住宅建設業界とは、新築の戸建住宅を供給する会社が属する業界を指します。業界の中では、規模によって呼称が「ハウスメーカー」や「ビルダー」、「工務店」と大きく3つに分かれます。一般的に、ハウスメーカーは日本全国に拠点があり、年間販売棟数が数千棟~1万棟に達する会社、ビルダーは1~3都道府県程度のエリアに特化し、年間数百棟~数千棟の住宅を供給している会社、工務店は地域密着型の年間数棟~数十棟の規模で活動している会社を指します。
住宅金融支援機構の調査によると、住宅業界全体の規模は、2017年4月〜2018年2月における住宅の着工数が876,780戸であり、これは前年度の着工数(898,250戸)と比較すると2.4%(21,470戸)の減少となっています。
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目次
ハウスメーカーから最新の業界動向を紹介
この記事では、日本国内全域で事業を展開するハウスメーカーから住宅建設業界の動きをみていきます。ハウスメーカー業界は、ここ10年の間に取り巻く環境に大きな変化が起きています。2007~2009年の間、複数回にわたり変更された改正建築基準法では、資材の定格(機器や部品などの仕様を規定したもの)が変更されました。その結果、一時的に資材メーカーの生産量が減ったため、ハウスメーカーが手がけることのできる新規戸建住宅の着工数が減少しました。
2010年代には、災害を意識した耐震・耐火や省エネなどの機能を備えた「スマートハウス」と呼ばれる住宅へのニーズが高まります。そのため減少していた新築住宅の着工数は再び増加傾向にありました。しかし、その流れも長くは続かないと予想されています。
現在、戸建住宅の購入を後押しするものとして、消費税増税前の駆け込み需要や、マイナス金利政策による住宅ローンの低金利が挙げられています。しかし、人口減少に伴う住宅の需要減少に加え、2019年10月の消費税増税後の住宅着工数の減少が予測されており、業界全体で経営戦略の見直しが必要となります。
その中で、ハウスメーカー業界では住宅販売網の拡大やコスト面での効率化を狙ったM&Aが行われることが多い傾向にあります。住宅建設業界全体でも同じ動きがみえるといえるでしょう。本記事では、今後ますますM&Aが活発に行われると考えられる住宅建設業界、主にハウスメーカーに着目し、2016年から2018年の間に行われた最新のM&A事例を紹介していきます。
業界大手によるM&A事例4選(直近5年間)
1.積水ハウス株式会社によるWOODSIDE HOMES COMPANY, LLCの吸収合併
2017年2月、積水ハウス株式会社はアメリカにある子会社を通じて、アメリカで戸建住宅販売事業を展開しているWoodside Homes Company, LLC(以下、ウッドサイド・ホームズ)を完全子会社化しました。
積水ハウスは、グループ全体としてスマートハウスの開発と、国内市場における普及に注力してきました。今回の子会社化は、国際市場における「スマートハウス」の販売を促進することが狙いです。このM&Aの背景として、現在ウッドサイド・ホームズが事業を行うカルフォルニア州では、新築の戸建住宅を全てZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス=年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとする住宅)とする規制が導入される見通しであり、そこに同社のスマートハウスの勝機を見出しました。環境に優しいモノづくりが世界的な課題となってきている中、省エネルギーかつ再生可能エネルギーを使用しているZEHは世界的に大きな注目を浴びています。
今後、積水ハウスはウッドサイド・ホームズが事業を行うユタ州やカルフォルニア州を中心として、アメリカ全土での事業展開を進めていくようです。
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2.大和ハウス工業株式会社によるRAWSON GROUP PTY LTD.の完全子会社化
2017年11月、大和ハウス工業株式会社はオーストラリアの戸建住宅建設・土地開発を行うRawson Group Pty Ltd.(以下、ローソングループ)を完全子会社化しました。
大和ハウスグループは、売上高4兆円の達成に向けて安定した収益基盤を築くことを中期経営計画として掲げており、安定的な成長が見込めるアメリカやオーストラリアを始めとする先進国や、中長期的な成長が見込めるASEAN諸国の企業へ積極的な投資を行っています。
今回株式取得により子会社化したローソングループは、オーストラリアにおいて40年以上の住宅開発や建設の実績がある非上場企業です。オーストラリアの住宅建設業界における最優秀デザイン賞を何度も受賞しており、オーストラリア国内では高い評価を得ています。
買収後は、大和ハウスグループの経営資源とローソングループの現地での知名度と技術力を組み合わせ、オーストラリア市場におけるシェアの拡大を進めていくと見られています。
3.トヨタホーム株式会社によるミサワホーム株式会社の子会社化
2016年11月、トヨタホーム株式会社は、ミサワホーム株式会社の株式をTOB(株式公開買付)と第三者割当増資を組み合わせ約110億円で取得、持ち株比率を51%に引き上げ、子会社化しました。
2016年11月以前からトヨタホームはミサワホームと資本関係にあり、資材の共同調達や土地の共同購入等を行ってきました。2014年4月には耐火構造の3階建賃貸住宅の共同開発を行うなど、協業による一定の効果をあげています。トヨタホームはより強固な関係構築のため、今回の子会社化に踏み切りました。今後は戸建住宅販売のみならず、リフォームをはじめとした既存住宅や、高齢者の住宅の進出での連携を強化していくとのことです。
第三者割当増資の詳細はこちらで詳しく解説しています。
▷関連記事:「M&Aの手法としても活用される「第三者割当増資」とは?メリット・デメリットや手順について細かく解説
▷関連記事:TOB(株式公開買付)とは?友好的・敵対的TOBの意味や防衛策を解説
4.旭化成ホームズ株式会社による中央ビルト工業株式会社の業務及び資本提携
2017年3月、「へーベルハウス」や「へーベルメゾン」ブランドの住宅販売を行う旭化成ホームズ株式会社は、住宅鉄骨材料の加工販売を行う中央ビルト工業株式会社と業務及び資本提携を結びました。
旭化成グループである旭化成ホームズは、1972年に誕生して以来、耐震・耐火・耐久性に強みを持った戸建住宅を販売しています。旭化成グループは、競争力強化のために2025年までに収益性の高い事業を創出していくことを目指しており、実現するための戦略の1つとして中央ビルト工業の買収を行いました。
中央ビルト工業は高い安全性の求められる仮設足場技術や住宅用の鉄鋼部材の加工・販売を行っており、旭化成グループは提携による住宅用鉄骨材料の生産体制の強化、コスト削減が見込まれています。
今後も提携の目的である競争力強化を進めるために、中央ビルト工業と同社は「へーベルハウス」をはじめとした住宅に使用する住宅部材の開発を共同で進めていくと予想されます。
2018年のハウスメーカー業界のM&A事例3選
1.大和リース株式会社によるテクニカル電子株式会社の完全子会社化
2018年4月、大和ハウスグループの大和リース株式会社は、テクニカル電子株式会社(現:株式会社パーキングソリューションズ)をTOBにより完全子会社化しました。
大和リースは大和ハウスグループの子会社で、戸建住宅ならびに賃貸住宅の販売、自動車や集合住宅のリースなど、多領域にて事業展開しています。
今回の完全子会社化により、大和リースの行う駐車場の開発・運営事業とパーキングソリューションズの企画・施工・運営・管理の一貫したサービスのノウハウを組み合わせ、ビジネスの拡大を目指していくようです。
2.フクビ化学工業株式会社による積水化学工業株式会社の事業譲受
2018年9月、フクビ化学工業株式会社は積水化学工業株式会社の環境・ライフラインカンパニー事業部の持つ、フェノールフォーム断熱ボード事業を譲り受けることを発表しました。
フクビ化学工業は本社のある福井県を中心に建築資材や樹脂パネルの製造・販売を行っており、国内外に拠点を構えている会社です。積水化学工業から譲り受ける「フェノールフォーム断熱ボード」は、最高水準の断熱性能・防火性能をもっており、スマートハウスなど住宅向けの断熱材です。フクビ化学工業グループの製造・販売面の強みを生かし、
同商品の更なる販路拡大を見込んでいます。
フクビ化学工業は中期経営計画の基本方針で「成長分野への積極展開」を掲げ、技術・商品開発を進めています。そのため、今後も資材の製造・販売している企業を買収し、商品のラインナップを増やしていくことが予想されます。
3.株式会社桧家ホールディングスが株式会社ハウジーホームズを完全子会社化
2018年3月、株式会社桧家ホールディングス(現:株式会社ヒノキヤグループ)は株式会社ハウジーホームズの全株式を取得し、完全子会社化しました。
ヒノキヤグループは、住まいと暮らしを中心とした生活領域に関わる様々な事業を展開しており、国内海外合わせて13の子会社を保有する東証一部上場企業です。主力事業は「桧家住宅」「レスコハウス」などの注文住宅の販売ですが、国内住宅市場の縮小に伴い、新築住宅着工数は減少傾向にありました。
ヒノキヤグループは東海地方における注文住宅事業の本格展開にあたり、同エリアで既に販売チャネルを持つハウジーホームズに子会社化による高いシナジー効果を期待、今回のM&Aに至りました。
M&Aを実施することにより得られるシナジー効果については、下記をご参照ください。
▷関連記事:譲渡企業側こそ意識しよう。企業選定で欠かせないポイント「シナジー効果」とは
異業種同士のM&A(ハウスメーカー業界周辺)事例3選
1.株式会社淺沼組によるSINGAPORE PAINTS&CONTRACTOR PTE.LTD. の子会社化
2018年10月、株式会社淺沼組はシンガポールにて建物塗装・修繕工事を行うSINGAPORE PAINTS&CONTRACTOR PTE.LTD. を子会社化しました。
淺沼組は2017年に創業125周年を迎えた歴史のあるゼネコンで、市区町村の庁舎や京都縦貫自動車道、宮内庁の正倉院事務所の施工など多数の施工実績があります。
今後、淺沼組は「外部環境に的確に対応し、安定した業績を継続し、営業利益20億円以上を常に確保する。」ことを目指しており、その戦略の1つとして、SINGAPORE PAINTS&CONTRACTOR PTE.LTD.の子会社化による海外進出を進めたとみられています。
2.住友林業株式会社による株式会社熊谷組との業務資本提携
2017年11月、住友林業株式会社は株式会社熊谷組と業務資本提携を結びました。住友林業は新規住宅の需要の低下が見込まれる中で、非住宅分野や不動産開発での事業を推進するためにゼネコン機能を必要としており、今回のM&Aに至りました。
一方で熊谷組は、主力事業である土木・建設業分野に加えて、バイオマス・地熱などの再生エネルギー事業の強化を掲げており、実現に向けて「木材」「自然」に関しての幅広い知見を持つ住友林業との提携を決めたようです。
この提携をきっかけに、住友林業は海外での住宅・都市開発をはじめとした、介護付き老人ホームの設計・施工などの介護福祉事業においても熊谷組と協力していく体制を構築するとしています。また、この提携によるシナジー効果として、中長期的に両社合算で売上高1,500億円、営業利益100億円を見込んでいることも報告されました。
3.積水化学工業株式会社による株式会社ソフランウイズの完全子会社化
2017年12月、積水化学工業株式会社は、株式会社ソフランウイズを完全子会社化しました。ソフランウイズは親会社の東洋ゴム工業株式会社の硬質ウレタン事業を吸収合併した上で、積水化学工業の子会社になりました。
硬質ウレタン事業を扱う積水化学工業の住インフラ材分野では、耐熱配管材の原料であるCPVC樹脂やウレタン系現場発泡断熱材(不燃ウレタン)などの素材に着目して事業を展開し、高品質な商品の提供を行ってきました。同社の方針として未来の成長投資を進めており、成長する不燃ウレタン市場への事業拡大を見据えたM&Aであると考えられます。
専門家からのコメント
現在、国内の住宅市場は縮小傾向にあります。そのため多くの会社が販売網を全国に拡大し、コストの削減を行っています。 それを効率よく行うためにM&Aという手法が取られています。
この記事では、規模が大きいハウスメーカーが素材のメーカーを譲受する事例が挙げられていますが、規模が小さいビルダーや工務店を譲受する事例も多く存在します。
ただし、この業界ならではの問題として地方の工務店は廃業という選択が難しい、というのが実情としてあります。これは地域密着型でサービスを提供しているため、地域の方と信頼関係を築き上げています。廃業した場合、家を購入した方は何かあったときの修繕などができなくなってしまうため、廃業に踏み切れないという経営者の方が多くいらっしゃいます。そのため、事業体を残す形でのM&Aは有効な解決策になります。
地方の工務店でも腕のいい大工さんが籍を置いていたりすると、対応地域の拡大を行いたい譲受企業からの需要もあります。そのため経営の安定性を図りたい場合なども大手グループ会社傘下に入ることで資本を活用させてもらい、次の成長を考えるのも戦略の1つです。
まとめ
今回はハウスメーカーや、それに関わる建設・資材メーカー業界のM&Aについて紹介しました。人口の減少に伴い、国内消費が減少し市場が縮小している業界が多く存在します。また消費者のニーズも変化しており、新たな事業、サービスの創出により需要の変化に対応する動きも会社経営には求められています。縮小しつつある国内住宅市場において、M&Aによる成長戦略を取っている業界はハウスメーカーも例外ではありません。
現在ハウスメーカー業界では、自社内でのスマートハウスやバリアフリー住宅の付加価値のある住宅の販売による差別化のため、複数の住宅商品開発を進めています。また、資材メーカーや建設業界などの異業者とのM&Aも増えているようです。今後は同業者のみならず、異業者とのM&Aも活発に行われていくとみられ、現在よりも業界の垣根は無くなっていくでしょう。