よくわかるM&A

2025/02/26

株式譲渡の仕訳とは?事業譲渡とともに会計・税務処理を解説

株式譲渡の仕訳とは?事業譲渡とともに会計・税務処理を解説

経営者やマネジメント層の方にとって、企業を買収する、または買収されることは会社の命運を分ける重大な出来事です。その際、会計的にどのような影響が起きるのか、その概要を理解しておくことは非常に重要です。

また、経理を担当する方にとっても、会社を買収した時の仕訳は高い頻度で発生する仕訳ではないものの金額的影響が大きいため、どのような会計処理になるかを理解しておくことは非常に重要です。

本記事では、代表的な買収の手法である株式譲渡と事業譲渡の会計仕訳について、実例も交えながらわかりやすく解説していきます。それぞれの税務処理も紹介しているため、ぜひ参考にしてください。

▷関連記事:M&Aと会計。仕訳(会計処理)と税務、のれんの扱い方

安田 亮
この記事を監修した専門家
公認会計士・税理士・1級FP技能士
安田 亮
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。
https://www.yasuda-cpa-office.com/
\資料を無料公開中/
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
資料
【主なコンテンツ】
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと

会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
1分で入力完了!

企業買収の代表的な手法である株式譲渡と事業譲渡

企業買収は一般的には「M&A」と呼ばれることが多いです。M&Aは「Mergers and Acquisitions(合併と買収)」の略であり、特定の手法を指すのではなく、合併や買収の手法全般を指します。

M&Aには様々な手法がありますが、その中でも代表的な手法は株式譲渡と事業譲渡です。

本記事では株式譲渡・事業譲渡の会計仕訳を解説していきますが、会計仕訳の話に入る前に、そもそも株式譲渡事業譲渡がM&A全体の中でどのように位置づけられるのかを理解しておきましょう。次の図をご覧ください。

提携の概要とM&A

狭義のM&Aは合併と買収、広義のM&Aは事業の多角化などを目的とした資本提携全般を指しています。代表的な手法である株式譲渡と事業譲渡はどちらも狭義のM&A、その中でも買収の手法の1つとして位置づけられています。

それぞれの特徴とメリットについて簡単にご説明します。

▷関連記事:M&Aの方法はどのようなものがあるか?特徴を理解し最適な手法を選ぶ
▷関連記事:M&Aとは?M&Aの目的、手法、メリットと流れ【図解付き】

株式譲渡

譲渡企業(A社)の株主(株主A)が譲受企業(B社)に対して50%超の株式を譲渡することで、A社はB社の子会社となります。会社の所有者が変わるだけなので、会社に属する従業員や資産、契約などを全て承継できる点がメリットです。

▷関連記事:株式譲渡とは?中小企業のM&Aで最も活用される手法のメリットや手続き、事前に確認しておくべき注意点を徹底解説

事業譲渡

株式譲渡は会社の全てを譲渡する手法ですが、事業譲渡の場合、各種契約の結び直しや許認可の再申請、従業員の再雇用などが必要となるため、株式譲渡より手続きが複雑になります。譲渡企業の経営者にとっては手続きが多い手法ですが、事業譲渡は実施後も譲渡企業の経営権を持ち続けられることが利点です。

▷関連記事:M&Aの事業譲渡とは?株式譲渡や会社分割との違いからメリット・デメリットまで解説
▷関連記事:M&Aとは?メリットや手法、流れなど成功するための全知識を解説
▷関連記事:事業売却とは?個人事業、イグジット、事業承継など目的別に解説
▷関連記事:事業譲渡と株式譲渡の違いとは?メリット・デメリットの違いと使い分けを判断するためのポイントを解説

事業譲渡

株式譲渡の仕訳

それでは、会計仕訳について見ていきます。まずは株式譲渡からです。具体的な事例で考えた方がわかりやすいので、以下の事例を前提とします。

【事例1】

A社(譲受企業)がB社(譲渡企業)の株主X社からB社株式100%を株式譲渡により取得するケースを考えます。
また、いずれの企業も会計基準として日本基準を採用しているとします。

●前提
(A社の買収直前の貸借対照表)

現金預金600事業用負債800
事業用資産400純資産200
資産合計1,000負債・純資産合計1,000

(B社の売却直前の貸借対照表)

事業用資産400事業用負債300
純資産100
資産合計400負債・純資産合計400

・B社の発行済株式の100%はX社が保有
・B社事業用資産の時価は500(事業用負債の時価は簿価と同じ)
・A社はB社を買収対価300で取得
・X社のB社株式の取得原価は100

子会社株式300現金預金300

【譲受企業側】株式譲渡時の仕訳

個別財務諸表における仕訳

支配権を取得した場合、「子会社株式」の勘定科目で計上します。上記の事例においては、A社はB社株式100%をX社から300で取得しているので、以下のように認識します。

連結財務諸表における仕訳

売却会社の資産・負債を時価で引き継ぎ、売却会社の純資産時価(自社が取得した持分比率相当額)と取得した子会社株式の取得価額との差額をのれんとして計上します。

上記の事例においては、A社はB社の事業用資産・事業用負債を時価で引き継ぎ(それぞれ500と300)、その純額200と取得したB社株式の取得価額(300)との差額をのれんとして計上します。

純資産200子会社株式300
のれん100
借方合計300貸方合計300

なお、株式譲渡の場合においては、連結財務諸表のみでのれんが認識・償却され、償却費を税務上の損金に算入することができません。また、のれんに対しては税効果会計を適用できない点についても注意が必要です。

以上の結果、A社の買収直後の連結貸借対照表は以下のようになります。

現金預金300事業用負債1,100
事業用資産900純資産200
資産合計1,300負債・純資産合計1,300

のれんとは?

のれんは売却対象となる資産・負債の価値と買収価額との差額であり、買収対象の時価を上回るプレミアム部分、すなわち超過収益力を意味します。

株式譲渡の場合、のれんは譲渡企業の純資産時価と実際の買収価額の差額として、後で説明する事業譲渡の場合ののれんは、譲渡事業の純資産時価と実際の買収価の差額として、計算されます。買収価額から純資産時価を差し引いた金額がプラスであれば正ののれん、マイナスであれば負ののれんとなります。

会計上、正ののれんは貸借対照表の資産に計上されますが、負ののれんについては、PPA*1を行っても生じる場合には、発生した事業年度の利益として処理されます。

*1 PPA(Purchase Price Allocation):全ての識別可能な資産・負債へ買収の取得原価を配分すること

▷関連記事:M&Aで必ず知っておくべき「のれん代」を徹底解説

【譲受企業側】株式譲渡後の仕訳

個別財務諸表における仕訳

取得後は売却するまで原則として特に会計処理は不要です。ただし、譲渡企業の業績が悪化して1株当たり純資産が取得単価の半分以下になった場合は、原則として評価損を計上して1株当たり純資産相当額まで評価減する必要が生じます。

連結財務諸表における仕訳

株式譲渡の連結仕訳で正ののれんが認識された場合、日本の会計基準においては、のれんの償却による費用化を毎期行い、少しずつ費用として認識していきます。具体的には、20年以内の一定の年数で定額法により償却を行います。

のれん償却10のれん10

また、B社の営業損益が2期連続で赤字かつ当期も赤字見込みになるなど、のれんの減損の可能性がある場合には、計上されているのれんの減損を検討することになります。

なお、国際財務報告基準(IFRS)や米国会計基準ではのれんの償却は認められていません。
毎期のれんの減損が起きていないかについて評価し、減損が認められた場合には減損損失を計上していきます。M&Aを多く繰り返す会社でIFRSの適用を検討するのは、IFRSではのれんが減損しない限り、のれんの償却負担がない点を活かすことを考えているためです。

【譲渡企業側】株式譲渡時の仕訳

譲渡企業自体の仕訳の計上は不要です。事例で考えてみても、B社にとっては株主がX社からA社に変わるだけであり、株式譲渡によってB社の財務諸表それ自体への影響は起きていません。

売手である譲渡企業の株主は、支配権・影響力の状況に応じて計上していた勘定科目から取得原価を控除し、売却対価との差額を売買損益に計上します。

事例におけるX社の仕訳は以下のようになります。

現金預金300子会社株式100
子会社株式売却益200

株式譲渡の税務処理

株式譲渡を実施した際は、会計処理とともに税務に関する対応を行います。以下では、譲受企業と譲渡企業に分け、必要になる税務処理を解説します。

【譲受企業側】株式譲渡時の税務処理

株式譲渡で譲渡企業から株式を譲受する場合、譲受企業側では特段の税務処理は発生しません。

なお、株式譲渡は有価証券の譲渡であり、消費税法上では非課税取引に該当します。したがって、株式を譲受する際に消費税は課されません。

【譲渡企業側】株式譲渡時の税務処理

譲渡企業では、株式の譲渡価額から対象となる株式の帳簿上の価額を差し引いた金額を譲渡損益として扱います。譲渡価額が帳簿上の価額よりも高い場合は、他の収益と合算して法人税が課税される仕組みです。

なお、譲渡する株主が個人の場合は、法人税ではなく所得税(15%)や住民税(5%)が譲渡益に対して課されます。株式の取引は2037年まで復興特別所得税(0.315%)が課されるため、合計の税率は20.315%です。

▷関連記事:株式譲渡の税金は?課税内容や計算方法、特例

株式譲渡の仕訳イメージ

事業譲渡の仕訳

続いて、事業譲渡の場合の会計仕訳について解説します。株式譲渡の仕訳とどのような点で異なるのか、具体的に見ていきましょう。

【事例2】

A社(譲受企業)がB社(譲渡企業)の事業を買収により取得するケースを考えます。

●前提
(A社の買収直前の貸借対照表)

現金預金600事業用負債800
事業用資産400純資産200
資産合計1,000負債・純資産合計1,000

・A社はB社の売却する事業を買収対価300で取得
・会計上の時価純資産と税務上の時価純資産は一致しているものとする
・実効税率は30%

【譲受企業側】事業譲渡時の仕訳

譲受企業は譲り受ける資産と負債を時価で計上し、事業の譲渡対価との差額をのれんとして計上します。

事業用資産500事業用負債300
のれん100現金預金300

また、税務上の資産調整勘定(今回の場合、金額は会計上ののれんと一致)に対する税効果を認識します。

繰延税金資産30のれん30

結果的に、A社の買収直後の個別貸借対照表は以下のようになります。

現金預金300事業用負債1,100
事業用資産900純資産200
のれん70
繰延税金資産30
資産合計1,300負債・純資産合計1,300

資産調整勘定・差額負債調整勘定とは?

資産調整勘定とは、「税務上ののれん」と呼ばれるものであり、買い手の支払った買収価額と譲渡対象事業の税務上の純資産価額との差額のことです。今回は単純化のため、前提として会計上の純資産価額と税務上の純資産価額を一致させていたため、会計上ののれんと金額が一致していますが、別の概念です。

買収価額と譲渡対象事業の税務上の純資産価額を上回る場合は資産調整勘定、下回る場合は差額負債調整勘定となります。

上記の事例においては、事業譲渡時の会計上ののれんと税務上の資産調整勘定は完全に一致しています。

資産調整勘定に関する償却費は税務上損金算入(差額負債調整勘定の場合は益金算入)が認められており、税効果会計の対象となる点はポイントになります。上記の事例においても、税効果が認識されているのはこのためです。

【譲受企業側】事業譲渡後の仕訳

事業譲渡において正ののれんが認識された場合、のれんの償却を行います。正ののれんについては、会計上では20年以内の一定の年数で定額法により償却を行います。

一方、税務上は資産調整勘定として認識した金額につき、5年間にわたって定額法で償却を行います。したがって、会計上ののれんの償却年数と税務上の資産調整勘定の償却年数が異なる場合、会計と税務で償却費が期によって異なってきますので注意が必要です。

のれん償却14のれん14
法人税額等調整6繰延税金資産6

また、事業譲渡で負ののれんが認識された場合、会計上は特別利益に計上される一方で、税務上は負債調整勘定として認識された金額につき、5年間にわたって定額法で償却を認識していくこととなり、こちらのケースでも会計上と税務上の償却額が期によって異なるため注意が必要です。

【譲渡企業側】事業譲渡時の仕訳

譲渡企業では売却する資産と負債の簿価をオフバランスし、売却純資産の簿価と売却対価との差額を売買損益として認識します。

事業用負債500事業用資産300
現金預金100事業売却益300

株式譲渡の場合では、譲渡企業の仕訳は発生しませんが、事業譲渡の場合は仕訳が発生します。

事業譲渡の税務処理

事業譲渡では、株式譲渡と異なる税金が課されます。以下では、譲受企業と譲渡企業に分けて、発生し得る税務処理を解説します。

【譲受企業側】事業譲渡時の税務処理

事業譲渡では、仕訳の章で紹介した「のれん」以外にも、譲り受けた資産の中に課税資産が含まれる場合は消費税を納付します。土地や有価証券などの消費税法上、非課税取引となる資産があるため、税務処理をする際は両者の区別が必要です。

また、譲り受けた事業用資産に不動産が含まれている場合、不動産の譲受に関する不動産取得税や、登記変更に伴い登録免許税が課されます。

なお、減価償却資産は、中古資産取得の見積り耐用年数に従って、減価償却限度額を算出可能です。耐用年数の見積もりが難しい場合は、法定耐用年数をもとに算出します。

▷関連記事:M&Aにかかる税金は?株式譲渡・事業譲渡に分けて節税方法も紹介

【譲渡企業側】事業譲渡時の税務処理

事業譲渡を実施すると、譲渡企業では譲渡価額をその事業年度の益金に、譲渡した資産の帳簿価額を損金に算入します。譲渡価額が帳簿価額よりも高く、譲渡益が出た場合は法人税の課税対象です。

譲渡した資産の中に消費税法上、課税取引となる資産がある場合は、消費税が発生します。消費税を計算する際は課税取引と非課税取引に分類し、課税取引となる資産の譲受けについては消費税率をかけて消費税額を算出しましょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。ここまでの説明で、株式譲渡と事業譲渡の場合の仕訳の違いがかなり明確になったのではないでしょうか。

特に重要なのは譲受企業側の仕訳ですが、譲受企業にとっての株式譲渡・事業譲渡それぞれの仕訳のポイントは以下のとおりです。

株式譲渡事業譲渡
のれんの発生会計上かつ連結財務諸表でのみ発生個別財務諸表で会計上発生する
税務上も類似概念である「資産調整勘定」「差額負債調整勘定」が発生
のれんの会計処理正のれんは20年以内の一定年数で定額償却
負ののれんは発生した期の特別利益
なお、減損の兆候があれば減損処理を検討する
のれんの税効果連結仕訳により認識されたのれんに対して税効果の認識を行わない税務上の概念である資産調整勘定・差額負債調整勘定に対して税効果の認識を行う
のれんの税務上の取扱税務上ののれんは発生しない資産調整勘定も差額負債調整勘定も5年で定額償却

このように、のれんといっても、取引類型によって会計上・税務上の取扱が異なりますので注意が必要です。

また、株式譲渡と事業譲渡を実施する際には、会計処理とともに税務処理が伴います。不明点があれば、会計士や税理士など専門家に相談するようにしましょう。

fundbookのサービスはこちら(自社の譲渡を希望する方向け)

fundbookのサービスはこちら(他社の譲受を希望する方向け)

    【無料ダウンロード】自社の企業価値を知りたい方へ

    企業価値100億円の条件

    企業価値100億円の条件 30の事例とロジック解説

    本資料では実際の事例や企業価値評価の手法をもとに「企業価値評価額100億円」の条件を紹介します。
    このような方におすすめです。

    自社の企業価値がいくらなのか知りたい
    ・企業価値の算出ロジックを正しく理解したい
    ・これからIPOやM&Aを検討するための参考にしたい

    は必須項目です。

    貴社名

    売上規模

    貴社サイトURLもしくは本社所在地をご入力ください

    お名前

    フリガナ

    役職

    自社の株式保有

    電話番号(ハイフンなし)

    メールアドレス

    自社を譲渡したい方まずはM&Aアドバイザーに無料相談

    相談料、着手金、企業価値算定無料、
    お気軽にお問い合わせください

    他社を譲受したい方まずはM&A案件情報を確認

    fundbookが厳選した
    優良譲渡M&A案件が検索できます

    M&A・事業承継のご相談は
    お電話でも受け付けております

    TEL 0120-880-880 受付時間 9:00~18:00(土日祝日を除く)
    M&A案件一覧を見る 譲渡に関するご相談