業界毎の事例

2023/10/03

病院・診療所における院内事業承継の可能性

病院・診療所における院内事業承継の可能性

中小企業の事業承継において、会社を引き継がせる相手は、①親族(子など)→②社内(役員、従業員など)→③社外(M&Aなど)の順で検討するのがセオリーです。

医療施設における事業承継でも、一般的にはこのセオリーには変わりありません。ただし、医療施設の場合は、基本的に後継者も医師でないと引き継げないという限定があります。

医療経営者に子がいても医師でなければ引き継がせることはできないという点では、一般的な営利企業の承継よりも親族承継の条件が厳しくなります。

では、経営者の子が承継できない場合に、自院に勤務している医師などに引き継いでもらう「院内承継」ができるのかどうか、その可能性について考えてみましょう。

親族外・院内承継のメリット

親族に自院を承継する人間がいない場合、親族以外の院内スタッフによる承継か、第三者承継(M&Aなど)が選択肢になります。院内承継には、第三者承継と比べると、下記のようなメリットがあります。

承継者が自院の方針や文化をよく理解している

親族以外で、いわゆる院内で「ナンバー2」と呼ばれていたような医師がいれば、その方が承継候補になるでしょう。そうでなかったとしても、長期間勤務し、副院長、診療科長など一定の役職にある医師が候補になるはずです。そのような医師が後継者になれば、現経営者のビジョンや診療方針、経営方針、あるいは院内文化といったものをよく知っています。現経営者が作り上げてきた病院の理念や文化をそのまま引き継いでもらいやすいという点は、大きなメリットとなります。

院内の他のスタッフからも受け入れられやすい

他の医師や看護師、その他の職員からも上長として信頼を得ている人物であれば、院内の統率やコミュニケーションも、最初からスムーズに行えます。

親族外・院内承継の難しさやデメリット

一方、院内承継には、親族承継や第三者承継にはない難しさやデメリットもあります。

出資持分買取など、承継資金の手当ての問題

医療施設を引き継ぐ際には、主なケースでは出資持分の買取になりますが、相応の対価が必要です。その医療施設の種類や規模、また経営状況などによっても異なりますが、病院であれば小規模でも最低数億円からという水準が一般的でしょう。副院長や診療科長といった一定の役職に就いている医師でも、数億円以上の対価を簡単に出せる人はほとんどいないでしょう。この承継資金をどう準備するのかが、院内承継の大きなハードルになります。

債務の連帯保証の引き継ぎ問題

多くの医療施設では、病棟の建設や建て替え、医療機器導入などの際に、金融機関から融資を受けています。こういった事業融資に関しては、経営者が連帯保証をすることが慣例となっています。一般的には、事業承継で経営者が交代した場合は、新しい経営者にも金融機関から連帯保証が求められます(最近は金融機関の姿勢も多少変化しつつあり、必ずとはいえませんが)。医療施設経営が順調であれば返済に問題は生じないとしても、万一なんらかのトラブルが生じた際には、引き継いだ経営者に返済義務が生じることになります。将来的に大きなリスクを背負うことになるので、承継候補者となる医師本人はそれを受け入れたとしても、その家族などが大反対するというのはよくあるケースです。

さらに、本人や家族がよいとなっても、金融機関のほうが難色を示し、経営者が交代しても引き続き現経営者に保証をして欲しいといわれる可能性もあります。

経営者としての資質や能力の問題

後継候補者として目される人物が、医師としては優秀であったとしても、経営者としての能力が優れているかどうかは、自ずと別の問題です。仮に、副院長として経営者を補佐したり、診療科長として診療科の現場を管理したりする仕事をしていたとしても、それらと、経営全体を管理し将来に向けた意志決定をする経営者の仕事は、まったく異なるものだからです。たとえば、診療報酬改定に際して病床機能をどのように変えていくのか、どういった人材を採用してどう労務管理をするか、その中で利益はどれくらい確保できるのかといったことを意志決定していくのが経営者の業務ですが、これらは、医師の能力とも、現場のリーダーとしての能力とも、質的に異なるものであることは明らかでしょう。

言い方を変えると、たとえ役職について現場をマネジメントしていたとしても、「お給料をもらって雇われている立場」と、「スタッフを雇って使う経営者の立場」とでは、見える風景がまったく違うということです。まして、診療報酬の削減、地域人口の減少や高齢化への対応、ネットによる患者の情報収集やレピュテーションリスクなど、これからの時代の医療経営は、これまでよりもはるかに難易度が上がっていきます。その中で、医師として診察もこなしながら、経営の舵取りもしていくことは、相当なハードワークです。これを安心してまかせることができる人物は、なかなか見つからないかもしれません。

年齢問題

上記の点とも関連しますが、医師としての能力も、マネジメント能力も相当程度に高く、経営をまかせられそうな医師となると、どうしても経験が豊富なベテランになるでしょう。いきおい、現院長よりも多少若い程度の年代になることが普通です。たとえば、現経営者が70歳だとするなら、一世代下で60歳の副院長が院内承継の後継者候補になるといったイメージです。すると、仮にその副院長に病院を継いでもらったとしても、また10年ほど後には次代への事業承継問題が発生してしまうことになります。かといって、40代などの比較的若い世代の医師の場合は、マネジメント能力という点では不安が残ります。後継候補者の年齢問題も院内承継の難しい点です。

クリニックの場合は?

診療所の場合、そもそも経営者以外には、医師がいないというところも多いでしょう。医師がいなければ、当然院内承継の可能性はありません。しかし、もし、非常勤を含めて医師スタッフがおり、その医師が開業の意志を持っているのであれば、検討を打診してみる価値はあるでしょう。なぜなら、病院と異なり、ビルの中で営業をしているようなクリニックなら、資産も負債も少ないことなどから、経済面だけで考えれば、病院よりは引き継ぎやすいといえるでしょう。また、既存のクリニックの承継であれば、最初から患者さんがついている、医師以外のスタッフにはそのまま継続勤務してもらえる可能性が高いため、採用の苦労がない、といったメリットもあります。

そういったメリットを十分に理解してもらうことができれば、院内承継につながる可能性もあるでしょう。

子が院長の場合は?

医療法人の場合には、親が理事長かつ院長で子を副院長にしている、あるいは、親は理事長のみで、院長は子にまかせているというケースもよくあります。この場合、資金的な問題は、親子であることから将来の相続も視野に入れて、出資持分を生前贈与しておくなどの方法で回避しやすくなります。また、債務保証についても、いわゆる「負の相続財産」という見方をすれば、子が引き継ぐことは自然なので、院内承継の場合のように、親族外の「他人」が債務保証を引き継ぐことに比べれば抵抗は少ないでしょう。こういった点から、経済的な面からは、やはり親族内承継のほうがスムーズに承継を進めやすいといえるでしょう。また、年齢についても、親子の場合は30歳以上の年齢差があることが普通なので、承継後に短期間で次の承継を考えなければならないという事態にはなりません。

一方、経営者としての資質や能力については、子への承継の場合でも、親族外の医師への承継の場合でも、同様の考え方ができます。つまり、院長や副院長をしている子が、医師として、あるいは現場のリーダーとしては十分な能力を持っているとしても、経営者をまかせられるかどうかは、別の見方で見なければならないということです。実際、子を院長に就かせている医療経営者であっても、「経営は子にはまかせられない」として、出資持分は他者に譲ることもあるのです。

院内承継の成功はレアケース

医療施設において、院内の医師へ事業承継するケースも皆無ではありませんが、先に記したような難しさやデメリットが多いため、割合としてはかなり少ないのが現実です。

統計的なデータは見当たりませんが、おそらく医療施設の事業承継全体で1割にも満たないでしょう。

しかし、子世代の意識の変化から、子の承継が年々難しくなっている現状を考えると、今後は院内承継の割合が増えていくかもしれません。まずは、早期に子の意志を確認し、もし子の承継可能性がないとわかったのなら、院内承継の可能性を探り始めたほうがいいでしょう。

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