業界毎の事例

2023/09/26

IT業界のM&A|事例31選

IT業界のM&A|事例31選

IT専門調査会社のIDC Japan株式会社が2019年12月に発表した国内IT市場に関する調査によると、2019年度の国内IT業界の市場規模は前年比4%増加の17兆9,394億円と予測されています。
こうした市場規模の拡大を背景に、現在IT業界はM&Aにおいても非常に活発な業界の一つになっています。

また、同じくIDC Japan社の発表によると、今後の国内IT市場は好調なグローバル経済状況と、AIやIoTといったいわゆる「第四次産業革命」による経済刺激の継続から、2018年から2022年にかけて毎年1.1%ずつGDP成長率の増加が見込まれており、さらに市場規模が伸びると予測されています。

本記事ではIT業界の定義や現状を簡単に説明したうえで、IT業界で行われたM&Aの事例についてご紹介していきます。

また以下の記事では、IT業界のM&Aにおいて抑えておくべきポイントやfundbookにいただいた相談例の一部を紹介しています。

▷関連記事:M&Aとは?M&Aの意味・流れ・手法など基本を分かりやすく【動画付】

渡邊 和久
今回話を聞いたM&Aアドバイザー
渡邊 和久
東北大学教育学部卒。株式会社山形銀行へ入行し、中堅中小企業の法人営業に従事。同行営業支援部にて中小企業を対象とした事業承継・M&A 業務を担当する。2018年にfundbookへ入社。業界初のガス・エネルギー専門チームを立ち上げ、当分野の第一人者としてM&A・事業承継を通じ、多くの経営者を成功に導く。
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IT業界とは?

経済産業省が報告した「平成29年特定サービス産業実態調査」によると、IT業界はソフトウェアを開発し販売するITベンダー企業(例.日立製作所、富士通株式会社など)と、ソフトウェアを通じてサービスを提供するユーザー企業(例.LINE株式会社、クックパッド株式会社など)の2つに大きく分けられます。

業界構造としては多重下請け構造*1が主流で、発注者のシステム開発依頼を受ける一次請けは大手企業となることが主流です。一般的には、二次請け、三次請けは、IT中小企業が大手企業から仕事を受注し、開発や運営業務を行っています。

株式会社アイ・ティ・アールの「IT投資動向調査2018」によると、2008年のリーマンショックや2011年の東日本大震災、景気の低迷などで長らくIT投資を先送りしていた企業も、2015年以降から投資を再開する傾向にあると発表しています。

マイナンバーの導入や金融業界のシステム更新などの大型案件の需要が堅調に伸びたため、緩やかながら投資も増加傾向にあります。

しかし2013年以降は景気回復に加え、上記の大規模システム開発が集中し、IT業界では人材不足が課題となっています。経済産業省が2015年に行った、IT関連企業(IT企業、ユーザー企業)50社を対象にした聞き取り調査でも、8割が「(人材が)不足している」と回答しています。

また、2015年時点でのIT企業及びユーザー企業(産業界全体)におけるIT人材の不足数は約17万人、2030年には不足数が約59万人まで拡大するという試算結果も出ています。

近年の動向としては、データをインターネット上で管理するクラウドコンピューティングやIoT、人工知能、そして大量のデータを分析し、傾向を把握するビックデータの活用に注目が集まっています。

こうした恒常的に人材不足である点と、市場が拡大し新たな技術が絶えず求められる業界であるため、大手や中小、ベンチャーといった会社の規模に関わらず、今後もM&Aは非常に活発に行われると予想されています。

*1多重下請け構造:ユーザー企業から仕事を請け負った元請が、設けた仕事の一部分または大部分を2次請け、3次請け、4次請けと仕事を下請けさせていくピラミッド構造の事です。

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2020年に行われた最新のM&A事例2選

1.株式会社メルペイによる株式会社ORIGAMIの買収

主にフリマアプリを運営する株式会社メルカリの子会社であるである株式会社メルペイは、2020年1月23日に株式会社Origamiの株式を取得し子会社化することを発表しました。

メルペイは、株式会社メルカリの100%子会社でスマートフォン決済事業の企業です。2019年2月にスマホ決済サービス「メルペイ」の提供を開始し、キャッシュレス化を推進しています。

Origamiは、「お金、決済、商いの未来を創造する」とのミッションのもと、2012年に会社を設立し、2016年よりスマートフォン決済サービス「Origami Pay」を提供していました。

今回の子会社化は、スマートフォン決済事業における競争の激化が反映されたものといえるでしょう。両者が持つ強みを活かしながら、日本におけるさらなるキャッシュレス化の推進を行っていくとのことです。

2.インテグラル株式会社による株式会社豆蔵ホールディングスの買収

インテグラルは、2020年3月16日に100%子会社である株式会社K2TOPホールディングスを通じて、株式会社豆蔵ホールディングスに対して公開買付を行いました。

インテグラルは、2007年9月に創設された日本国内の上場・未公開企業を対象としたプライベート・エクイティ投資会社です。

豆蔵ホールディングスは、システム構築・開発支援などを手掛ける複数の企業を傘下に持つ持株会社です。

この事例の買付代金は344億円と、公開されている2020年の上半期に行われたM&Aの中で最も高い金額となりました。

業界大手によるM&A事例14選(直近5年間)

1.富士通株式会社による古河インフォメーション・テクノロジー株式会社の買収

富士通株式会社は、2017年5月に古河電工グループの古河インフォメーション・テクノロジー株式会社(以下、FITEC)の発行済株式の51%を古河電工から取得し、古川電工との業務提携を経て10月からFITECの共同運営を開始しました。

富士通は国内最大手のITベンダー企業であり、各種のコンピューターや情報システム、電子デバイスなどの製造販売を幅広く手掛ける総合エレクトロニクスメーカーです。情報通信技術(ICT)サービス市場において国内No.1の実績を記録している一方で、「ものづくり革新隊」と呼ばれる、ICTを通じて日本のものづくり活動の全領域を統合的に支援するサービスを提供しています。

FITECは、光ファイバーや電子部品で世界トップクラスのメーカーである古河電工の情報システム部が独立して誕生した会社です。国内外100以上の子会社を持つ古河電工グループのICT戦略を担い、コンサルティングから、設計、開発、保守、運用、改善まで、ICTライフサイクルを幅広く支援しています。FITECは、「ものづくり」の精神と「課題解決」を追求しており、古河電工グループ企業のお客様を中心に、各電力会社や大手通信キャリア、官公庁などの情報ネットワーク戦略をサポートしています。

富士通はFITECを買収することで、古河電工との関係強化に加えて古河電工のITシステムを統合的に支えていくと共に、古河電工のものづくり分野におけるITスキルや業務ノウハウを習得し、富士通の製造業向けソリューションの強化を図りました。

2.日本電気株式会社(NEC)によるARCON INFORMATICA S.A.の買収

日本電気株式会社(以下、NEC)は、2016年8月に中南米地域の統括会社であるブラジルNEC Latin America S.A.を通じ、ブラジルのITセキュリティ企業Arcon Informatica S.A.(以下、Arcon)を買収しました。

NECは、インターネット事業やコンピューター・電気通信機器の製造・販売を行う国内最大のコンピューターメーカーです。近年では、2019年に開催されるラグビーワールドカップ(以下、ラグビーW杯)の保安対策に、NECの「顔認証システム」が採用されたことで話題になりました。ラグビーW杯で顔認証システムを採用するのは史上初であり、既に採用が決定されている2020年東京五輪・パラリンピックに先立ち、NECの技術力を世界へアピールする狙いです。

Arconは、ブラジルでITセキュリティに関するコンサルティング、システム構築、マネージドサービス*3の各事業を展開しており、政府機関やエネルギー・金融・通信・製造などさまざまな業種で大手顧客を有するITセキュリティ企業です。近年、ブラジルのIT市場は着実に伸びており、特にITセキュリティ市場は今後も急速に成長していくと予測されています。

NECはArconを買収することで、Arconが保有するITセキュリティ領域技術・ノウハウや、大手顧客への対応力を活用し、ブラジルでのITセキュリティ事業を推進する狙いです。
*3マネージドサービス:サーバー運用管理、保守や障害時の対応など、システム管理を一括して請け負う、アウトソーシングサービスのこと

3.株式会社野村総合研究所によるSMS MANAGEMENT & TECHNOLOGY LIMITEDの完全子会社化

株式会社野村総合研究所(以下、NRI)は、2017年9月にオーストラリアの子会社ASG Group Limited(以下、ASG)を通じ、SMS Management & Technology Limited(以下SMS)を完全子会社化しました。

NRIは日本最大手のシンクタンクで、コンサルティングとITソリューションの総合力で顧客の課題解決を行う会社です。NRIは、2016年4月に此本臣吾氏が代表取締役社長に就任しました。此本氏はNRIの台北支店長を務めるなどアジアを中心としたグローバル事業を得意としており、今後も海外への事業展開を加速させていくと見られています。

SMSはオーストラリアのITサービス会社で、顧客管理や営業支援など、フロント業務に関わるコンサルティングやITシステム導入に強みがあります。

NRIは、SMSを買収することでオーストラリアにおける顧客と、事業の展開に向けた基盤を獲得し、オーストラリア及び海外のITサービス事業の強化を図りました。2018年6月現在、ASGグループの売り上げは2016年6月期の150億円から400億円規模まで伸びています。

4.ヤフー株式会社による株式会社イーブックイニシアティブジャパンの連結子会社化

ヤフー株式会社は、2016年6月に電子書籍大手の株式会社イーブックイニシアティブジャパンを公開株式買付(TOB)で連結子会社しました。

ヤフーは月間725億PVの日本最大級ポータルサイト「Yahoo!JAPAN」を運営する企業です。その他にも検索、オークション、ニュース、天気、スポーツ、メール、ショッピングなど多数のサービスを展開しています。

イーブックイニシアティブジャパンは電子書店「eBookJapan」を始めとした電子書籍の配信とオンライン書店の開発・運営を行う企業です。独自の閲覧フォーマットと電子書籍規格を有しており、日本における電子書籍のリーディングカンパニーです。

両者はこれまでも「Yahoo!コミック」へのコンテンツ提供などを通じて協業を行っていましたが、今回ヤフーはイーブックイニシアティブジャパンを連結子会社化することで、同社が持つ独自のノウハウを活かし、電子書籍事業の更なる強化を図ります。

5.株式会社日立製作所によるREAN CLOUD LLCの買収

株式会社日立製作所は、2018年7月に米国子会社であるHitachi Vantara(日立ヴァンタラ)を通じ、REAN Cloud LLC(以下、リーンクラウド)を買収しました。

日立製作所は情報・通信システムや電力システムなど、社会インフラ事業を展開する国内最大の総合電機メーカーです。社会や企業が抱える課題をOT(運用技術)とIT、プロダクト・システムを組み合わせて解決する社会イノベーション事業をグローバルに推進しています。

リーンクラウドは、パブリッククラウド*4のマネージドサービスとマイグレーションサービス*5を提供するクラウドサービスプロバイダーです。

日立製作所は、リーンクラウドが有するパブリッククラウド関連のサービスの提供能力を獲得し、米国を中心としてグローバルにクラウド関連サービス事業を更に拡大する目的でM&Aを実施しました。

日立製作所はIT事業拡大に向けて2017年〜2018年度の2年間で総額1兆円をM&Aに投資するする方針を明らかにしており、今回のリーンクラウドの買収もその一環として行われました。

*4パブリッククラウド:不特定多数の企業または個人で使用するクラウド環境。
*5マイグレーションサービス:既存システムの機能をそのまま活用し、新しいシステムへ移行するサービス

6.株式会社NTTデータによるMAGENTYS HOLDINGS LIMITEDの買収

株式会社NTTデータの子会社である英国のNTT DATA EMEA Ltd.は、2018年6月に英国のMagenTys Holdings Limited(以下、MagenTys)を買収し、完全子会社化しました。

NTTデータは、日本の社会基盤となるシステム構築事業(例 社会保障システム、アメダス、全国地方協会システムなど)や、データ通信を行う情報サービス業界最大手のシステムインテグレーター*2です。

MargeTysは2016年に英国で設立され、2018年4月時点の従業員数は約30名と大規模な会社ではありませんがアプリケーション開発やクラウド上の業務及び、テスト自動化などの開発運用コンサルティングサービスを提供しており、高いエンジニアスキルを保有しています。

NTTデータはMargeTysを完全子会社化することで、MargeTysが保有するオープンソースフレームワークを含む知的財産やエンジニアスキルを活用し、様々な業種業界において顧客にさらに幅広いサービス及びソリューションの提供を行います。

NTTデータは、2025年ごろに全世界のITサービス業界でトップ5に入る目標を掲げており、海外企業を積極的に買収してITサービス部門の事業を拡大しています。一方で、ITインフラの維持管理等を中心とした案件が多く、その領域では力を発揮していますが、アプリ開発においてはまだ十分な力を発揮できていません。そのため、M&Aで海外企業を買収することによって、アプリ開発の能力を補う方針を掲げています。

*2システムインテグレーター:企業や行政の情報システムの構築、運用などの業務を一貫して行う企業のこと

7.株式会社メルカリによるマイケル株式会社の完全子会社化

株式会社メルカリは、2018年10月にマイケル株式会社を株式交換契約の締結により完全子会社化しました。

メルカリは、フリーマーケットアプリ「メルカリ」を運営するウェブ・インターネット関連事業会社です。2018年11月には、「メルカリ」利用者が月間1,100万人を超え、累計流通額は1兆円を突破した旨が発表がされ、大きな話題となりました。

マイケルは、車のコミュニティーサービス「CARTUNE」を運営するスタートアップ企業です。愛車の写真やドレスアップパーツの写真・動画投稿や他のユーザーの投稿閲覧など、車を趣味にしているユーザーをターゲットにしています。代表の福山氏は「ソーシャルランチ」「MixChannel」など、数多くのサービスを立ち上げ、グロースさせてきた人物です。

メルカリは、マイケルを完全子会社化することによって、「CARTUNE」に蓄積された自動車やパーツに関するデータやユーザー基盤、コミュニティと連携することで、同カテゴリーにおける個人間のパーツ売買のサポート強化を狙いとしています。

▷関連記事:株式交換とは?メリットから株式交換比率、株価の変動と注意点までを徹底解説

8.LINE株式会社と株式会社ベンチャーリパブリックの旅行事業分野における資本・業務提携 

LINE株式会社は、2018年7月に株式会社ベンチャーリパブリックの34%の出資を実施し、旅行事業における資本業務提携契約を締結しました。

LINEは、メッセンジャーアプリ「LINE」やライブ配信プラットフォーム「LINE LIVE」などを運営するウェブ・インターネット関連事業会社です。LINEは、ユーザ同士の交流等を主な目的とするソーシャルメディア系サービス/アプリの中で、国内利用率約76%とFacebookやTwitterを抑えて第1位となっています。

ベンチャーリパブリックは、国内および海外旅行の情報を専門に扱い、月間訪問数1,500万人を誇る国内最大級の格安旅行比較サイト「Travel.jp」などを運営するWEBサービス事業会社です。

LINEはベンチャーリパブリックとの資本業務提携を通じて、「LINEトラベル」と「Travel.jp」のサービスを統合し、「LINEトラベルjp」として2018年9月より新たにサービスを開始しました。ベンチャーリパブリックが持つ旅行事業におけるノウハウとLINEが持つプラットフォームを活かし、旅行者に旅の予約から現地のアクティビティやグルメ情報の提供、旅行後の思い出の共有まで一気通貫したサービス提案を図ります。

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9.KDDIが通信プラットフォーム「SORACOM」運営のソラコムを譲受け

大手通信業者のKDDIは、通信プラットフォーム「SORACOM」を運営するソラコムを2017年8月に譲り受けました。ソラコムはIoTやM2M(Machine to Machine)技術に長けており、サービスを世界各国に展開している企業です。譲渡金額は非公開ながらも200億円を超える金額とも噂され、大きな話題となりました。

両社はM&Aによってこれまでの導入実績やノウハウなどを共有し、「新たなIoTビジネスの創出」「IoTプラットフォームの構築」「グローバル展開」「次世代ネットワークの開発」などのシナジーを期待しています。

10.DMM.COMがアイテムを現金化できる「CASH」運営のバンクを譲受け

自分のアイテムを撮影するだけで買取してくれるサービス「CASH」。リリース初日から注目を集め、サービスがわずか16時間で休止に追い込まれるほど話題になりました。このサービスを譲渡したのはバンクの創業から約8ヶ月、アプリリリースからわずか4ヶ月後の出来事です。

消費者が自由に物を販売できるフリーマーケット形式のサービスの人気が高まっているなか、「所持品をすぐに現金化できる」という新しい価値を生み出しました。70億という譲渡金額は、プロダクトや市場の将来性だけではなく、「事業者やチームとしての価値を加味した上での金額」とのことです。

11.AOLの日本法人が「OATH」に統合

AOLはアメリカを中心にインターネットサービスを提供する会社です。2017年夏にyahooアメリカ法人をM&Aし、新会社Oathを設立しています。

Oath日本法人は、デジタル広告プラットフォームを提供するOath Japanと、「TechCrunch Japan」や「Engadget Japan」などを運営しているAOLオンラインに分かれていましたが、2017年8月に事業統合。広告とWebメディアの相乗効果を最大化や「人々に愛されるブランド作り」に注力するのが大きな目的です。

12.AMAZONがオンライン薬局を運営するPILLPACKを譲受け

Amazonは、オンラインで処方箋を購入できるPillPackのM&Aを公表。PillPackとはオンライン薬局を幅広く手がける2013年創業の企業です。

服用する処方薬をあらかじめ小分けにして届けてくれるサービスです。同社は、「Techstars」をはじめとした、スタートアップの事業支援を行う数社のアクセラレータから130億円以上の資金を調達しています。

アメリカで広く事業ライセンスを持っており、Amazonの広い流通網を活用した事業拡大が大きな目的です。

13.エイチームが「QIITA」運営のICREMENTSを譲受け

2017年末、エンジニア向けの情報共有サービス「Qiita」を運営している株式会社Incrementsが譲渡されたニュースが話題となりました。「Qiita」はプログラマーがソースコードを共有したり、仕事術についてのブログ記事を投稿したりするなど、月間400万人を超えるユーザーに使用されています。

一方で、近年は赤字を計上しており、業績はふるいませんでした。そこで、スマホゲームアプリを主なビジネスとしているエイチームが、中長期的な企業価値向上を目的にQiitaを譲り受けました。increments代表は、「両社の思想やユーザーの親和性からお互いに良い影響を与えられるのでは」と話しています。

14.マイクロソフトがGITHUBを譲受け

2018年6月、マイクロソフトがソースコード共有プラットフォームのGitHubを子会社化しました。世界各国のエンジニアが愛用しているサービスです。「Qiita」と「GitHub」というエンジニア御用達のサービスが続けて子会社化されたので、多くのビジネスマンの間で話題となりました。

巨大企業の子会社となったことで、GitHubが築いてきたこれまでのオープン性が損なわれる懸念がされましたが、マイクロソフトはGitHubの独立企業としての運用を守ると公言しました。それぞれ磨いてきた技術力でお互いをサポートしながら、サービスをさらに充実させていくそうです。

個人開発サービスのM&A事例3選

1.ファウンダーがWEBサイト「資金調達プロ」を事業譲渡

ファウンダーは、前身のユービジョンにてWebサイト「資金調達プロ」を運営していました。このサイトは資金調達に関する記事を紹介しているメディアで、ファクタリングに関する情報に強みを持っており、そのアフィリエイトによる収益性の高さから、東証一部上場企業に事業譲渡しました。それまでの経緯について、同社CEOが以下の記事にて言及しています。

【サイトM&A】30歳の私が運営歴3年のアフィリエイトサイトを6億2000万円で売却した全記録

上記の記事によると、あまり手をかけずにサイト運営を3年間続けてきたそうです。それでも、億を超える譲渡金額を得られるサービスに成長させています。

2.匿名質問箱「PEING」が、ジラフに事業譲渡

サウジアラビア発の匿名質問サービス「Sarahah」をヒントに、日本人の個人開発者がリリースしたのが、2017年11月リリースされた「Peing」。自分に寄せられた匿名の質問や回答を、SNSで簡単にシェアできるのが特徴です。

登録が簡単かつシンプルな機能で気軽に利用でき、リリース初月でアクセス数が2億を超えるほど、Twitter上で若年層を中心に大流行しました。一方で、急激に伸びたアクセスによりサーバーへ膨大な負荷がかかってしまうなど、開発者の方は個人運用の限界に悩まされていました。

そこで、より安定したサービスを提供するために、ジラフへサービスを譲渡。なんと、サービスリリースからわずか1ヶ月での譲渡となりました。譲渡金額は明かされていないものの、開発者によると「贅沢をしなければ働かずに生きていける」ほどの金額とのことです。

3.俳句のSNSアプリ「俳句てふてふ」が毎日新聞に事業譲渡

慶應義塾大学の学生が個人開発した俳句投稿アプリ「俳句てふてふ」が毎日新聞に事業譲渡されました。本アプリは全国的な知名度を持ちながらも、開発者の運用リソースが限られていました。

そこで、充実した俳句コンテンツを長年提供している毎日新聞が、安定した運用と既存コンテンツとのシナジーを期待してM&Aを持ちかけたのがきっかけとのこと。
開発者はアドバイザーとして今後もサービスに関わりつつ、俳句について豊富な知見や人脈を持つ毎日新聞が、新規事業としてアプリ運用に取り組みます。

同業他社サービスのM&A事例3選

1.メルカリが「スマオク」運営のザワットを譲受け

2018年6月に東証マザーズへ上場を果たしたメルカリ。規模拡大を目指す同社は、2017年2月にブランド品に特化したフリマアプリ「スマオク」を運営するザワットを譲り受けていました。

スマオクは中古ブランド品にフォーカスしたオークションサービスとしてリリースされましたが、現在では幅広い出品物を扱っており、リアルタイム通信を活用した「フラッシュオークション」も特徴の一つです。

メルカリがCtoCビジネスの同業他社を譲り受けるメリットは、両社のノウハウを共有しCtoC事業を発展と拡大させることだと明らかにしています。

2.株式会社ZOZO(旧株式会社スタートトゥデイ)が「IQON」を運営するVASILYを譲受け

ZOZOTOWNやWEARを運営するスタートトゥデイが、ファッションコーディネートアプリなどを提供するVASILYを譲り受け、完全子会社化しました。VASILYの主なサービス「IQON」では、登録されているファッションアイテムをユーザーがコーディネートして共有できます。

このケースでも、両社のミッションを達成するために、お互いのデータや資産の共有が目的だと語られています。

3.ユーザベースがアメリカの経済情報メディア「QUARTZ」を譲受け

「経済情報で世界を変える」をミッションとし、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」を運営するユーザベースが、アメリカのオンライン経済情報メディア「Quartz」の全株式を取得し、完全子会社化することを発表しました。

Quartzは2012年の設立からSNSを活用したWebメディアを運営しており、こだわりのデザインやコンテンツが魅力です。今後、Quartzは昨年末にユーザベースがリリースしたNewsPicks米国版のコンテンツ制作にかかわるだけでなく、「グローバルに進出するために必要なパートナー」としての活躍を期待されています。

動画系サービスのM&A事例4選

1.ヤフーがDELYを連結子会社化

2016年2月にリリースした、レシピ動画サービス「kurashiru」。ヤフーは本サービスを運営するdelyの株式を買い取り、議決権所有割合を45.6%まで引き上げる予定です。
「kurashiru」は、現在1200万DLされ、290万人のSNSフォロワー数を有しています。ヤフーと連携することで異なるユーザー層へのリーチや、検索機能と併せた新規事業への展望を見込んでいます。

2.グリーが広告プロデュースやクリエイティブ制作の3ミニッツを譲受け

2017年2月、グリーは動画を活用したメディアマーケティングなどを提供している3ミニッツを子会社化しました。グリーは、かつてビジネスの主軸としていたゲーム事業が徐々に縮小しており、ライフスタイルメディアの運営など他領域への参入を続けています。

動画コンテンツの広告価値が高まっている中、グリーは動画市場の知見が豊富な3ミニッツを譲り受けることで、動画広告事業の成長を見込んでいます。

3.CANDEEがライブ収録と配信のアポロ・プロダクションを譲受け

モバイル動画のメディア事業を行うCandeeは、動画配信会社のアポロ・プロダクションを子会社化しました。アポロ・プロダクションは複数の動画配信サービスにおいて月間500本以上のライブ配信を手がけている企業です。

M&Aを通して、Candeeのハイレベルな制作力とアポロ・プロダクションの安定した配信力をかけあわせ、より高品質な動画コンテンツの提供を目的としています。

4.LINEが動画プラットフォーム運営のファイブを譲受け

ファイブは、動画広告配信プラットフォームを国内で先駆けて提供した企業です。2014年の創業から急成長を遂げており、国内動画広告市場において最大規模のリーチ数を有しています。

LINEは、「LINE NEWS」や「LINEマンガ」、「LINEブログ」といった自社サービス上での広告在庫が増えており、自社の広告配信プラットフォーム「LINE Ads Platform」へ、ファイブの開発力や運用ノウハウを還元することが目的です。

学習系サービスのM&A事例2選

1.駿台グループがオンライン家庭教師サービス「MANABO」運営のマナボを譲受け

オンライン家庭教師のサービス「manabo」は、「スマホアプリで気軽にチューターから指導を受けられる」と人気を集めています。駿台グループは、本アプリを運営するマナボを2018年6月に譲り受けました。

マナボは、「生徒の学習モチベーション維持には、オンライン講師よりも実際に通うリアル塾のほうが適している」と述べ、リアル塾を持つ駿台グループと協力してサービスの拡大と充実を狙いとしています。

2.Z会がオンライン塾の「アオイゼミ」運営の葵を譲受け

「アオイゼミ」は、無料のライブ授業や、低価格で講師からアドバイスを受けられるプランが人気のオンライン塾です。2017年12月、駿台グループが運営会社の葵を譲受けました。

Z会が培ってきた豊富な教材ラインナップと葵のオンライン学習サービスをかけ合わせて、充実したサービスの提供と新しい価値の創出を目指しています。

注目のM&A事例3選

2016年に経済産業省が行った「今後のIT人材等に関するWEBアンケート調査」の結果から、今後市場が拡大すると予想される「IoT」「AI」に加え、仮想通貨で世間を賑わせた注目の新技術「ブロックチェーン*6」のM&A事例を紹介します。

*6ブロックチェーン:インターネットで共有される、記録の改ざん不可能な分散型のデータベース

1.ソフトバンクグループ株式会社によるARM HOLDINGS PLCの完全子会社

ソフトバンクグループ株式会社は、2016年9月にイギリスの半導体設計大手企業ARM
Holdings plc(以下ARM)を完全子会社化しました。

ソフトバンクグループは、インターネット及び通信を主な事業基盤として、情報革命で「世界の人々から最も必要とされる企業グループ」を目指す会社です。主な事業会社にソフトバンクやヤフー、福岡ソフトバンクホークスを保有しています。

ARMはグローバルな半導体の知的財産権と「IoT」における優れた能力を有する、世界有数のテクノロジー企業です。半導体の心臓部であるCPU(中央演算処理装置)の設計に特化し、その“設計図”を半導体メーカーに提供するIP(知的財産)を武器としています。

ソフトバンクグループはARMを完全子会社化することによって、ARMのイノベーション促進の投資拡大と、科学技術分野におけるイギリスでの先導的地位の維持と成長を図る狙いです。

同社がこのM&Aに投じた資金は約310億ドル。2017年は年間を通じて10億ドルを超える大型買収の事例が他になく、非常に大きな投資金額も話題となりました。

2.株式会社ソルクシーズによる株式会社アックスの株式譲受

株式会社ソルクシーズは、2017年6月に株式会社アックスの株式を取得し、所有割合を14.1%としました。

ソルクシーズは、グループ企業である株式会社エクスモーションや株式会社イー・アイ・ソルを中心に、自動運転分野での設計支援や開発協力を推進しています。

アックスは、新世代の移動体機器や情報家電に向けた新しい技術開発を行っており、自動運転等に必要となるAI(人工知能)の技術開発も行っています。

ソルクシーズは、ストック型ビジネスの主力として開発・提供を行っているクラウドサービス「Fleekdrive」・「Fleekform」の進化、発展を推進するために、クラウドサービスに対する人工知能の搭載を計画していました。アックスの株式を譲り受けることにより、アックスの人工知能の技術開発とのシナジー効果を図ることが狙いです。

▷関連記事:譲渡企業側こそ意識しよう。企業選定で欠かせないポイント「シナジー効果」とは

3.マネックス株式会社によるコインチェック株式会社の完全子会社化

マネックス株式会社は、2018年4月にコインチェック株式会社を完全子会社化しました。

マネックスは、ブロックチェーンや仮想通貨の持つ大きな可能性を認識しており、これらの技術を中心にグループを飛躍的に成長させることを目指しています。同社としての「第二の創業」を掲げ、仮想通貨交換業への参入準備や仮想通貨研究所の設立など、仮想通貨の分野における取組みを進めています。

コインチェックは国内の仮想通貨取引所の先駆者として、TVCMも積極的に行うなど認知度を急拡大していました。しかし、2018年1月の不正アクセスによる仮想通貨「NEM」の不正送金に関し関東財務局から業務改善命令を受けていました。経営管理態勢及び内部管理態勢の改善を図っている途上で、マネックスが救済する形でM&Aを行いました。
マネックスは、コインチェックを完全子会社化することにより、コインチェックを全面的に支援することと、オンライン証券業界で培った経営管理やシステム管理のノウハウやコインチェックのシステムを構築してきた人材を獲得し、フィンテックビジネスの強化を図る狙いがあります。

専門家からのコメント

近年、IT業界はグローバル化による影響やAI、IoTといった新技術の台頭により国内市場は急激に伸びており、今後もますます伸びていくことが予想できます。一方で最先端技術に対応できる人材が不足しているのが現状としてあります。育成に時間のかかるシステムエンジニア(SE)やWEBデザイナーといった人材の確保や、多重下請け構造の解消を図るために大手企業がM&Aを行う企業が増えています。
 
IT社会が成熟し、どこの企業でもコンピュータネットワーク無しでは仕事が成り立たなくなっている今、SEの必要性はどんどん増してきています。大手企業を中心に新規の開発プロジェクトも増え、WindowsやLinuxに加え、iOSやAndroidといった新しいプラットフォーム市場が確実に成長しています。経済産業省の調査によると、2020年でIT人材は37万人不足、2030年で79万人不足すると予想されており、2019年からは新卒者の人数よりも退職者の人数が上回ることが分かっています。今後もSEは需要が高く、人材の確保が難しくなってくるでしょう。
 
IT業界では、自社の成長を加速させるために大手企業のリソースを活用するという考え方も浸透しつつあるため、M&Aという手法が経営戦略の選択肢の一つとして行われています。譲受企業においては、譲り受けた後の対象会社とのシナジー効果の発現を意識してM&Aを実施することから、対象会社の更なる発展、また対象会社単独では成し得ないような非連続的成長を期待することが可能です。
 
また、M&Aの特色を踏まえた企業が、IPOよりM&Aを「出口戦略」として選択するケースが増えており、足許では、M&Aが「出口戦略」として最も選択されているという新聞報道が見られるようになりました。オーナーの起業家としての人生観そのものが多様化していることがM&Aが盛んになっている理由でもあります。世界一の金融センターである米国では、非上場会社の持分譲渡の方法として、IPOを行うかM&Aを行うか、並行して検討すること(Dual Track Process)が一般的な方法として採用されています。
 
一般的に、M&Aは仲介会社を通して行われることが多いですが、IT業界のM&Aは特殊で、仲介会社を通さず自分たちで行うことが多くあります。この背景として、IT業界の独自のコミュニティーがあり、投資家や起業家がお互いに情報共有をするなど、当事者同士でM&Aを行っているからです。
 
一方で、変化のめまぐるしいIT業界のM&Aに詳しいアドバイザーも少ないという問題があります。昨年1年間のM&A件数のおよそ1割を占め、譲渡企業にとってより多様な譲受希望企業様と交渉できる環境にあります。M&Aによる自社の成長を加速させるため、業界に特化したアドバイザーによる交渉がいま必要とされています。

まとめ

2020年現在、新技術の台頭や、他業界からのニーズの高まりによって、IT業界は業績だけでなく、M&A件数も上昇傾向にあります。

今後も多くの企業が、IT企業とのM&Aによって新技術の活用、人材の確保、更なる業務拡大を行っていくことが予想されています。

日進月歩の業界だからこそ、常に新しい情報を収集し、業界の潮流に取り残されずにユーザーニーズを先読みすることで、新たなビジネスチャンスにいち早く気づくことが出来るかもしれません。

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