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2025/03/26

M&Aに価格相場はある?企業価値の算定方法・交渉方法も解説

M&Aに価格相場はある?企業価値の算定方法・交渉方法も解説

会社の価値やその株式の価値を算出することを、「企業価値評価」と呼びます。
企業価値を算出することで、買収企業(譲受企業)と売却企業(譲渡企業)の双方がM&Aの計画を立てられるようになります。

買収価格の算出に失敗をすると、高く売れた会社を安く売却してしまったり、安く買収できる企業を高く買ってしまったりするリスクがあります。

では、買収価格はどのように決まるのでしょうか。
本記事では、M&Aにおける買収価格の目安の算出方法を説明します。適切な買収価格の目安を算出したい方はぜひ参考にしてください。

なお、M&Aの全体の流れは、以下の記事でまとめていますので、ご活用ください。
▷関連記事:M&Aとは?意味・流れ・手法・費用など基本をわかりやすく解説

安田 亮
この記事を監修した専門家
公認会計士・税理士・1級FP技能士
安田 亮
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。
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M&Aに相場はある?

企業の価値は、「あなたの会社は〇〇円です」というように、簡単に決めることができません。

なぜなら、企業価値はその会社の多岐にわたる性質(事業規模、収益性、財務内容や従業員数など)や、複数ある企業価値算出方法の中からどの方法に重点を置くかによって異なるからです。そのため、相場もありません。

また、企業価値評価によって算出された買収価格の目安に対して、売却企業と買収企業では基本的な考え方が異なります。

当たり前ですが、売却企業は企業価値を高く算出することを希望します。金銭面の理由は当然として、その他の理由としてはこれまで行ってきた経営の苦労、保有する技術力、従業員など、自社への思い入れが強く、「自分の会社を高く買ってほしい」と買収企業に望むためです。

一方、買収企業は安く算出することを希望します。シナジー効果の見込める企業を、できるだけ安く買収することで、資金調達の負担を下げることを望むためです。

以上を踏まえ、M&Aの現場では企業双方の考えを基にした交渉によって、取引価格が決定します。

取引(買収・売却)価格は交渉で決定する

M&Aにおける買収価格は、最終的には買収企業と売却企業の交渉によって価格が決まりますが、交渉時の価格判断材料として企業価値評価を活用します。企業価値評価は、営んでいる事業やその規模、財務状況、税務などあらゆる点を考慮して、売却企業の適切な価格を算出することを目的として行われます。

M&Aの譲渡価格に影響を与える要素

M&Aの対象企業・事業の価値は、譲渡価格に影響を与えます。
価値を測る指標として、主に以下の4つが挙げられます。

価値を測る指標内容算定方法
純資産企業が有する資産および負債コストアプローチ
株式市場の相場市場における相場や動向マーケットアプローチ
M&A後に期待できる利益将来的に見込まれる利益・キャッシュ・フロー・配当などインカムアプローチ
その他の無形資産ブランド力や技術力、従業員のポテンシャルなど上記の指標やヒアリングをもとに判断

次の項目では、各指標の具体的な算出方法について解説します。

M&Aにおける買収・売却価格の算出方法は?

M&Aにおける企業価値の算出方法は、いくつかあります。
最終的な企業価値について、1つの方法を採用して算出する場合もありますが、多くの場合、複数の方法で算出し買収価格を「およそ〇〇円〜〇〇円」といった形で目安をつけます。

前項で紹介した企業価値を測る指標のうち、どの要素を重視するかによって、以下のように算出方法が異なります。
▷関連記事:企業価値評価とは?M&Aで使用される企業価値の算出方法

1. コストアプローチ

メリット・企業が保有する資産や負債に対して価値を算出するため、客観的な評価ができる
・企業が保有する資産や負債の価値が明確化でき、企業価値を適正に評価できる
・コストアプローチによって算出された評価を買収価格の目安にできる
デメリット・主に、企業が現在保有する資産や負債に対して価値が算出されるため、業績や将来的価値が反映されない
・他の手法に比べて、評価算出に費用や時間がかかる
・市場の変化や業種などの事情に対応できないこともある

コストアプローチとは、企業の保有する資産及び負債をベースにして株式価値を算出する方法です。売却企業の純資産を根拠にしているため、客観的に企業価値を算定しやすくなります。

コストアプローチは、簿価純資産法、時価純資産法などの手法を用いて算出されます。下記では、代表的な2つの手法をご紹介します。

簿価純資産法
簿価純資産法は、帳簿上の純資産合計を企業価値としています。株主資本が株式価値に該当するため、これを発行済株式数で割ると、1株当たりの株価が算出されます。
しかし、含み益や含み損によって帳簿上の資産が時価と乖離(かいり)していることもあり、一般的に活用されることはありません。

時価純資産法
時価純資産法は、帳簿上の資産および負債を時価にして時価ベースの純資産で企業価値を算出する方法です。また、将来の一定期間の収益性も営業権として加味し、それを時価純資産に足す方法もあります(年買法)。
会社の純資産に注視する簡便的な方法であるため、中小企業に比較的採用されやすい手法です。

コストアプローチについては、以下の記事で詳しく解説しています。
▷関連記事:【企業価値評価】コストアプローチとは?メリット・計算方法・他の方法との違い

2. マーケットアプローチ

メリット・株式市場の相場や動向を価格に反映できる
・株式価格には企業の将来性も反映されるため、価格に将来的な収益性を反映できる
・上場企業の財務情報を基準にするため、情報が入手しやすく客観性を担保できる
デメリット・事業規模や内容の類似する企業がない場合は採用できない
・株式市場の影響を大きく受けやすい

マーケットアプローチは、株式市場に株式が公開されている類似する企業や同一業界の財務指標を参照して、企業価値を算出する方法です。
評価対象企業の決算書などの数値に一定の率の係数を乗じて価値を算出します。
株式市場の相場を反映させることができる方法です。

以下、マーケットアプローチにおいて代表的な2つの算出手法をご紹介します。

類似企業比較法(マルチプル法)
類似企業比較法は、上場している類似企業を選定し、企業価値や株式価値、各種財務指標を参考に対象企業の株式価値を算出する手法です。
実際に類似企業比較法にて企業価値評価を行う際に、一般的に用いられる指標は以下のとおりです。

  • EV/EBIT倍率(企業価値÷利払い前、税引前利益)
  • EV/EBITDA倍率(企業価値÷利払い前、税引前、減価償却前、その他償却前利益)
  • PER(株価÷一株当たり利益)
  • PBR(株価÷一株当たり純資産)


なお、自社と類似する上場企業がない場合は、使えない方法です。

類似取引比較法
類似取引比較法は、過去に行われたM&Aの企業価値や株式価値をベースに各種倍率を算出し、その倍率で対象企業の株式価値を算出する手法です。

マーケットアプローチについては、以下の記事で詳しく解説しています。
▷関連記事:【企業価値評価】マーケットアプローチとは?よく使われる計算方法やシミュレーション方法

3. インカムアプローチ

メリット・将来的な収益性を価格に反映できる
・シナジー効果を考慮できる
・算定には事業計画も利用されるため、価格の妥当性を検討しやすい
デメリット・将来的な予測を考慮に入れるため、主観性や恣意性を排除できない
・情報の収集に時間がかかる場合もある

インカムアプローチは、対象企業の将来にわたる収益を、リスクを加味して現在価値に割り戻すことで、事業価値を算出し企業価値を評価する手法です。

以下、インカムアプローチにおいて代表的な算出手法をご紹介します。

DCF法
DCF(Discounted Cash Flow)法は、将来のキャッシュ・フローによって価値が算出される方法です。
具体的には、評価対象企業の将来のフリーキャッシュ・フローにリスクを反映させた割引率を適用して事業価値を算出し、現在の企業価値を算定します。
将来のキャッシュ・フローや割引率を考慮するので、成長性がある企業の価値の算出には相性が良い手法です。
ただし、DCF法は売却企業が持つ事業計画の精度が低い場合、企業価値を正確に算定するのが難しいです。恣意的なものになる場合もあるので、注意が必要です。

インカムアプローチとDCFについては、については、以下の記事で詳しく解説しています。

▷関連記事:【企業価値評価】インカムアプローチとは?DCF法の計算方法

中小企業のM&Aに必要なのれん代とは?

のれん代とは、貸借対照表における勘定科目の1つです。具体的には売却企業の時価純資産と実際の買収価格の差額分を表します。

上述の企業価値の算出方法によって算出された金額を参考に、対象企業が持つ非金銭的な無形資産を価値として評価する、競合する買い手に競り負けないようにさらに上乗せして評価するなど、実際の買収価格を検討します。

のれん代の内訳には、無形資産であるブランド力や技術力、従業員のポテンシャルなどが含まれます。いわばのれん代は、「売却企業への期待値」と考えることができます。
また、企業価値評価を行うための財務指標の中に、EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)があります。
上述のとおり、企業価値の構成要素は「equity(株主資本)」「earning(利益)」に加えて、「Intangible assets(無形資産)」が含まれています。 中小企業のM&Aの現場では、EBITDAの3年分~5年分でのれん代が評価されることもあります。

「のれん代」については、こちらの記事で詳しくお伝えしています。
▷関連記事:M&Aの「のれん」とは?償却期間や会計処理、注意点を分かりやすく解説

M&Aにおける最終買収価格の交渉方法

上記の企業価値評価を行って買収価格の目安を算出した後は、最終的な買収価格の交渉と調整をしていきます。
ここでは、交渉方法と調整のポイントをお伝えします。

個別交渉方式

個別交渉方式は、売却企業が買収企業と1社ずつ交渉を行う方式です。条件が合えば、M&Aが成立となります。

別名、「相対方式」とも呼ばれます。

中小企業のM&Aは、個別交渉方式で行われることが多いです。次に紹介するオークション方式と違い、買収企業が1社でもあれば活用できる方法です。

ただし、売却企業はM&Aの知識が乏しい状態で、知識が豊富な買収企業との交渉になると不利になるリスクがあります。こうしたリスクを防ぎたい場合は、知識が豊富なM&Aアドバイザーに相談するのが有効です。

オークション方式

オークション方式とは、複数の買収企業から入札を受け、最も条件が良かった企業がM&Aの交渉権を得る方式です。一般のオークションとは異なり、買収価格以外にも買収後のビジョンやスキームも提示条件に含まれます。

別名「ビット方式」「競売方式」とも呼ばれます。

オークション方式は、個別交渉方式よりも売却金額が高くなる場合がありますが、買収価格だけでなく、会社同士の相性やM&A後のシナジーなども含めて総合的な観点から買収企業を選ぶことが重要です。また、性質上、買収企業が複数社いないと活用できない方式です。

希望価格に近づけるためのポイントとは

実際の買収価格は、売却企業と買収企業の交渉により決定します。極端な話ですが、売却企業と買収企業が合意すれば、買収価格が適正価格より安くても、高くてもM&Aは成立します。
相手の合意を得られれば、自分の希望価格に近づけたM&Aが成立しやすくなるということです。

両者が合意できる交渉をするためには、M&Aアドバイザーなどのパートナー選びが重要です。売却企業は自社の価値を理解し、買収企業に対して説明や交渉を依頼できるパートナーを選びましょう。

一方、買収企業においては、のれん代などを含め、適正な買収価格を算出できるアドバイザーに依頼することをおすすめします。アドバイザーが適正に買収価格を算出するためには、売却企業の情報を網羅的に持っており、深く理解している必要があります。

M&Aの条件交渉のチェックポイントは以下の記事でまとめています。
▷関連記事:M&Aにおける条件交渉のチェックポイント。契約の前に確認したいこと

M&Aに関連するその他の金額相場

ここでは、M&Aに関する仲介手数料や発生する税金など、その他の金額の相場を紹介します。

M&Aを実施する際に、プロの専門家に仲介を依頼する企業も少なくありません。また、M&Aによって発生する税金についても、事前に相場感を把握しておきましょう。

M&A仲介手数料の相場

M&Aを仲介会社へ依頼する場合の、おおよその手数料の相場は以下のとおりです。

料金相場
相談料・着手金無料~数百万円
月額報酬(リテイナーフィー)無料~数百万円
中間報酬成功報酬の10~30%
成功報酬レーマン方式によって算出
デューディリジェンスの費用数十万円~数百万円
報酬以外の費用内容により様々

M&Aの規模が大きくなるにつれ手続きも複雑化するため、一般的に手数料は高くなる傾向にあります。

実際に依頼する前の事前相談に関しては、無料で受け付けているM&A仲介会社が多いです。

手数料の詳しい種類や相場は、以下の記事からご確認ください。
▷関連記事:M&Aの手数料相場は?成功報酬の計算方法や仲介会社の報酬体系も解説

M&Aで発生する税金の相場

M&Aにかかる税金の相場は、スキームによって異なります。ここでは代表的なスキームとして挙げられる「株式譲渡」と「事業譲渡」を例に解説します。

株式譲渡の場合、かかる税金の内訳は以下のとおりです。譲渡側の株主が、個人か法人によって内容が変わります。

譲渡側の株主かかる税金かかる税率
個人所得税、復興特別所得税、個人住民税20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%)
法人法人税、地方法人税、法人住民税、事業税、特別法人事業税規模や所得に応じて異なる

事業譲渡の場合、主に法人税など(法人税、地方法人税、法人住民税、事業税など)が課税されます。

法人税などは、譲渡益のみを対象に課税されるわけではありません。会計年度の損益の全てを通算した、利益に対して課税される点がポイントです。会計年度の利益がマイナスの場合は、譲渡益と相殺されます。
▷関連記事:M&Aにかかる税金は?株式譲渡・事業譲渡に分けて節税方法も紹介

まとめ

企業の評価方法は複数存在し、重視する要素などによって算出される評価も異なるため、自社の売却価格の把握など、自力で解決することが難しい領域です。
また、希望の価格に近づけるためには、M&Aの専門的な知識も欠かせません。そのためM&Aを検討する際には、M&Aアドバイザーに希望の条件などを伝えたうえで相談することをおすすめします。

M&Aでは「高く売りたい売却企業 対 安く買いたい買収企業」という敵対構造になりやすく、交渉が難航することも多くなります。その点、M&Aアドバイザーに相談すれば、第三者としてアドバイスをしてくれるので、希望の価格での成約に近づく可能性も上がります。

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