調剤薬局業界では事業承継・M&Aによって経営基盤の安定化や事業の拡大を図る事例が見られます。
物価高・賃金上昇による経営への影響や人手不足への対応など、様々な経営課題に直面している調剤薬局業界では、厳しい競争環境を生き抜くため、経営戦略上の選択肢の1つとしてM&Aが注目されています。
本記事では、調剤薬局業界の現状や事業承継・M&Aの動向、手続きの流れ、M&Aを行うメリットや売却価格の相場を紹介します。
企業価値100億円の企業の条件とは
・企業価値10億円と100億円の算出ロジックの違い
・業種ごとのEBITDA倍率の参考例
・企業価値100億円に到達するための条件
自社の成長を加速させたい方は是非ご一読ください!
目次
調剤薬局業界の現状

薬局とは、医師の処方箋に基づいて薬剤師が薬の調剤や提供などを行う場所です。薬機法では「薬剤師が販売又は授与の目的で調剤の業務並びに薬剤及び医薬品の適正な使用に必要な情報の提供及び薬学的知見に基づく指導の業務を行う場所」(薬機法第2条)と定められています。
薬局を開設するには都道府県知事の許可が必要です。薬局は地域の医療体制を支える存在の1つであり、薬の提供や服薬指導などを行うことで地域社会に医療サービスを提供しています。
調剤薬局業界が直面する課題
厚生労働省が公表したデータによれば、薬局数は2015年に58,326施設、2024年には63,203施設です。直近10年間で薬局数は着実に増えており、人口減少社会にも関わらず薬局数が増える中、調剤薬局業界では競争が激しさを増しています。
東京商工リサーチが実施した調査結果によると、調剤薬局の倒産件数は2022年16件・2023年12件に対して2024年は28件と大幅に増加しました。ドラッグストアなど他業種からの新規参入も多く、経営環境が厳しさを増していることが伺えます。
また、調剤薬局業界では慢性的な薬剤師不足も課題の1つで、人材確保のためには賃上げが必要な状況です。一方で、2年に1度の調剤報酬改定では、近年は地域医療体制への貢献など時代にあわせた事業経営ができている薬局が評価される報酬体系に変更されつつあります。
2023年から始まった電子処方箋精度などデジタル化への対応をはじめとして、調剤薬局が取り組むべき事項は多岐に渡ります。単に薬を調剤するだけではない、薬局としての在り方が問われており、事業の効率化などを迫られている状況です。
調剤薬局業界の事業承継・M&A動向
調剤薬局業界では、以下のような目的で事業承継・M&Aを行うケースが見られます。
| ・他企業とM&Aを実施し、スケールメリットを活かして事業の効率化を図るケース ・事業拡大・人材確保を目的としてM&Aを行うケース ・後継者がおらず事業を第三者に託して事業継続するケース など |
他の企業を買収して規模を拡大すれば、スケールメリットによって事業を効率化できてコストを削減でき、人材を確保できて人手不足の課題を解決できる場合があります。また、後継者がいない場合でも、事業承継によって廃業せずに済めば従業員の雇用を守ることが可能です。
近年は経営環境が厳しさを増していることもあり、調剤薬局業界では大企業・中小企業を問わず事業承継・M&Aを行う事例が見られます。アドバンテッジパートナーズによる日本調剤の買収もその1つです。
投資ファンドのアドバンテッジパートナーズが日本調剤を買収したことで、日本調剤は2025年12月19日に上場廃止になり、アドバンテッジパートナーズのもとで業績の向上などを目指すことになりました。
調剤薬局が事業承継・M&Aを実施するメリット
調剤薬局が事業承継・M&Aを実施する主なメリットは次の3つです。
| ・廃業の回避・雇用の維持 ・人材の確保・人手不足の解消 ・事業規模の拡大・事業経営の効率化 |
以下でそれぞれ詳しく解説します。
廃業の回避・雇用の維持
経営が厳しい場合や後継者がいない場合、廃業せざるを得ないことがあります。しかし、廃業すると従業員が解雇されて生活に困ることになります。また、企業が培ってきたノウハウや経験が失われてしまう点や、廃業費用がかかる点もデメリットです。
一方で事業承継・M&Aによって廃業せずに済めば、従業員を解雇せずに済んで雇用を維持できます。事業の売却によって経営者が資金を得られれば、別の事業の活動資金に充てることができ、引退後の生活資金として活用することも可能です。
調剤薬局業界では経営者の高齢化や後継者不足が課題となっていますが、事業承継・M&Aを実施すれば廃業を回避して事業を存続できます。
人材の確保・人手不足の解消
新規に事業を立ち上げる場合は採用や人材確保に時間がかかることがあります。特に調剤薬局業界では薬剤師が不足している状況であり、新規に人材を採用しようとしても必要な人員が簡単に集まるとは限りません。
一方で事業承継・M&Aの場合は、既存の薬局で働く従業員を引き継ぐことで人材を確保できます。また、以前から働いている薬剤師が事業承継・M&A後も引き続き働くことになれば、患者との信頼関係が築かれているためスムーズな事業運営が可能です。
事業規模の拡大・事業経営の効率化
物価高や資材価格の高騰により、企業では事業経営の効率化やコスト削減の必要性が高まっています。事業承継・M&Aによって他企業と統合して企業規模が大きくなれば、スケールメリットによって資材の調達などを効率的に行えるようになります。
調剤報酬改定による収益の低下や、調剤薬局数の増加によって市場競争が激しくなる中、事業承継・M&Aによって経営効率を高められれば市場競争で生き残ることができます。
事業承継・M&Aの手続きの流れ

事業承継・M&Aの手続きの流れは「①検討・準備フェーズ」「②マッチング・交渉フェーズ」「③最終契約フェーズ」の3つのフェーズに分けられます。事業承継・M&Aを行う際の一般的な手続きの流れは以下のとおりです。
| M&Aのフェーズ | 手順・流れ |
| 検討・準備 | 1. M&Aの相談・検討 2. M&A仲介業者の選定とアドバイザリー契約 |
| マッチング・交渉 | 3. 交渉相手となる企業の選定 4. 企業価値評価の実施 5. スキームの選択 6. M&A基本合意の締結 7. 買い手側企業によるデューディリジェンスと条件交渉 |
| 最終契約 | 8. M&A最終契約の締結 9. クロージング 10. クロージング後の手続き・実務 |
事業承継・M&Aでは専門的な知識が必要になることと、買収先・売却先となる企業を自分たちで探すことは難しいため、M&A仲介会社などの専門家に依頼して進めることが一般的です。
M&A仲介業者を選定して契約を締結したら、交渉相手となる企業の選定や、M&Aをどのような手法で実施するのか、スキームを検討して決定します。相手企業と交渉してM&Aの内容や条件を確定させたら基本合意を締結します。
デューディリジェンスは、M&Aを実施して本当に問題がないか、法務や税務など様々な観点からリスクを洗い出すために買い手側企業が売り手企業に対して行う調査です。調査の結果、問題がなければ詳細な条件を確認し、最終契約を締結して企業統合作業に移ります。
M&Aの手続きの流れは以下の記事で詳しく解説しています。あわせて参考にしてください。
▷関連記事:M&Aの手順・流れは?売却検討からクロージングまでの進め方を徹底解説
調剤薬局業界の事業承継・M&Aの相場と企業価値の計算方法
事業承継・M&Aでは、企業をいくらで買収・売却するのか、評価額を算出する必要があります。上場企業であれば株価をもとに企業価値を算出できますが、非上場企業では株価はないため、事業承継・M&Aを行う場合は企業価値の算出が必要です。
企業価値の計算方法には様々な手法があり、その中でも中小企業の事業承継・M&Aで用いられることが多い手法の1つが「年倍法」です。年倍法では「時価純資産」と「営業利益の数年分」の合計額によって企業価値評価額を算出します。
年倍法は現在の資産価値と今後数年間に生み出す利益に着目して企業価値を算出する方法です。営業利益を何年分計上するかはケースごとに異なりますが、一般的には3~5年が相場です。
ただし、実際の企業価値の評価では個別の要素も加味すべきケースが少なくありません。処方箋の単価や枚数、医療施設との関係、有資格者の状況などの要素によっても評価額は変わり得ます。
企業価値の計算など、事業承継・M&Aでは専門的な知識が必要になります。事業承継・M&Aを検討中の方はfundbookにお気軽にご相談ください。
▷関連記事:M&Aの価格算定方法とは?3つの手法と相場、実施の流れや注意点を解説
調剤薬局が事業承継・M&Aで失敗しないためのポイント

調剤薬局が事業承継・M&Aで失敗しないためにおさえておきたい主なポイントは次の3つです。
| ・病院やクリニックなど処方箋発行元との関係性 ・薬剤師との信頼関係・離職防止 ・調剤薬局業界に精通した専門家への依頼 |
以下でそれぞれ詳しく解説します。
病院やクリニックなど処方箋発行元との関係性
調剤薬局の収益性は、医療機関との信頼関係や患者数などによって左右されます。病院やクリニックなど処方箋発行元との信頼関係を維持できるかどうかが、事業承継・M&Aで成功するためのポイントの1つです。
事業承継・M&Aを行う際は、医師や病院、患者などの関係者が混乱したり不安を感じたりして信頼関係が失われないように、早期に説明を行って信頼関係の維持に努める必要があります。
薬剤師との信頼関係・離職防止
事業承継・M&Aによって経営者が変わると職員が退職してしまうケースがあります。退職者が出ると、事業承継・M&A後に想定していた事業運営ができず、収益の減少や経営状況の悪化を招くことになりかねません。
事業承継・M&Aでは、実施後に薬剤師が退職しないように対策することが重要です。事業承継・M&Aでは従業員が不安を抱くことも多いため、事業承継について従業員に事前に丁寧に説明して理解を得る必要があります。
また、現経営者が事業承継後も一定期間に渡って経営に関与するようにすれば、急激な変化を避けることができ、従業員も対応しやすくなって離職防止につながります。
調剤薬局業界に精通した専門家への依頼
調剤薬局の事業承継・M&Aでは、薬機法や診療報酬制度など他業界とは異なる知識が求められます。M&A仲介会社などの専門家に依頼する際は、調剤薬局業界に精通した専門家を探すことが重要です。
調剤薬局の事業承継・M&Aのサポート実績があるM&A仲介会社などの専門家に依頼することで、事業承継・M&Aをスムーズに進めることができます。
必要な対応や手続きがスムーズに進めば、事業承継・M&Aに伴う混乱が社内外で起きずに済んで従業員や取引先との信頼関係を維持でき、事業承継・M&Aの対応で余計な労力や手間をかけることなく企業の売却・買収を完了できます。
まとめ
調剤薬局業界では、人手不足や経営者の高齢化、新規参入による市場競争の激化などにより、経営状況が厳しい薬局も少なくありません。倒産件数は高止まりしている状況であり、人材獲得や事業の効率化を図る目的で事業承継・M&Aが行われる事例が見られます。
実際に事業承継・M&Aを行う場合は、処方箋発行元や勤務している薬剤師との関係を大切にすることがポイントです。薬剤師との信頼関係を重視してM&A後の離職を防止することが、スムーズな事業承継・事業運営につながります。
事業承継・M&Aでは専門的な知識が求められます。経営者や企業担当者だけで必要な手続きや対応を行ったり、売却価格の相場観を把握・計算したりすることは難しいため、事業承継・M&Aを検討中の方はfundbookにお気軽にご相談ください。
fundbookでは、経験豊富なM&Aアドバイザーが相談から成約まで一貫してサポートします。M&Aに関する様々なご質問にお答えしますので、ぜひ無料相談をご利用ください。また、無料でダウンロードできる「幸せのM&A 入門ガイド」という資料もご用意しています。こちらもぜひお役立てください。