
事業承継は適切なタイミングで行うことが重要であり、実施時期を間違えてしまうと円滑に実施できない場合や失敗する場合があります。事業承継の検討にあたっては、手法や承継先の検討だけでなく、「最適な実施時期」を判断することも大切です。
本記事では、事業承継のタイミングや流れ、事業承継を成功させるために押さえておきたいポイントを解説します。

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目次
事業承継で「タイミング」や「早めの対策」が重要な理由
事業承継に適したタイミングは、会社の経営状況や後継者の育成状況、現経営者の年齢などによって変わります。事業承継を検討する際は、適切なタイミングを見極め、そのタイミングで実施できるように事前準備を行う必要があります。
以下では、事業承継で「タイミング」や「早めの対策」が重要な理由を紹介します。
実施時期を間違えると承継後の経営が悪化する場合がある
後継者への教育や指導が不十分で後継者の育成が進んでいない時期に事業を引き継ぐと、事業経営に必要なスキルが後継者に備わっておらず、その後の経営がうまくいかない場合があります。
また、自社株の評価額が高いタイミングで株式を譲渡して事業承継を実施すると、後継者の税負担が重くなる場合がある点にも注意が必要です。
タイミングを誤ると株式を譲渡された後継者は多額の納税資金が必要になります。その結果、承継後・納税後に事業資金として使える資金が少なくなってしまい、金融機関から借入れが必要になる場合があります。
事業承継には手間と時間がかかる
事業承継では以下のように様々な観点から検討や対応が必要になるため、手間と時間がかかります。
- 後継者の選定や育成
- 事業承継スキームの決定
- 節税対策
- 株式の譲渡・相続・贈与の手続き、承継先企業との統合作業 など
親族内承継や他企業への株式譲渡、合併など、どのようなスキームで事業承継を実施するのか、誰に引き継ぐのかなど、事業承継では決めるべき事項が多くて検討に時間がかかるため、早めの対策が必要です。
例えば、後継者の育成が必要な場合、育成に5年~10年かかるケースもあります。他企業への承継では、承継後の統合プロセス(PMI)に数年単位の期間を要する可能性もあります。
また、M&Aを活用して第三者に事業を承継する場合、後継者育成の時間はかからないものの、承継先企業がすぐに見つかるとは限らないため、承継先企業が見つかるまでに時間がかかる可能性を考慮し、早めに検討・対応を進める必要があります。
経営者が高齢化している
帝国データバンクによると、2023年時点で全国の社長平均年齢は60.5歳と過去最高を記録しました※。このような経営者の高齢化が進む中、事業承継ができず休廃業・解散してしまう中小企業が少なくありません。
現経営者が高齢になってから事業承継の検討や後継者探しを始めても、承継先が見つからず廃業を余儀なくされる可能性があります。そのため、事業承継は経営者が高齢になる前に実施することが重要です。
また、高齢になると体力や判断力が低下し、積極性・柔軟性のある経営判断ができなくなる場合や事業経営がスムーズにいかなくなる場合があります。そうなる前に事業承継を行い、若い世代に引き継げれば、承継前の事業経営も事業承継作業も滞りなく進められます。
東京商工リサーチによると、経営者の年齢と会社の業績は反比例するとされており、早めの事業承継・世代交代の重要性が示されています。
※出典:帝国データバンク「全国「社長年齢」分析調査(2023年)」
事業承継を行う最適なタイミングとは
事業承継のタイミングは、会社の経営状況や後継者の有無などを踏まえて決める必要があります。
以下では、事業承継に適したタイミングについて解説します。
会社の経営状況が安定している段階
事業承継では経営者交代によって社内が混乱し、業績が悪化してしまう可能性があります。経営状況が厳しい時期に事業承継を行い、さらに業績が悪化してしまう事態は避けたいため、事業承継を行うタイミングは会社の経営状況が安定している時期がおすすめです。
会社の経営状況が安定しているタイミングであれば、社内のトラブルを避けられる傾向にあり、スムーズに事業承継を実施できる可能性が高くなります。
ただし、現経営者の力不足で会社の経営状況が悪化している場合は、早めに事業承継を行うことで業績が良くなる場合もあります。自社の状況を見極め、事業承継の実施時期を判断しましょう。
後継者の有無と承継への覚悟・能力を考慮した段階
親族や社内に適切な後継者がいない場合は、後継者を外部から見つける必要があるため、M&Aの活用など何かしらの対策が必要です。
一方、身近に後継者がいる場合は、会社を承継する覚悟があるのか、十分な経営能力が備わっているのかなど覚悟や能力を考慮したうえで、タイミングを決定します。
後継者がすでに経営に携わり承継に必要なスキルを身に付けている場合は、スムーズな事業承継が期待できます。ただし、承継する際の後継者候補の年齢にも注意が必要です。
高齢になってから事業を引き継ぐ場合、経営者として事業に携わる期間が短くなり、またすぐに次の後継者を探すことになってしまいます。そのため、後継者の年齢も考慮して事業承継のタイミングを決める必要があります。
中小企業庁の調査によると、現経営者が事業承継をした時の年齢について「ちょうど良い時期だった」と回答した割合が最も多いのは40歳~49歳でした。そのため、一般的に事業承継を行う際の後継者の年齢は40代が良いとされています。
後継者を育てるには時間がかかります。事業承継を実施するなら早めに準備を始めましょう。
現経営者の年齢が60歳に入る前の段階
東京商工リサーチによると、2023年から2024年に代表者が交代した企業において代表者の交代前の平均年齢は71.1歳でした※。
事業承継の方法にもよりますが、一般的に親族や自社の従業員が後継者となる場合、事業承継に5年~10年の期間が必要とされています。そのため、現経営者の年齢が遅くても60歳前後の時点で事業承継を進めるのが良いでしょう。
また、事業承継を行う場合は、後継者が問題なく会社経営を行えるまで現経営者がサポートする期間を設けることも考慮する必要があります。
※出典:株式会社東京商工リサーチ「2024年「代表者交代」調査」
事業承継の手法と実施タイミング
事業承継の手法は主に以下の3つに分けられ、どのような手法で事業承継を実施するのかによって、後継者に事業を引き継ぐタイミングも変わります。
・親族内承継
・親族外承継(社内承継・従業員承継)
・M&Aによる事業承継
以下では、各手法の特徴や事業を承継するタイミングについて解説します。
▷親族内承継
親族内事業承継とは、自分の子をはじめ現経営者の親族を後継者にする事業承継
方法です。子を後継者にするケースでは経営者の若返りを図ることができ、早くから後継者に指名すれば十分な教育期間を確保できます。
後継者教育に時間をかける場合、実際に後継者に事業を引き継ぐタイミングよりもかなり前から事業承継について検討しなければいけません。前述のとおり、後継者教育は数年単位で時間を要することになるため、現経営者から後継者へ事業を承継する時期を想定したうえで、後継者教育にかかる期間を考慮し事業承継の検討・対応を開始する時期を決める必要があります。
▷親族外承継(社内承継・従業員承継)
親族外承継とは、会社の既存従業員や役員を後継者にする事業承継方法です。自社で勤務経験がある社員が後継者になるケースでは、会社に理解があるため、子に事業を引き継ぐ親族内承継の場合と比べても比較的スムーズに事業承継を行うことができます。
すでに長年にわたって勤務している社員で、自社の事業経営に必要な経験やスキルを身に付けている社員であれば、後継者教育に時間をかける手間や時間も省けます。
ただし、後継者が株式を買い取って経営権を取得するケースでは後継者が株式購入資金を準備する必要があるため、事業承継を行う前にある程度の準備期間を確保する必要があります。
▷M&Aによる事業承継
親族や社員に後継者となる人がいない場合でも、M&Aによって
業承継を行うことが可能です。M&Aには、株式譲渡や合併などの様々な手法があります。
親族内承継や親族外承継と違い、M&Aによる事業承継では後継者教育に時間をかける必要がないため、事業承継の検討を始めるタイミングは他の手法より遅くてもよい良い傾向があります。
ただし、売却先企業を自分たちで探す場合は時間がかかります。また、M&AマッチングサイトやM&A仲介会社を利用してM&Aの交渉相手を探す場合でも、候補先企業がすぐに見つかるとは限りません。そのため、M&Aを行う際は早めに検討や対策を始めることが大切です。
事業承継を行うときの流れ
適切なタイミングで事業承継を実施するためには、事業承継の流れを把握しておくことも大切です。事業承継の基本的な流れは以下のとおりです。
1.経営状況・経営課題など会社の現状把握・整理
2.後継者の選定・育成
3.事業承継計画の策定
4.事業承継・M&Aの実施
まずは経営状況や経営課題などを把握し、会社の現状を確認するところから始めます。前述のとおり、事業承継を実施すべきタイミングかどうかは、会社の経営状況や後継者の有無などによって変わるため、現状を把握したうえで事業承継の時期や手法を検討します。
親族や社内に後継者となる人物がいれば後継者を選定して後継者教育を行い、いない場合はM&Aなど外部への事業承継の検討が必要です。親族内や従業員への承継では、後継者と一緒に事業計画や事業移転計画を含めた事業承継計画を策定し、計画に沿って事業承継を行います。そして、外部への承継ではマッチングにより承継先となる相手を選定し、合意するとM&A等を実施することになります。
事業承継の方法はいくつかありますが、どの方法を選択する場合も専門的な知識が必要になるため、専門家や支援機関などに相談しながら検討や対応を進めることをおすすめします。
事業承継タイミングの検討に役立つ「事業承継計画書」とは
事業承継計画書とは、経営者が事業承継を行うための中長期的な計画を記載した書類です。会社の概要や中長期的な事業計画、事業承継に向けたスケジュールなどを記載します。
事業承継計画書は作成必須の書類ではありませんが、事業承継を検討する場合は作成するのが一般的です。事業承継計画書を作成すると事業承継の流れや各ステップの時期、タイミングなど関係者が確認・共有すべき事項を見える化できるため、検討作業を進めやすくなります。
また、事業承継税制で贈与税・相続税を猶予してもらうためには事業承継計画を作成する必要があります。
▷関連記事:「事業承継を円滑に進めるための「事業承継計画書」の書き方」
事業承継のタイミングを考える際に押さえておきたいポイント
事業承継を最適なタイミングで行い、成功させるためには、いくつか押さえておくべきポイントがあります。
ここでは、事業承継を行う際に重要になるポイントを紹介します。
事業承継は5〜10年計画の長期スパンで考える
事業承継は、準備段階から承継後の統合プロセスまで全てが重要な要素です。そのため、「後継者に会社を引き継げば終わり」という一時的な考えではなく、1つ1つ丁寧に戦略を練る必要があります。そのため、事業承継を実施する際は、数年単位の長期スパンで検討しましょう。
特に親族や従業員への承継では後継者育成に時間を要するため、5年~10年計画になるケースも珍しくありません。事業承継には時間がかかることを理解し、実施時期や準備を始めるタイミングを考えましょう。
事業承継ガイドラインを活用する
事業承継を円滑に実施するためには準備が重要になりますが、中小企業の事業承継では身内の問題として外部への相談ができず悩む経営者も大勢います。
中小企業庁が策定する「事業承継ガイドライン※」は、中小企業・小規模事業者における円滑な事業承継のために必要な取り組みや活用すべきツール、注意すべきポイントを紹介しています。
事業承継を行うにあたって、何から始めて良いのかわからない場合は事業承継ガイドラインを活用して、事業承継の課題を知ることからスタートするのも良いでしょう。
※参考:中小企業庁 令和4年3月改訂「事業承継ガイドライン(第3版)」
事業承継・M&A補助金や事業承継税制を活用する
補助金や税金に関する制度をうまく活用すれば、費用負担を抑えながら事業承継やM&Aを実施できます。
事業承継・M&A補助金とは、事業承継でかかる設備投資費用やM&A・PMIの専門家活用費用などの一部を補助する制度です。中小企業だけでなく一定の要件を満たす個人事業主や親子間事業承継も補助の対象になります。
事業承継税制とは、事業承継に伴う相続税・贈与税の納税の猶予・免除を受けられる制度です。制度を活用するためには様々な要件を満たす必要があるものの、事業承継時に後継者が納めるべき相続税・贈与税が猶予・免除されれば負担を軽減できます。
事業承継手段としてM&Aも視野に入れる
すでに後継者が決まっている場合は問題ありませんが、後継者が決まっていない場合や見つからない場合は、事業承継の手段としてM&Aを検討すると良いでしょう。
M&Aを活用することで後継者問題を解決できるだけでなく、幅広い選択肢の中から後継者候補を探すことができ、自社に最適な人材の選出が期待できます。
また、会社の売却によって現経営者は売却益(創業者利益)を得ることができるため、セカンドライフのための資金に充てることもできます。
専門家への相談も有効的
一般的に事業承継を経験している経営者は少ないため、事業承継のタイミングがわからず悩む経営者も少なくありません。
事業承継には法律や税制など様々な専門知識が必要です。円滑に事業承継を行うためにも、必要に応じて専門家へ相談することをおすすめします。金融機関や士業事務所、M&A仲介会社などに相談することで事業承継をスムーズに進められます。
まとめ
事業承継のタイミングは、会社の経営状況や後継者の有無・育成状況、現経営者の年齢などを考慮して決めることが大切です。
事業承継の方法にはいくつかありますが、実施には数年単位の期間が必要になるため、どの方法を選択するとしても早めの準備をおすすめします。
また、事業承継のタイミングを含めて悩みがある場合は専門家への相談が有効的です。信頼できる専門家のサポートを受けて、円滑に事業承継を実施しましょう。事業承継やM&Aを検討中の方はfundbookにお気軽にご相談ください。