ホテル・旅館業界は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により大きな打撃を受けている業界の1つです。業界自体は厳しい状況が続いていますが、新型コロナウイルスの収束を見越して、2021年以降はM&Aが活発になっている傾向があります。
本記事では、ホテル・旅館業界のM&Aの現状や動向、M&Aを実施するメリット・デメリットなどを解説していきます。
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ホテル・旅館業界の現状や動向
▷ホテル・旅館の定義
ホテルや旅館は、分類で言うと旅館業となります。旅館業とは「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義されており、宿泊とは「寝具を使用して施設を利用すること」とされています。
旅館業には「ホテル営業」「旅館営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」の4つ種類がありますが、ホテル営業と旅館営業は以下のように定義されています。
分類 | 定義 |
---|---|
ホテル営業 | 洋式の構造及び設備を主とする施設を設けてする営業のこと。 |
旅館営業 | 和式の構造及び設備を主とする施設を設けてする営業のこと。 駅前旅館、温泉旅館、観光旅館の他、割烹旅館が含まれ、民宿も該当することがある。 |
▷ホテル・旅館業界への新型コロナウイルス感染症の影響
2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、ホテル・旅館業界は厳しい状況が続いています。観光庁の「令和3年版 観光白書」によれば、2020年のホテル・旅館の全体の客室稼働率は34.6%となっており、2019年の62.7%から約30%弱落ち込む結果となっています。
※参考|観光庁 令和3年版観光白書について(概要版)宿泊施設タイプ別の客室稼働率の推移
特にインバンド需要は大きく落ち込み、訪日外国人旅行者は前年比87.1%減となる412万人、消費額は前年比84.5%減となる7,446億円となりました。
また、日本人の国内旅行者(宿泊)については前年比48.4%減となる1億6,070万人、消費額は前年比54.7%減の7.8兆円となっています。
新型コロナウイルスの影響で苦境に立たされているホテル・旅館業界ですが、2021年以降はコロナ終息後を見越した新規参入や事業拡大の他、組織再編を目的にM&Aを検討する企業が増えています。
ホテル・旅館業界におけるM&Aの最新事例
先述しているように、ホテル・旅館業界ではさまざまな目的でM&Aが活用されています。
ここでは、ホテル・旅館業界におけるM&Aの最新事例を4つ紹介します。
▷【2022年】三菱地所株式会社によるRPHとRPH&Rの吸収合併
三菱地所株式会社は組織再編成を目的として、完全子会社となる株式会社ロイヤルパークホテル(RPH)及び、株式会社ロイヤルパークホテルズアンドリゾート(RPH&R)の吸収合併を2022年2月15日に発表しました。
RPHを吸収分割会社、RPH&Rを吸収分割承継会社とし、RPHのホテル運営事業をRPH&Rが承継することになります。同時に、三菱地所は吸収合併存続会社、RPHは吸収合併消滅会社となっています。
三菱地所株式会社は、今回の組織再編により「一体的・有機的なグループホテル経営を進化させ、運営・開発・アセットマネジメントの各分野の役割・機能を更に強化することで、ホテル事業の成長拡大を図る」としています。
▷【2021年】HMIホテルグループが勝浦と鴨川の三日月ホテルを事業買収
ホテル三日月グループは、所有する「勝浦スパホテル三日月」と「鴨川スパホテル三日月」をホテルマネージメントインターナショナル株式会社(HMIホテルグループ)へ譲渡することを2021年11月30日に発表しました。譲渡価額は非公開です。
ホテル三日月グループによれば、新型コロナウイルスの影響により利用客が減少し、施設の修繕や改修資金の捻出が困難になったことが譲渡の理由となっています。今後は、残っているホテル事業に投資を集中させるとしています。
また、HMIホテルグループは、新型コロナウイルスの収束後の需要回復を見越して、勝浦と鴨川のホテルに新たな投資を図るとしています。
▷【2021年】株式会社ベルーナが北海道の定山渓ビューホテルを取得
2021年4月23日、Karakami HOTELS&RESORTS株式会社は、同社が運営する北海道のリゾートホテル「定山渓ビューホテル」を株式会社ベルーナへ譲渡することを発表しました。譲渡価額は非公開です。
Karakami HOTELS&RESORTS株式会社によれば、『安定した経営基盤の確保及び経営資源の「選択と集中」』の観点から譲渡を決定したとしています。
また、総合通販事業を中心に幅広い事業を展開している株式会社ベルーナは、定山渓ビューホテルを取得したことで、北海道におけるホテル事業の基盤をより固めることになりました。
▷【2021年】サンフロンティア不動産株式会社によるホテル大佐渡の買収
2021年3月30日、サンフロンティア不動産株式会社は、連結子会社であるサンフロンティア佐渡株式会社及び、サンフロンティアホテルマネジメント株式会社を通じ、株式会社ホテル大佐渡の発行済株式を100%取得したことを発表しました。譲渡価額は非公開です。
サンフロンティア不動産株式会社グルーブは、サンフロンティア佐渡株式会社(2017年設立)を新潟県の佐渡市に設立以来、佐渡島でのホテル・旅館の運営やタクシー・レンタカーなどの交通インフラ事業、観光・旅行事業等を主軸として地方創生事業に取り組んでいます。
サンフロンティア不動産は、ホテル大佐渡の買収によって、同社グループが所有する「佐渡リゾート ホテル吾妻」と連携し、日本旅館とリゾートホテルの差別化及び、地方創生事業における魅力を来島者ならびに島民の方々に発信していくとしています。
ホテル・旅館業界でM&Aを活用するメリット
ここでは、ホテル・旅館業界でM&Aを活用するメリットを譲渡側、譲受側に分けて解説します。
▷ホテル・旅館業界で譲渡側がM&Aを実施するメリット
ホテル・旅館業界でM&Aを活用する譲渡側のメリットには、以下のようなものがあります。
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・廃業せずに従業員の雇用を守れる
・企業体質の改善と強化
・創業者利益の獲得
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譲渡側の各メリットについて詳しく解説します。
譲渡側のメリット①:廃業せずに従業員の雇用を守れる
ホテル・旅館の中には、経営者の高齢化と後継者未決定問題や資金調達が困難などの理由で廃業を余儀なくされるケースもあるでしょう。しかし、ホテル・旅館を廃業してしまうと、既存の従業員は路頭に迷ってしまいます。
M&Aを活用してホテル・旅館を譲渡できれば廃業をせずに事業を継続できるため、従業員の雇用を守れる可能性があります。
譲渡側のメリット②:企業体質の改善と強化
M&Aは、会社全体を譲渡するだけでなく、事業単位の譲渡も可能です。ホテル・旅館を広く展開している企業や、複数の事業を展開している企業においては、M&Aを活用して不採算事業や商品ブランドなどを譲り渡すことで、主力事業やブランドに注力できるメリットがあります。
M&Aを活用して経営資源を選択・集中させることで、経営の効率化や業績向上を期待できるかもしれません。
譲渡側のメリット③:創業者利益の獲得
ホテル・旅館の経営者は、M&Aを活用して会社または事業を譲渡することで、創業者利益の獲得が期待できるため、引退後の資金確保を見込める可能性があります。
特に中小規模のホテル・旅館の場合は、創業者が会社の個人保証人になっているケースもありますが、ほとんどのケースでは譲受側が個人保証を引き継いでくれます。そのため、負債を抱えずに引退またはセカンドライフを考えることが可能になるでしょう。
▷ホテル・旅館業界で譲受側がM&Aを実施するメリット
ホテル・旅館業界でM&Aを活用する譲受側のメリットには、以下のようなものがあります。
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・新規事業や事業拡大のための時間・コストの節約
・譲渡企業の人材やノウハウを承継できる
・シナジー効果による経営の強化
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譲受側の各メリットについて詳しく解説します。
譲受側のメリット①:新規事業や事業拡大のための時間・コストの節約
ホテル・旅館業界に限ったことではありませんが、新規事業の参入や事業規模の拡大をする際は、多大な時間とコストが必要になります。
M&Aを活用することによって、譲受側は譲渡側の営業基盤(ブランド力や顧客など)をそのまま引き継げるため、事業の立ち上げと成長にかかる時間やコストを削減できる可能性があります。
譲受側のメリット②:譲渡企業の人材やノウハウを承継できる
M&Aの実施により、譲受側は譲渡側のブランド力や顧客などを引き継げるだけでなく、人材やノウハウを承継できる点も大きなメリットの1つでしょう。
ホテル・旅館を運営するためには、施設はもちろん、良質な接客を行う従業員が必要不可欠です。譲渡側の優れた技術やノウハウを持つ人材を承継できれば、新規従業員の雇用や育成にかかる手間とコストが軽減され、M&A後の事業規模の拡大や経営基盤の強化に繋がります。
譲受側のメリット③:シナジー効果による経営の強化
M&Aによって異なる企業文化や歴史を持つ企業同士が協力・融合することで、お互いの技術やノウハウなどの機能を相互に活用できるようになるため、シナジー効果(相乗効果)が生まれることを期待できます。
同業種か異業種かによってシナジー効果の生まれやすさは異なりますが、シナジー効果は販売や生産、経営などのさまざまな面で期待ができるため、M&Aを成功させることができれば経営を強化できるだけでなく、事業の成長にも大きく繋がるでしょう。
ホテル・旅館業界におけるM&Aの注意点
ホテル・旅館業界におけるM&Aは、譲渡側、譲受側の双方に大きなメリットをもたらしますが、M&Aを成功させるためにはいくつか注意しておきたい点があります。
ここでは、ホテル・旅館業界でM&Aを活用する際の注意点を紹介します。
▷情報漏洩に厳重に注意を払う必要がある
M&Aを実施する際は、社内外への情報漏洩に注意が必要です。例えば、社内にM&Aを検討していることが漏れてしまうと、業務が一新される可能性や雇用条件の見直しなど、従業員の間で憶測や噂が流れることも考えられます。その結果、従業員のモチベーションが低下し、優秀な人材が流出してしまう可能性があります。
また、情報漏洩が原因となり、既存の取引先や顧客が離れてしまう可能性もあります。M&Aは譲渡側、譲受側に大きなメリットをもたらしますが、情報漏洩が原因でM&Aがスムーズに実施できない可能性もあるため、M&Aの情報はしっかりと管理し、適切な時期に開示し、開示後も従業員の不安をしっかりケアすることが重要です。
▷一般的な企業のM&Aより手間がかかる
ホテル・旅館業界でM&Aを活用して事業売却を行う際は、事業譲渡の手法を利用するケースが多くなりますが、事業譲渡ではさまざまな契約が白紙に戻ってしまう可能性がある点に注意が必要です。
ホテル・旅館といった旅館業は、運営するために行政庁の許可(許認可)を受ける必要があります。事業譲渡によって許認可も白紙になってしまうため、再度申請しなければいけません。
その他、一般的な企業のM&Aと同様に、法務や税務、財務などのさまざまな手続きが必要となるため、ホテル・旅館のM&Aは一般的な企業のM&Aより、手間がかかることを覚えておきましょう。
まとめ
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、まだまだ厳しい状況が続くホテル・旅館業界ですが、収束を見越し、事業規模の拡大や組織再編などの手段としてM&Aを活用する企業が増えている傾向があります。
M&Aを活用することにより、譲渡側は廃業せずに従業員の雇用を守ることができ、譲受側は事業拡大のための時間やコストが削減できるといった、さまざまなメリットがあるので、ホテル・旅館業界でM&Aの活用を検討している方は、メリット・デメリットを把握しておくと良いでしょう。
また、M&Aには幅広い専門知識が必要です。そのため、M&Aをスムーズに実施して成功させるためには、M&Aアドバイザーなどの専門家に相談・依頼することをおすすめします。