事業再生ADRとは、過剰債務をもつ企業を債権者との話し合いにより経済的に再生させる方法です。
事業再生の私的整理と法的整理を組み合わせた方法で、商取引の継続や第三者の介入による迅速な手続きが受けられるなど、両者のメリットを取り入れています。
本記事では、事業再生ADRのメリットやデメリット、手続きを行うための手順について解説します。
事業再生とは
事業再生とは、金銭的に経営が困難である企業に対して、倒産させるのではなく債権者との調整を行うことです。
事業再生の内容には、債務の一部免除や返済期間の延長があり、債務の負担を調整することで事業を再構築し、経済的に再生させることが目的です。
▷法的整理と私的整理について
事業再生には、法的整理と私的整理の2つの方法があります。
それぞれ、メリットとデメリットを下記にまとめました。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
法的整理 | ・裁判所による公平な判断 ・手続きが迅速 | ・信用低下 ・経営面のリスク |
私的整理 | ・解決案を両社で模索可能 ・商取引に支障なく進行 | ・話し合いの長期化 ・損失の押し付けの発生 |
法的整理には会社更生や民事再生があり、裁判所を介して手続きを行います。
メリットは裁判所主体のため、債権者全員の公平性が保たれ、法に基づいたルールにより迅速に手続きが進む点が挙げられます。
一方で、法的整理は商取引債権者を含めた債権者の全員参加が必須なため、商取引に支障が出るかもしれません。法的整理が公表され、信用低下や契約解除など、経営面でのリスクが出る可能性がデメリットと言えるでしょう。
法的整理と異なり、私的整理は裁判所を介さず債権者と債務者の交渉で進める手続きです。
メリットは、債権者と債務者で解決案を模索できる点が挙げられます。法的整理と比べて、商取引債権者には公表せず話し合いを進められるため、事業を並行して進めながら私的整理を行えます。
デメリットは法的ルールがないために、話し合いが長期化する可能性がある点です。債権者が複数いる場合は、損失の押し付けが起こり、交渉が決裂する危険性もあります。
ADRとは
ADRは「Alternative Dispute Resolution」の略称で、「裁判外紛争解決手続」という意味です。つまり、裁判を使わず紛争などの法的な問題を解決する方法を指します。
2004年には、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)が制定され、「訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続」と定められています。
事業再生ADRとは
事業再生ADRは、2007年度産業活力再生特別措置法(産活法)の改正により成立しました。
事業再生の法的整理と、私的整理のメリットを組み合わせたADRの方法です。法的整理は、裁判所の公平な立場で迅速に進められる一方で、手続きが公表されることによる風評被害があります。
また、私的整理は債権者と金融債務者で手続きが進められるメリットがある一方、交渉が長引く問題点があり、成立しにくいデメリットがあります。両者のデメリットにより、事業再生に踏み切れない企業が過剰債務に悩む悪循環が生じていました。
こうした事業者を救済するために、事業再生の法的整理と私的整理のメリットを組み合わせた制度が事業再生ADRです。事業再生ADRでは、私的整理と同じく債権者と金融債務者のみで手続きを進められ、法的整理と同じく第三者を介して公平に話し合いができるようになりました。事業再生ADRにおける第三者は裁判所でなく、事業再生実務家協会団体です。
事業再生実務家協会団体は、下記の法律や団体から「特定認証紛争解決事業者」の認証を受けています。ADR法産業競争力強化法に基づく法務大臣の認証経産相の認定事業再生ADRは、過剰債務をもつ企業に早急に事業再生の手続きを行うことで、事業の再構築を促進することが目的です。
▷事業再生ADRの対象者
事業再生ADRの手続きができるのは、事業再生実務家協会が定めた5つの条件に当てはまる企業です。
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1.債務によって経営困難な状況に陥っている、かつ自力による再生が困難な企業
2.事業に収益性や将来性があり、事業の立て直しをすることで事業再生の可能性がある企業
3.法的整理によって、事業価値が著しく毀損され、信用力の低下や事業再生に支障が生じるおそれのある企業
4.破産よりも事業再生ADRを実行した方が回収の可能性が高くなる企業
5.事業再生計画案の概要に、法令適合性や経済的合理性がある企業
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上記のように事業再生実務家協会が申請内容を判断する中で、事業再生ADRを必要とした企業であることを証明しないといけません。
事業再生ADRのメリット
事業再生ADRには、以下のメリットがあります。
▷商取引に支障が出ない状態で進められる
事業再生ADRは、事業再生の私的整理と同じく債権者と金融債務者との間で進めます。商取引先に知られることなく手続きを進められるため、会社の信用を守れるでしょう。
事業再生ADRと通常の商取引を並行して進めることで、金銭的な負担が減るのもメリットです。
▷つなぎ融資が受けられる
つなぎ融資とは、事業再生ADRの開始から終了までの期間に必要となる資金を「事業の継続に欠くことができない資金」として借入できる融資のことを指します。事業再生ADRは費用が高額な場合が多く、かつ手続きの完了を目的としています。
つなぎ融資は、事業再生ADRが決裂し裁判所の介入する法的整理に進んだ場合には、優先弁済として考慮されます。
▷短期間で手続きが完了する
事業再生ADRは、開始から終了まで約3ヶ月で完了します。
法的整理は民事再生の申し立てから再生計画の実行まで約6ヶ月ほど、私的整理は債権者と債務者の同意が円滑に進むかどうかで解決までの期間に幅があり、1年以上かかる可能性もあります。
解決までの期間が短い事業再生ADRは、事業の早急な再構築に効果的でしょう。
▷税制上の優遇措置がある
債権者・債務者共に、税制上の優遇措置がある点は事業再生ADRならではのメリットでしょう。
それぞれの受けられる優遇措置は、以下の通りです。
・債権者:債権放棄を行った場合、債権放棄等の損失を損金として算入できる
・債務者:資産評定による評価益、及び評価損を益金・損金として算入できる
事業再生ADRのデメリット
事業再生ADRにはメリットが多い一方で、以下のデメリットもあります。
▷債権者全員の同意がないと進められない
事業再生ADRは、あくまでもADRの手法の一つです。
そもそもADRは裁判を使わずに法的な問題を解決するための方法となり、事業再生ADRも裁判を使わず債務者と債権者の話し合いで手続きを進めるため、最終決議で債権者全員の同意がないと成立しません。
最終決議で不成立となった場合は、裁判所を介する法的整理に進みます。
▷費用が高額になる
事業再生ADRは、斡旋者として公平に判断する事業再生実務家協会や、事業再生計画の作成に弁護士や専門家の協力が必要不可欠です。そのため、それぞれの協力者に支払う費用が高額になる点がデメリットと言えるでしょう。
費用が発生する項目の内訳は、以下の通りです。
【事業再生実務家協会に支払う費用】
・事前審査料(一律50万円)
・業務委託金
・業務委託中間金
・報酬金
【弁護士などの専門家に支払う費用】
成果報酬
費用が高額になるため、つなぎ融資など手続きを完了させるための措置があるのです。
事業再生ADRの手続きの流れ
ここでは、事業再生ADRの流れを紹介します。
▷事前準備
事業再生ADRを申請する前に、申請後の審査に必要な書類を作成します。
過剰債務に陥っている状況を説明する方法として、事業に関するデューディリジェンスや事業計画書の作成があります。
事前準備で必要なデューディリジェンスの書類は、以下の通りです。
・資産評定
・清算貸借対照表の作成
・損益計画の作成
・弁済計画の作成
・事業再生計画案(概要)
各資料の作成に当たって、顧問弁護士や外部の専門家に依頼する必要があります。
▷申請
債務者である企業が、事業再生実務家協会に対して事業再生ADRを申請します。
申請後、事業再生実務家協会がデューディリジェンスを確認し、必要に応じて助言を行い、正式な申し込みに進めるようサポートします。
▷一時停止通達
正式な申し込みが通ると、債権者に対して一時停止通達が出されます。
一時停止通達とは、債権の回収、担保権の設定や破産手続、再生手続、更生手続、特別清算などを期間中に開始しない旨を記載した通達を指します。
通達は、事業再生実務家協会と事業再生ADRを申請した債務者である企業の連名で作成します。
▷債権者会議
債権者会議は、3回に分けて行われます。
原則として、一時停止通達を出してから1回目の債権者会議までの期間は、2週間以内です。
債権者会議の内容は以下の通りです。
・1回目:計画案等の概要の説明と議長の選出
・2回目:事業再生計画案を協議
・3回目:決議
3回目の決議で、債権者全員が同意すれば私的整理が成立します。
その後、債権者会議で協議された事業再生計画が進められます。1人でも反対者が出たり、決議で全員賛成が成立しなかったりした場合は、法的整理もしくは特定調停手続きに進むことになるでしょう。
まとめ
本記事では、事業再生ADRのメリットやデメリット、手続きの流れを解説しました。
事業再生ADRは、第三者の介入により申請から成立まで短期間で進み、法的整理や私的整理のメリットをうまく取り入れています。事業再生ADRを検討する企業は、専門家に相談しながら適切な準備をして臨みましょう。