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2025年10月1日

M&Aのメリット・デメリットとは?買手・売手企業の視点から解説

M&Aのメリット・デメリットとは?買手・売手企業の視点から解説

M&Aにはメリットとデメリットの両方があるため、経営戦略の手段としてM&Aを活用する際は、特徴や実施した場合の自社への影響を理解した上で実施する必要があります。

M&Aは事業拡大や事業承継の際に活用できる点がメリットである一方、自社の希望に合う交渉相手企業が必ず見つかるとは限らないなどのデメリットもあります。M&Aには多くのスキーム(手法)があり、選択するスキームによってもメリット・デメリットは様々です。

本記事では、M&Aのメリット・デメリットを譲受企業(買い手)・譲渡企業(売り手)の視点から解説します。手法別のメリット・デメリット、従業員や顧客、地域社会などにもたらす影響も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

【一覧】M&Aのメリット・デメリット

近年、事業拡大や事業承継問題の解決のための1つの選択肢として、M&Aを利用する企業が増加しています。

区分メリットデメリット
譲受企業(買い手)・生産の効率化を図れる
・競争力を強化できる
・シナジー効果が得られる
・環境変化に対応しやすくなる
・時間短縮を図れる
・規制市場・外国市場へ参入しやすくなる
・多額の資金調達が必要となる
・計画的に進まないことがある
・優秀な人材が流出する可能性がある
・シナジーが生まれない
・のれん代の減損リスクを負う
譲渡企業(売り手)・事業承継問題を解決できる
・経営者利益の最大化を図れる
・企業の存続・発展を図れる
・従業員の雇用が守られる
・主力事業に注力できる
・売却益には税金がかかる
・時間的な制約がある
・取引先とのトラブルが生じる可能性がある
・買い手企業が見つかるとは限らない

M&Aは譲受企業(買い手)・譲渡企業(売り手)の双方にメリットとデメリットがあります。M&Aを実施する場合は、M&Aを実施することによる自社への影響や実施にあたり課題点やリスクがないか、十分に検討した上で実施するかどうかを決める必要があります。

▷関連記事:「M&Aとは?意味・流れ・手法・費用などゼロからわかる完全ガイド【2025年最新】
▷関連記事:「事業承継が問題になっている背景と解決策としてのM&A

M&Aの買い手側のメリット

譲受企業は、M&Aによって他社の技術、ノウハウ、人材などを獲得し、迅速な事業展開を実現できます。M&Aにおける買い手側の主なメリットは次の6つです。

・生産の効率化を図れる
・競争力を強化できる
・シナジー効果が得られる
・環境変化に対応しやすくなる
・時間短縮を図れる
・規制市場・外国市場へ参入しやすくなる

以下では、各メリットについて詳しく解説します。

買い手側のメリット①:生産の効率化を図れる

今後の成長が期待される分野や収益性の高い分野に多くの資産を集中することは、経営戦略において重要です。M&Aを行い、他社の優れた技術やノウハウを獲得することで、事業規模の拡大や経営基盤の強化を図れます。また、生産の規模が大きくなることで、製品1つあたりのコストが下がるといった規模の経済が期待できるでしょう。

併せて、M&Aによって事業や企業を譲り受けることで、これまで注力できなかった分野や、新たな技術、生産のノウハウ、人材などを他社から譲り受け、生産体制を強化し収益性を高めることが可能となります。

実際に経済産業省の調査では、事業の譲り受けや吸収合併といった企業再編を行った中小企業は、労働生産性が向上する結果となっており、M&Aは生産の効率化にも有効であるといえます。

買い手側のメリット②:競争力を強化できる

経済産業省の調査によると、2023年度に海外に現地法人を有する日本の企業は24,058社でした。また、海外生産比率(製造業)は27.2%であり、過去最高水準となりました。このように、グローバル化が進む中で、コスト削減がより求められるなど競争が激しさを増しています。

特に、日本市場は少子高齢化による人口減少や長引く不況で市場が縮小傾向にあり、厳しい経営環境となっています。こうした中、M&Aによって他社を譲り受けることで、相手先のノウハウを獲得できるため、競争力の強化に非常に有効です。

また競合他社を譲り受ける場合、相手先のノウハウを獲得するだけでなく、市場におけるシェアの拡大にも繋がります。シェアの拡大は、取引先との交渉を有利にするなど競争力強化が見込めます。

その他にも、特定の地域に進出していない企業の場合、未進出のエリアの企業を譲り受けることで新たな地域での展開を実現することも可能です。

出典:第54回 海外事業活動基本調査概要

買い手側のメリット③:シナジー効果が得られる

M&Aによって、単純な足し算にとどまらない多くの効果を得られる可能性があります。こうした総和を超えて得られる効果を「シナジー効果」と呼びます。複数の企業が共同で事業を運営することで、販売、設備、技術などの機能を相互に活用できるため、多くのシナジー効果を見込めます。

補完的な事業を譲り受けることで、新たな価値を生むことが期待される他、重複している事業の統合、物流や生産体制の一体化などによる効率化、経営ノウハウの共有などによるシナジー効果も期待できるでしょう。

▷関連記事:「M&Aにおけるシナジー効果とは?種類や成長戦略のための分析方法、成功事例を紹介

買い手側のメリット④:環境変化に対応しやすくなる

インターネットの発展によるオンラインショッピングの利用拡大や、決済のデジタル化などによって、消費者の行動は日々変化しています。変化の激しい消費者の行動に対応するには、自社のみの努力では限界があり、同業種・異業種間での提携や統合が有効に働く場合があります。

買い手側のメリット⑤:時間短縮を図れる

事業の多角化や新規市場への参入を目指す場合、一から技術や事業を育て上げるには長い時間がかかる場合があります。特に、経営環境の変化が激しい現代では、可能な限り時間をかけずに事業を立上げて、目的を達成する必要もあるでしょう。

迅速に事業を立上げ、軌道に乗せる場合、すでにその事業を有している他社を譲り受け・提携するといったM&Aが効果的です。事業の立上げと成長にかかる時間が短縮されることはM&Aの大きなメリットです。

買い手側のメリット⑥:規制市場・外国市場へ参入しやすくなる

金融や通信、航空、放送などの規制業種の場合、許認可などの法規制が存在しており、新たに市場参入するのは多くの手続きや時間が必要です。こうした業界への参入を検討する際は、M&Aによって許認可などを含めて譲り受けることは有効といえます。

また、海外市場への進出は、法律や商習慣、言語が異なるため、容易ではありません。M&Aによって進出したい国の企業を譲り受ければ、自社のみでの進出に比べて進出しやすくなる場合があります。さらに、すでにその地域でのノウハウやブランドを確立している企業と連携すれば、より多くのシナジー効果が望めるでしょう。

▷関連記事:「クロスボーダーM&Aとは?手法・メリットや成功のポイント、事例を紹介

M&Aの買い手側のデメリット

M&Aのメリット・デメリットとは?買手・売手企業の視点から解説

M&Aを成功させるためには、良い面だけでなくデメリットについても把握することが大切です。

M&Aを行う譲受企業のデメリットには、資金調達が必要であることや計画的に進まないケースがあること、人材が流出してしまうなどが考えられます。M&Aにおける買い手側の主なデメリットは次の5つです。

・多額の資金調達が必要となる
・計画的に進まないことがある
・優秀な人材が流出する可能性がある
・シナジーが生まれない
・のれん代の減損リスクを負う

以下では、各デメリットについて詳しく解説します。

買い手側のデメリット①:多額の資金調達が必要となる

企業の譲り受けには多額の資金が必要です。特に、規模の大きな企業や評価の高い企業の譲り受けほどその傾向は顕著ですが、中小企業であっても独自の技術を持つ企業の株式には、予想以上の評価額がつくケースもあります。

そのため、資金の調達はM&Aにおける課題の1つといえるでしょう。アイルランドの製薬大手のシャイアー社を譲り受けた武田薬品工業株式会社のように、大型M&Aによって負債が膨らみ、本社ビルなどの資産売却を行ったような事例も見受けられます。

▷関連記事:「M&Aの資金調達とは?7つの方法を一覧で紹介!注意点や用語も解説

買い手側のデメリット②:計画的に進まないことがある

M&Aは譲受企業と譲渡企業の双方が納得し、お互いにとって良い効果をもたらすことが理想です。ただし、双方に株主や社員、取引先といった多くのステークホルダーが存在するため、交渉が難航したり、株主総会や書類の作成に時間がかかったり、破談に終わったりするケースがあります。

また、異なる企業文化や制度を持つ企業同士が融合することになるため、組織体系や人事制度などのハードの面の統合が完了しても、企業文化や従業員の意識などのソフトの面が統一されるまでに、従業員同士の軋轢などが生じる可能性も考えられるでしょう。

このように、様々な理由でM&Aが成約するまでに想定以上の時間がかかってしまったり、計画的に進まなかったりすることがあります。

▷関連記事:「M&Aにおける買い手の狙いは?目的・メリット・成功事例を紹介


買い手側のデメリット③:優秀な人材が流出する可能性がある

M&A後の労働条件の変更や、就労環境の変化、M&Aの目的などに対し、譲渡企業の従業員から理解が得られず、離職に繋がる可能性があります。

そのため、譲受企業は譲渡企業の人材の流出を防ぐため、M&A後の処遇やビジョンについて譲渡企業と事前に話し合ったうえで、従業員にしっかりと説明を行い、理解を得ることが重要です。


買い手側のデメリット④:シナジーが生まれない

前述のような文化の違いなどによって、M&A後の文化や人材の融合が上手く進まなかった場合、M&A前に想定していたシナジー効果を発揮できない場合があります。

また、M&A後に行われた社内システムや人事制度の融合が不適切な場合なども、シナジーが生まれない可能性があります。

買い手側のデメリット⑤:のれん代の減損リスクを負う

会計上における「のれん」の減損処理が発生するリスクは、デメリットの1つといえます。のれんは、貸借対照表における勘定科目の1つです。具体的には譲渡企業の純資産(簿価)と実際の買収価格の差額を指しています。

譲渡価額に計上されたのれん代がM&A後に実際の価値よりも下回ると判断された場合、のれんは棄却され、減損の原因になります。のれんの減損が発生すると、資産の減額に合わせて決算書に表示する資産の金額も減少するため、決算時に減損処理をしなければなりません。

減損が発生すると、資産の減少による財務面の圧迫、投資家には業績が不調という印象を持たれるなどのデメリットがあります。

M&Aの売り手側のメリット

M&Aの譲渡企業には、事業承継問題を解決できる、企業を存続させて従業員の雇用を守れるなどのメリットがあります。

M&Aにおける売り手側の主なメリットは次の5つです。

・事業承継問題を解決できる
・経営者利益の最大化を図れる
・企業の存続・発展を図れる
・従業員の雇用が守られる
・主力事業に注力できる


以下では、各メリットについて詳しく解説します。

売り手側のメリット①:事業承継問題を解決できる

中小企業を中心に経営者の高齢化が進む中、黒字であっても廃業を余儀なくされる企業は少なくありません。中小企業は日本の産業を支えているため、その減少は日本経済全体の衰退をもたらすともいえます。

帝国データバンクの調査によると、2024年の日本企業の後継者不在率は全国で52.1%でした。前年の水準を下回るなど改善傾向が続いていますが、想定外の事態によって円滑に事業承継が進まない事例も少なくありません。後継者候補の属性を見ると、従業員など親族以外の第三者である「非同族」が39.3%で最も多く、31.4%の「子供」を上回る結果でした。

近年、実子が家業を継ぐという潮流が薄れつつあります。また、市場環境が不透明な中、無理に家業を継がせて我が子に苦労をさせたくないという考え方もあり、実子や親族による承継が減っているのです。

一方で、国がM&Aを支援するための制度を整備するなど、近年は中小企業でもM&Aを行いやすい環境が整いつつあります。

M&Aによって、業績が良く意欲も高い企業に事業や会社を譲渡することで、後継者不足問題を解消できる可能性があります。

出典:帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2024年)


▷関連記事:「事業承継と事業継承の違いとは?使い分けや成功させるためのポイント、最新動向を解説

売り手側のメリット②:経営者利益の最大化を図れる

譲渡企業が中小企業の場合、オーナーである経営者が個人保証によって会社の負債を背負っているケースが多く見受けられます。こうした場合では、会社を清算したとしても経営者個人に負債が残り、金融機関からの借入れの返済に追われたり、担保としていた資産(自宅・車など)を差し出す必要に迫られたりするケースがあります。

このような状況では、第二の人生に向けた資金計画が立たない状況にもなりかねません。M&Aによって会社を譲渡する場合、多くのケースで負債ごと譲渡します。負債などを譲受企業に引き継いでもらうことで、個人保証などの解消が可能となり、引退後に負債が残る可能性は低くなります。M&Aによって「ハッピーリタイアメント」に向けて、経営者利益の獲得ができるでしょう。

▷関連記事:「M&Aによるハッピーリタイアの実現

売り手側のメリット③:企業の存続・発展を図れる

企業の存続・発展を図れるのも売り手側のメリットの1つです。

廃業を選択すれば、経営責任から解放されるなどのメリットがあります。しかし、廃業すると事業が消滅するため、長年にわたって構築してきたブランドやノウハウなどの経営資源を残すことができません。また、従業員や取引先、顧客との関係も途絶えてしまいます。

M&Aによって譲り渡せば、企業を存続させることができ、事業のさらなる発展が見込めるでしょう。

▷関連記事:「合併時の従業員の待遇-退職金制度・勤続年数との関係性


売り手側のメリット④:従業員の雇用が守られる

M&Aでは、従業員の雇用継続を条件に掲げることが一般的です。そのため、従業員の雇用を継続したまま会社を引き継げます。また、雇用が継続されるため、退職金を支払う必要もなくなり、清算に比べて支出も抑えられます。

廃業を選択すると、従業員は職を失うことになります。これまで自社を支えてくれていた従業員の未来を考えると、会社清算には踏み切れないという経営者の方も少なくありません。

従業員などの関係者に迷惑をかけずに第三者に経営を引き継げるのは、譲渡企業にとって大きなメリットでしょう。

▷関連記事:「高齢化・先行き不安による廃業の増加

売り手側のメリット⑤:主力事業に注力できる

複数の事業や多様な商品を展開している企業において、不採算事業や商品ブランドなどを事業譲渡や会社分割のスキームを活用して譲り渡すことで、主力事業や製品に注力できることがあります。

こうした経営資源の集中は「選択と集中」とよばれ、経営の効率化や業績向上に有効といわれています。例えば、不採算事業に投じていた人材や費用を主力事業に集中させれば、主力事業のさらなる成長が期待できるでしょう。

M&Aの売り手側のデメリット

M&Aのメリット・デメリットとは?買手・売手企業の視点から解説

従業員に迷惑をかけずに経営を引き継げるなどのメリットがある一方で、時間的な制約がある点や、取引先との間でトラブルが生じる可能性がある点には注意が必要です。M&Aにおける売り手側の主なデメリットは次の4つです。

・売却益には税金がかかる
・時間的な制約がある
・取引先とのトラブルが生じる可能性がある
・買い手企業が見つかるとは限らない


以下で、各デメリットについて詳しく解説します。

売り手側のデメリット①:売却益には税金がかかる

中小企業のM&Aにおいて最も活用される手法である「株式譲渡」では、譲渡所得に対して20.315%(所得税+復興特別所得税15.315%、住民税5%:2025年7月現在)の税金が課されます。

譲渡所得は、譲渡価額から「取得費」と「手数料」を差引いて算出します。取得費は株式の取得にかかった費用のことで、創業者では会社を設立した際にかかった費用のことです。手数料はM&Aアドバイザーなどに支払った費用を指します。

ただし、会社清算に比べると、譲渡税を引いたとしても、得られる金銭は多くなることが一般的です。

▷関連記事:「株式譲渡の税金は?課税内容や計算方法、特例

売り手側のデメリット②:時間的な制約がある

M&Aで事業や会社を譲渡するには、譲渡先の企業を探す必要があります。譲渡先の候補が見つかったとしても、企業の現状や情報をまとめたり、条件交渉を行ったりと、数ヶ月から数年の交渉が必要になる場合もあります。

また、交渉が難航した結果、お互いの条件が折り合わずに破談となることもあるかもしれません。そのため、M&Aによる第三者承継を検討する場合は、いつまでにM&Aをしたいのかということを考えるとともに、念入りに準備と計画を進める必要があります。

▷関連記事:「M&Aの売り手企業のメリットや、手続きの流れと課題やリスク軽減方法

売り手側のデメリット③:取引先とのトラブルが生じる可能性がある

M&Aによって企業のオーナーや経営方針が変わることで、取引先から取引の減少や停止を求められることがあります。また、取引先との契約にチェンジオブコントロール条項が定められている場合、同条項をもとに契約が解除される可能性もあります。

取引先との関係悪化を防ぐためにも、事前にM&Aの目的や今後の方針などを伝え、取引先の理解を得る必要があるでしょう。

▷関連記事:「チェンジオブコントロール条項(COC)とは?目的や注意点


売り手側のデメリット④:買い手企業が見つかるとは限らない

譲渡企業においては、自社を譲り受けてくれる会社と出会えるかが課題となります。従業員の雇用は継続されるのか、シナジーを見込めるのかなど、譲渡先を決める際に考慮すべき点は様々で、M&Aを成功に導くためには最適なマッチングが大切です。

しかし、譲渡先の候補を自力で集め、その中から自社に適した企業を見つけ出すことは難しいのが実情です。M&A仲介会社など、専門家による助けを得ながら進めていくべきでしょう。

M&Aのスキーム(手法)別のメリット・デメリット

M&Aには様々な手法があるため、M&Aを行なう際は自社の目的にあった手法の選択が大切です。例えばM&Aには次のようなスキーム(手法)があります。

・株式譲渡
・事業譲渡
・会社分割
・株式交換・株式移転
・新株引受け
・合併


ここでは、各手法の特徴やメリットとデメリットを解説します。

株式譲渡のメリット・デメリット

株式譲渡は、譲渡企業の株式を譲受企業(または個人)に譲渡することで経営権を移転させる方法です。

会社の経営権は50%を超える株式の譲渡で移転されますが、M&Aでは100%の株式譲渡が一般的です。譲渡企業の株主は、株式を譲渡する代わりに譲受企業から対価(原則、現金)を受け取ります。

メリット:法的手続きが簡便
デメリット:譲受企業は譲渡企業の経営リスクも引き継ぐ可能性がある

株式譲渡は、株主が変わるのみで全ての資産や取引上の契約を引き継げるため、法的な手続きが比較的簡便です。一方、譲受企業は譲渡企業の資産だけでなく、簿外債務などの負債も引き継ぐため、経営リスクも引き継いでしまう可能性があります。

▷関連記事:「株式譲渡とは?メリット・デメリットや手続きの流れ、注意点や税金について徹底解説

事業譲渡のメリット・デメリット

事業譲渡は、譲渡企業の事業の一部または、全ての事業を譲受企業に譲渡する方法です。
譲渡企業が特定の事業だけを譲渡したい場合や、譲受企業が赤字事業の承継を避ける場合などに利用されます。

メリット:譲渡または承継する事業を選択できる
デメリット:譲渡または承継する事業を見極める必要がある

譲渡企業にとっては手放したくない事業や資産を残せるなどのメリットがあり、譲受企業にとっても承継したい事業や資産を選べるなどのメリットがあります。

一方、事業譲渡では資産・負債・契約などについて、それぞれ個別の事業譲渡契約が必要になるため、譲渡または承継する事業をしっかりと見極めなければ双方が税金や負債により損をしてしまう可能性があります。

▷関連記事:「事業譲渡とは?株式譲渡との違いやメリット・デメリットを徹底解説

会社分割のメリット・デメリット

会社分割は、譲渡企業の特定の事業だけを譲受企業が承継する方法です。

会社分割には、新たに新設する会社に事業を承継する「新設分割」と既存の会社へ事業を承継する「吸収分割」があります。

メリット:従業員の労働契約を締結し直さなくて済む
デメリット:税務手続きが複雑になる

会社分割と事業譲渡は、譲渡企業の特定の事業だけを譲受企業が承継するという点では同じです。ただし、前者は「包括承継」、後者は「個別承継」といわれ、会社法や税務などの様々な面で違いがあるため、自社の状況に合わせて選択するとよいでしょう。

会社分割は、包括承継となるため、従業員との労働契約などを締結し直さなくて済むなどのメリットがあります。一方、デメリットには税務手続きが複雑であることなどが挙げられます。

▷関連記事:「会社分割とは?手続きの流れ・吸収分割と新設分割の期間や事業譲渡との違いを解説

株式交換・株式移転のメリット・デメリット

株式交換は、譲受企業が譲渡企業の発行済み株式の100%を取得することで、完全な親子関係を築く方法です。基本的に、譲受企業が上場企業の場合に用いられることが多く、譲渡企業は自社の株式を譲渡する代わりに、譲受企業の株式の交付を受けます。

一方、株式移転は、譲渡企業の発行済み株式の100%を新しく新設する会社に移転させ、自社を完全子会社化する方法です。一般的に、ホールディングス設立などで利用されます。

メリット:譲渡企業への対価が株式となるため、親会社は現金を必要としない
デメリット:株主構成や既存株主の持株比率が変わる可能性がある

株式交換・株式移転では、譲渡企業への対価が株式となるため、親会社に十分な資金が無くても譲渡企業の完全子会社化が実現できるなどのメリットがあります。デメリットは、株主構造や既存株主の持株比率が変わってしまう可能性があることです。

▷関連記事:「株式交換とは?メリットや流れ、株式移転との違いなど押さえておきたい基礎知識
▷関連記事:「株式移転とは?株式交換との違い、仕訳や会計処理を解説

新株引受けのメリット・デメリット

新株引受け(第三者割当増資)は、既存の会社が新たに株式の発行を行い、特定の第三者に株式を割り当てることで対価として現金を受け取る方法です。

主に資金調達の手法として知られていますが、新株引受人が株式発行会社の一定の株式を取得できることから、企業同士の資本業務提携を目的としてM&Aでも活用されています。

メリット:新株発行会社と新株引受人(企業)間で事業面の強化ができる
デメリット:既存株主の持株比率の低下(新株発行会社側)、100%の株式を保有できない(新株引受人側)

新株発行会社が新株主を選択できるため、自社と関わりのある企業に新株を引受けてもらうことで、事業面で安定した関係性が構築できるなどのメリットがあります。ただし、既存株主の持株比率が低下する点(新株発行会社側)、発行会社の100%の株式を取得できない点(新株引受人側)はデメリットです。

▷関連記事:「第三者割当増資とは?目的とメリット・デメリットや手続きをわかりやすく解説

合併のメリット・デメリット

合併は、2つ以上の複数会社が1つの会社に統合することです。

合併する会社(被合併会社)は消滅してしまう特徴があり、統合の際に、被合併会社が消滅と同時に新しい会社を新設して権利や資産を承継する「新設合併」と、既存の会社が被合併会社の権利や資産の全てを承継する「吸収合併」の2つがあります。

メリット:新規分野への進出や既存事業の強化が期待できる
デメリット:簿外債務などの経営リスクを引き継ぐ可能性がある

合併のメリットは、被合併会社の技術やノウハウを承継することで新規分野への進出や既存事業の強化が期待できることです。
対してデメリットは、被合併会社の簿外債務などの経営リスクも引き継ぐ可能性があることです。

▷関連記事:「M&Aにおける合併とは?意味や手続き、種類の違いを解説

M&Aによる影響

M&Aは、譲渡企業と譲受企業はもちろん、それ以外の関係者にも影響を与える可能性があります。ここでは、M&Aが従業員や顧客に与える影響を解説します。

従業員への影響

M&Aを行うことで、譲渡企業と譲受企業の従業員にメリットやデメリットを与える可能性があります。

メリットとしては、譲渡企業と譲受企業のより良い規則や制度を採用することで、M&Aを行う以前より職場環境が改善されたり、福利厚生が充実したりして、従業員のモチベーションが高まる可能性が考えられます。

一方、デメリットは、譲渡企業と譲受企業の従業員間で待遇や人事評価に差が出てしまい、従業員の不満に繋がる可能性があることです。M&Aでは、譲渡企業が譲受企業の規則や制度に合わせるのが一般的であるため、特に譲渡企業の従業員については業務体制や社内環境の変化による精神的ストレスのケアなどが必要となるでしょう。

顧客への影響

M&Aは社内だけでなく、社外にも影響を与える可能性があります。影響を与える代表格は譲渡企業と譲受企業双方の既存顧客(取引先)です。

例えば、M&Aによって譲受企業が事業の拡大に成功した場合、商品やサービスの充実や生産プロセスの効率化に伴う販売価格の低下などが実現され、既存の顧客は満足度が高くなるかもしれません。また、譲受企業が譲渡企業の事業を承継することで、譲渡企業の既存顧客はM&A後も取引を行うことができます。

一方、デメリットとして、譲渡企業と譲受企業が異なる事業分野であった場合、M&Aによって既存顧客と競合関係になるケースがあります。そのため、取引条件が変更になったり、取引自体が継続できなくなったりする可能性も考えられるでしょう。

M&Aの事例紹介

近年は様々な企業でM&Aが実際に行われています。ここでは、近年話題になったM&Aの事例を紹介します。

株式会社NTTドコモによる住信SBIネット銀行株式会社の買収

2025年5月、株式会社NTTドコモは、住信SBIネット銀行株式会社を連結子会社にすることを目的として株式の公開買付を開始することを発表しました。

公開買付の成立後には、持株比率で65.81%、議決権比率で50%の住信SBIネット銀行の株式をNTTドコモが保有することになり、住信SBIネット銀行はドコモの連結子会社になる予定です。

このM&AによってNTTドコモは銀行業へ本格的な参入の足掛かりを得ることができます。また、ドコモが持つ会員基盤やドコモショップなどの多様なチャネルと銀行経営に関するノウハウを組み合わせながら事業を展開することができます。

塩野義製薬株式会社による日本たばこ産業株式会社の医薬事業の取得

2025年5月、塩野義製薬株式会社は、日本たばこ産業株式会社の医薬事業を会社分割により承継することを発表しました。

塩野義製薬は医療用医薬品を中心に一般用医薬品や診断薬の研究開発、製造販売活動を行う一方、日本たばこ産業の医薬事業は低分子創薬に特化した研究開発や国内外研究開発拠点の連携による効率的かつスピーディーな臨床開発が強みです。

このM&Aによって塩野義製薬は、医薬品製造機能と連携体制構築による効率的かつスピーディーな事業運営が可能になります。

まとめ

近年、M&Aは事業の拡大や事業承継の手段の1つとして利用されています。譲受企業と譲渡企業の双方にメリットとデメリットがあるため、それぞれの視点からM&Aの特徴をしっかりと把握することが重要です。

また、M&Aを成功させるためにはスキームによる違いや、M&Aが社内外に与える影響まで理解しておく必要があります。高度な専門知識や経験も必要になるため、M&Aを検討する際は専門家に相談するのがおすすめです。

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