M&Aによる企業買収が成功した場合、譲受企業、譲渡企業双方に多くのメリットをもたらしてくれるものです。しかし、結果的に失敗となったケースも少なくはありません。
そこで、本記事では失敗例に着目し、なぜ企業買収が上手くいかないのか、成功するためにはどのようなことが求められるのかをお伝えします。
現役のM&Aアドバイザーが経験を元に買収側と売却側の目線に立って解説していきます。
M&Aの目的や流れを知りたい方は、以下の記事をご活用ください。
▷関連記事:M&Aとは?M&Aの目的、手法、メリットと流れ【図解付き】
幸せのM&A入門ガイド
・M&Aの成約までの流れと注意点
・提案資料の作成方法
・譲受企業の選定と交渉
・成約までの最終準備
M&Aによる事業承継をご検討の方に M&Aの基本をわかりやすく解説した資料です。
日本のM&Aは失敗事例が多い?成功率は2〜4割
日本のM&Aの成功率はどれくらいなのでしょうか。M&Aが成功したかを判断する基準のひとつに、「M&Aの目標達成率が80%超を成功」とする判断基準があります。上記の図のように、この成功の基準を満たした企業は36%と高くはない数字です。
日本経済新聞によると、海外企業同士の場合でも成功とする企業は約50%と決して高い確率とはいえません。しかし、それを鑑みたとしても36%という数字は芳しくない結果といえるでしょう。
M&Aの成功率は、全体の2割から4割となっています。では、なぜこんなにも成功率が低いのでしょうか。解決策を知るためにも、企業買収が失敗する理由を見ていきましょう。
企業買収が失敗する4つの理由
買収の失敗理由はさまざまありますが、主な失敗の原因を理解し、把握しておくことが大切です。
買収側と売却側に分けて、4つずつM&Aが失敗する理由をお伝えしていきます。
買収側が失敗する理由
買収側がM&Aに失敗する理由は主に以下の4つです。
・企業買収が目的になってしまう
・デューディリジェンスが不十分だった
・M&Aで「何を得たいか」という戦略性の欠如
・PMIが不十分で社員や規程を統合できなかった
それぞれ、順番に解説していきます。
企業買収が目的になってしまう
企業買収はあくまでも、買収による販路の拡大や事業の発展メリットを得るために行うものです。しかし、企業買収を進める中で、目的がメリットやシナジー効果を得ることではなく、買収そのものになってしまう場合があります。
特に、M&A担当者を設けている会社などは、担当者にとって、M&Aの成約そのものが第一の目的になってしまうこともあり得ます。M&Aの目的が成約に入れ替わってしまうと、買収後の事業の発展や、投資の回収といった本来の目的が達成しにくくなってしまいます。
販路の拡大や事業の発展というM&Aの目的が達成できなければ、買収金額を回収できなくなり、企業買収としては失敗となります。
デューディリジェンスが不十分だった
企業買収をする際に、譲渡企業のリスクやシナジー効果の有無・程度などを検証するデューディリジェンスを行います。
デューディリジェンスの際に、買収される側の企業とのシナジー効果を期待しすぎてしまい、過大評価してしまう場合があります。
例えば、企業のブランド力や技術力、社員の能力などの非金銭的な資産への過剰な期待、また将来的な売上・利益計画においても適切な範囲を超えて、まさに「絵に描いた餅」となるケースなどが考えられます。
このような事態を避けるためにも、デューディリジェンスの際に、現実的な事業計画を検証し、適切なのれん代の設定をすることが大切です。
シナジー効果を期待するのは大切なことであり、買収する側の企業としては当然のことですが、さまざまな情報について客観的かつ正確に判断を行い、適切な評価をしましょう。
なお、デューディリジェンスは、こちらの記事で解説していますので、詳しく知りたい人はご活用ください。
▷関連記事:M&Aの最後にして最大の難関。「デューディリジェンス(DD)」を徹底解説
M&Aで「何を得たいか」という戦略性の欠如
M&Aをする目的は、「新規事業への参入」「既存事業の拡充」「人材の確保」など、企業によってさまざまです。買収する側の企業の数だけ目的がある、といっても過言ではないでしょう。
そのため、買収する側の企業がしっかりと自社の状況を考えて、M&Aの目的を明確化することが重要です。
目的が曖昧なままの状態や、M&Aの実施そのものが目的になっている状況でM&Aを進めると、想定とは異なる結果になってしまう危険性は高いといえます。
まず、自社の成長のために、どの分野を強化したいのか、どのようなシナジー効果を求めるのかなどを明確にします。明確な目的の実現のためにM&Aをひとつの手段として用いる、といった考え方であることが望ましいでしょう。
成長戦略としてのM&Aは、こちらの記事で解説していますので、ぜひ参考にしてください。
▷関連記事:成長戦略としてのM&Aとは?経営基盤を安定させる選択肢
PMIが不十分で社員や規程を統合できなかった
M&A成立後の統合プロセスのことをPMI(Post Merger Integration)といいます。このPMIを行う理由は、M&A後の両社の経営方針や業務ルール、社員の意識を融合し、M&Aの目的をスムーズかつ最大限実現することです。
多くの企業買収は、異なる業態や企業文化を持っている企業同士で行われます。そのため、企業買収が円滑に完了したとしても、PMIを適切に行うことが目的の達成のために重要となります。
各種社内規程が親会社子会社の間で齟齬がある状態やシナジー効果実現のために不充分な状態であったり、従業員の意識がまとまっていなかったりすると、期待していたシナジー効果を得にくい状況になってしまう危険性があります。
あくまでもM&Aは手段であり、本来の目的はM&A後の企業の発展です。企業が発展して、はじめてM&Aは成功となります。PMIがうまく行えず、シナジー効果が得られなけば、結果として目的が達成できずM&Aは失敗となります。
そのようなことにならないためにも、業務面・意識面で上手に融合できるよう、M&Aの成約前からPMIを見据えることが重要です。
PMIは、以下の記事で詳しくまとめています。PMIが上手くないかないと優秀な社員の離脱が起こるリスクもあるため、覚えておきましょう。
▷関連記事:PMIとは?M&A成立後の統合プロセスについて株式譲渡を例に解説
売却側が失敗する理由
続いて、売却側が失敗する理由を4つお伝えします。
・交渉中の不誠実な対応
・買い手側の要求を飲みすぎてしまった
・株主や役員(キーマン)の同意を得られなかった
・M&Aの交渉中に大幅な業績悪化が起こった
それぞれ解説していきます。
交渉中の不誠実な対応
交渉中に不誠実な対応を取ってしまうと、M&Aは失敗しやすくなります。
例えば、「飲食店のキッチンの設備は新しいですか?今後数年間は大きな設備投資不要ですか?」と質問された時に、設備が老朽化しているにもかかわらず、「キッチンの設備は新しく、設備投資は不要です」と不誠実であったり虚偽の回答をすると買い手の信頼を大きく損なってしまいます。
ネガティブな情報でも隠さずに誠実に回答するようにしましょう。簿外負債を買い手に報告せず買収が完了しても、表明保証違反で責任を追求される恐れがあります。
なお、万が一、M&Aの情報漏洩を起こしてしまった場合も成約は難しくなります。従業員や取引先の反対によって、M&Aが中止になるケースがあるからです。M&Aのことを伝えるのは、株主や役員など最小限に絞っておきましょう。
買い手側の要求を飲みすぎてしまった
買い手側の要求を飲みすぎてしまった場合もM&Aの失敗に繋がります。買い手側に譲歩し過ぎた場合は、自社を適正価格で買収されづらくなります。
買い手の要求を飲み過ぎず、譲れない条件については「この条件は難しいです」と主張するところは主張しましょう。
なお、契約の直前になってから、条件の変更を相談すると買い手からの印象が悪くなってしまため、買い手から条件を提示された時に自分を主張を伝えるようにしましょう。
買い手と売り手だけでは話がまとまりづらい場合は、M&Aアドバイザーに助言を求めることも手です。
株主や役員(キーマン)の同意を得られなかった
株主や役員(キーマン)の同意が得られない場合は、M&Aが成約しづらいです。株主や役員(キーマン)に開示・説明するタイミングや説明する方法によって、同意・不同意となることがありますので、反対する株主や役員(キーマン)が登場する可能性がある場合、M&Aアドバイザーと綿密に打ち合わせをすることをお勧めします。
買い手からすると、株主が一部でもM&Aに反対していると、100%買収が実現できないためそもそも買収を検討できない、ということもあります。
会社法を用いて反対する株主などから株式を事前に買い集めることも可能ですので、株式周辺の問題については、事前に専門家に相談しましょう。
M&Aの交渉中に大幅な業績悪化が起こった
M&Aの交渉は数ヶ月から1年かかることがあります。その間に会社の業績が悪くなってしまうと買い手からの評価が下がりM&Aが中止となるリスクがあります。
業績に大きな変化が生じないように、交渉がスタートしたらスピードを意識する必要があります。 また、大きな変化が生じてしまった場合は、適切なタイミングで買い手に状況を通知しましょう。
買収に失敗しないための3つの注意点
ここまで、M&Aの失敗の理由を買収側と売却側に分けて解説しました。
ここからは買収を失敗しないための注意点を3点あげていきます。
・戦略的な目的意識と統合ビジョンをしっかり持つ
・情報を精査する。M&Aありきで情報を見ない
・専門家の力を借りる
どれも企業買収するうえで重要なポイントとなります。
戦略的な目的意識と統合ビジョンをしっかり持つ
上述のように、M&Aはあくまで手段であって目的ではありません。買収側も売却側もM&Aによって何を達成したいのか、この部分を戦略的に考えることが大切になります。
また、M&A後の目的を達成していくためにも、どのように統合するのか準備、計画することも重要です。
資源や人員の配置などはもちろん、従業員が不安に感じることがないよう、目標や今後の計画を従業員に対して明確にすることが求められます。そのためにも業務面と意識面の両面において、事前に統合の進め方を検討しておくようにしましょう。
情報を精査する。M&Aありきで情報を見ない
企業が成長するためには、M&A以外にもさまざまな方法があります。その中でなぜM&Aという手段を選択したのか、その理由を明確にしておきましょう。
他の方法と比較・検討せずに、M&Aありきで考えているのかもしれません。できる限り情報を収集し、その中から最善な選択ができるよう、M&Aアドバイザーをはじめ、さまざまな分野の専門家の意見をもらうようにしましょう。
専門家の力を借りる
企業買収においてはさまざまな手続きが必要になり、専門的な知識を求められる場合が多々あります。法務や税務の知識はもちろんのこと、統合のための社内規則の整備などでは、労務の知識も求められます。これらを自社の中で全て網羅することは、実際のところ難しいことだといえます。
知識不足からM&Aの失敗に繋がることを避けるためにも、積極的にM&Aの専門家を頼りましょう。
M&Aのさまざまな懸念や疑問点などの相談を無料で受け付けている専門的な企業もありますので、まずは検討段階で相談すると良いでしょう。
M&Aの相談先は、以下の記事で費用と共にまとめています。
▷関連記事:M&Aの相談は銀行、証券会社、税理士、弁護士、M&A専門家など、どこにすればいいのか?費用の違いは?
また、M&Aの仲介会社の役割は以下の記事を参考にして頂ければ、理解しやすいです。
▷関連記事:中小企業のM&A 企業の合併・買収をアシストする仲介会社の役割とは
まとめ
企業買収はリスクがある一方、成功させれば双方にとって非常に多くのメリットを得ることができます。
M&Aは、企業や事業の未来を左右するといっても過言ではありません。失敗理由から学び、準備を進めることで、少しでもリスクを減らしていくことが、企業買収/売却の成功においては重要です。
また、買収側も売却側も交渉相手との信頼関係を築けるように誠実に対応することが特に重要です。信頼関係が築けていれば、M&Aが成功する確率は高まります。
先述したように企業買収を行うためには、非常に多くの専門的な知識が求められます。
準備や確認において、不明点などがある場合は、M&Aアドバイザーなどの専門家に相談して進めることがおすすめです。
確かに、M&Aアドバイザーに依頼すると手数料がかかります。しかし、M&Aアドバイザーは数多くのM&Aを成約に導いた経験を有しているため、その経験を基に手数料以上の価値を提供し、M&Aの成功に向けて尽力します。
M&Aに興味がある方は、お気軽にお問い合わせください。
M&Aは成功させることによって、事業を拡大したり、ハッピーリタイアを実現したりできるので、ぜひ経営戦略として検討されてみてください。