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2024/07/09

M&Aにかかる税金は?株式譲渡・事業譲渡に分けて節税方法も紹介

M&Aにかかる税金は?株式譲渡・事業譲渡に分けて節税方法も紹介

M&Aにかかる税金は、個人と法人で異なる他、選択する手法によって注意する点も大きく異なります。税務においては専門的な知識が必要ですが、M&Aを円滑に進めるうえで、税務を理解することは重要です。また、海外企業とM&Aを行う際には、国によって税法や処理の方法が異なります。適切な税務の手続きを把握しておくことが、海外企業とのM&Aの成功には欠かせないとも言えます。

本記事では、M&Aでよく用いられる株式譲渡と事業譲渡を中心に、課税される税金の種類や節税方法などを解説します。

▷関連記事:M&Aとは?M&Aの目的、手法、メリットと流れ【図解付き】

宮川 真一
この記事を執筆した専門家
M&Aアドバイザー・税理士
宮川 真一
岐阜県大垣市出身。1996年一橋大学商学部卒業、1997年から税理士業務に従事し、税理士としてのキャリアは20年以上。現在は、税理士法人みらいサクセスパートナーズの代表として、コンサルティング、税務対応を行う。保有資格:税理士、CFP®https://ma-tmsp.com/miyagawa-shinichi/
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M&A実施時の税金は負担者・スキームごとに異なる

M&Aにかかる税金は、個人と法人で異なる他、株式譲渡や事業譲渡などの手法によっても違いがあります。まずは、個人と法人の所得にかかる税金の違いを紹介します。

譲渡側所得にかかる税金
個人所得税、復興特別所得税、個人住民税、事業税
法人法人税、地方法人税、法人住民税、事業税、特別法人事業税

【個人】所得と課税される税金

個人が所得を得た場合は、所得税、復興特別所得税、個人住民税、事業税が課せられます。中でも所得税は、所得の種類に応じて分離課税と総合課税に分かれるため、内容を把握しておく必要があるでしょう。

個人の所得の種類は、以下のとおりです。

種類該当する所得
分離課税利子所得、退職所得、山林所得、譲渡所得(土地・建物の売却、株式の売却)
総合課税配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、譲渡所得(ゴルフ会員権等の売却)、一時所得、雑所得

分離

課税はそれぞれの所得を区別し、課税所得に一定の税率をかけて税額を計算します。

一方、総合課税は対象の所得を合計し、課税所得に応じて税率が段階的に上がる累進課税制度です。

【法人】所得と課税される税金

法人の所得には、法人税、地方法人税、法人住民税、事業税、特別法人事業税が課税されます。法人の所得に対して実質的にかかる税率は、実効税率と呼ばれ、会社の規模や課税所得に応じて異なります。

株式譲渡で課税される税金

中小企業のM&Aにおいてよく活用される株式譲渡では、譲渡企業の株主が譲受企業に株式を譲渡し、対価として現金などを手にします。譲渡側の株主が個人の場合は、株式譲渡で獲得した譲渡所得に所得税、復興特別所得税、個人住民税が課されます。
株式の売却による譲渡所得は、別の所得とは分けて計算される分離課税方式であり、税率も一定であることが特徴です。

また、株主が法人の場合には法人税、地方法人税、法人住民税、事業税、特別法人事業税が課されるなど、同じ株式譲渡でも税金の内訳が大きく異なります。

個人と法人で株式譲渡時にかかる税率の違いは、以下のとおりです。

・個人:20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)
・法人:規模、所得に応じて異なる

なお、株式譲渡による譲渡所得などの金額は、他の所得の金額と区分して税金を計算する「申告分離課税」となります。
▷関連記事:株式譲渡にかかる税金って何があるの?その種類や計算方法を徹底解説

株式譲渡:M&Aの所得と税金の計算方法

株式などの譲渡により譲渡企業が獲得するのは、最終合意時に同意した譲渡価額になります。その後、譲渡所得金額に応じて個人と法人のそれぞれに税金が課せられます。

譲渡所得金額は、以下の計算によって算出されます。

1. 取得費=取得金額 + 付随費用
2. 譲渡所得金額=譲渡収入金額 -(取得費 + 譲渡費用)

例えば、譲渡側が個人の場合、株式譲渡によって5,000万円の収入を得て、取得費2,000万円と譲渡手数料500万円がかかったとします。この場合の納税額は、以下のとおりです。

・取得費:2,000万円
・譲渡所得金額:5,000万円 -(2,000万円+500万円)=2,500万円
・税金:2,500万円×0.20315=5,078,750円

最終的に手元に残る金額は、譲渡収入から取得費と税金を引いた金額となるため、上記の場合であれば約2,000万円となります。

▷関連記事:株式譲渡の所得税はどれくらい?控除の有無についてもわかりやすく解説

株式譲渡:譲受側に相続税・贈与税が課税されるケース

親族へ株式を譲渡する場合や、著しく低い価額で株式譲渡をした場合は、譲受側に相続税や贈与税が課せられる可能性があります。

相続税・贈与税の税率は、金額に応じて10%~55%となり、場合によっては株式譲渡時の所得にかかる税金より高くなることがあるので、注意が必要です。

相続財産に株式などが含まれ、その株式を売却した場合、先に支払った株式の相続税を株の取得費として加算できるという特例があり、譲渡所得税を減らすことが可能です。

なお、取得費に加算する要件は以下の3点です。あわせて確定申告が必要になります。

・相続や遺贈により財産を取得したものであること
・取得した日に相続税が課税されていること
・相続開始日の翌日から「相続税の申告期限」の翌日以降3年を経過する日までに譲渡していること

▷関連記事:事業承継にはどれくらいの費用がかかる?

M&Aと税金、税務、節税

株式譲渡:節税対策

株式譲渡に伴い、譲渡企業の役員や従業員が退職することが想定されます。そのため、譲渡企業は譲受企業と移転する従業員の雇用条件や制度についてすり合わせを行い、退職を防ぐことが重要です。

そのような対応を行っても、役員や従業員が退職してしまう際には、支払う退職金は会社の損益(経費)として算入が可能です。
そのため、退職金支給後の残金を株式譲渡の対価として支払うことで、譲渡企業の株式譲渡代金は減少し、譲渡企業は法人税の節税効果を期待できます。

また、譲渡企業の創業者目線で検討する場合、退職金は税金が優遇されているため、退職金の活用は節税効果があります。

譲渡企業の創業者が会社の株式を全て持っていた場合、譲渡対価は株主である譲渡企業の創業者に渡されます。株式譲渡の譲渡所得に課される税金は20.315%(所得税および復興特別所得税15.315% + 住民税5%)(2024年6月現在)です。

そのため、M&Aにおける株式の譲渡額を1億円、過去に株式を取得した価額を3,000万円とした場合、譲渡益の7,000万円に対して約1,400万円の税金がかかります。

もし、会社から創業者に対して退職金を4,000万円支給し、M&Aの取引価額を差し引きの6,000万円と決定した場合、株式譲渡にかかる課税所得は、譲渡収入6,000万円から取得費3,000万円を差し引いた3,000万円となり、最終的に支払う税金は約600万円まで減少します。
譲渡価額の税金とあわせて、退職金にかかる税金も別途発生するため、これらを総合して判断することが重要です。

以上のように税務上の処理が異なるため、退職金を活用すれば退職所得の優遇規定により、創業者の手元に大きな金額を残すことが期待できます。
このように、株式譲渡の際には、役員退職金を組み合わせることで創業者に節税効果が見込める場合があります。

事業譲渡で課税される税金

事業譲渡では、譲渡企業が譲受企業に事業の一部または全部を譲渡し、対価として現金などを譲渡企業が受取ります。課税対象は法人のため、株主に税金の負担はありません。

事業譲渡:M&Aの所得と税金の計算方法

事業譲渡の所得に課税されるのは、主に法人税等(法人税、地方法人税、法人住民税、事業税など)です。

法人税等は、譲渡益のみに課税されるわけではなく、会計年度の損益の全てを通算し、利益に対して課税されます。会計年度の利益がマイナスの場合は、譲渡益と相殺されます。

事業譲渡にかかる法人税等の計算方法は、以下のとおりです。

1. 譲渡益=譲渡金額 – (譲渡資産-譲渡負債)
2. 税金=(譲渡益 + 本業の利益) × 実効税率

実効税率は、譲渡企業の規模や所得によって異なりますが、約30%程度となるケースが多いです。

また、事業譲渡には例外もあり、完全支配関係がある法人間で事業譲渡を行った場合、一定の要件を満たすとグループ法人税制が適用され、譲渡損益が繰り延べられます。

その他、譲渡対象資産に課税対象資産が含まれている場合、譲渡企業は消費税を納税する必要があります。消費税を実質負担するのは、譲受企業です。

事業譲渡:譲受側に課税される税金

事業譲渡の場合、譲り受ける資産によっては、譲受側にも消費税、登録免許税、不動産取得税が課税されます。

税金の種類内容
消費税譲渡対象資産に設備や店舗などの課税対象資産が含まれる場合、10%の税率をかけて譲渡企業に支払います。実際の納税は譲渡企業が行います。
登録免許税譲渡対象資産に土地や建物が含まれている場合、その所有権を登記するために、2%の税率をかけた登録免許税がかかります。
不動産取得税譲渡対象資産に土地や建物が含まれている場合、原則、土地や家屋(住宅)には3%、家屋(非住宅)には4%の税率をかけた不動産取得税がかかります。

※2024年6月時点

▷関連記事:M&Aによる事業譲渡を行う際の消費税の取り扱い方について解説

事業譲渡:節税対策

譲受企業は、移動した資産の時価以上の部分である「のれん(営業権)」に相当する金額は、税務上資産調整勘定として扱い、5年間で均等償却し法人税の算定上損金に算入することができます。
そのため、のれんが発生した場合、法人税の課税対象である利益を5年間減らすことができます。

▷関連記事:M&Aで必ず知っておくべき「のれん代」を徹底解説
▷関連記事:事業譲渡と株式譲渡の違いとは?メリット・デメリットの違いと使い分けを判断するためのポイントを解説

事業譲渡の場合の税金、税務、節税

合併など組織再編成の場合の税金、税務、節税

合併は、2つ以上の会社が1つの会社になることを指します。その他のM&Aの手法と異なり、合併すると消滅会社は消滅し、法人格がなくなります。

合併の際の資産などの流れは、原則として消滅会社が時価で譲渡したものとして取扱います。
また、会社から現金や株式などの実質的に利益が配当されたと見なされる、みなし配当※1を個人の株主が受取ったと認識された場合、所得税などによって最大55.945%の課税が行われます。
ただし、合併には税制適格要件が存在し、条件を満たした適格合併の場合は、合併の存続会社、消滅会社および各株主は、原則として税金が将来に繰り延べられます。

その他にも、適格要件を満たすことで時価ではなく簿価で行えること(法人税法第62条の2第1項)や、消滅会社の繰越欠損金を原則として引継ぐことができます(法人税法第57条の2項)。

繰越欠損金を引継ぐことで、欠損金の繰越期限切れとなる10年の間に課税所得が生じた場合、課税所得を減額することが可能です。そのため、税制適格要件を活用することで節税効果を見込めます。

なお、合併の申請時にかかる登録免許税も、合併の手法によって税率が異なるので、把握しておきましょう。
・吸収合併:資本の増加分のみに対して、0.15%が課税される
・新設合併:資本金そのものに0.15%が課税される

※1 みなし配当:何らかの事情で、会社から株主に現金や株式などを渡されることを指します。実質的に会社から株主に利益が配当されているため、みなし配当と呼ばれます。

▷関連記事:合併登記の必要書類とは?登記にかかる費用や許認可の取り扱い、登録免許税を解説

合併など組織再編成の場合の税金、税務、節税

国内のM&Aに関する税金の申告時期

M&Aの実施によって個人が所得を得た場合は、原則、所得のあった翌年の2月16日から3月15日までに確定申告を行い、所定の税金を納める必要があります。

所得税(復興特別所得税含む)は確定申告の期限までに納めますが、住民税は確定申告後の6月頃に自治体から郵送で届く納付書で納税します。

また、法人の場合は、納税時期が中間申告分と確定申告分の2回あります。中間申告分は、各事業年度開始日以降6ヶ月を経過した日から2ヶ月以内です。確定申告分は、各事業年度終了の日の翌日から2ヶ月以内になります。

あわせて、別途消費税が発生した場合も、原則的には同じ支払時期が設定されているため、同時に申告しましょう。

クロスボーダー(国際間取引)の税務について

各国の税法はそれぞれの国の課税権に基づいて定められていますが、国境を超えた取引を行う場合には、国際間において税務上の問題が発生します。

複数の国にわたる取引が行われる場合、双方の国から課税を受ける二重課税や、双方から課税を受けない二重非課税が発生するため、公平性を保つために租税条約や外国税額控除といった制度が設けられ、二重課税などを防いでいます。

また、法人税率が低い国も存在しています。前述のとおり、二重課税が防がれているので、可能な限り税率の低い国に所得を集中させて、企業の税額を減少させる租税回避が多国籍企業によって行われています。

しかし、意図的な租税回避を受け、タックスヘイブン対策税制や移転価格税制などに関する規制が国際的に強化されています。

M&Aに関する税制

2019年に、税制改正が行われました。以下では、M&Aに影響する主なポイントを紹介します。

三角合併

適格合併とされる三角合併の合併対価については、従来、合併法人の完全親会社株式(直接の100%親会社株式)のみが対象でしたが、税制改正により、間接の100%親会社株式も適格合併とされ、三角合併の合併対価に含まれるようになりました。

逆さ合併

吸収合併では、一般的に規模の大きい会社が存続会社、小さい会社が消滅会社になります。

しかし、規模の小さい会社が存続会社、規模の大きい会社が消滅会社となる特殊なケースもあります。いわゆる逆さ合併と呼ばれる手法です。

税制改正前は、他の適格要件を満たしていても、支配関係継続要件を満たさず、非適格株式交換とされていたため、譲渡企業の一定の資産の評価損益を認識する必要がありました。

税制改正によって、譲渡企業が合併直前まで支配関係を継続すれば、適格株式交換と判定されることに改正されたため、評価損益の認識が不要となりました。

その他のポイント

・個人事業主の相続税、贈与税の納税が猶予される「個人版事業承継税制」の創設(2019年1月からの相続・贈与から開始)
・特別法人事業税(国税)の創設、法人事業税の税率の改正(いずれも2019年10月以降、開始事業年度から開始)
・相続時精算課税制度、直系尊属からの贈与を受けた場合の贈与税の税率の特例(2022年4月以降の贈与から開始。受贈者の年齢要件を20歳から18歳以上に引き下げ)
・中小企業などの法人税の軽減措置(15%適用)を令和7年3月までの開始事業年度まで延長
・法人が連結親法人との間に完全支配関係を有することになり、連結納税加入時期の特例の適用を受けるための手続きについて、連結親法人に一元化する

まとめ

M&Aにおける税務は、仕組みを理解したうえで活用すれば、税負担の軽減やM&A後の企業の運営に役立つケースが多いため、知識を持つことは無駄になりません。
また、税務は専門性の高い知識が必要です。課税対象や支払い期間を把握し、M&A後の税務に速やかに対処するには、税理士などの専門家への相談がおすすめです。

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