抱合せ株式とは、合併や分割時に存続会社が持っている消滅会社の株式のことを指します。
抱合せ株式には、適切な会計処理および税務処理が必要です。適切な仕訳作業を行わないと、会社に不利益をもたらす可能性があります。
本記事では、抱合せ株式の基本的な知識にくわえ、消滅が生じるケースや、消滅によるメリット・デメリットについて解説します。
目次
抱合せ株式とは?
抱合せ株式(Tie-in Shares)とは、会社の合併や分割の際に、存続会社が持つ消滅会社の株式のことです。たとえば、A社とB社の合併において、A社がB社の株式を所有している場合、一般的にはA社からB社へ対価が支払われますが、抱合せ株式の場合は、対価を支払うことが認められないため、B社の株式は消滅してしまいます。
抱合せ株式が生じるケースと会計処理
ここでは、抱合せ株式が生じるケースを解説します。
親会社が子会社を吸収合併する場合
<親会社A社が子会社B社を吸収合併する場合>
A社が吸収合併前に所有していた、B社の株式が抱合せ株式となります。A社は、B社の純資産をすべて引き継ぐことになりますが、会計処理では、A社が引き継いだB社の純資産は時価、B社の株式は消滅するため差額が生じます。この差額を「抱合せ株式消滅差損益」といい、特別損益に計上します。
また、A社が持つA社以外の株(A社以外の個人やA社が持つB社の株)について、株主は純資産と同額で株を売ることはまずありません。純資産と異なる金額を支払うこととなり差額が生じますが、この差額が「のれん(負ののれん)」です。
のれんは、無形固定資産として計上され減価償却をします。償却期間は、のれんの効果が及ぶ一定期間、20年以内で自由に設定できます。
また、B社がA社の100%子会社の場合は、税制適格合併となる可能性があります。その場合は、B社の純資産を帳簿価額で引き継ぐこととなり、合併による税務上の利益が出ることはなく、みなし配当も発生しません。
B社がA社の100%子会社でない場合は、税制非適格合併となります。その場合は、B社の純資産を時価で引き継ぐこととなり、合併によって損益が発生する可能性があり、みなし配当も発生します。
子会社同士が合併する場合
<子会社A社と子会社B社が合併する場合>
子会社同士の合併の際にも、抱合せ株式の処理が生じます。合併後、子会社A社が存続する場合、以下二つの方法を採用できます。
1.B社の株式資本額から、A社が持つB社株式の帳簿価額を控除した金額を払込資本の増加(マイナスの場合はその他利益余剰金を減少)とする
2.B社の株主資本を引き継ぎ、抱合せ株式の帳簿価額をその他資本余剰金から控除する
抱合せ株式が消滅するメリット
ここでは、合併をすることで抱合せ株式が消滅するメリットを紹介します。
グループ全体の節税を行える可能性がある
通常、100%子会社であっても、連結納税を選択しない限り、他社の損失を相殺して申告することはできません。しかし、合併によって抱合せ株式が消滅すると、損失や欠損金を損益通算できます。消滅会社の赤字(負債)を活用することで、節税につながる可能性があります。
相続税評価額が下がる場合がある
相続税は、純資産の評価額により決定されますが、合併により、抱合せ株式が消滅することで純資産評価額が下がれば、相続税評価額も下がります。
相続税評価額が下がることにより、節税につながる場合があります。
抱合せ株式が消滅するデメリット
ここでは、抱合せ株式が消滅することによるデメリットを見ていきましょう。
中小企業の特例制度が適用外となる可能性がある
合併消滅会社が中小企業である場合、法人税の計算に「中小企業者等の法人税率の特例」を利用していた可能性があります。
合併により会社規模が多くなってしまうと、特例の要件を満たさなくなることも考えられるでしょう。
それにより適用される税率が変わり、法人税や消費税額などが高くなる可能性があります。
相続税評価が上がってしまう場合がある
相続税における税務上の株式評価は、下がることもあれば上がることもあります。
抱合せ株式が消滅しても、純資産額が下がらない場合など、必ずしも節税につながる訳ではないことを理解しておきましょう。
過去の実績や将来の計画などからシミュレーションし、どのような影響があるのかを把握した上で検討することが大切です。
抱合せ株式の会計処理
合併により抱合せ株式は消滅しますが、会計上の処理は以下の取扱いとなります。
1.親会社は、合併直前の帳簿価額で子会社の純資産を引き継ぐ
2.子会社株式(抱合せ株式)の帳簿価額を減少させる
3.差額を「抱合せ株式消滅損益」または「抱合せ株式消滅損」として特別損益に計上する
抱合せ株式の税務処理
合併により抱合せ株式は消滅しますが、適格合併(法人税法に定められている適格要件のいずれかに該当する合併)を前提とした場合は、以下の取扱いとなります。
1.親会社は合併直前の帳簿価額(税務簿価)で子会社の純資産を引き継ぐ
2.子会社の「資本金等の額」と「利益積立金」をそのまま引き継ぐ
3.抱合せ株式を減少させ、「資本金等の額」を同額減算する
※会計上の「抱合せ株式消滅損益」は、税務上は損益金不算入となる
抱合せ株式の帳簿価額相当額と資本金等の額の関係により、合併後の資本金額等の額が増加する場合と減少する場合があります。
抱合せ株式の会計処理・税務処理の例
ここでは、親会社A社が100%子会社であるB社を吸収合併する場合を例に挙げて解説します。
・合併による「増加資本金」はなし
・合併に際し、抱合せ株式(A社保有のB社株式)には株式を割り当てない
・親会社A社は数年前に子会社B社の株式を取得(株式簿価は600/税務簿価も一致)
▼子会社B社 貸借対照表 (簿価=税務簿価)
資産2,000 | 負債 400 |
---|---|
資本金等の額 1,000 | |
利益積立金 600 |
A社がB社を吸収合併(適格合併)する際の会計処理と税務処理は、以下となります。
▼合併会社A社の仕訳
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
会計 | 資産 | 2,000 | 負債 B社株式 抱合せ株式消滅益(※1) | 400 600 1,000 |
税務 | 資産 資本金等の額(※3) | 2,000 600 | 負債 資本金等の額(※2) 利益積立金(※2) B社株式 | 400 1,000 600 600 |
申告調整 | 抱合せ株式消滅益 資本金等の額 | 1,000 600 | 資本金等の額 利益積立金 B社株式 | 1,000 600 600 |
(※1)会計上は、受入資産負債と子会社株式の差額が抱合せ株式消滅損益となる
(※2)税務上は、資産負債を帳簿価額で引き継ぎ、B社の「資本金等の額」「利益積立金」を引き継ぐ
(※3)税務上は、抱合せ株式(B社株式)と同額の「資本金等の額」を減少させる
▼別表4の記載 所得の金額の計算に関する明細書
区分 | 総額 | 処分 | ||
---|---|---|---|---|
留保 | 社外流出 | |||
当期純利益 | ||||
加算 | ・・・ | ・・・ | ・・・ | |
減算 | 抱合せ株式消滅益(※1) | 1,000 | 1,000 |
(※1)会計上の「抱合せ株式消滅益」を減算(留保)
▼別表5の記載 利益積立金の計算に関する明細書
区分 | 期首 | 当期中の増減 | 差引 | |
---|---|---|---|---|
減 | 増 | |||
利益準備金 | ||||
・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ |
抱合せ株式消滅益 | (※2)1,000 | (※3)600 | △400 | |
繰越損益金(※4) | 1,000 | 1,000 |
(※2)別表4(※1)に対応
(※3)別表5で直接入力、利益積立金の増加
(※4)申告調整ではなく、計上済みの「会計上の繰越利益」を表示
▼資本金等の額の明細書
区分 | 期首 | 当期中の増減 | 差引 | |
---|---|---|---|---|
減 | 増 | |||
資本金 | ||||
資本準備金 | ||||
資本金等の額(※5) | 600 | 1,000 | 400 |
(※5)税務上の資本金等の増減を表示
まとめ
今回は、合併や会社分割により発生する抱合せ株式について解説しました。
会社経営の効率化や、コスト削減などのための合併・会社分割により、存続会社が所有する非合併会社の株式が「抱合せ株式」となり消滅することがあります。
それにより起こりうるメリット・デメリットをしっかり理解して、慎重に検討することが大切です。
計算方法や項目の分類などは、会社のスキームや資本構成によっても異なります。
複雑な仕訳に関しては、信頼できる専門家に力を借りるのもよいでしょう。