IT専門調査会社のIDC Japan株式会社が2018年5月に発表した国内IT市場に関する調査によると、2018年度の国内IT業界の市場規模は前年比4.3%増加の17兆5,158億円と予測されています。

こうした市場規模の拡大を背景に、現在IT業界はM&Aにおいても非常に活発な業界の一つになっています。

また、同じくIDC Japan社の発表によると、今後の国内IT市場は好調なグローバル経済状況と、AIやIoTといったいわゆる「第四次産業革命」による経済刺激の継続から、2018年から2022年にかけて毎年1.1%ずつGDP成長率の増加が見込まれており、さらに市場規模が伸びると予測されています。

本記事ではIT業界の定義や現状を簡単に説明したうえで、IT業界で行われたM&Aの事例についてご紹介していきます。

参考URL:国内産業分野別 企業規模別 IT支出動向および予測を発表 IDC Japan株式会社
参考URL:M&Aの成功・失敗をIT業界担当コンサルタントが直接解説!『IT経営者のためのIT業界M&A研究会』開催 産経BIZ
参考URL:IDC Japan、国内産業分野別 企業規模別 IT支出動向および予測を発表  日本産経新聞

~目次~
IT業界とは?最新の業界動向を紹介
業界大手によるM&A事例4選(直近5年間)
2018年のIT業界のM&A事例4選
注目のM&A事例3選
専門家からのコメント
まとめ

今回話を聞いたM&Aアドバイザー


FUNDBOOK M&A 増田 勇貴

増田 勇貴

株式会社FUNDBOOK
営業戦略本部 エグゼキューション部
アソシエイト

関西大学卒業。2015年野村證券株式会社入社。都内にて3年間主に中堅企業オーナーの新規開拓、資産管理業務に従事。在職中は法人へのコンサルティング型営業を得意とし、同期約300人中、関東3年連続1位、2年次全国1位、3年間在任実績上位1%のトップクラスの営業成績を残す。株式会社日本M&Aセンターと共同でM&A業務を経験し、M&Aの未来と社会的意義を強く感じ、2018年9月より当社参画。

IT業界とは?

経済産業省が報告した「平成29年特定サービス産業実態調査」によると、IT業界はソフトウェアを開発し販売するITベンダー企業(例.日立製作所、富士通株式会社など)と、ソフトウェアを通じてサービスを提供するユーザー企業(例.LINE株式会社、クックパッド株式会社など)の2つに大きく分けられます。本記事においても、IT業界をこの2つに分類して紹介していきます。

業界構造としては多重下請け構造*1が主流で、発注者のシステム開発依頼を受ける一次請けは大手企業となることが主流です。一般的には、二次請け、三次請けは、IT中小企業が大手企業から仕事を受注し、開発や運営業務を行っています。

株式会社アイ・ティ・アールの「IT投資動向調査2018」によると、2008年のリーマンショックや2011年の東日本大震災、景気の低迷などで長らくIT投資を先送りしていた企業も、2015年以降から投資を再開する傾向にあると発表しています。
マイナンバーの導入や金融業界のシステム更新などの大型案件の需要が堅調に伸びたため、緩やかながら投資も増加傾向にあります。

しかし2013年以降は景気回復に加え、上記の大規模システム開発が集中し、IT業界では人材不足が課題となっています。経済産業省が2015年に行った、IT関連企業(IT企業、ユーザー企業)50社を対象にした聞き取り調査でも、8割が「(人材が)不足している」と回答しています。また、2015年時点でのIT企業及びユーザー企業(産業界全体)におけるIT人材の不足数は約17万人、2030年には不足数が約59万人まで拡大するという試算結果も出ています。

近年の動向としては、データをインターネット上で管理するクラウドコンピューティングやIoT、人工知能、そして大量のデータを分析し、傾向を把握するビックデータの活用に注目が集まっています。

こうした恒常的に人材不足である点と、市場が拡大し新たな技術が絶えず求められる業界であるため、大手や中小、ベンチャーといった会社の規模に関わらず、今後もM&Aは非常に活発に行われると予想されています。

*1多重下請け構造:ユーザー企業から仕事を請け負った元請が、設けた仕事の一部分または大部分を2次請け、3次請け、4次請けと仕事を下請けさせていくピラミッド構造の事です。

参考URL:平成29年特定サービス産業実態調査
参考URL:IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果~報告書概要版~経済産業省
参考URL:IT技術者の動向~IT人材白書から~独立行政法人 情報処理推進機構
参考URL:情報サービス産業の紹介 経済産業省
参考URL:国内企業の3割超がIT予算を増額 AI/機械学習、IoTへの新規投資意欲が拡大 株式会社アイ・ティ・アール

業界大手によるM&A事例4選(直近5年間)

1.富士通株式会社による古河インフォメーション・テクノロジー株式会社の買収

引用元:http://www.fujitsu.com/jp/

富士通株式会社は、2017年5月に古河電工グループの古河インフォメーション・テクノロジー株式会社(以下、FITEC)の発行済株式の51%を古河電工から取得し、古川電工との業務提携を経て10月からFITECの共同運営を開始しました。

富士通は国内最大手のITベンダー企業であり、各種のコンピューターや情報システム、電子デバイスなどの製造販売を幅広く手掛ける総合エレクトロニクスメーカーです。情報通信技術(ICT)サービス市場において国内No.1の実績を記録している一方で、「ものづくり革新隊」と呼ばれる、ICTを通じて日本のものづくり活動の全領域を統合的に支援するサービスを提供しています。

FITECは、光ファイバーや電子部品で世界トップクラスのメーカーである古河電工の情報システム部が独立して誕生した会社です。国内外100以上の子会社を持つ古河電工グループのICT戦略を担い、コンサルティングから、設計、開発、保守、運用、改善まで、ICTライフサイクルを幅広く支援しています。FITECは、「ものづくり」の精神と「課題解決」を追求しており、古河電工グループ企業のお客様を中心に、各電力会社や大手通信キャリア、官公庁などの情報ネットワーク戦略をサポートしています。

富士通はFITECを買収することで、古河電工との関係強化に加えて古河電工のITシステムを統合的に支えていくと共に、古河電工のものづくり分野におけるITスキルや業務ノウハウを習得し、富士通の製造業向けソリューションの強化を図りました。

参考URL:古河電工と富士通情報システムに関する業務提携で合意
参考URL:ものづくり革新隊|FUJITSU
参考URL:FITEC株式会社【古河電工】×【富士通】の合弁会社/ICTサービスプロバイダー

2.日本電気株式会社(NEC)によるArcon Informatica S.A.の買収

引用元:https://jpn.nec.com/

日本電気株式会社(以下、NEC)は、2016年8月に中南米地域の統括会社であるブラジルNEC Latin America S.A.を通じ、ブラジルのITセキュリティ企業Arcon Informatica S.A.(以下、Arcon)を買収しました。

NECは、インターネット事業やコンピューター・電気通信機器の製造・販売を行う国内最大のコンピューターメーカーです。近年では、2019年に開催されるラグビーワールドカップ(以下、ラグビーW杯)の保安対策に、NECの「顔認証システム」が採用されたことで話題になりました。ラグビーW杯で顔認証システムを採用するのは史上初であり、既に採用が決定されている2020年東京五輪・パラリンピックに先立ち、NECの技術力を世界へアピールする狙いです。

Arconは、ブラジルでITセキュリティに関するコンサルティング、システム構築、マネージドサービス*3の各事業を展開しており、政府機関やエネルギー・金融・通信・製造などさまざまな業種で大手顧客を有するITセキュリティ企業です。近年、ブラジルのIT市場は着実に伸びており、特にITセキュリティ市場は今後も急速に成長していくと予測されています。

NECはArconを買収することで、Arconが保有するITセキュリティ領域技術・ノウハウや、大手顧客への対応力を活用し、ブラジルでのITセキュリティ事業を推進する狙いです。

*3マネージドサービス:サーバー運用管理、保守や障害時の対応など、システム管理を一括して請け負う、アウトソーシングサービスのこと

参考URL:2016年度(17年3月期) 第2四半期累計期間 決算概要 日本電気株式会社
参考URL:世界トップレベルの技術:NECの顔認証システム、ラグビーW杯でも採用
参考URL:NEC、ブラジルのITセキュリティ企業Arcon社を買収~ブラジルでのITサービス事業を強化~

3.株式会社野村総合研究所によるSMS Management & Technology Limitedの完全子会社化

引用元:https://www.nri.com/jp

株式会社野村総合研究所(以下、NRI)は、2017年9月にオーストラリアの子会社ASG Group Limited(以下、ASG)を通じ、SMS Management & Technology Limited(以下SMS)を完全子会社化しました。

NRIは日本最大手のシンクタンクで、コンサルティングとITソリューションの総合力で顧客の課題解決を行う会社です。NRIは、2016年4月に此本臣吾氏が代表取締役社長に就任しました。此本氏はNRIの台北支店長を務めるなどアジアを中心としたグローバル事業を得意としており、今後も海外への事業展開を加速させていくと見られています。

SMSはオーストラリアのITサービス会社で、顧客管理や営業支援など、フロント業務に関わるコンサルティングやITシステム導入に強みがあります。

NRIは、SMSを買収することでオーストラリアにおける顧客と、事業の展開に向けた基盤を獲得し、オーストラリア及び海外のITサービス事業の強化を図りました。2018年6月現在、ASGグループの売り上げは2016年6月期の150億円から400億円規模まで伸びています。

参考URL:SMS Management & Technology Limited の株式取得(子会社化)に向けた 契約締結のお知らせ 野村総合研究所
参考URL:野村総合研究所が社長交代、グローバルに強みの此本専務が新社長に
参考URL:野村総研の此本社長の戦略–「DX時代に応えるIT企業に」

4.ヤフー株式会社による株式会社イーブックイニシアティブジャパンの連結子会社化

引用元:https://about.yahoo.co.jp/

ヤフー株式会社は、2016年6月に電子書籍大手の株式会社イーブックイニシアティブジャパンを公開株式買付(TOB)で連結子会社しました。

ヤフーは月間725億PVの日本最大級ポータルサイト「Yahoo!JAPAN」を運営する企業です。その他にも検索、オークション、ニュース、天気、スポーツ、メール、ショッピングなど多数のサービスを展開しています。

イーブックイニシアティブジャパンは電子書店「eBookJapan」を始めとした電子書籍の配信とオンライン書店の開発・運営を行う企業です。独自の閲覧フォーマットと電子書籍規格を有しており、日本における電子書籍のリーディングカンパニーです。

両者はこれまでも「Yahoo!コミック」へのコンテンツ提供などを通じて協業を行っていましたが、今回ヤフーはイーブックイニシアティブジャパンを連結子会社化することで、同社が持つ独自のノウハウを活かし、電子書籍事業の更なる強化を図ります。

参考URL:株式会社イーブックイニシアティブジャパン株券(証券コード3658)に対する 公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ ヤフー株式会社

2018年のIT業界のM&A事例4選

1.株式会社日立製作所によるREAN Cloud LLCの買収 

引用元:http://www.hitachi.co.jp

株式会社日立製作所は、2018年7月に米国子会社であるHitachi Vantara(日立ヴァンタラ)を通じ、REAN Cloud LLC(以下、リーンクラウド)を買収しました。

日立製作所は情報・通信システムや電力システムなど、社会インフラ事業を展開する国内最大の総合電機メーカーです。社会や企業が抱える課題をOT(運用技術)とIT、プロダクト・システムを組み合わせて解決する社会イノベーション事業をグローバルに推進しています。

リーンクラウドは、パブリッククラウド*4のマネージドサービスとマイグレーションサービス*5を提供するクラウドサービスプロバイダーです。

日立製作所は、リーンクラウドが有するパブリッククラウド関連のサービスの提供能力を獲得し、米国を中心としてグローバルにクラウド関連サービス事業を更に拡大する目的でM&Aを実施しました。

日立製作所はIT事業拡大に向けて2017年〜2018年度の2年間で総額1兆円をM&Aに投資するする方針を明らかにしており、今回のリーンクラウドの買収もその一環として行われました。

*4パブリッククラウド:不特定多数の企業または個人で使用するクラウド環境。
*5マイグレーションサービス:既存システムの機能をそのまま活用し、新しいシステムへ移行するサービス

参考URL:日立ヴァンタラ社がリーンクラウド社を買収 株式会社日立製作所
参考URL:日立、米クラウド企業を買収 IT事業拡大へM&A積極化
参考URL:日立、2年でM&Aに1兆円 IoT軸に海外買収加速

2.株式会社NTTデータによるMagenTys Holdings Limitedの買収

引用元:http://www.nttdata.com/jp/ja/

株式会社NTTデータの子会社である英国のNTT DATA EMEA Ltd.は、2018年6月に英国のMagenTys Holdings Limited(以下、MagenTys)を買収し、完全子会社化しました。

NTTデータは、日本の社会基盤となるシステム構築事業(例 社会保障システム、アメダス、全国地方協会システムなど)や、データ通信を行う情報サービス業界最大手のシステムインテグレーター*2です。

MargeTysは2016年に英国で設立され、2018年4月時点の従業員数は約30名と大規模な会社ではありませんがアプリケーション開発やクラウド上の業務及び、テスト自動化などの開発運用コンサルティングサービスを提供しており、高いエンジニアスキルを保有しています。

NTTデータはMargeTysを完全子会社化することで、MargeTysが保有するオープンソースフレームワークを含む知的財産やエンジニアスキルを活用し、様々な業種業界において顧客にさらに幅広いサービス及びソリューションの提供を行います。

NTTデータは、2025年ごろに全世界のITサービス業界でトップ5に入る目標を掲げており、海外企業を積極的に買収してITサービス部門の事業を拡大しています。一方で、ITインフラの維持管理等を中心とした案件が多く、その領域では力を発揮していますが、アプリ開発においてはまだ十分な力を発揮できていません。そのため、M&Aで海外企業を買収することによって、アプリ開発の能力を補う方針を掲げています。

*2システムインテグレーター:企業や行政の情報システムの構築、運用などの業務を一貫して行う企業のこと

参考URL:2019年3月期 第1四半期 決算説明資料 2018年8月3日 株式会社NTTデータ
参考URL:NTTデータ、英国MagenTysを買収。DX事業を強化
参考URL:アクセンチュアに勝る強み、NTTデータ新社長が初めて語る野望と課題

3.株式会社メルカリによるマイケル株式会社の完全子会社化

引用元:https://about.mercari.com/

株式会社メルカリは、2018年10月にマイケル株式会社を株式交換契約の締結により完全子会社化しました。

メルカリは、フリーマーケットアプリ「メルカリ」を運営するウェブ・インターネット関連事業会社です。2018年11月には、「メルカリ」利用者が月間1,100万人を超え、累計流通額は1兆円を突破した旨が発表がされ、大きな話題となりました。

マイケルは、車のコミュニティーサービス「CARTUNE」を運営するスタートアップ企業です。愛車の写真やドレスアップパーツの写真・動画投稿や他のユーザーの投稿閲覧など、車を趣味にしているユーザーをターゲットにしています。代表の福山氏は「ソーシャルランチ」「MixChannel」など、数多くのサービスを立ち上げ、グロースさせてきた人物です。

メルカリは、マイケルを完全子会社化することによって、「CARTUNE」に蓄積された自動車やパーツに関するデータやユーザー基盤、コミュニティと連携することで、同カテゴリーにおける個人間のパーツ売買のサポート強化を狙いとしています。

▷関連記事:株式交換とは?メリットから株式交換比率、株価の変動と注意点までを徹底解説

参考URL:簡易株式交換によるマイケル株式会社の完全子会社化に関するお知らせ

4.LINE株式会社と株式会社ベンチャーリパブリックの旅行事業分野における資本・業務提携 

引用元:https://linecorp.com/ja/

LINE株式会社は、2018年7月に株式会社ベンチャーリパブリックの34%の出資を実施し、旅行事業における資本業務提携契約を締結しました。

LINEは、メッセンジャーアプリ「LINE」やライブ配信プラットフォーム「LINE LIVE」などを運営するウェブ・インターネット関連事業会社です。LINEは、ユーザ同士の交流等を主な目的とするソーシャルメディア系サービス/アプリの中で、国内利用率約76%とFacebookやTwitterを抑えて第1位となっています。

ベンチャーリパブリックは、国内および海外旅行の情報を専門に扱い、月間訪問数1,500万人を誇る国内最大級の格安旅行比較サイト「Travel.jp」などを運営するWEBサービス事業会社です。

LINEはベンチャーリパブリックとの資本業務提携を通じて、「LINEトラベル」と「Travel.jp」のサービスを統合し、「LINEトラベルjp」として2018年9月より新たにサービスを開始しました。ベンチャーリパブリックが持つ旅行事業におけるノウハウとLINEが持つプラットフォームを活かし、旅行者に旅の予約から現地のアクティビティやグルメ情報の提供、旅行後の思い出の共有まで一気通貫したサービス提案を図ります。

▷関連記事:M&Aにおける吸収合併とは?手続きやメリット、登記方法を解説
▷関連記事:会社分割とは?メリットから意味や種類、類型までを解説

参考URL:LINEとベンチャーリパブリック、旅行事業分野で資本・業務提携契約を締結  LINE株式会社
参考URL:総務省|「平成29年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査
参考URL:当社連結子会社であるオセニック株式会社の吸収合併(簡易合併・略式合併)に関するお知らせ

注目のM&A事例3選

2016年に経済産業省が行った「今後のIT人材等に関するWEBアンケート調査」の結果から、今後市場が拡大すると予想される「IoT」「AI」に加え、仮想通貨で世間を賑わせた注目の新技術「ブロックチェーン*6」のM&A事例を紹介します。

*6ブロックチェーン:インターネットで共有される、記録の改ざん不可能な分散型のデータベース

参考URL:IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果 ~ 報告書概要版 ~ 経済産業省

1.ソフトバンクグループ株式会社によるARM holdings plcの完全子会社

引用元:https://group.softbank/

ソフトバンクグループ株式会社は、2016年9月にイギリスの半導体設計大手企業ARM
Holdings plc(以下ARM)を完全子会社化しました。

ソフトバンクグループは、インターネット及び通信を主な事業基盤として、情報革命で「世界の人々から最も必要とされる企業グループ」を目指す会社です。主な事業会社にソフトバンクやヤフー、福岡ソフトバンクホークスを保有しています。

ARMはグローバルな半導体の知的財産権と「IoT」における優れた能力を有する、世界有数のテクノロジー企業です。半導体の心臓部であるCPU(中央演算処理装置)の設計に特化し、その“設計図”を半導体メーカーに提供するIP(知的財産)を武器としています。

ソフトバンクグループはARMを完全子会社化することによって、ARMのイノベーション促進の投資拡大と、科学技術分野におけるイギリスでの先導的地位の維持と成長を図る狙いです。

同社がこのM&Aに投じた資金は約310億ドル。2017年は年間を通じて10億ドルを超える大型買収の事例が他になく、非常に大きな投資金額も話題となりました。

参考URL:当社によるARM買収の提案に関するお知らせ ソフトバンク株式会社

2.株式会社ソルクシーズによる株式会社アックスの株式譲受

引用元:https://www.solxyz.co.jp/

株式会社ソルクシーズは、2017年6月に株式会社アックスの株式を取得し、所有割合を14.1%としました。

ソルクシーズは、グループ企業である株式会社エクスモーションや株式会社イー・アイ・ソルを中心に、自動運転分野での設計支援や開発協力を推進しています。

アックスは、新世代の移動体機器や情報家電に向けた新しい技術開発を行っており、自動運転等に必要となるAI(人工知能)の技術開発も行っています。

ソルクシーズは、ストック型ビジネスの主力として開発・提供を行っているクラウドサービス「Fleekdrive」・「Fleekform」の進化、発展を推進するために、クラウドサービスに対する人工知能の搭載を計画していました。アックスの株式を譲り受けることにより、アックスの人工知能の技術開発とのシナジー効果を図ることが狙いです。

▷関連記事:譲渡企業側こそ意識しよう。企業選定で欠かせないポイント「シナジー効果」とは

参考URL:株式会社アックスの株式譲受に関するお知らせ

3.マネックス株式会社によるコインチェック株式会社の完全子会社化

引用元:https://www.monexgroup.jp/jp/index.html

マネックス株式会社は、2018年4月にコインチェック株式会社を完全子会社化しました。

マネックスは、ブロックチェーンや仮想通貨の持つ大きな可能性を認識しており、これらの技術を中心にグループを飛躍的に成長させることを目指しています。同社としての「第二の創業」を掲げ、仮想通貨交換業への参入準備や仮想通貨研究所の設立など、仮想通貨の分野における取組みを進めています。

コインチェックは国内の仮想通貨取引所の先駆者として、TVCMも積極的に行うなど認知度を急拡大していました。しかし、2018年1月の不正アクセスによる仮想通貨「NEM」の不正送金に関し関東財務局から業務改善命令を受けていました。経営管理態勢及び内部管理態勢の改善を図っている途上で、マネックスが救済する形でM&Aを行いました。

マネックスは、コインチェックを完全子会社化することにより、コインチェックを全面的に支援することと、オンライン証券業界で培った経営管理やシステム管理のノウハウやコインチェックのシステムを構築してきた人材を獲得し、フィンテックビジネスの強化を図る狙いがあります。

参考URL:株式取得によるコインチェック株式会社の完全子会社化に関するお知らせ

専門家からのコメント

FUNDBOOK M&A 増田 勇貴

近年、IT業界はグローバル化による影響やAI、IoTといった新技術の台頭により国内市場は急激に伸びており、今後もますます伸びていくことが予想できます。一方で最先端技術に対応できる人材が不足しているのが現状としてあります。育成に時間のかかるシステムエンジニア(SE)やWEBデザイナーといった人材の確保や、多重下請け構造の解消を図るために大手企業がM&Aを行う企業が増えています。
 
IT社会が成熟し、どこの企業でもコンピュータネットワーク無しでは仕事が成り立たなくなっている今、SEの必要性はどんどん増してきています。大手企業を中心に新規の開発プロジェクトも増え、WindowsやLinuxに加え、iOSやAndroidといった新しいプラットフォーム市場が確実に成長しています。経済産業省の調査によると、2020年でIT人材は37万人不足、2030年で79万人不足すると予想されており、2019年からは新卒者の人数よりも退職者の人数が上回ることが分かっています。今後もSEは需要が高く、人材の確保が難しくなってくるでしょう。
 
IT業界では、自社の成長を加速させるために大手企業のリソースを活用するという考え方も浸透しつつあるため、M&Aという手法が経営戦略の選択肢の一つとして行われています。譲受企業においては、譲り受けた後の対象会社とのシナジー効果の発現を意識してM&Aを実施することから、対象会社の更なる発展、また対象会社単独では成し得ないような非連続的成長を期待することが可能です。
 
また、M&Aの特色を踏まえた企業が、IPOよりM&Aを「出口戦略」として選択するケースが増えており、足許では、M&Aが「出口戦略」として最も選択されているという新聞報道が見られるようになりました。オーナーの起業家としての人生観そのものが多様化していることがM&Aが盛んになっている理由でもあります。世界一の金融センターである米国では、非上場会社の持分譲渡の方法として、IPOを行うかM&Aを行うか、並行して検討すること(Dual Track Process)が一般的な方法として採用されています。
 
一般的に、M&Aは仲介会社を通して行われることが多いですが、IT業界のM&Aは特殊で、仲介会社を通さず自分たちで行うことが多くあります。この背景として、IT業界の独自のコミュニティーがあり、投資家や起業家がお互いに情報共有をするなど、当事者同士でM&Aを行っているからです。
 
一方で、変化のめまぐるしいIT業界のM&Aに詳しいアドバイザーも少ないという問題があります。昨年1年間のM&A件数のおよそ1割を占め、譲渡企業にとってより多様な譲受希望企業様と交渉できる環境にあります。M&Aによる自社の成長を加速させるため、業界に特化したアドバイザーによる交渉がいま必要とされています。

まとめ

2018年現在、新技術の台頭や、他業界からのニーズの高まりによって、IT業界は業績だけでなく、M&A件数も上昇傾向にあります。

今後も多くの企業が、IT企業とのM&Aによって新技術の活用、人材の確保、更なる業務拡大を行っていくことが予想されています。

日進月歩の業界だからこそ、常に新しい情報を収集し、業界の潮流に取り残されずにユーザーニーズを先読みすることで、新たなビジネスチャンスにいち早く気づくことが出来るかもしれません。