会社が財政的な危機的状況に陥ったとき、「倒産」を考える経営者の方も多いのではないでしょうか。法的な倒産手続きには破産や特別清算など会社を清算する手続きの他、会社の再建を目指す手続きも存在します。
会社更生法とは、再建型の倒産手続きである「会社更生」の内容を定める法律です。本記事では、会社更生法の特徴や民事再生法との違い、適用要件や費用、手続きの流れなど、会社更生法に関する情報を網羅的に解説します。
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会社更生法とは
会社更生法は、倒産手続きの中でも「再建型」と呼ばれる手続きを定めた法律です。会社更生法第1条では、法律の目的を以下と定めています。
第一条 この法律は、窮境にある株式会社について、更生計画の策定及びその遂行に関する手続を定めること等により、債権者、株主その他の利害関係人の利害を適切に調整し、もって当該株式会社の事業の維持更生を図ることを目的とする。 |
例えば、破産手続開始の可能性が生じる場合、更生手続開始の申立て後に更生計画案を作成し、裁判所の許可を得たうえで事業の再建を目指します。
会社更生法と民事再生法の違い
会社更生法と民事再生法はどちらも再建型と呼ばれる手続きを定めた法律ですが、主に以下の点が異なります。
・会社更生法は株式会社のみが対象であり、民事再生法は特段の制限はない
・会社更生法では現経営陣は退任の必要があるが、民事再生法では原則必要ない
会社更生法は株式会社を対象とする法律であり、手続き開始に伴って現経営陣は退任しなければなりません。どちらも会社を存続させながら債務の減額が可能な手続きですが、違いもあるので注意しましょう。
なお、民事再生の詳細を知りたい場合は、以下の記事をご確認ください。
▷関連記事:「民事再生とは?会社更生・破産との違いや手続きの流れ、必要な費用を解説」
会社更生法の適用事例
会社更生法が適用された事例には、「日本航空(JAL)」と「エルピーダメモリ」が挙げられます。
2010年1月、株式会社日本航空とそのグループ会社は、企業再生支援機構の支援のもと、会社更生手続開始の申立てを行いました。
背景には、米国同時多発テロやSARSなどによる国際線航空需要の減少、2008年以降に発生した金融危機の影響などが挙げられます。会社更生法の適用後、更生計画案が実施された結果経営状況が改善し、2012年9月には東京証券取引所第一部への再上場を果たしています。
エルピーダメモリは、2012年2月に東京地方裁判所に会社更生法の適用を申請しました。エルピーダメモリは円高やDRAM市況の悪化により経営再建中にありましたが、状況を改善できず、自力再建を断念しています。
エルピーダメモリはその後、米マイクロン・テクノロジーに買収され、2020年7月に更生手続が終結しています。
会社更生法は事業の再建を目指す手続きですが、必ずしも会社の形を残しつつ事業が再建できるわけではありません。日本航空のように事業再建がなされる場合もあれば、エルピーダメモリのように他社に買収されるケース、その他再建が断念されて破産手続きに移行するケースもあります。
会社更生法の適用要件
会社更生法が適用されるのは、以下の要件を満たす場合です。
・債務超過や支払不能に陥っている場合
・債務の弁済が事業継続に著しい支障をきたす場合
各要件の詳細を解説します。
債務超過や支払不能に陥っている場合
会社更生法第17条第1項第1号では、申立ての要件として以下を定めています。
第十七条 株式会社は、当該株式会社に更生手続開始の原因となる事実(次の各号に掲げる場合のいずれかに該当する事実をいう。)があるときは、当該株式会社について更生手続開始の申立てをすることができる。一 破産手続開始の原因となる事実が生ずるおそれがある場合 |
「破産手続開始の原因」は、具体的には「支払不能」と「債務超過」が挙げられます。支払不能とは、会社が支払能力を欠いてしまい、弁済期が到来したにもかかわらず、一般的かつ継続的に債務を弁済できない状況です。また、債務超過は会社の負債総額が資産総額を超えており、負債を完済できない状態を指します。
上記のような状態に会社がある場合は、会社更生法の要件を満たしており、更生手続開始の申立てを行うことができます。
債務の弁済が事業継続に著しい支障をきたす場合
先述した会社更生法第17条第1項では、第2号に以下の要件を定めています。
二 弁済期にある債務を弁済することとすれば、その事業の継続に著しい支障を来すおそれがある場合 |
支払不能や債務超過に陥っていない状態でも、債務を返済するために、事業で必要な設備の売却や無理な資金繰りが必要な場合は、安定的に事業を継続できません。そのため、上記の要件を満たす場合は、裁判所に更生手続開始の申立てを行えるように定められています。
会社更生にかかる費用
会社更生に必要な費用は以下のとおりです。
・裁判所への予納金
・申立手数料(収入印紙)
・郵便切手
・弁護士費用(着手金・報酬)
・借入金(予納金や弁護士費用が払えない場合に金融機関などから借入をする場合の利息など)
裁判所への予納金とは裁判手続きでかかる費用のことで、負債総額などにより金額が変わります。例えば、東京地方裁判所における予納金の基準額は以下のとおりです。
負債総額 | 予納金の基準額 | |
自己申立て | 債権者・株主申立て | |
10億円未満 | 800万円 | 1,200万円 |
10億円~25億円未満 | 1,000万円 | 1,500万円 |
25億円~50億円未満 | 1,300万円 | 1,950万円 |
50億円~100億円未満 | 1,600万円 | 2,400万円 |
100億円~250億円未満 | 1,900万円 | 2,850万円 |
250億円~500億円未満 | 2,200万円 | 3,300万円 |
500億円~1,000億円未満 | 2,600万円 | 3,900万円 |
1,000億円以上 | 3,000万円 | 4,500万円 |
その他、申立手数料や書類などを郵送するための郵便切手、弁護士を依頼する場合には弁護士費用がかかります。
会社更生の手続きの流れ
会社更生手続の主な流れは以下のとおりです。
1. 更生手続開始の申立て
2. 保全管理人の認定・保全措置
3. 更生手続開始決定
4. 債権の届出・調査・確定
5. 財産評定
6. 更生計画案の提出・決議・認可
7. 更生計画の遂行
8. 終結
各手続きを手順ごとに解説します。
1. 更生手続開始の申立て
はじめに、裁判所へ更生手続開始の申立てを行います。申立てができるのは、会社更生の対象となる株式会社と議決権の10分の1以上を保有する株主、資本金の10分の1以上にあたる債権を持つ債権者です。申立てをする際は、会社更生規則で定められた記載すべき事項と添付すべき書類を満たす必要があります。
2. 保全管理人の認定・保全措置
更生手続は、申立て後すぐに開始されるわけではありません。開始決定まで会社の財産を維持するため、保全処分の申立ても行います。申立てを受けると、裁判所で保全管理人が選任され、保全管理人が会社の財産を管理します。
3. 更生手続開始決定
会社更生法の要件を満たし、かつ棄却事由に該当しない場合は、開始決定がなされます。棄却事由は以下のとおりです。
第四十一条 裁判所は、第十七条の規定による更生手続開始の申立てがあった場合において、同条第一項に規定する更生手続開始の原因となる事実があると認めるときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、更生手続開始の決定をする。一 更生手続の費用の予納がないとき。二 裁判所に破産手続、再生手続又は特別清算手続が係属し、その手続によることが債権者の一般の利益に適合するとき。三 事業の継続を内容とする更生計画案の作成若しくは可決の見込み又は事業の継続を内容とする更生計画の認可の見込みがないことが明らかであるとき。四 不当な目的で更生手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき。 |
更生手続が開始すると、会社の経営権や財産の管理処分権は、裁判所に選任された更生管財人に属すことになります。また、会社の債権や担保権は、原則として更生計画によるものでなければ弁済できません。
4. 債権の届出・調査・確定
債権の確定をするため、債権者は債権届出期間内に保有する債権を届け出ます。更生管財人は、債権などの内容を調査して認否書を作成し、その内容に基づいて債権の額が確定されます。
5. 財産評定
更生管財人は更生手続開始決定後、会社が所有する全ての財産を、更生手続開始時点の時価で評定します。財産評定の完了後、結果にもとづいて貸借対照表および財産目録を作成し、裁判所に提出します。
6. 更生計画案の提出・決議・認可
更生計画案は、更生管財人が裁判所へ提出します。なお、更生管財人の計画案に対応して、株主や債権者が更生計画案を提出することも可能です。更生計画案は債権者や株主により決議され、認可要件を満たしていれば裁判所により認可されます。
7. 更生計画の遂行
更生計画は更生管財人のもとで遂行され、債権や株主権も変更されます。更生管財人は、更生計画に基づいて債務の弁済をします。更生管財人の強いリーダーシップのもと、再建がなされる点も会社更生の特徴です。
8. 終結
更生計画の債務の弁済が終了、またはすでに3分の2以上の弁済が終了していて、今後も更生計画が問題なく遂行されると認められる場合、裁判所は更生手続終結の決定を行います。
終結が決定すると、更生管財人の権限が消失します。
会社更生のメリット・デメリット
会社更生はメリットがある一方、いくつかのデメリットも存在します。
以下では、会社更生のメリットとデメリットを解説するため、会社更生を検討する場合は、まず双方を把握しておきましょう。
会社更生のメリット
会社更生の主なメリットは以下のとおりです。
・事業を継続できる
・会社の再建ができる
・担保権の行使に制限がかかる
・更生計画内で組織再編行為が可能
会社更生の大きなメリットは、事業の継続や会社の再建が目指せる点です。債権者集会で債務圧縮を含む更生計画案が可決されれば、裁判所の認可を経て債務を軽減することも可能です。
また、更生手続が開始すると担保権は更生計画によることとなり、債権者の担保権行使に制限がかかります。会社法の特則により、合併や増資などの組織変更が可能な点もメリットです。
会社更生のデメリット
会社更生のデメリットには以下が挙げられます。
・経営陣の退陣が必要
・手続きに時間がかかる
・費用が高額
・株主などの同意が必要
会社更生では現経営陣が退任し、新しい経営陣のもとで再建がなされる点がデメリットです。担保権の制限をはじめとする強い力を行使できる一方、公平性を担保するため手続きに時間がかかる側面もあります。また、負債額に応じた高額な費用、株主の同意を得る手間などがかかることも難点です。
会社更生の注意点
最後に、会社更生を行う際の注意点を解説します。
・従業員や取引先への対応は慎重に行う
・申立てのタイミングを見計らう
従業員や取引先への対応は慎重に行う
会社更生法は再建が前提のため、従業員の雇用は維持されるケースが多い傾向にあります。ただし、経営陣の交代により人件費の削減が検討される場合もあるので、更生計画決定後は丁寧な説明が必要です。
会社更生が開始すると、取引先に対する債務の弁済は更生手続きの中で権利行使されるようになるので、取引先へも慎重な対応を行いましょう。
申立てのタイミングを見計らう
会社更生の申立てを行うと弁済にストップがかかり、債務の減額も実現可能です。しかし、社会的な信用が低下する恐れがあり、予納金の支払いも発生します。そのため、申立てはタイミングを慎重に検討して行いましょう。
まとめ
会社の経営が悪化した場合、法的整理手続きを検討するケースがあります。会社更生法の手続きは破産や特別清算と異なり、会社の再建を目指せる点がメリットです。
なお、会社の経営が悪化した場合、会社を売却するM&Aも選択肢の1つです。また、会社更生手続を利用した「再生型M&A」も活用できます。経営戦略の一手段としてM&Aを検討する場合は、M&Aの経験や専門性を持つfundbookまで、一度ご相談ください。