歯科業界では近年、M&Aによって人手不足・後継者不足の問題の解決を図る事例が見られます。経営者の高齢化が業界の課題となり、後継者がおらず廃業するケースもある中、事業の継続や拡大、人材獲得につながるM&Aは経営戦略上の重要な選択肢の1つとなっています。
本記事では、歯科業界の現状やM&Aのメリット、手続きの流れを解説します。歯科業界のM&A事例やM&Aを実施する際の企業価値の考え方・相場も紹介するので、M&Aを検討している方はぜひ参考にしてください。
▷関連記事:病院・医療法人業界のM&A動向は?譲渡・譲受のメリットや事例15選も紹介
幸せのM&A入門ガイド
・M&Aの成約までの流れと注意点
・提案資料の作成方法
・譲受企業の選定と交渉
・成約までの最終準備
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歯科業界の現状
歯科業界とは、歯科医院(開業医)を中心とした業界のことです。歯科医院(開業医)や歯科病院の他、医院に治療用の器材を販売する歯科器材メーカーや薬を販売する歯科用医薬品メーカーなども含まれます。
中心にある歯科医院・歯科病院は、「歯科」、「矯正歯科」、「小児歯科」、「歯科口腔外科」、「審美歯科」に分類されます。
それぞれの歯科で働いているのは歯医者(院長=開業医、勤務医の歯科医師)、歯科衛生士、歯科技工士などとなっています。
市場規模と業界が抱える課題
2022年の歯科医師総数は105,267人です。歯科医師数(人口10万対医療施設従事者数)は81.6人で、2022年は2020年と比較するとやや減少したものの、中長期的には増加傾向にあります。
日本の人口が減少しているにも関わらず歯科医師数は増加傾向にあるのが現状です。地域によっては患者数に対して歯科医師数が多く、競争が激しくなっています。
また、歯科業界では歯科医師の高齢化も課題の1つです。歯科医師の年齢構成では60~69歳が一番多く、次に多いのは50~59歳です。
帝国データバンクの調査によれば、歯科医院の倒産件数は近年は年間10件台で推移していましたが、2024年は27件に増加しました。経営者の高齢化・後継者不足、材料費・人件費の増大を受けた収入減少など、歯科医院を取り巻く環境は厳しさを増しています。
M&Aの動向
経営環境が厳しさを増す中、歯科業界では以下のような目的でM&Aを実施するケースが見られます。
| ・後継者がおらず、事業を第三者に託して事業継続・雇用継続を図るためのM&A ・事業拡大・人材確保を目的としたM&A |
歯科医師が高齢になり、後継者がおらず廃業すると地域の医療に影響が出て患者が困る場合がありますが、M&Aによって事業を存続できれば、地域の医療体制を保つことができ、そこで働く医師の雇用を守ることができます。
開業費用を抑える目的で行われるM&Aもよく見られる事例の1つです。M&Aによって既存の歯科医院を買収することで器材や人材を獲得でき、開業費用を抑えることができます。
歯科医院のM&Aのメリット

歯科医院のM&Aには様々なメリットがあります。以下では、譲渡企業と譲受企業のそれぞれについてM&Aのメリットを具体的に見ていきます。
譲渡企業のメリット
譲渡企業にとって、M&Aには次のようなメリットがあります。
| ・廃業せずに済めば事務員や医師の雇用を維持できる ・廃業費用がかからずに済み売却益を得られる など |
後継者不足などの理由によって歯科医院が廃業する場合、廃業費用がかかる上、歯科医院で働いている事務員や歯科医師が職を失うことになります。
M&Aによって事業を継続できるようになり、廃業を回避できれば、雇用を守ることができて経営者は売却益を得られる点がメリットです。
譲受企業のメリット
譲受企業にとって、M&Aには次のようなメリットがあります。
| ・人材や患者を引き継げる ・新規開業する場合に比べて開業費用を抑えられる など |
歯科医師が個人で歯科医院を譲り受ける場合は、それまでの患者基盤や地域での信頼を引き継ぐことができ、運営ノウハウなどを享受できます。また、使用していた器材の引き継ぎができるなど、開業に必要な資金が抑えられます。
企業がM&Aによって新たな歯科医院を手に入れる場合は、原価低減や間接コスト低減などの利点があるスケールメリットを受けられます。新しい歯科医院を傘下にすることで新規顧客や診療ノウハウ、特定の資格を保有する人材などを獲得でき、歯科を運営する企業として成長スピードの飛躍的な向上が期待できます。
歯科医院がM&Aを実施するときの手続きの流れ
M&Aの手順・手続きの流れは、「①検討・準備」「②マッチング・交渉」「③最終契約」の3つのフェーズに分けられます。一般的な手続きの流れは以下のとおりです。
| M&Aのフェーズ | 手順・流れ |
| 検討・準備 | 1. M&Aの相談・検討 2. M&A仲介業者の選定とアドバイザリー契約 |
| マッチング・交渉 | 3. 交渉相手となる企業の選定 4. 企業価値評価の実施 5. スキームの選択 6. M&A基本合意の締結 7. 買い手側企業によるデューディリジェンスと条件交渉 |
| 最終契約 | 8. M&A最終契約締結の内容やポイント 9. クロージング 10. クロージング後の手続き・実務 |
実際にM&Aを行う場合は、専門的な知識が必要となるためM&A仲介業者などの専門家に相談・依頼することが一般的です。
交渉相手となる企業の選定や相手企業との交渉、デューディリジェンスなど、様々な手続きが必要になり、M&Aが完了するまでには相応の手間と時間がかかります。
M&Aの手順・手続きについて、詳しくは以下の記事で解説しているので参考にしてください。
▷関連記事:M&Aの手順・流れは?売却検討からクロージングまでの進め方を徹底解説
歯科業界のM&Aにおける企業価値評価額・相場の計算方法
M&Aを実施する際、いくらで売却・買収するのか、企業価値を計算する方法には様々な手法があります。中小企業の評価額の算出において用いられる代表的な手法はDCF法と年倍法の2つです。
DCF法では、企業が将来獲得するキャッシュフローの想定額を算出し、その金額を現在価値に割り引いて企業価値評価額を求めます。年倍法は、現在の資産価値と今後数年間に生み出す利益に着目して企業価値を算出する方法です。「時価純資産+営業利益の数年分」で算出します。
ただし、どのような手法で企業価値評価額を算出すべきか、用いる計算方法はケースによって様々です。従業員数など事業規模や立地などの要素によっても評価額は変わり得ます。
売却・買収をする際の相場がいくらと一概に言えるわけではなく、考慮すべき要素や用いる計算方法はケースごとに異なります。M&Aの企業価値評価では専門的な知識が必要になるため、M&Aを検討中の方はfundbookにご相談ください。
歯科業界のM&A事例
2022年10月、株式会社歯愛メディカルは有限会社ナイキ歯研の株式を取得し、子会社化を発表しました。
株式会社歯愛メディカルは、歯科医院や介護施設、動物病院などへの通信販売を行い、調剤薬局に向けたジェネリック医薬品の取り扱いや幼稚園・保育園向けの通販事業などを行っている会社です。一方、有限会社ナイキ歯研は、入れ歯・義歯(デンチャー)分野に強みを持つ会社です。
両社のM&Aにより、歯科技工分野での商材、サービス、ソリューションの更なる開発と深耕を図るなど、シナジー効果が期待されます。
まとめ
歯科業界では後継者不足や人材不足などの課題を解決するため、M&Aを実施する事例が見られます。
M&Aによって譲渡企業は廃業を回避できて医師や事務員の雇用を守ることができ、譲受企業は新規に事業を立ち上げる場合に比べて開業費用を抑えられる点がメリットです。
実際にM&Aを実施する場合は、交渉相手となる企業の選定や相手企業との交渉、デューディリジェンスなど、様々な手続きが必要になります。専門的な知識が必要になるM&Aは、経営者や社員だけで進めようとしても難しい場合が多いため、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
fundbookでは、M&Aアドバイザーの専門的な知見やテクノロジー、AIなどを活かし、豊富なネットワークを活用しながら最適な相手を見つけて譲渡企業・譲受企業のマッチングを行っています。各業界に精通した業界専門チームが在籍するため、業界特有の環境や課題を踏まえたサポートが可能です。M&Aを検討中の方はfundbookにお気軽にご相談ください。