後継者不在の解決や事業拡大など、M&Aを検討する経営者が専門家に相談する理由はさまざまです。しかし、どこにM&Aの相談をすればいいのか、費用はどのくらい違うのかなどが気になる方も多いと思います。
本記事では、M&Aに関するよくある相談内容やそれぞれの相談先のメリット・デメリット、選び方を紹介します。
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
M&Aの相談内容の種類
M&Aに関する相談内容を譲受企業と譲渡企業、特に後継者不在のため事業承継を検討する経営者に分けてそれぞれ紹介します。
M&Aで譲受企業からのよくある相談内容
M&Aを検討する譲受企業の経営者からのよくある相談内容は以下が挙げられます。
・買収を検討しているが、何を準備すればいいのか
・事業の拡大によりどのような効果が見込めるのか
・買収するのに資金はいくら必要なのか
・M&Aは成約までにどのくらいの期間がかかるのか
・M&Aサポート業務への報酬はいくらなのか
M&Aで譲渡企業からのよくある相談内容
特に後継者不在のため、M&Aによる事業承継を検討する譲渡企業の経営者からの相談内容で多いものは以下が挙げられます。
・会社や事業を承継した後のオーナーはどうなるのか
・中小企業でもM&Aを行うことは可能なのか
・従業員の雇用の継続や待遇はどうなるのか
・従業員や取引先にM&Aを検討していることを知られたくない
・M&Aを今すぐ検討していないが相談は可能なのか
・M&Aには仲介業者やM&Aアドバイザーは絶対に必要なのか
▷関連記事:M&Aの事業譲渡とは?事業承継に代わる選択肢
▷関連記事:中小企業のM&A 企業の合併・買収をアシストする仲介会社の役割とは
M&A・事業承継の相談相手別のメリット・デメリット
相談先 | メリット | デメリット |
---|---|---|
金融機関 | ・取引先銀行の場合、普段からの付き合いがあり相談しやすい ・M&Aの専門部署のサポートが受けられる | ・銀行や証券会社の場合、フィーが高く、中小規模のM&Aは対応していない場合がある ・組織が大きいためフットワークが重くなりがち ・候補先企業として自機関の融資先等が優先される傾向にある |
会計士・税理士 | ・税務顧問の場合、普段からの付き合いがあり相談しやすい ・財務面から自社の内情をよく理解している ・基本的に、相手方ではなく相談者のためだけのアドバイスをしてくれる | ・現状、M&A全体のプロセスに対してのサポートができる会計士・税理士は多数派ではない ・M&Aの相手先候補のネットワークは相対的に弱い |
弁護士 | ・顧問弁護士の場合、普段からの付き合いがあり相談しやすい ・M&Aの契約関連の業務に不安がない ・必ず、相手方ではなく相談者のためだけのアドバイスをしてくれる | ・現状、M&A全体のプロセスに対してのサポートができる弁護士は多数派ではない ・M&Aの相手先候補のネットワークは相対的に弱い |
商工会議所・商工会 | ・企業規模を問わず相談に乗ってもらいやすい ・国・自治体の助成金・補助金の紹介を受けやすい ・商工会議所に「事業承継・引継ぎ支援センター」を開設し、M&Aを含む事業承継の相談を専門に受け付けている地域もある | ・マッチングやM&Aのプロセス全体の進行につき、手厚い対応を期待することは難しい |
仲介会社 | ・M&Aに特化した専門集団である ・M&Aに関連する法務、税務、財務の知識を一通り備えているとともに、必要に応じて適切な専門家を起用できる | ・多くの仲介会社があるので、依頼先の吟味が必要 ・フィーが高額 ・当事者双方からフィーを受領するため必ずしも相談者の利益だけを考えて動いてくれない |
M&Aを進めるには、さまざまな専門知識が必要となります。そのため、専門家に相談しながらM&Aを進めることが一般的です。ここでは、相談相手別にそれぞれのメリット・デメリットを紹介します。
金融機関
銀行や証券会社といった金融機関にM&Aの相談を行うメリットには、会計に関する知識を持っていることや、紹介できる企業の多さが挙げられます。また、M&Aの専門部署を持っていることが多く、その場合、M&Aに関する高い専門性を持っていることが期待できます。取引先銀行への相談の場合、日頃からコミュニケーションをとっており自社の事情を理解してくれているので相談しやすい、といったメリットもあるかもしれません。
一方、デメリットとしては、銀行や証券会社といった金融機関が顧客対象としているのは一定規模以上の企業が多いため、中小規模の企業がM&Aのサポート業務を依頼することは難しい場合があります。また、最低手数料を高く設定していることもあり、中小規模の企業によるM&Aを行う場合は手数料の負担が重くなってしまうこともあるでしょう。
これに対し、信用金庫・信用組合といった地域金融機関であればより小規模な企業の対応も可能ですが、M&Aに関する専門性は機関ごとにばらつきがある面も否めません。
▷関連記事:M&Aにおける銀行の役割とは?成功させるための特徴と注意点を紹介
会計士・税理士
M&Aを検討する際に、会計士や税理士に相談をするケースは多々あります。普段から税務顧問として申告業務を依頼している場合には、定期的にコミュニケーションをとっており、かつ自社の事業、財務に理解があるため相談しやすい、といったこともあるでしょう。
また、M&Aを進める上では、財務諸表の確認や企業の資産価値の算出、税金の計算など税務や会計の知識が必要となります。そのため、会計士や税理士にM&Aの相談をすることにより、税務や財務といった専門性の高い知識を必要とするプロセスをスムーズに行えます。
さらに、仲介会社が売り手・買い手双方のサポートを行うのとは異なり、自社で依頼した会計士・税理士は、基本的に自社のためだけのアドバイスを行うこともメリットと言えます。
例えば、M&Aのプロセス全体の進行を仲介会社等に依頼する場合であっても、併せて会計士・税理士に相談をすることで、仲介会社が自社に不利で相手方に有利な株式価格を提示していないか、といった点をチェックすることも可能です。
一方で、会計士や税理士が持っているネットワークには限りがあることが多く、自社の希望する条件を満たした相手先を見つける機能は期待しにくいというデメリットはあります。
また、主たる対応業務によっては、必ずしもM&Aに関する知識や経験が豊富とは限らないため、M&Aの相談をする時にM&Aに関する知見や対応経験について確認しておく必要があるでしょう。
弁護士
M&Aを検討する際、弁護士に相談することも1つの選択肢となるでしょう。顧問弁護士であれば、従前から自社に関する相談をしており、事業や実態の理解もあるため相談のハードルが下がるかもしれません。
また、M&Aのプロセスを進行する上では最終契約の締結が不可欠であり、弁護士であれば、最終契約において自社に不利な条項がないか、リスクに対して適切な手当てがなされているか、などの点をチェックする役割が期待できます。なお、必ずしも多数ではないものの、仲介会社が相談者に不利な内容で仲介業務に関する契約を結ぼうとする場合もあり、そのようなときにも弁護士のチェックは有効です。
一方で、会計士・税理士と同様に、弁護士個人が持っているネットワークには限りがあることが多く、マッチング機能については仲介会社等に比べ見劣りする可能性があります。加えて、M&Aのプロセス全体を主導できる弁護士の数は増加のきざしがあるものの、現状必ずしも多数派ではない点にも注意が必要です。
他方で、弁護士は職業倫理上売り手・買い手双方の支援を同時に行うことができないため、M&Aに関してアドバイスを行う際は、必ず依頼者のためだけにアドバイスを行います。会計士・税理士と同様、この点は仲介会社と比べた際のメリットです。
したがって、現時点の多くのケースでは、M&A全体の進行は仲介会社や商工団体に依頼しつつ、リスクヘッジについては併せて弁護士にも相談する、というあり方が望ましいでしょう。
商工会議所・商工会
M&Aの相談相手として商工会議所や商工会も挙げられます。会員企業の支援を行うことを目的とする準公的団体であるため、企業規模を問わず相談に応じてもらいやすいメリットがあります。地域によっては、商工会議所に「事業承継・引継ぎ支援センター」を設置してM&Aを含む事業承継の相談を専門に受け付けており(※)、センターでは、M&A全般に関する一定の知識とノウハウを持った担当者の相談対応が受けられます。
※「事業承継・引継ぎ支援センター」は全都道府県に設置されており、都道府県によって商工会議所に開設している地域と産業振興財団等に開設している地域があります。
また、国や自治体が提供する中小企業を支援するための助成金や補助金もあり、商工会議所や商工会では、こういった助成金や補助金について紹介を受けることも期待できます。これらは融資とは異なり返済の必要がないことも多いため、活用することで、手数料や専門家費用等の負担を軽減できる場合もあります。
デメリットとしては、一般的にM&Aに関するサポート業務を専門に行っているわけではない点です。主として地域内でM&Aの相手を探すことは支援してもらえるものの、マッチングの能力が十分に高いとは限りません。
M&Aのプロセスの進行についても、契約や税務の処理などの手続きは直接サポートしてもらえないこともあります。また、助成金や補助金は申請できる期間が限られており、申請から受給までに最大で1年ほどかかる場合もあります。そのため、事前に申請要項を確認しておくと良いでしょう。
仲介会社
M&A専門のM&A仲介会社も相談先の候補として挙がります。M&A仲介会社はM&A全体の流れを把握していることはもちろん、M&A全般に関する一通りの知識と経験を持っている可能性が高いです。相談者が希望する条件をもとに、仲介会社が抱える多数の候補先の中から適切な企業と積極的にマッチングを行い、プロセス全体も主体的に進行してM&Aを成約に導く役割を期待できます。
もっとも、仲介会社は数が多く体制や対応能力にばらつきがあることは否定できないので、相談・依頼しようとする先が信頼に足る仲介会社かどうかについて吟味が必要になります。
手数料が高額であることが多く、また、同じ仲介会社が売り手・買い手の両方をサポートするため、必ずしも自社のためだけにアドバイスをしてくれるわけではないことは、デメリットとして指摘できるでしょう。
ただ、譲渡企業・譲受企業の片方のみと契約を締結してアドバイザリー業務を行うFA方式をとる会社もあることや、会社によって料金設定が異なり、成約時の仲介手数料(成功報酬)以外にも着手金や中間報酬が必要となる場合がある点に注意しておく必要があるでしょう。
最近では、担当者がマッチングや相手方とのやりとりの取次ぎをフルサービスで行う形態ではなく、より安価に、部分的なサポート付きのマッチングプラットフォームを提供する会社もあり、企業規模やエリアに関係なく相手を探しやすくなりつつあります。
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M&Aを円滑に進める方法は専門性が鍵
ここまでM&Aの相談内容や相談相手別のメリット・デメリットを紹介しました。ここでは、M&Aを円滑に進めるための方法を紹介します。
▷関連記事:M&Aの仕組みとは?企業買収の手法とその種類について
M&Aの準備
自社が納得のいくM&Aを実現させるためには、事前にさまざまな準備や対策をしておくことが大切です。
M&Aは目的によって、選択するM&Aの手法や打診先の相手企業なども異なります。そのため、自社にとってより高い譲渡対価を取得することが重要なのか、事業の拡大が最優先なのか、会社の存続や従業員の雇用の継続が大切なのかなど、条件に優先順位をつけておくことができると良いでしょう。少なくとも、譲れない条件が何かについては、相談前から考えはじめておくことが望ましいと言えます。
また、自社の状態を客観的に説明することを想定して、自社の財務状況や経営状況などについても事前に把握しておくことをお勧めします。そうすることで、スムーズにM&Aの相談を進めることができるでしょう。
相談先の選び方
先述のように、M&Aは目的によって選択する手法や相手企業が異なってきます。また、希望する条件に合ったM&Aを成功させるためにはいくつか注意しておきたい点もあります。
M&Aの相談先を選択する際、コスト面も大切ですが、真摯に相談に乗ってくれるかどうかが重要となります。一般的には、M&Aは検討してから成約するまでに短くとも数ヶ月〜1年以上ほどかかると言われています。特に創業者が事業承継のために長年経営してきた自社の譲渡を行うような場合は、決して短くはない期間、不安な気持ちになることもあるでしょう。そのようなときに相談をしやすい、安心してサポートを受けられるという点も大切です。
また、M&Aには財務や税務、法務といった幅広い専門知識が必要となります。実際にM&Aのプロセスが進行した際、しっかり契約書などを作成してくれるか、企業の特徴や目的に合わせたアドバイスを行ってくれるかなど、信頼できる相談先を選択することは、M&Aを成功させるためには欠かない要素です。上述の相談先の選び方や注意点を押さえた上で、安易に相談先、M&A業務の依頼先を決めずに、複数を比較検討した上で(場合によっては複数の相談先に相談を行った上で)、決定するようにしましょう。
まとめ
M&Aの相談先はそれぞれ特色があり、M&Aを検討する経営者の目的や悩みによって最善の選択は異なってきます。納得のいくM&Aを成功させるためには、それぞれのメリット・デメリット、特色を把握しておく必要があります。
M&Aに関する知識や経験が豊富にあり、真摯に相談に乗ってくれる相談先を選ぶことがM&Aを成功させるにあたり重要となるでしょう。
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