事業承継・引継ぎ補助金は、リタイアへ向け事業の承継を考えている方、M&A仲介会社などを利用して第三者への承継を検討している方にとって、メリットの大きい支援制度です。
事業承継・引継ぎ補助金では、事業承継をきっかけとした設備投資の費用、M&Aに必要な専門家への手数料など、さまざまな費用の補助が受けられます。
ただし、どのような内容なのか、どのように申請すればよいのか、わからない方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、事業承継・引継ぎ補助金の内容や種類、要件や申請の流れを詳しく解説します。事業承継を検討している方はぜひ参考にしてください。
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目次
事業承継・引継ぎ補助金とは
事業承継・引継ぎ補助金とは中小企業や小規模事業者などを対象とし、事業承継をきっかけに新しい試みをするための費用や、事業承継での経営資源にかかる経費の一部を補助する事業です。
近年、中小企業や小規模事業者では経営者の高齢化が進み、事業継続の問題が深刻化しています。
後継者不在で廃業する企業も多い状況です。廃業件数は増加しており、廃業する企業のなかには黒字であるにもかかわらず、廃業に追い込まれる企業も存在します。
事業承継・引継ぎ補助金は財政的なサポートにより、中小企業や小規模事業者の廃業による技術や雇用の消失を防ぐ狙いがあります。
なお、事業承継・引継ぎ補助金の内容は予算ごとに変更があるため、ご注意ください。
例えば、令和3年度補正予算の事業承継・引継ぎ補助金と令和4年度当初予算の事業承継・引継ぎ補助金には、主に以下のような違いがあります。
令和3年度補正予算 | 令和4年度当初予算 | |
---|---|---|
申請受付期間 | 2022年7月27日~2022年9月2日 | 2022年7月25日〜2022年8月15日 |
公募回数 | 全4回(予定) (令和4年度と申請期間が重なるのは第2回) | 1回 |
補助率 | ・経営革新:2/3以内 ・専門家活用:2/3以内 ・廃業・再チャレンジ:2/3以内 | ・経営革新:1/2以内 ・専門家活用:1/2以内 ・廃業・再チャレンジ:1/2以内 |
補助上限額 | ・経営革新:600万円以内 ・専門家活用:600万円以内 ・廃業・再チャレンジ:150万円以内 | ・経営革新:500万円以内 ・専門家活用:400万円以内 ・廃業・再チャレンジ:150万円以内 |
上記以外にも、対象者や対象事業などで変更がある場合があります。
事業承継・引継ぎ補助金の詳細は公式サイトで随時更新されるため、申請を検討している場合はこまめに確認するようにしましょう。
以下では、令和3年度 補正予算の事業承継・引継ぎ補助金を中心に、補助金の内容をご紹介します。
事業承継・引継ぎ補助金の種類
事業承継・引継ぎ補助金(令和3年度 補正予算)には以下の3つの種類があります。
・経営革新事業
・専門家活用事業
・廃業・再チャレンジ事業
さらに、経営革新事業には3種類、専門家活用事業には2種類の下位分類があります。それぞれの内容を以下で詳しく解説します。
事業承継・引継ぎ補助金(経営革新)
事業承継・引継ぎ補助金(経営革新)は、事業承継やM&Aをきっかけに、新商品の開発や新たなサービスの提供、今までと違う顧客層の開拓などを検討する方を支援する制度です。事業承継・引継ぎ補助金(経営革新)には以下の3つの種類があります。
・創業支援型(Ⅰ型)
・経営者交代型(Ⅱ型)
・M&A型(Ⅲ型)
M&A後のPMI(経営統合)や、新事業開拓などを検討している経営者の方にもおすすめです。補助率は補助対象経費の2/3、補助上限額は600万円以内となっています。ただし、補助額のうち、400万円超~600万円にあたる部分の補助率は1/2です。
創業支援型(Ⅰ型)
創業支援型(Ⅰ型)は、事業承継と同時に法人を設立する方、個人事業主として開業する方を支援する制度です。創業する際に、廃業を予定している方から株式譲渡や事業譲渡などで経営資源(有機的一体として)を引き継ぐことなどを要件としています。
創業支援型(Ⅰ型)の事業承継・引継ぎ補助金を活用した例には、廃業して使われていなかった新聞配達店の店舗を事業承継し、開業した会計事務所の事例があります。
この会計事務所では、事業承継を契機に事務所の改装や顧客獲得のための広告宣伝を実施しました。なお、事務所改装の解体費や設備費を補助対象経費として申請し、補助金の交付を受けています。
経営者交代型(Ⅱ型)
経営者交代型(Ⅱ型)は、親族内承継や従業員承継など事業承継により経営者が交代する方を支援する制度です。事業再生を伴うものも含みます。
経営者交代型(Ⅱ型)では、産業競争力強化法に基づく認定市区町村又は認定連携創業支援事業者から特定創業支援事業を受ける方など、経営に関して一定の実績や知識が求められる点にご注意ください。
経営者交代型(Ⅱ型)は親から子への事業承継を始め、第三者への事業譲渡などさまざまなかたちで活用されています。例えば、先代の社長が高齢を理由に事業承継を検討していた自動車整備会社では、経営者交代型(Ⅱ型)を活用して子である当代の社長へ事業承継を行いました。
自動車整備会社では事業承継をきっかけに最新の自動車整備設備を導入し、時代のニーズに合った体制づくりを進めています。補助対象経費は新設備の費用を申請し、補助金の交付を受けています。
M&A型(Ⅲ型)
M&A型(Ⅲ型)はM&Aにより事業を承継し、事業再編や事業統合などを行う方を支援する制度です。経営者交代型(Ⅱ型)と同様に経営に関して一定の実績や知識が求められます。また、単に物品や不動産を承継する場合は本事業の対象とはなりません。
M&A型(Ⅲ型)を活用した事例には、関西エリアを中心に宿泊業を営んでいた企業が、周囲に歴史的な文化遺産をもつ旅館を事業承継した例があります。この企業では、旅館の事業承継を契機に、旅館のリニューアルやインバウンドを見込んだ従業員の英語研修などを実施しました。補助金はリニューアルなどの外注費に充てられています。
事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用)
事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用)は、M&Aにより経営資源の承継を行う際にかかる専門家の費用を支援する補助金です。中小企業や小規模事業者、個人事業主を対象に、M&Aの取り組みを進めている方、M&Aに着手しようとしている方を想定しています。また、以下の2つの種類があります。
・買い手支援型(Ⅰ型)
・売り手支援型(Ⅱ型)
事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用)の補助率は2/3、補助上限は600万円です。M&A支援業者に支払う手数料も対象となりますが、当該業者がM&A支援機関登録制度に登録しているなどの要件があります。
買い手支援型(Ⅰ型)
買い手支援型(Ⅰ型)は、経営資源をM&Aにより他社から譲受する「買い手」を支援する制度です。買い手支援型(Ⅰ型)を活用する際は、経営資源を譲受した後に「シナジーを活かした経営革新を行うこと」「地域の雇用をはじめ、地域経済全体を牽引する事業を行うこと」などの要件があります。
買い手支援型(Ⅰ型)の活用事例には、過疎地に立地する薬局をM&Aにより譲受した薬局経営会社の例があります。薬局経営会社では、引継ぎ予定の薬局の譲受により、地域密着型サービスの向上を見込んでいました。補助金はM&A譲渡案件紹介手数料に充てられています。
売り手支援型(Ⅱ型)
売り手支援型(Ⅱ型)は、M&Aにより自社を譲渡する「売り手」の中小企業を支援する制度です。地域の雇用を担い、地域経済全体を牽引する事業を行う企業で、M&A後も当該事業が第三者により継続されるなどの要件があります。
売り手支援型(Ⅱ型)は、事業を譲渡する際の委託費用などに活用できる点が特徴です。例えば、住宅の解体工事事業を営む中小企業では、総合建築業を営む大手企業との事業統合の際に本補助金を活用しています。補助対象となったのは、M&A専門家への委託費用です。
事業承継・引継ぎ補助金(廃業・再チャレンジ)
事業承継・引継ぎ補助金(廃業・再チャレンジ)は令和3年度補正予算 事業承継・引継ぎ補助金で新たに設置された制度です。事業承継やM&Aにより事業を廃業し、新たな事業の開始を検討している中小企業・小規模事業者を対象としています。
本事業は経営革新事業や専門家活用事業との併用が可能な点が特徴で、組み合わせにより以下の4つの活用方法があります。
・事業承継またはM&Aで事業を譲り受けた後の廃業(経営革新事業との併用)
・M&Aで事業を譲り受けた際の廃業(専門家活用事業との併用)
・M&Aで事業を譲り渡した際の廃業(専門家活用事業との併用)
・M&Aで事業を譲り渡せなかった廃業・再チャレンジ
事業承継・引継ぎ補助金(廃業・再チャレンジ)の補助率は2/3、補助上限は150万円です。廃業支援費や解体費などが補助金の対象となります。
事業承継・引継ぎ補助金を受けるための要件
事業承継・引継ぎ補助金を申請する場合には、事業ごとに定められた要件を満たす必要があります。事業承継・引継ぎ補助金の公式サイトには、事業ごとに公募要領を掲載しているため、事前に確認しておきましょう。ここでは、以下の点について解説します。
・補助金の対象となる事業者
・必要となる書類
・補助金の対象となる経費
補助金の対象となる事業者
補助金の対象となる「中小企業者等」の定義は、例えば「製造業その他」では「資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社」「常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人事業主」など、業種により定められています。
自分の営む業種の定義がどのようになっているのか、事前の確認が大切です。なお、社会福祉法人や医療法人、一般社団・財団法人、公益社団・財団法人などは「中小企業等」に含まれません。
必要となる書類
補助金申請に必要となる書類は。申請する種類により異なります。例えば、専門家活用事業の申請で必要な主な書類は以下のとおりです。
・補助金交付申請書(jGrantsにて申請)
・履歴事項全部証明書
・税務署受付印のある直近の確定申告書の写し
・直近の確定申告の基となる直近3期分の決算書の写し
・住民票の写し
・常時使用する従業員1名の労働条件通知書
・株主名簿の写し
・株主代表としての確認書
・補助金申請書の補足資料
事業承継・引継ぎ補助金の公式サイトには、補助金申請で必要な書類のチェックリストが公開されています。必要書類の準備にぜひ活用してください。
なお、補助金の交付申請は電子申請システム「jGrants(Jグランツ)」で行います。
jGrantsは経済産業省が提供している申請システムです。利用には「gBizIDプライム」のアカウントが必要となり、アカウント取得には1~2週間程度の期間がかかります。
補助金の交付申請を検討している場合は、早めにアカウントを発行しておくと良いでしょう。
補助金の対象となる経費
補助金の対象となるには、使用目的が明確に特定でき、補助事業期間内に支払った経費であるなど、いくつかの要件があります。また、事業ごとに対象となる経費も異なるため注意が必要です。例えば、以下のような経費が補助金の対象となります。
・経営革新事業
設備投資費用、人件費、事務所の改築費用、マーケティング調査費など
・専門家活用事業
M&A支援業者に支払う手数料、デューディリジェンス費用、システム利用料など
・廃業・再チャレンジ事業
廃業支援費、解体費、原状回復費など
事業承継・引継ぎ補助金を受けるための手続き・流れ
事業承継・引継ぎ補助金の交付申請の大まかな流れを解説します。なお、経営革新事業と廃業・再チャレンジ事業では、認定革新等支援機関での確認書の取得が必要となります。
事業承継・引継ぎ補助金(経営革新)の流れ
経営革新事業と廃業・再チャレンジ事業の申請の流れは以下のとおりです。
1.補助金の対象となるかの確認
2.gBizIDプライムのアカウント取得
3.事業承継・引継ぎ補助金のサイトから、認定革新等支援機関による確認書のダウンロード
4.認定革新等支援機関から、確認書を取得
5.事業承継・引継ぎ補助金に必要な書類の準備
6.「jGrants」の申請フォームに必要事項を入力
7.事業承継・引継ぎ補助金サイトにある「必要書類チェックリスト」で確認
8.必要書類を添付し、申請処理を行う
申請の手続きが終了したら、交付決定を待ちましょう。交付決定後に補助対象事業を実施し、事業終了後に実績報告を行い、最後に補助金が交付されます。
事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用)の流れ
専門家活用事業の交付申請の流れは以下のとおりです。
1.補助金の対象となるかの確認
2.gBizIDプライムのアカウント取得
3.事業承継・引継ぎ補助金に必要な書類の準備
4.「jGrants」の申請フォームに必要事項を入力
5.事業承継・引継ぎ補助金サイトにある「必要書類チェックリスト」で確認
6.必要書類を添付し、申請処理を行う
認定革新等支援機関への手続き以外は、経営革新事業などと同様の流れとなります。交付決定後に補助対象事業を実施し、実績報告書を提出する点も同様です。
事業承継・引継ぎ補助金の注意点
事業承継・引継ぎ補助金は返済の必要がなく、事業承継にかかる費用や新たな設備投資にかかる費用の補助を受けられるため、メリットの多い制度です。ただし、制度の活用にはいくつかの注意点があるため、注意点を把握したうえで申請手続きを行いましょう。
採択率がある
業承継・引継ぎ補助金には審査があり、すべての申請が採択されるわけではありません。
令和3年度当初予算の実績では、経営革新事業で136件申請中75件、専門家活用事業では270件中236件が採択されました。採択率はそれぞれ55%、87%となっています。
専門家活用事業では9割近い採択率となっていますが、交付決定に至らなかった申請も存在します。
申請ができるだけ採択されるよう、要件の確認や書類の用意など、事前準備をしっかりと行うようにしましょう。
事前着手が認められない
事業承継・引継ぎ補助金は、基本的に補助事業期間内に契約・発注を行い、支払った経費が対象となり、事前着手した分の経費は対象経費として認められていません。
補助金の対象となる期間は事前に確認しておきましょう。
なお、公募要領の公表日以降であれば、事前着手の申請が認められる場合があります。
ただし、事前着手が承認された場合でも、補助金の申請が採択されないリスクもあるため、注意が必要です。
補助金は精算払いとなる
補助金交付の流れでも述べたように、補助金の交付は事業完了後に実績報告書を提出し、内容が精査されたうえで精算払いされます。
事前に交付されるものではなく、事業がすべて終了した後の支払いとなる点は覚えておきましょう。
事業承継・引継ぎ補助金以外の支援策
国は中小企業や小規模事業者の事業承継をサポートするために、事業承継・引継ぎ補助金以外にもさまざまな支援策を実施しています。
例えば、各都道府県に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターでは、事業承継計画の策定支援や親族内承継の支援、M&Aによる第三者承継の支援など、さまざまなサポートを提供しています。
また、事業承継税制を活用すると、事業承継にかかる贈与税や相続税の負担軽減が可能です。事業承継に関して不明な点がある場合には、一人で抱え込まずに専門家や窓口へ相談してみてください。
まとめ
事業承継・引継ぎ補助金は、事業承継で新たな取り組みにかかる費用や、専門家への依頼にかかる費用などを補助する制度です。令和3年度補正予算からは廃業・再チャレンジ事業も加わり、廃業にかかる費用の支援もスタートしました。
事業承継・引継ぎ補助金は返済の必要のないメリットがありますが、交付には要件を満たし、審査を通過する必要があります。
もし、事業承継・引継ぎ補助金を含め、事業承継で不明な点がある場合にはfundbookまでご相談ください。事業承継やM&Aの経験豊かなアドバイザーが、経営者の方の視点に寄り添ったサポートを提供いたします。
fundbookのサービスはこちら(自社の譲渡を希望の方向け)
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事業承継・引継ぎ補助金に関するQ&A
Q1:事業承継・引継ぎ補助金とはどのような補助金ですか。
多くの中小企業で後継者が未定となっている状況の中で、費用負担の軽減や承継後の積極的な投資を促進するために、中小企業者の事業承継・経営資源引継ぎに要する費用を、一部補助することを目的としている補助金です。
Q2:補助対象となる中小企業等とはどのような企業が該当しますか。
補助金は経理上、交付を受けた事業年度における収益として計上するものであるため、法人税等の課税対象となります。
Q3:交付申請のための必要書類を揃えたいのですが、どの資料を確認すればよいでしょうか。
交付申請時に必要な書類をまとめた「必要書類チェックリスト」がありますので、本補助金WEBサイトから、該当資料をご確認ください。https://jsh.go.jp/r3h/materials/
Q4:事業承継・引継ぎ補助金の対象は何ですか。
令和3年度補正予算における事業承継・引継ぎ補助金の対象となる経費は、事業承継やM&Aを契機とした経営革新に伴う事業費、経営資源を引き継いで開業する場合の事業費、M&Aで専門家を活用した際に支払った報酬やサイトの利用料などの費用、再チャレンジを伴う廃業時に支払った廃業費などです。
Q5:事業承継・引継ぎ補助金は何回申請できますか。
同じ申請者については原則1回となります。