建設業界では近年、M&Aによって人手不足の解消や周辺業界への進出を行うケースが見られます。職人の高齢化や若手の不足が業界として課題となる中、事業規模拡大による業務効率化や人材獲得につながるM&Aは経営戦略上の重要な選択肢の1つとなっています。
本記事では、建設業界の現状やM&Aのメリット、成功させるポイントを解説します。建設業のM&A事例やM&Aを実施する際の企業価値の考え方・相場も紹介するので、M&Aを検討している方はぜひ参考にしてください。
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目次
建設業界の現状と課題
建設業とは、元請け・下請けを問わず、建設業法で定められた工事の完成を請け負う仕事のことです。建設業に含まれる事業者には以下のようなものがあります。
| ・公共発注者からダム築造工事を請け負うゼネコン ・地方自治体から道路舗装工事を請け負う専門工事業者 ・一般消費者から持ち家の建て替え工事を請け負うハウスメーカー |
建設業には建物の建築・増築・改修・修繕や橋・トンネル・道路工事などの幅広い業務が含まれます
なお、建設業と混同されがちな建築業は、建設業の一種です。建築業は簡単に言うと家を建てる仕事であり、建設業は家を含めたダムや橋などのインフラ設備も仕事として該当します。
建設業界の市場規模
「令和7年度(2025年度)建設投資見通し」によると、建設投資額はピーク時の1992年度に約84兆円でした。その後は2011年度に約42兆円まで落ち込みましたが、2013年度からは増加に転じ、2025年度は約75.5兆円となる見通しです。
「労働力調査」によれば、建設業界の就業者数は2000年代前半には600万人を超えていましたが、2024年12月時点では約465万人です。製造業や卸売業・小売業、医療・福祉に次いで就業者数は多いものの、建設業界では就業者数が減少傾向にあります。
一方で、「建設業許可業者数調査」によると、建設業界の許可業者数は1999年度の600,980から下降を続け、2017年度に464,889まで減少しました。その後は横ばいから微増で、2024年度は483,700となっています。
建設業界の経営課題
建設業界の経営課題としては、主に「人手不足」と「資材価格の高騰」の2つが挙げられます。
前述のとおり、建設業界の就業者数は2024年12月時点で465万人にまで減少しており、加えて職人の高齢化も進行している状況です。職人が高齢を理由に今後引退することで、人手不足がさらに深刻になる可能性があります。
また、急激な資材価格の高騰も経営に影響を与えており、資材の価格高騰を受けて事業の継続を断念して廃業するケースも出てきています。
帝国データバンクが公表した「「建設業」の倒産動向(2025年上半期)」によれば、2025年上半期に発生した「建設業」の倒産(負債1000万円以上、法的整理)は986件を記録しました。
この倒産件数は、年上半期としては過去10年で最多であり、人手不足や資材価格高騰が建設業界の経営に大きな影響を与えていることがわかります。
建設業界のM&A動向
建設業界では、人手不足や経営者の高齢化などの経営課題の解決策としてM&Aが行われる事例が見られます。例えば以下のようなケースです。
| ・人手不足解消や優秀な人材獲得を目的とした同業他社によるM&A ・ハウスメーカーや不動産会社など異業種企業によるM&A ・事業承継策としてのM&A など |
近年は商業圏の拡大や人材の確保を目的として大手企業によるM&Aや大手ハウスメーカーによる業界の枠を超えたM&Aが増加しています。
また、建設業に近い業種の不動産会社などによるM&Aも増加しており、このような背景には事業の多角化が見込めること、譲渡企業とのシナジー効果が期待できることなどが挙げられます。
例えば不動産会社がM&Aによって建設業を傘下にすれば、今まで外注していた工事を内製化できるため、時間とコストの削減につながります。
また、建設業大手や中堅企業は人材確保を目的としてM&Aを実施しており、後継者が決まらない企業では事業承継の手段としてM&Aを活用するケースが増えています。
建設業界でM&Aを実施するメリット
M&Aを活用することで、企業には様々なメリットがあります。建設業界ならではのメリットとして次のような点が挙げられます。
| ・人材の確保 ・原材料の仕入れや重機などのリソース活用 ・新規エリアへの進出 ・官民の補完 ・支配力の強化 ・新規取引先の獲得 |
以下でそれぞれ解説します。
▷人材の確保
建設業の営業には許可が必要なため、有資格者の存在は不可欠です。また、高い技術を有する職人の育成にも時間がかかります。
豊富な経験・知識や技術・資格を持った、譲渡企業の従業員を確保することができるのは、譲受企業にとってM&Aを実施する大きなメリットです。
▷原材料の仕入れや重機などのリソース活用
M&Aは「合併と買収」を意味するため、当然譲渡企業が所有している、工事に必要な重機や材料などの資源も受け継ぐ対象になります。
特に建設作業に関わる重機は高額になるため、人材や顧客に限らず設備も譲渡されるM&Aは、譲受企業にとって大きなコスト削減が期待できます。
▷新規エリアへの進出
M&Aでは、譲渡企業の顧客や取引先も受け継ぐため、未進出エリアでの事業展開ができる可能性が高くなります。
特に建設業界は横のつながりが強く、関係性も重要になるため、新しいエリアへの進出に時間がかかる場合がありますが、M&Aを活用すれば事業拡大の時間短縮が期待できるでしょう。
▷官民の補完
建設業界では企業によって「公共事業に強い」「民間事業に強い」といった特徴を持っています。M&Aの活用によって自社にはない強みを獲得することで、幅広いコネクションを築くことができ、受注の安定化を図ることも可能です。
▷支配力の強化
建設業に限らず、地域や業種が同じ競合企業のM&Aでは、その地域での経営基盤をより強固にすることができます。例えば地元の競合企業を買収または傘下に置くことで、その地域での受注をより安定させることが期待できます。
▷新規取引先の獲得
新たな取引先の開拓には時間がかかります。M&Aでは譲渡企業の取引先も引き継ぐため、新規取引先の獲得にかかる時間を短縮できます。
例えば、公共工事をメインに行っていた企業が民間に強い企業と合併した場合、公共工事だけでなく、民間工事も安定して獲得することが可能になるでしょう。
建設業界のM&Aの相場と企業価値の計算方法
M&Aを実施する際、いくらで売却・買収するのか、企業価値を計算する方法には様々な手法があります。その中でも、中小企業のM&Aで用いられることが多い手法の1つが年倍法です。
年倍法は現在の資産価値と今後数年間に生み出す利益に着目して企業価値を算出する方法で、以下の式で企業価値を計算します。
・時価純資産+営業利益の数年分
また、企業価値評価の手法には大きく分けるとコストアプローチ・マーケットアプローチ・インカムアプローチという3つの方法があるため、自社の状況に応じて適した評価手法を選択して企業価値を算出する方法でもよいでしょう。
| ・コストアプローチ:企業の保有している資産・負債をベースにして評価額を算定する ・マーケットアプローチ:株式市場やM&A市場における取引価額を基準に評価額を算定する ・インカムアプローチ:収益力に着目して評価額を算定する |
各評価手法の詳細については以下の記事で詳しく解説しているので、実際にM&Aを検討する際は参考にしてください。
▷関連記事:会社売却の相場とは?決め方や高く売るポイント、必要な諸経費について解説
▷関連記事:M&Aの価格算定方法とは?3つの手法と相場、実施の流れや注意点を解説
▷関連記事:【企業価値評価】コストアプローチとは?メリット・計算方法・他の方法との違い
▷関連記事:【企業価値評価】マーケットアプローチとは?よく使われる計算方法やシミュレーション方法▷関連記事:【企業価値評価】インカムアプローチとは?DCF法の計算方法
建設業のM&A事例【2025年最新】
建設業界でのM&A事例を紹介します。事例を確認することで、建設業でのM&Aの活用方法や目的などを把握できるようになるので、参考にしてください。
▷OCHIホールディングスによるヒット・イールのM&A
2024年5月、OCHIホールディングス株式会社は株式会社ヒット・イールの発行済株式を全て取得し、連結子会社化しました。OCHIホールディングス株式会社は、建材・住宅設備機器の卸売を中心に5つの事業を展開している企業です。
連結子会社となった株式会社ヒット・イールは、建設業に特化した労働派遣事業を運営しています。
建設業に従事する労働者不足が問題となる中、労働派遣事業のノウハウを持つ株式会社ヒット・イールの子会社化により、建設業の人材需要への対応と同社事業とのシナジー効果を狙っています。
▷ イチケンによる片岡工業のM&A
2024年5月、株式会社イチケンは片岡工業株式会社の全株式を取得し、子会社化することを取締役会で決議しました。株式会社イチケンは、2030年に創業100周年を迎える老舗の総合建設会社です。
一方、片岡工業株式会社は千葉県を中心に歴史を持つ地域ゼネコンです。株式会社イチケンは、片岡工業株式会社を子会社化することで、同エリアでのシェア拡大やグループシナジーの実現を図っています。
▷清水建設による丸彦渡辺建設のM&A
2023年5月、清水建設株式会社(東京都)は丸彦渡辺建設株式会社(北海道札幌市)の発行済み株式を取得し、同社を子会社化しました。丸彦渡辺建設は北海道の総合建設会社であり、建設業・不動産業・運送業を手掛けています。
清水建設グループが有する多様な事業分野のノウハウと、丸彦渡辺建設が有する建設事業者としての営業基盤や人材などの経営資源を融合することで、建築・土木分野の事業基盤の強化・拡大に向けた取り組みを推進していくことを目的としています。
▷オリエンタル白石による山木工業HDのM&A
2021年2月、OSJBホールディングス株式会社の連結子会社であるオリエンタル白石株式会社(東京都江東区)は、山木工業ホールディングス株式会社(福島県いわき市)の株式を取得し子会社化しました。株式譲渡による手法が用いられ、譲渡価額は37億3,000万円です。
オリエンタル白石は、山木工業の福島県いわき市での実績を活用し、得意分野の橋梁工事の受注機会の拡大を期待しています。また、OSJBホールディングスのネットワークを活用することで、山木工業にも港湾土木工事の受注機会の拡大を図ることも目的としています。
▷ヤマダホームズによるホクシンハウスのM&A
2022年10月、株式会社ヤマダホームズ(群馬県)は、ホクシンハウス株式会社(長野県)の全株式を取得し、完全子会社化しました。株式譲渡の手法が用いられており、譲渡価額は未公開です。
ヤマダホームズは、ホクシンハウスの持つ施工実績や特許技術「FB 工法®」を活用して、従来から展開しているヤマダホールディングスグループの「暮らしまるごと」戦略のもと、住宅関係の総合的な価値を提供できるサービスの展開を強化するとしています。
▷飛島建設によるアクシスウェアのM&A
2021年2月、飛島建設株式会社(東京都)は、株式会社アクシスウェア(東京都)の株式を取得し、子会社化しました。株式譲渡の手法が用いられ、譲渡価額は未公開です。
飛島建設は、アクシスウェアの高い技術力と企画・開発力を活用し、デジタルトランスフォーメーションの加速による次世代型事業運営体制の構築と、建設分野に留まらない革新的なビジネスソリューションの提供により、さらなる事業領域の拡大を目指しています。
fundbookのM&A成約事例
以下では、株式会社fundbook(当社)のM&A成約事例を一部ご紹介します。

“らしさ”まで受け継ぐ、地域に愛される創業社長のM&A
譲渡企業:株式会社コアー建築工房
譲受企業:三和建設株式会社
1989年、吉瀬融氏が35歳の時に創業した株式会社コアー建築⼯房は、創業1年目から売上1億円を達成し、地域の木材を使用した「⾃然と調和したこだわりの家」を掲げ、⼤阪南部を中⼼に厚い顧客基盤とブランド⼒を持つ注⽂住宅企業へと成長しました。
そして過去最高利益を記録した2020年6月に、三和建設株式会社とM&Aを成約しました。
地域に愛される創業社長のM&Aはどのように決断されたのか、吉瀬氏、三和建設株式会社代表の森本尚孝氏、専務取締役の谷直人氏を交えてお話をうかがいました。

住設企業と物流企業、異業種M&Aが生み出す可能性
譲渡企業:永野設備工業株式会社
譲受企業:堀内商事株式会社
永野設備工業株式会社 代表取締役の永野祥司氏は、同社を開業してから約20年、住宅設備工事を主とした企画から設計・施工まで一貫して行う技術を強みに、幅広い分野で事業を展開しています。また、住設ECの草分け的存在としても知られ、現在は「住設ドットコム」など6サイトを運営しています。
当初はIPOを実現するための選択肢の一つとしてM&Aを検討していましたが、物流事業を手掛ける堀内商事株式会社と運命的な出会いを果たし、2020年1月、M&Aの成約に至ります。今は理想的だと思える譲渡先も、当初は「なぜ異業種の物流会社と?」という驚きからスタートしたと語ります。堀内商事とのM&Aを進める中で見えてきた新たな未来とは。永野設備工業の永野氏と、堀内商事の代表取締役社長である堀内正行氏にお話を伺いました。
建設業界のM&Aの注意点と成功させるためのポイント
建設業は認可や入札が必要であったり、元請けから下請けへの依頼で工事が進むことが多かったりと、建設業ならではの特徴があります。そのため、建設業のM&Aを成功させるためには、業界ならではのポイントを押さえておくことが大切です。
▷現状把握は入念に
建設業は他業種に比べM&Aによるシナジー効果が生まれにくい傾向があるため、譲受企業はM&Aを実施する目的を明確にしておく必要があります。
また、中小企業の多い建設業では、潜在的リスクを抱えている譲渡企業があることも考慮しておく必要があるでしょう。M&A実施後に、粉飾決算や簿外債務などが明らかになると、罰則や損害賠償が発生することもあるため、事前にしっかりと確認しておくことが大切です。
▷従業員や地域社会の特性に着目
建設業界は他業種に比べて横のつながりが強い業界です。そのため、譲渡企業の経営状況だけではなく、違法性や無理な依頼の有無などの取引状況も含めて調査が必要です。
また、M&Aの実施後は、既存の取引先や従業員への配慮も大切です。配慮が不十分だと、既存の従業員の引き抜きや取引先による工事の拒否などが生じてしまう可能性があるため、注意しましょう。
▷建設業許可の引き継ぎに注意
建設業は許可が必要であり、資格の種類によって施工できる工事が変わります。譲受企業は譲渡企業が有している資格を確認し、建設業としての許可が満たせるようにしておきましょう。
| ・5年以上経営者としての実務経験がある人材 ・有資格の専任技術者 ・請負契約に関する誠実性 ・財産的な基盤が安定している ・欠格事項に該当しない |
特に建設業のM&Aでは、目的の1つとして有資格者の確保があります。有資格者による許可の更新忘れや、有資格者の退職により更新ができないなどの問題が起きないよう、資格の取得状況をしっかりと確認するようにしましょう。
▷専門家のアドバイスも検討
建設業のM&Aは一般的なM&Aと確認すべき事項が異なりますし、当然、幅広い専門的な知識も必要です。建設業界に関する知識がないとM&Aが失敗に終わってしまう可能性もあるため、建設業でM&Aを実施する際は、業界に強い専門家からのアドバイスをもらうことも検討するのがおすすめです。
例えば、M&A仲介会社では手続きや企業価値向上のサポートだけでなく、M&Aの実施について相談もできます。
まとめ
建設業界の市場規模が再び拡大しつつある中、少子高齢化による後継者問題の解消や事業拡大の観点などにより、建設業でもM&Aは増加傾向にあります。
建設業のM&Aは通常のM&Aとは異なる点が多く、成功には幅広く専門的な知識が必要です。そのため、建設業のM&Aを検討する場合は、専門家のサポートを受けるほうが良いでしょう。
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