M&Aを計画する際、「利益」の最大化は譲受側・譲渡側の両社にとって重要なポイントです。M&Aにおける利益は、経営者としてより多くの金銭を得たいという単純な希望だけではなく、譲渡後の事業拡大や経営の安定化など、自社や従業員にとってメリットになることが多く含まれます。
譲受企業と譲渡企業の経営環境や市場動向、M&Aのタイミングなど、利益最大化のためには複雑な要素が影響します。また、M&Aによって見込んだ効果が得られないことがあるのも実際です。
本記事では見込んだ効果を得られるように、どうすればより多くの利益を得られるのかを説明します。
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
M&Aを行うことで得る利益
多くのM&Aでは、譲受企業と譲渡企業の両方にメリットがあります。そして、そのメリットを活かして両社の利益を最大化するのが理想的なM&Aです。M&Aを行うのに適したタイミングを説明する前に、まずはM&Aのメリットについて紹介します。
譲受側の利益(メリット/事業の多角化、拡大など)
一般的にM&Aにより既存事業との関連性が高い同業他社を譲受けることで、生産設備などの有形のものから、技術や取引先、ブランド、製品開発力などといった無形のものまで得られます。このことにより事業の多角化や事業領域の拡大、新たな市場、新規事業への進出などを容易にします。
また「規模の経済(スケールメリット)」という大きなメリットを得られます。また、複数の事業や製品を展開できるようになる「範囲の経済性」という点では、例えば、異なる製品を扱う企業とM&Aをすることで、経営資源やノウハウを複数の事業で共有できるようになります。
こうしたメリットを自社の成長戦略のみで、生み出そうとするには、多くの場合で非常に時間がかかります。しかし、自社が獲得したい技術、サービス、商品、販売網、人材などを有する企業とM&Aをすることで、自社で一から立ち上げるよりスピーディーにメリットを得られるのです。
つまり、一から作り上げる時間を短縮できることは企業にとって非常に大きな利益になります。そのほかにも、自社の弱い分野の補強や事業の組み合わせによるシナジー効果といったメリットもあります。
譲渡側の利益(メリット/事業の継続、負債を手放すなど)
譲渡側のメリットとしては、親族などに自社を引継ぐ人がいないといった後継者不在による事業承継の問題を解決できます。
また、多くの場合で、自社を譲渡することでまとまった金銭や他社の株式という資産を得られる、個人保証などの負債を譲受企業に引継いでもらえる、廃業と比べてコストが抑えられる、といった点もメリットとして大きいです。M&Aによって事業が継続し、セカンドライフの資金も確保できるという、理想的なハッピーリタイアを迎えられることもメリットになります。
また、事業が存続することで従業員の雇用が継続されることや、M&Aで企業規模が大きくなり雇用が安定すること、福利厚生の充実などを譲渡企業の従業員が享受できることがあります。
その他にも、譲渡企業が中小企業などの場合、単独では成長戦略の限界や、縮小する国内市場において競争力を維持することの難しさがありますが、M&Aによってより規模の大きい企業の傘下に入ったり、グループ企業になったりすることで、潤沢な経営資源や資金、販路、ブランドなどを活かして競争力を高めることができます。
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利益(企業価値)が最大化する譲渡にベストなタイミング
製品やサービスに市場価格があるように、M&Aにも企業価値が高まるタイミングというものがあります。譲渡側は、「自社の企業価値が高いタイミングで、ベストな相手とM&A」をすれば、そのM&Aの成功率は高まります。
そのためには、譲受候補企業の業績や市場環境などを見極める専門的なスキルが必要になります。また、M&Aの検討から完了までは、相手先との交渉やPMIと呼ばれる融合プロセスなど、時間がかかることを理解しておくことも重要です。
会社の業績がよく、経営意欲が下降気味(経営者の健康問題も含む)
一般的に収益性が高く業績が良い状態は、その会社の事業に価値があると評価され、譲渡価額を高くできます。しかし、M&Aを進める中で業績を落としてしまうことや従業員が退職してしまうこともあるでしょう。
譲受企業にとっては業績が落ちたり、必要とする人材が流出してしまえば、交渉開始時の提示額よりも譲渡価額を下げなければならなくなったり、M&Aを断念せざるを得ないことがあります。こうした事態を避けるためにも、M&Aを進めているときにも業績などに注意するようにしましょう。
また、業績は好調でも、オーナーの高齢化や健康問題などにより、事業の継続が難しい場合、譲受企業にとっては業績の良い会社を譲受けられる可能性が高くなるため、一般的に譲受けニーズは高まります。
会社の価値(企業価値)の把握
企業価値評価(バリュエーション)は、上場企業では公開された株式から時価総額を算定することができます。しかし、多くの中小企業は株式を公開していないため、株式から単純に算出する方法は取りにくいです。そのため、コストアプローチ、マーケットアプローチ、インカムアプローチなどの手法によって企業価値を算出します。
コストアプローチは企業の保有している資産および負債をベースにして株式価値を算出する方法です。マーケットアプローチは、株式市場やM&A市場における取引価額を基準に算定する評価方法です。そして、インカムアプローチは譲渡企業に今後見込まれる収益やキャッシュフローから、リスクなどを考慮して企業価値を算出する評価方法です。
このような方法を用いて、事前に自社がどのくらいの譲渡価額になるのかを知っておくことで、譲受企業の提示額が適正か判断しやすくなります。しかし、企業価値評価は専門的な知識が必要になるため、M&A仲介会社などに依頼して算出することをお勧めします。
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業界再編による市場の動向を見よう
国内市場の縮小の影響やシェアの高い企業同士の合併などによって業界再編が進む場合、その業界ではM&Aが一気に加速する可能性があります。M&A市場に譲受企業と譲渡企業が多く存在する状態になり、一般的にM&Aを行う相手企業が見つけやすくなったり、条件交渉がしやすくなったりします。
ただし、業界再編が一段落し、一部の企業による寡占状態になると再編の流れは収束していくため、M&A市場が減速することになり、譲受け、譲渡ともに難しくなる傾向にあります。業界再編が見込まれる業界の場合は、より注意深くタイミングを見極めることが必要です。
M&Aは成立までにかかる期間も踏まえる
一般的にM&Aは半年~1年以上の期間がかかるといわれています。この期間を逆算して、いつM&Aの検討を本格的に開始するかも、重要なポイントになります。
例えば、現状では業績が好調でも、いずれ先細りになることが分かっているような場合は、早めにM&Aの相談を開始し、迅速に成約まで至るスピード感が大切になってきます。
また、M&Aは一般的にM&Aアドバイザー、弁護士や会計士などといった専門家と進めるので、事前に自社の譲渡に適したタイミングを相談することも良計といえます。
アドバイザリー業務と利益相反
M&Aを進める際は「利益相反」への配慮が欠かせません。利益相反とは、一方の利益が他方にとっては不利益となる状態を指し、そのような取引は利益相反取引とよばれます。
M&Aでは、譲渡企業はより高値での譲渡をしたいと考えますし、譲受企業は安価での譲り受けを期待します。M&A仲介会社が双方の利益を同時に満たすことは事実上不可能なため、譲渡企業と譲受企業の利益は対立します。
銀行などの金融機関と、譲渡企業、譲受企業がM&Aの仲介業務を依頼するアドバイザリー契約を結んだ際には、銀行は融資の回収のために譲受企業に有利になるように動く可能性が全くないわけではありません。
そのため銀行のM&Aアドバイザリー業務は、銀行法および金融証券取引法の規定にもとづく利益相反管理の対象になることを把握しておく必要があります。
また、M&A仲介会社が譲渡企業、譲受企業の双方とアドバイザリー契約を結ぶ場合には、M&A仲介会社は譲受企業との関係において、利益相反取引が疑われることがあります。
前述の通り、譲渡企業、譲受企業の利益が相反する当事者の双方と契約することになるため、形式的には利益相反の形になります。
しかし、通常M&Aアドバイザーの業務は、当事者に代理して契約を締結するなどの法律行為の代理ではないため、法律上の違反行為には該当しません。
また、M&A仲介会社とのアドバイザリー契約は、公平性にもとづいて行うため、一概に利益相反行為に該当するわけではありません。例えば、不合理に譲渡金額や資産などを高く見せようとすれば、譲受企業の不審に繋がり、M&Aがうまくいかない事態が考えられるため、結果として公平な観点からアドバイスを行うことになります。
M&A自体が片方の利益を優先することで片方の利益が下がる、といった利益相反行為であることを理解しておくことが重要です。
まとめ
M&Aによる利益を得るには、自社の価値を見極め、業界や市場の動向をチェックし、最適なタイミングで実行する必要があります。交渉内容やタイミングを見定めることで、譲渡企業、譲受企業の両社が大きな利益を得ることができます。
そのためには、豊富な情報や専門的知識を持ち、スムーズにM&Aの成立までサポートできるM&Aアドバイザーの存在が不可欠ともいえます。M&Aを本格的に検討してから初めて相談するのではなく、M&Aの可能性を知るための相談も経営戦略において重要です。