件についても解説します。

適格合併の基本的な概要や適用要件について知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

▷関連記事:M&Aにおける合併とは?意味や手続き、種類の違いを解説
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適格合併とは?

合併はM&Aの手法の1つであり、税務上では「適格合併」と「非適格合併」に分けて処理されます。

「適格合併」とは、合併法人が被合併法人の資産と負債を簿価のまま引き継ぐことのできる合併です。譲渡損益が発生しないため、法人税は課税されません(※)。適格合併が適用されると、被合併法人と合併法人の双方に税務上のメリットがあります。適格合併のメリットや要件についての詳しい解説は、後述するので参考にしてください。

適格合併の適用には、合併のケースごとに一定の要件を満たす必要があります。

適格合併の要件を満たさない合併のことは「非適格合併」といい、合併時の時価による譲渡になるため、法人税が課税されます。

※「被合併法人」とは合併される側の企業を指し、「合併法人」とは合併する側の企業を指します。

適格合併のメリット

適格合併には、以下のように税務上の大きなメリットがあります。

・合併時に法人税が課されない
・繰越欠損金を引き継ぐことができる

合併を考える際はきちんと把握しておきましょう。

合併時に法人税が課されない

合併法人と被合併法人の間で資産が移転される場合、原則として「時価による譲渡」と扱われ、譲渡益がある場合は法人税が課税されます。

しかし、適格合併が適用された場合は、譲渡損益の繰延が行われるため法人税が課税されません。

繰越欠損金を引き継ぐことができる

適格合併が適用された場合、合併法人は被合併法人の繰越欠損金を引き継げる可能性があります。

繰越欠損金を引き継ぐには一定の要件を満たす必要がありますが、被合併法人の繰越欠損金を利用すれば、節税効果を狙うことができます。

繰越欠損金について詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。

▷関連記事:繰越欠損金は節税効果がある?M&Aで繰越欠損金の引継ぎにおける要件と制限を解説

適格合併の7つの要件

適格合併の適用にはいくつかの要件を満たす必要があります。要件は合併のパターンによって異なりますが、まずは7つの要件を理解しましょう。

・金銭等不交付要件
・完全支配関係(支配関係)継続要件
・従業員引継要件
・事業継続要件
・事業関係性要件
・事業規模要件または経営参画要件
・株式継続保持要件

要件を整理した後に、どの合併パターンでどの要件が求められるのかを解説します。

金銭等不交付要件

金銭等不交付要件とは、被合併法人の株主に対して、株式以外の金銭やその他の資産が交付されないことです。ただし、以下の場合は金銭等の交付をしても問題ありません。

・合併比率調整を目的とした金銭等の交付
・合併法人が被合併法人の3分の2以上を有する場合の、他の少数株主に対する金銭等の交付

完全支配関係(支配関係)継続要件

完全支配関係(支配関係)継続要件とは、合併前に完全支配関係が成立しており、合併後もその支配関係(株式の持分関係)の継続が見込まれることです。この要件が確保されている場合、合併がスムーズに進行しやすく、税制上の優遇も期待できます。

従業員引継要件

従業員引継要件とは、被合併法人の業務に従事している概ね80%以上の従業員を引き継ぐことです。

なお、従業員とみなされる範囲は、以下のように定められているので注意してください。

・出向により受け入れている者等は、合併前に営む事業や分割事業、現物出資事業に従事する者であれば従業者に含まれる
・下請先の従業員は該当しない
・分割事業や現物出資事業とその他の事業のいずれにも従事している者については、当該分割事業または現物出資事業に従事しているかで判定する

事業継続要件

事業継続要件とは、合併前に被合併法人の主要であった事業について、合併後も継続が見込まれることです。この要件は、特に長期的なビジョンや事業計画において重要とされます。合併によっては、事業のスケールや資源が拡大することが期待されるでしょう。

事業関係性要件

事業関係性要件とは、合併直前の事業が合併法人と被合併法人で、相関性があることです。これは、両法人が提供する商品やサービス、またはそれらに関連する技術やマーケティング戦略が、一定の連携やシナジーを生む可能性が高い場合に該当します。

事業規模要件または経営参画要件

事業規模要件または経営参画要件とは、合併法人と被合併法人の事業規模の範囲が、概ね5倍の範囲以内であることです。事業規模の指標は以下の4つです。

・売上金額
・従業員数
・資本金の額
・出資金の額等

なお、事業規模が5倍を超える法人同士の合併の場合、合併後に被合併法人の特定役員が合併法人でも特定役員となれば、問題ありません。これは、特定役員になることが見込まれているのであれば、経営面でも共同事業が担保されるからです。

株式継続保持要件

株式継続保持要件とは、被合併法人の発行済み株式のうち、支配株主に交付される株式が継続的に保有されることが見込まれることです。ただし、被合併法人が50人以上の場合は除きます。

適格合併の3つのパターン

適格合併とは?メリットや要件、繰越欠損金を全額引き継げるケースを解説

適格合併は、以下の3つのパターンに分類されます。

・完全支配関係(持分比率100%)
・支配関係(持分比率50%超~100%未満)
・共同事業

パターンによって要件が異なるので、きちんと把握しておくようにしてください。

要件完全支配関係支配関係共同事業
金銭等不交付要件
完全支配関係(支配関係)継続要件
従業員引継要件
事業継続要件
事業関係性要件
事業規模要件または経営参画要件
株式継続保持要件

繰越欠損金が全額引き継げるケース

適格合併が適用された場合、被合併法人の繰越欠損金を引き継ぐことができます。しかし、合併時の状況次第では全額引き継ぐことができません。

ここでは、繰越欠損金の利用が制限されないケースを4つ紹介します。

共同事業の場合

共同事業要件のうち、相互に関連する事業である場合は引き継ぎ制限がないため、繰越欠損金の全額を引き継げます。共同事業要件に合致するかどうかは関係法令に基づいて判断されるため、安易に判断するのではなく専門家に相談するとよいでしょう。

5年を超える支配関係がある場合

合併法人と被合併法人の間に、適格合併の年度開始時から5年を超えた支配関係がある場合は、繰越欠損金を全額引き継げます。5年の起算日は、適格合併が行われた年度が開始した日です。

「みなし共同事業要件」を満たしている場合

合併法人との支配関係が5年を超えていなくても、「みなし共同事業要件」を満たしている場合は、繰越欠損金を全額引き継げます。

みなし共同事業となる要件の組み合わせは、以下の2つです。

➀「事業関連性要件」+「事業規模要件」+「事業規模継続要件」
➁「事業関連性要件」+「特定役員引継要件」

また、「事業規模継続要件」は以下のとおりです。

・支配関係が発生した時点から合併直前まで、合併法人と被合併法人の双方で継続して事業が行われていること
・支配関係が発生した時点と合併直前を比較して、事業規模が概ね2倍を超えないこと

なお、「事業関連性要件」「事業規模要件」「特定役員引継要件」については前述しているため、そちらを参考にしてください。

「時価純資産超過額」が支配関係開始前の繰越欠損額以上の場合

前述したケースに当てはまらない場合であっても、支配関係が発生した直前の年度終了時の時価純資産超過額が、繰越欠損金の額以上であれば、繰越欠損金を全額引き継ぐことが可能です。

なお、ここでいう時価純資産超過額は、資産と負債を差し引いた含み益を指します。

非適格合併がおすすめのケース

繰越欠損金を引き継げる可能性があるため、合併法人にとっては、非適格合併よりも適格合併のほうが、メリットが多いように思えるかもしれません。しかし、実は非適格合併のほうがおすすめのケースもあります。

例えば、被合併会社に含み損を抱える資産があり、合併前の事業年度で営業利益が生じそうな場合は、非適格合併のほうがおすすめです。

適格合併では簿価で譲渡するため営業利益との相殺ができませんが、非適格合併では時価で譲渡できるため、含み損と営業利益を相殺できるからです。

他にも、合併法人の含み損が多額で、被合併法人の含み損が少額の場合も非適格合併のほうが良い可能性が高いです。

また、適格合併では、合併法人の繰越欠損金の使用についても、被合併法人と同様に制限がかけられます。一方で、非適格合併なら、合併法人の繰越欠損金を自由に使うことができます。

このように、状況に応じておすすめできる合併方法は異なるため、どちらが最善か判断するには、専門家に相談したほうが良いでしょう。

まとめ

M&Aの手法の1つである合併は、税務上、「適格合併」と「非適格合併」の2つに分類されます。

適格合併には、法人税がかからないことや、被合併法人の繰越欠損金を引き継げる可能性がある、といった税務上のメリットがあります。ただし、適格合併を適用するには一定の要件を満たさなくてはいけません。

また、適格合併が適用されても、状況次第ではメリットを活かせない可能性があることに注意しましょう。

「適格合併」と「非適格合併」のどちらが企業にとって良いのか判断に迷う場合は、専門家に相談するのがおすすめです。

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